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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第8章:拓かれる可能性
  第254話「撃退」

 
前書き
先に言っておきますと、イリスの分霊を撃破した時点で、単純な戦力でも優輝達の方が上になりました。
数は敵の方が上ですが、敵は相手の土俵の上で戦っているようなものですから。
 

 














「はぁっ!!」

「がはっ……!?」

 エルナの渾身の一撃が、神の体を別つ。
 残ったのは、神一人と“天使”が数人のみ。

「馬鹿な……!?人間と、たった二人の神に……!?」

「っ……!ふぅ……!ふぅ……!」

 慄く神を前に、クロノが息を切らしつつもバインドを仕掛ける。
 それを神は避けるが、事前に仕掛けられていた別のバインドに引っかかった。

「……どうやら、僕達の“意志”の方が……少しばかり上だったみたいだな」

「なっ……!?」

 そして、神達をいくつもの閃光が貫いた。
 理力の障壁も突き破る程の数々の閃光に、神も“天使”も膝を付いた。

「ぐっ……!」

「無駄よ」

「無駄です!!」

 なおも立ち上がろうとする神に、雷が降り注ぐ。
 プレシアとリニスによる魔法だ。

「ふっ……!!」

 さらに、フェイトがザンバーフォームのバルディッシュを突き刺す。
 神を地面に縫い付けたその大剣は、まるで避雷針のようだ。

「今だよ!」

 さらにレヴィの合図と共に、魔法陣が四つ展開される。
 雷系の魔法が得意な、プレシア、リニス、フェイト、レヴィの魔法陣だ。

「焼き尽くしなさい」

   ―――“κεραυνός(ケラウノス)

 神に、神話の如き雷が落ちた。
 理力による防御など、最早無意味だった。それほどの威力が込められていたのだ。

「……か、はっ……!?」

 その一撃を受け、神が倒れる。
 倒した事を確認した後、フェイトはバルディッシュを回収した。

「ゴメンね、バルディッシュ」

Don't worry(ご心配なく)

 雷を誘導する避雷針となったバルディッシュは、攻撃対象でなかったとはいえボロボロになっていた。

「後は、残党のみですね……」

 サーラとユーリが前に出て、残りの“天使”と対峙する。
 アリシア達も後方で待機しているが、さすがに消耗が大きい。

「………!」

「ッ―――!?」

 そこへ、倒し損ねていたのだろうか。
 隠れていた別の神が、アリシア達へ襲い掛かる。
 不意打ちなため、ダメージは逃れられない。その瞬間。

「“明けの明星”」

「ッッ!?」

 そこにルフィナが割り込んだ。
 同時に、カウンターとして圧縮した理力を押し当て、炸裂させる。
 吹き飛ぶ神。そして、容赦なく追撃が繰り出された。

「切り裂け、“天軍の剣”!」

 同じく理力を圧縮した二振りの剣による斬撃。
 クロスに切り裂かれた神は、そのまま“領域”が砕け、倒れ伏す。

「油断大敵、ですよ?」

「え……!?」

 アリシア達からすれば、敵なはずの“天使”が味方してきたのだ。
 困惑しても仕方なかった。

「そいつらは人間二人を依り代にしていた“天使”だ。だから、敵じゃないよ!」

「なのはと奏に宿ってた……?」

「その通りです」

 だからこそ、エルナが簡潔に敵じゃない事を伝える。
 それでアリシアも理解出来たのか、一応構えを解いた。

「まずは残党を片付けましょう。ルフィナ!」

「ええ、分かっています……!」

 ルフィナが理力の矢を放つ。
 それらは、サーラとユーリが相手していた“天使”に容赦なく突き刺さった。
 サーラとユーリは相手が誰であれ援護してくると考えていたので、例えルフィナの援護でも驚く事なく、“天使”へと追撃を繰り出す。

「ふっ!」

 さらに、ルフィナが数発だけ特殊な矢を混ぜる。
 その矢を基点に、ミエラが転移。
 “天使”の背後を突き、理力の剣で切り裂いた。

「なっ……!?」

 今まではクロノやアリシアなどが不意打ちしても対処してきた“天使”。
 しかし、イリスの“闇”が相殺され、今は“性質”の影響も薄れている。
 さらには、相手はエルナやソレラ以上に戦闘に優れた“天使”二人だ。
 否、正確には如何なる逆境をも覆す“可能性”を秘めた“天使”が相手だ。
 単純な戦闘力も高いため、奇襲を受けた“天使”はひとたまりもなかった。

「がぁっ!?」

 反撃しようと、敵の“天使”も行動する。
 だが、ルフィナはカウンターで圧縮した理力をぶつけ、ミエラに至っては、真正面から攻撃を弾いて理力の剣で切り裂いて返り討ちにした。







「……圧倒的だな」

「何と言うか……綺麗な勝ち方だよね。私達みたいに、攻撃を“意志”で耐え抜くんじゃなくて、単純に攻撃を潜り抜けて倒してる……」

 それは、まるで従来の戦闘で行われる、達人などが繰り出す動きだった。
 流れる水のように、次々と攻撃をいなし、反撃で倒していく。
 理力の障壁も、まるで紙切れのように切り裂いたり、そもそも阻まれる前に攻撃を命中させて対処していた。

「これでひとまず、と言った所ですね」

「周辺にもイリスと主様達以外の理力は感じられませんしね」

 気が付けば、残っていた“天使”達は全滅していた。
 未だに警戒や緊張が続くクロノ達を余所に、ミエラとルフィナは冷静に周囲の状況を把握し、安全を確認した。

「どうやら、主も勝ったようですね」

「当然ですよ。イリスの分霊が相手なら、今の私達でも勝てるのですから」

 見れば、優輝達がいる場所に何度も出現していた“闇”が消えていた。
 代わりに、金色の燐光が残滓として残っていた。

「……優輝も元に戻ったのか……」

 それをやったのが優輝なのだと、遠目でもクロノは理解出来た。
 それで、ようやく戦闘が終わったと思い―――









「え……?」

 ―――気を抜いた瞬間、大量の神と“天使”が出現した。

「増、援……?」

「っ、イリスの奴……やりやがった!」

「この世界に散らばっていた神や“天使”が全てここに召喚されました!おそらく、イリスが置き土産に……!」

 エルナとソレラが何が起きたのか簡潔に説明する。
 気を抜いた瞬間にこれだ。絶望とまではいかないが、気分の落差が激しい。

「私達で足止めします。一旦合流して体勢を立て直してください!」

「早く主様達の所へ。これを退ければ、今度こそ終わりですよ」

 代わりに、ミエラとルフィナが前に出た。
 数えるのも億劫な数相手に、二人は悠然と向き合う。

「けど……!」

「お姉ちゃん、今は……!」

「っ……わかった。ほら、あんた達も行くよ!!」

 ミエラとルフィナが敵陣に突っ込むと同時に、全員が合流に動き出す。
 殿にエルナとソレラが就き、確実にまずは合流に持っていった。







『誰か、誰か聞こえる!?そっちに大量の敵がいるみたいだけど……!?』

「『鈴さん!?そっちは大丈夫なの!?』」

 ちょうど合流する時、街の方にいる鈴から伝心が繋がる。
 すぐに司が対応するが、お互い相手の状況が心配だったようだ。

『司!?こっちはとこよと紫陽のおかげで何とかなったわ。でも、その二人は一度幽世に戻ってしまったの。それと、一般の人は皆幽世に避難しているわ』

「『そうなんだ……。こっちはイリスを撃退したよ。でも、置き土産にこの世界に来た全ての神と“天使”を集めたみたい』」

『通りで……。大丈夫なの?』

「『わからないよ。でも、負けるつもりはない。ここまで来たんだから』」

 力強くそう言う司。
 伝心のためか、その決意が鈴にも強く伝わる。

『……わかったわ。こっちも、外側から出来る事をやってみるわ。……幸いと言うべきか、私達の方は眼中にないみたいだから』

「『了解』」

 伝心を終わらせ、司は改めて敵に向き直る。
 戦闘は既に始まっている。
 敵の神や“天使”は入り乱れるように。
 優輝達は少数で固まるか、単身で駆け抜けるように立ち回る。

「『単独で勝てないなら出来るだけ引き付けなさい!その間に、倒せる人で数を減らす!……出来ないなんて言わせないわよ。ここまで来たんだから、成し遂げなさい!』」

 椿が言霊を用いて、伝心で指示を出す。
 それだけじゃない。その強い“意志”が、司や祈梨の“天巫女の力”を通じて皆の力を後押ししていた。

「はぁあああああっ!!」

 それが顕著に出ていたのは、緋雪だ。
 生物兵器としての力を完全に開放し、迫りくる“天使”を次々と返り討ちにする。
 単純な力でも押し勝っているからか、さながら無双しているかのようだ。

「司、慌てずやりなさい」

「当然……!」

 椿と葵が護衛し、司が後方から極光を放ち、敵を薙ぎ払う。
 緋雪の前方の敵も一掃したため、一瞬緋雪の手が空く。

「薙ぎ払え、焔閃!!」

   ―――“Lævateinn(レーヴァテイン)

 炎の剣が敵を薙ぎ払う。
 その威力は、以前よりも数段上がっており、敵の反撃を相殺する。

「……捉えた」

   ―――“連鎖破綻、破壊の瞳(ツェアシュテールング・ケッテ)

 直後、緋雪の周囲にいくつもの“瞳”が浮かび、即座に魔力の棘で貫かれる。

「が、はっ……!?」

 その“瞳”の対象となった神や“天使”が、まとめて爆発する。
 ダメージも大きかったのか、大きく体勢を崩していた。

「そう簡単には」

「負けない……!」

 それでも、相手の数は多い。既に包囲は完了してしまっていた。
 “破壊の瞳”を使った緋雪の背後から、数人の“天使”が襲い掛かる。
 だが、それを奏となのはが阻む。

「お父さん!」

「シッ……!」

 そして、なのはの父親である士郎も無力ではない。
 桃子を追いかけるために持ってきていた小太刀を叩き込む。

「これ以上は、進ませないぞ」

 その背後には、イリスと分離してからまだ目を覚まさない桃子が横たわっていた。
 “守るための御神の力”という在り方が、“領域”や“意志”の力として、正しく守るための力となる。

「優輝!守りは私達に任せなさい!」

「数を減らすのは任せたよ!」

 葵が受け流し、椿が攻撃を迎撃する。
 同時に、敵陣を駆け抜けながら戦う優輝にそう叫んだ。

「元から、そのつもりだ……!」

 幽世から現世を守るため召喚された式姫である椿と奏。
 道を切り拓き、人を導くための王だった優輝。
 となれば、役割分担で攻撃と防御のどちらに就くのかは明らかだ。

「行って!」

 極光が再び敵陣を薙ぎ払う。司と祈梨によるものだ。
 二つの極光が敵陣に穴を開け、優輝はそこに突っ込む。

「ついて行くよ、お兄ちゃん」

「緋雪……ああ、行こうか……!」

 それに続く者がいた。
 まずは緋雪。一時的に導王流の極致すら凌いだ力を持つ。
 攻撃担当になるのもおかしくはない。

「あら、貴方の半身である私を忘れないでほしいわね」

「優奈……それに、帝もか?」

「まだ単純な戦闘なら出来るからな。この力が、負けるはずない」

「……お前も、良い“可能性”を拓いたんだな」

 そして、優奈と帝もついてきていた。
 どちらも、神界からたった二人で生還してきたのだ。
 その力は直接知らない優輝にとっても申し分ない。

「……よし、なら、さっさと連中には退場してもらおうか!」

「今更数を揃えても、私達はそれを乗り越える!」

「別の世界に乗り込んできておきながら、勝手出来ると思うなよ!」

「ここは、私達の“領域”よ!!」

 たったの四人と、無数の軍勢がぶつかり合う。
 否、傍から見れば四人が軍勢に呑まれたと見るべきだろう。
 だが、すぐに四人の周囲にいた“天使”が吹き飛ぶ。

「ぉおおおおっ!!」

「はぁあああっ!!」

 緋雪と帝が力で“天使”を殴り飛ばす。

「シッ!」

 優奈が創造魔法で剣を創り、的確に貫いて怯ませる。

「はぁっ!!」

 そして、優輝が理力の刃を鞭のようにしならせ、まとめて切り裂いた。







「大いに暴れてるわね……」

「向こうも“性質”とかで、優位に立てるはずなんだけどね……」

 一方、椿と葵は矢や霊術などを用いて攻撃を迎撃しつつ、優輝達の様子を見ていた。

「おそらく、イリスの影響かと」

 そんな二人に、祈梨が話しかける。

「……消えた方ね」

「はい。あの時、イリスの“闇”を打ち消しただけでなく、“領域”の侵蝕も打ち消しました。同時に、この世界の“領域”が強化されたため……」

「向こうの“性質”も発揮しづらくなっている、って訳ね」

「その通りです」

 自身の領域で戦えない。それが原因で、敵は優輝達に無双されていた。
 言わば、剣道が強い人が薙刀が強い人に薙刀で挑むようなものだ。
 世界そのものの“領域”が強い今、敵は相手の得意分野で戦わされているのだ。
 状況が有利になれば、如何に神界の神であろうと、勝つのは難しくない。

「司さん」

「ッ……!」

 祈梨が司に呼びかける。
 直後、二人から極光が放たれ、敵の攻撃を打ち消しながら薙ぎ払った。
 だが、それでも優輝達を抜けて“天使”達は迫ってくる。

「ッッ!!」

 そうなれば、迎撃態勢を取っていた優香や光輝達の出番だ。
 普段なら止められない程重い攻撃を、“意志”のみで耐え、弾く。
 すかさず、手が空いている者が反撃し、敵を弾き飛ばした。

「ぅ、ぉおおっ!!」

 転生特典を失ったため、一番弱くなっているはずの神夜も踏ん張っていた。
 魔力を身体強化のみに回し、“意志”と共に振るわれた理力の剣を受け止める。
 だが、やはり攻撃手段に欠けるためか、そこから一歩先に踏み出せない。

「はぁっ!!」

 そこへ、フェイトが駆けつけた。
 神夜に剣を向けていた“天使”を、肉薄と同時に切り裂いた。
 遅れて、クロノ達も合流してきた。

「フェイト……!」

「神夜、無事……!?」

「何とかな……!」

 合流直後、ソレラが障壁を張り、エルナがさらにその前に出る。
 “守られる性質”と“守る性質”が合わさり、巨大な障壁が展開される。

「っ、くそ……!」

 その障壁によって、敵が足止めされる。
 そこへ、さらにはやてやクロノなどによる砲撃や射撃魔法が飛ぶ。
 質で言えば、まだ敵の方が上だが、これで少し“猶予”が出来る。
 その“猶予”で、司と祈梨が再び極光を放つ。

「引き離した……!」

「奏ちゃん!」

「ええ……!」

 僅かに敵の攻撃に空白が出来る。
 そこへ、奏が加速魔法と共に突貫した。
 羽型の魔力弾をばらまきつつ、敵を攪乱する。

「はぁっ!!」

 素早く駆け抜ける奏だが、敵もそれに追いつく。
 だが、同時に優奈が敵陣の中から飛び出し、奏の背後の“天使”を切り裂いた。
 同じく、奏も優奈を追いかけてきた“天使”を切り裂いた。

「ミエラの経験が生きているわね……!」

「おかげで、以前よりも動きやすい……!」

 ミエラの依り代になっていた時、奏は分身の体を使っていたが、今は一つに戻っているため、その経験が奏にも引き継がれていた。

「『避けて!』」

 すると、なのはから念話が響く。
 その念話を受けて、奏や優奈だけでなく、優輝達も転移で離脱する。

「祈りを束ねし星光よ」

「その極光を以って神を撃ち落とせ」

「全力、全開!!」

   ―――“神穿つ、祈りの星光(スターライトブレイカー・ミソロジー)

 集束された魔力が、二人の天巫女の祈りによって増幅される。
 視界を埋め尽くさんばかりの光を放ちながら、極光が放たれた。

「なっ―――!?」

 その極光は、射線上の神や“天使”を全て呑み込み、(そら)へと消えていった。
 そして、極光が過ぎた所には、誰一人と神も“天使”もいなかった。

「っつ……!レイジングハート、大丈夫……!?」

Don't worry(心配ありません)

 カートリッジの薬莢を排出し、排熱するレイジングハート。
 いくら砲台と増幅を別でやっていても、一撃で複数の神を倒す程だ。
 なのはとレイジングハートにも負荷は掛かっていた。

「まだ、行ける!?」

Of course(もちろんです)

 だが、侮ってはいけない。
 なのはは……否、レイジングハートも、不屈の心を持っている。
 ()()()()で、その足は止まらない。

「(思い出すんだ……ルフィナさんの力、戦い方を……!)」

 依り代になっていた時の記憶を思い出し、なのはは視界に広がる敵を見据える。
 単にルフィナの戦い方を真似るのではない。
 その経験を自身の戦い方に組み込み、さらに昇華させるつもりなのだ。

「ッ……!」

 敵が攻撃を抜けて接近してくる。
 近接戦闘担当の者だけでは、その数を抑えられない。
 故に、誰かが一掃するまで、なのはや他の後衛の者も戦う必要がある。
 ……それに、なのはは自ら躍り出た。

「そこっ!!」

「ッ、が……!?」

 小太刀二刀の刃ではなく、柄で突いてカウンターを繰り出す。
 刀を持っているのなら、その刃で攻撃すると相手の“天使”も考えていたのだろう。
 “性質”という枠に囚われている神界の者にとっては余計にそう考えてしまう。
 その思考を利用し、意表を突いた。
 刃ではなく手に魔力を圧縮し、それを柄から炸裂させてカウンターとしたのだ。

「ッッ!」

 さらに、二刀を振り回し斬撃を発生させ、牽制とする。
 そのまま剣舞を行うように動きつつ、レイジングハートを弓の形に変えた。
 そして、集束させた魔力を矢として装填し……

「ッ……!!」

   ―――“Starlight Dread(スターライトドレッド)

 それを、解き放った。

「これは……!私の技術を応用しましたね……!」

 それは敵陣の中にいたルフィナにも見えていた。
 そして、ルフィナは矢の射線上に転移し、理力で術式のゲートを生成する。
 そのゲートを通し、なのはの魔法に変化を加えた。

   ―――“Starlight Rain(スターライトレイン)

「なに……!?」

「そこだ!」

「でりゃぁああああああ!!」

 圧縮された魔力の矢が、雨として降り注ぐ。
 その対処のために防御行動を取った“天使”へ、シグナムやヴィータが攻撃する。
 他にも、近接戦が得意な者は各々肉薄して攻撃を繰り出していた。

「同士討ちを恐れないの……!?」

 “天使”の一人が慄く。
 意識すればフレンドリーファイアを無効化する事は出来る。
 だが、攻撃一つ一つにそんな“意志”を向ける事は出来ない。
 だというのに、なのはとルフィナによる矢の雨は()()()()()()()()()()

「同士討ちなどと、今更ですね」

「ッ……!?」

 疑問を口にしていた“天使”の背後を、ミエラが取る。
 驚愕した“天使”だが、その時には既に切り捨てられていた。

「その“可能性”など、既に取り除いているに決まっているでしょう」

 “領域”が砕け、倒れる“天使”。
 それを見送る事もなく、ミエラは次の敵へと向かう。
 そう。これは敵どころかクロノ達も分かっていないが事だったが、同士討ちが当たらない理由は優輝達の“性質”によるものだった。

「(“可能性”が拓かれたからか……主だけでなく、他の者も一皮むけましたね)」

 ミエラが視線を向けたのは、地上。……そこにある、巨大な魔法陣。
 その魔法陣を操作するのは、はやてとディアーチェ、アインスにリインだ。

「なのはちゃんが集束した魔力を、再び集める」

「その魔力を足掛かりに、より強力な魔法を呼び起こす!」

 魔法陣が鳴動し、余波として雷が鳴り響く。
 周辺の魔力だけでなく、霊力すらも魔法陣に吸収されていく。

「さぁ、災厄の鍵を開け!」

「全てを滅ぼす力を以って、敵を滅せよ!!」

   ―――“鍵開く、災厄の章(ザ・ミゼラブル・ビギニング・オブ・ゴエティア)

 凝縮された魔力が解き放たれる。
 炎のようなプラスのエネルギーでも、氷のようなマイナスのエネルギーでもない。
 ただ消滅させるだけのエネルギーが、柱となって敵のみを捉える。

「っ……!!」

 その威力は凄まじい……が、その分魔力の消費も大きい。
 限界を超えてなお魔力を注ぐが、それでも足りなくなる。

「受け取って!」

 そこへ、司が手助けする。
 ジュエルシードを含めた膨大な魔力を魔法陣に注ぎ、術式を維持する。

「させ―――」

「いいや、もう終わりだ」

 阻止しようと、神や“天使”達が動くが、一歩遅い。
 優輝や優奈達が即座に動きを阻害し、逃がさない。
 はやて達の魔法に貫かれるか、優輝達に倒されるかの二択だ。

「ッ……!」

 ならばと、今度は一部の“天使”が逃げ出す。
 洗脳されていようと、生存本能のようなものが働いたのだろう。

「がぁっ!?」

 だが、その“天使”は瘴気を纏った雷に貫かれ、墜落した。

「今のは霊術……久遠達ね!」

 椿が霊力の質から久遠達の仕業だと見抜き、霊術の出所に目を向けた。
 その視線の先には、久遠を中心とした大きな術式が地面に描かれていた。
 鈴や葉月、那美が協力して霊術を編んでいたのだ。

「久遠!大丈夫……!?」

「っ……大丈夫……!」

 雷を放ったのは久遠だ。
 しかし、その雷は強力なだけでなく瘴気も含まれており、久遠に負担がかかる。
 普段ならば絶対に使わない諸刃の剣のような霊術だ。

「理を捻じ曲げる術式で威力を増強し、理を捻じ曲げた代償で生じる瘴気をも、その一撃に加える……本来なら、久遠を使い捨てにするような術よ……!」

「久遠さんの“意志”と、那美さんの治癒が要です!今、世界の法則が歪んでいるからこそ出来る、理の隙を突いた術式ですから……」

「だからこそ、神界の存在にも効く……!」

 理を捻じ曲げ、その歪さから繰り出される霊術。
 世界の法則や、そういった理に関する攻撃だからこそ、“領域”に効果的だった。

「久遠!」

「うん……!」

 久遠に纏わりつく瘴気を那美が引き剥がし、次弾の準備が完了する。
 そして、再び雷が放たれる。

   ―――“歪式(わいしき)瘴雷鳴動(しょうらいめいどう)

 瘴気を含んだ雷が再び複数の“天使”を貫き、撃墜させた。

「こんな……こんな事、が……!?」

 神の一人がそんな事を言いながら消滅エネルギーに呑まれ、“領域”が砕けた。
 神々へ対する反撃は留まる事を知らず、一人また一人と倒していく。



 ……気が付けば、最早数すら優輝達を下回っていた。

「これで、最後だ」

 最後の一人を、優輝が切り裂く。
 残ったのは、荒れ果てた大地と戦闘で疲弊したクロノ達だ。
 倒した神々は肉体を残さず消え去っていた。

「……今更なんだけど、倒した神ってどうなるの?見た感じだと消滅してるけど……」

 それを見て、司はふと気になって呟く。

「“領域”の砕けた神は肉体として構成している理力が解け、神界にある大元となる領域……根源とも言える場所に戻る。だから、倒した場所から復活……なんて事には原則としてならない。まぁ、復活して転移してくる場合もあるけどな」

 答えたのは優輝だ。
 神界で生まれた神は、その生まれた場所がゲームで言う所謂リスポーン地点になる。
 “領域”を砕かれると強制的にその場所へ戻され、回復に専念させられるのだ。

「例外として存在するのは……」

「神界以外の存在が、神界の神に成り上がった場合ですね。……私のように」

「え……!?」

 祈梨が優輝の言葉に続くように口を挟む。
 司はそんな祈梨が言った事実に驚愕していた。

「一旦、情報整理といこうか。例え記憶などを読み取れても、言葉を交わす事で整理出来るからな。……アースラは落とされたから、簡単な拠点を創ろうか。優奈!」

「はいはい。私も貴方と違って人間のままだから、疲れてるのだけどね……」

 そう言いつつも、優奈は優輝と共に創造魔法を駆使して簡単な拠点を創る。
 アースラにいた者も全員入れる程の、簡易的な施設だ。
 理力を使う事で、建物のようなある程度複雑な構造の物も簡単に創造が出来るようになっていた。

「イリスは撤退した。残った神も先程一掃した。……なら、しばらくは休めるはずだ。何度も限界を超えたなら疲れているはずだ。だから、一度休んでくれ」

 優輝が全員に呼びかけるように言う。
 その言葉に、一部の面々は安心したようにその場に座り込んでしまった。

「……ありがとう、皆。皆のおかげで、“可能性”が繋がった」

「―――――」

 改めて、と言った様子で優輝は緋雪達にそう言った。
 緋雪達も、改めて帰って来た事に何か言おうとしていたのだが、先に言われて一瞬言葉を失ってしまった。

「……おかえり、お兄ちゃん」

 ……だが、それでもと、緋雪は嬉しさに涙を流しながらも、そう言った













 
 

 
後書き
κεραυνός(ケラウノス)…プレシアを基点としたリニス、フェイト、レヴィの四人による儀式魔法。技名通り、神話の如き雷を発生させる魔法。そのあまりの威力に、コントロールが難しいが、避雷針代わりのものがあれば、そこに誘導できる。

連鎖破綻、破壊の瞳(ツェアシュテールング・ケッテ)…精密さを犠牲に、多数相手に破壊の瞳を使う技。握り潰す動作の代わりに魔力の棘などで“瞳”を貫くため、本来の使い方よりもそれなりに使い勝手が悪い。ただし、多数相手には大きな効果を発揮する。

神穿つ、祈りの星光(スターライトブレイカー・ミソロジー)…なのはのSLBを二人の天巫女が祈りの力で増幅した魔法。正しく神を穿つ神話の極光とも言える一撃で、間違っても敵以外に向けて放ってはいけない。

Starlight Dread(スターライトドレッド)…SLBを弓矢として放つ魔法。なお、“弓矢”という枠には収まらず、魔法名が“弩”となっている。規模はSLBに劣るが、貫通力と威力は数段上回る。

Starlight Rain(スターライトレイン)…上記の魔法をルフィナが変化させた結果の魔法。集束させた魔力を分散させ、矢の雨として降らせる。威力は落ちるものの、それでも弾幕系の魔法では威力が高い。

鍵開く、災厄の章(ザ・ミゼラブル・ビギニング・オブ・ゴエティア)…夜天の書に記された魔法をいくつも混ぜ合わせ、災厄を引き起こす魔法。災厄に指向性を持たせ、あたかも世界を滅ぼす力が敵を殲滅するようになっている。

歪式(わいしき)瘴雷鳴動(しょうらいめいどう)…理を捻じ曲げて威力を底上げし、捻じ曲げた際に生じる瘴気をも攻撃の一部として繰り出す禁忌の霊術。世界の法則が歪んでいる状態でないと、術者は瘴気か術の反動で死ぬ程代償が大きい。


これにて長い長い戦いは終わりです。
8章ももうすぐ終わり、最終章へと入っていきます。 
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