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しずか餅

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第三章

「これだけの額になると」
「英語が上手くて人当たりがよくてな」
「自分で言うに運がいい」
「その高橋君にだ」
「世界を飛び回ってですね」
「そしてだ」
 そのうえでというのだ。
「金を借りてもらおう」
「そして戦うことですね」
「そうだ、彼しかいない」
「ですね、ここは彼に頼みましょう」
 桂は伊藤の言葉に頷いた、そしてだった。
 高橋に直接頼むと彼は桂に笑顔で応えた。
「昨日の夜家で餅をつく音が近付いてきていました」
「だからか」
「はい、この仕事もです」
「成功するか」
「金がなくては戦争も出来ないです」
 高橋はこのことも話した。
「そしてそのお金を調達するにはです」
「交渉だけじゃなくてか」
「やっぱり運が必要ですが」
「君にはその運があるか」
「はい、今は」
 桂に笑顔で話した。
「間違いなく」
「そうか、なら頼むぞ」
 ここでだった、桂は。
 にこっ、と笑って高橋の方をぽん、と叩いた。通称ニコポンと言われる桂の稀代の人たらしの能力がここで出た。
 高橋もそのニコポンに応えて笑顔で応えた。
「やらせてもらいます」
「そしてだな」
「お金のことで日本の為に戦います」
 こう言って実際にだった、高橋は世界を巡って戦費を調達した。それにより世界一の金借り人とさえ言われた。
 そして高橋の努力があってだった、日本は戦費を調達出来たこともあり戦い抜き薄氷とはいえ露西亜に勝つことが出来た、このことについて高橋は桂に笑顔で言った。
「やっぱり私は運がいいので」
「何とかなったんだね」
「はい、しずか餅がいてくれるのね」
「君が聞こえる餅をつく音か」
「それが近付いてくれている間は」
 まさにというのだ。
「私は運がいいです」
「そういうことか」
「ですが何でもこの音が遠ざかると」
 そう聞こえた時はというと。
「運がなくなるとか」
「運が遠ざかるか」
「そうらしいです。ですから若しです」
「音が遠ざかっていたならか」
「私は今回のお仕事を引き受けられませんでした」
「そうだったのか」
「今はずっと私は近付く音が聞こえていますが」
 それでもというのだ。
「遠ざかったらもうどうなるか」
「そうなのだな」
「運はわからないですからね」
 何時どうなるかというのだ。
「明日運がなくなるかも知れないです」
「そう思うと君も大変だな」
「いえ、何でも盛衰があります」 
 高橋はこのことは達観した笑みで話した。
「祇園精舎の鐘の声沙羅双樹の花の色です」
「そういうことか」
「はい、ですから」
「君はそのことを受け入れているか」
「そういうことです」
 高橋は桂に笑ったまま話した、そうして日本が勝ったことをよしとした。 
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