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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
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無印編
  第40話:エンターテイナーの使命

 
前書き
読んでくださる方達に最大限の感謝を。 

 
 数分前……颯人が未来と出会った頃、奏もまた二課本部内で響を見つけていた。

「あぁ、ここに居たのか響」
「奏さん?」

 奏が見つけた時、響は明らかに覇気がない様子であった。やはり未だに未来と仲違いしてしまった事を引き摺っているようだ。
 これはいけないと、奏は出来る限りの方法で響を元気付けようとした。

「ま、何があったかは知ってるよ。未来って子と喧嘩しちゃったんだって?」
「えっ!? な、何でそれを――?」
「ごめん。実は颯人がさ、響の事を心配して使い魔でこっそり見てたんだって。だから何があったかは大体知ってる」

 勝手に響のプライベートを知ってしまった事に罪悪感を抱きつつ、奏は近くのベンチに響を伴って腰掛けた。生憎と近くに自販機は無かったし颯人の様に何もない所から物を取り出したりは出来なかったので、飲み物で喉を潤しながら会話と洒落込むことは出来なかったが。

 響を隣に座らせたはいいモノの、響は何を話すべきか迷っているのか何も語らない。
 それが分かっているからか、奏は自分から口を開いた。

「そんな思い悩むことは無いよ」
「――――え?」

 突然の奏の言葉に首を傾げる響だったが、奏は構わず続けた。

「颯人が言ってたよ。その未来って子は響が嫌いになったとかじゃないって」
「でもわたし、未来の手を無理矢理掴んで……嫌がる未来を…………」
「それは、響の行動にどうしたらいいか分からなくなっただけなんだってさ。その子も本気でそうしたかった訳じゃなくて、どうすればいいか分からず咄嗟にやっちゃったんだよ。アタシにも経験あるから分かる」
「奏さんも?」
「颯人と子供の頃にね。いや~、あの頃はホント互いに子供だった」

 原因は何てことはない。学校でふざけ合っていた時にうっかり花瓶を割ってしまったのを、互いに自分の所為だと相手を庇い合った結果喧嘩に発展してしまったのだ。
 本当は喧嘩したい訳ではなかった。互いに相手を思い遣るが故に譲らず、最終的にどちらからともなく手が出て喧嘩にまでなってしまったのだった。

 今にして思えば本当に幼稚で、子供っぽい喧嘩の理由だ。

「だからさ。響もその未来って子の事をもう少し信じてやりなよ」
「信じる?」
「向こうもきっと、響とちゃんと話をしたいと思ってる筈さ」

 確証の無い奏の言葉。しかしその言葉を聞いて、響の目には力が戻りつつあった。信頼する奏からの、実体験込みの言葉は響を元気付けるのに十分な力を持っていたのだ。

 少しだが響に覇気が戻ったのを見て、奏は頃合いと立ち上がり響の手を引いた。

「さて、行くか!」
「え、行くってどこへ?」
「それは来てからのお楽しみ。ま、来れば分かるよ」

 そうして奏に手を引かれた先で、響は未来と遭遇する事になったのである。




***





「未来ッ!?」
「響ッ!?」

 互いに思わぬ遭遇を果たし、驚愕し固まる響と未来。
 これは颯人の策だった。彼は未来をこの場に釘付けにし、奏が響をここに連れてくるように仕組んだのである。

 予想外の事態に驚きのあまり言葉も出ない様子の2人を見て、颯人は愉快そうに笑みを浮かべていた。奏はそんな彼の脇腹を小突く。

「にっひっひっ!」
「おい颯人、ここからどうするんだよ?」

 見た所響と未来の間に険悪な様子は見られない。未来は勿論だが、響の方も奏のエールによって一応持ち直してはいるので、先日未来に拒絶された時の様な弱々しさは無かった。
 しかし問題はここからだ。ただ単に引き合わせただけでは何も変わらない。何しろ2人は本当に突然遭遇させられたのだ。心の準備が出来ている訳がない。

 ここから颯人はどうやって2人を仲直りさせるつもりなのか? 奏が疑問に思っていると、颯人は徐に響を未来の隣に座らせ、奏を隣に2人の前に立った。
 その雰囲気は正に舞台に立った手品師のそれである。

「さぁて、色々と混乱してるだろうけどお2人さん? 悪いがちょいと付き合ってくれ」
「へっ!? つ、付き合うって一体――?」
「いやね、新作の手品が出来たんだけどちょっと予行練習がてら誰かに見て欲しくてさ」
「はぁっ!? おい颯人、2人の仲とかはどうすんだ!?」
「忘れてないから大丈夫だって。何とかするよ」

 そう言いながら颯人は一つ拍手すると、両手の間に一本のステッキが出現する。
 響と未来がそれに注目していると、彼は芝居がかった仕草で口を開いた。


「さ~て、お待たせしましたレディース! この度は明星 颯人のマジックショーにようこそ!」

 軽快なステップを踏みながら恭しく頭を下げる颯人に、響と未来は圧倒されつつ取り合えず軽く拍手する。
 一方奏は訳も分からず勝手に始まったマジックショーに、彼に文句を言おうと詰め寄るのだが――――

「早速だが、まずはゲストでもお呼びしようかな? という訳で、ほいっと」

 颯人は詰め寄ろうとした奏の胸元をステッキの先端でちょいと突いた。すると突然奏の衣服の胸元が膨らみ、そこから一匹の猫が顔を出した。

「にゃ~!」
「なぁっ!?」
「更に、ちょちょいと!」

 続いて彼が奏の背中を突くと、今度は無数の鳩が奏の服の下から飛び出した。まさかの展開に奏が必死に衣服を押さえ、響と未来の2人は目の前の展開に目を白黒させる。

「ちょっ!? おい颯人、何だこれ!?」
「何って、手品だよ。タネも仕掛けも無い動物召喚マジック。肝は自分が身に付けてない物から動物を出現させるってとこでな」
「んな細かい解説聞いてない!? 人を勝手に手品の助手にすんなッ!?」

 予告無しで手品の手伝いをやらされた事に、奏は颯人に掴み掛りがくがくと揺らした。
 その様子に圧倒されていると、2人の元に奏の胸元から姿を現した猫がやってきた。

 近付いてきた猫に2人が注目していると、猫は2人の間に飛び乗り満足そうに鼻を鳴らして丸くなった。

 自分から近づいてきた無防備な猫に、響が誘惑に負けて頭から背中にかけてをゆっくり撫でると猫がごろごろと喉を鳴らす。
 その愛くるしい様子に、響だけでなく未来も笑みを浮かべる。

「「フフフ…………あ!?」」

 思わず笑みを浮かべ、そして互いに笑っている事に気付くと慌ててそっぽを向いた。しかしそれは互いに無防備な姿を見せたくないと言う意地からくるものではなく、単純に少し気まずいものを感じたからの行動であった。

 突然撫でるのを止めそっぽを向く2人を猫が不思議そうに眺め、もっと撫でろとでも言うかの様に一声鳴いた。更には気を惹こうとしているのかひっくり返って腹を見せ、響と未来にじゃれついてきた。
 これには流石に2人も無視することは出来ず、顔を見合わせて笑い合った。

「ぷ、くすくす――!」
「あはは!」

 どちらからともなく笑い合い始めた響と未来に、服の下から猫と鳩を出されて颯人に掴み掛っていた奏も動きを止めていた。対する颯人の方は、2人の雰囲気が変化したことに手応えを感じ満足そうな笑みを浮かべた。

 一頻り笑い合い、肩の力が抜けたのか響は自然な表情で未来に話し掛けた。

「未来、ゴメン。今までずっと危ないことしてたの黙ってて」
「ううん、私の方こそゴメン。響が私に黙って危ない事してるって知って、置いてかれたような気になって。何だか響が遠くに行っちゃうような気がして、気が付いたら……」

 自分の知らない響の一面に、疎外感を感じて色々な気持ちがごちゃ混ぜになった結果、未来自身もどうしていいか分からなくなってしまったのだ。その結果が先日の響への拒絶である。
 その気持ちの正体に気付けた、今の未来は素直な気持ちで響を見る事が出来ていた。彼女の心には、最早疎外感など存在しない。あるのは響を想い、彼女が帰る場所を何が何でも護るのだと言う使命感に近い決意であった。

「響、私決めた! 私は、響が帰る場所を全力で護る。響が笑顔で帰ってこれるように待ってる。それが私の戦い。だから響、絶対に帰ってきてね」
「未来――!! うん!!」

 未来の言葉に、感極まったのか目に涙を浮かべながら頷く響。一度は離れてしまった2人の心が、ここに再び重なり合う事が出来たのだ。

 仲直りで来た2人を見て、安堵の溜め息を吐く颯人。
 そんな彼の脇腹を、奏は称賛の言葉と共に軽く小突いた。

「やるじゃん」
「だろぉ?」

 素直に感心してみせる奏に颯人は得意げに返した。
 これこそがエンターテイナー。彼らエンターテイナーは、他人を笑顔にする事こそが最大の仕事である。その使命を見事に果たせた、颯人は己を誇っていたし奏はそんな彼を頼もしく思っていた。

「にしても、もしかしてだけどあの猫って狙ってああいう風に動いたのか?」
「おう、そうするように仕向けたからな」
「動物の調教もお手の物か。手品で食っていけなくなったらサーカスで猛獣使いにでもなれるんじゃないか?」
「それはそれで悪くはないけど、俺としては奏のマネージャーって線も捨てがたいな」
「その場合アタシにこき使われる事になるけど?」
「俺がタダでこき使われるとでも?」

 やるべきことをやり終えたという達成感からか、響と未来の事などそっちのけで口で牽制し合う颯人と奏。

 一方、響と未来は仲違いして疎遠になっていた間の時間を埋め合うかのように他愛のない話に花を咲かせていた。それこそ颯人と奏が眼中からいなくなるくらい。

 何時の間にやら2人だけの空間を作ってしまっていた響と未来に、気付いた颯人と奏の2人は思わず苦笑しつつその場を後にした。あとは2人だけでも大丈夫だろう。寧ろこれ以上2人に構うのは無粋と言うものだ。

 心なしか軽い足取りでその場を離れる2人の後を、自分も役目を終えたとばかりに猫がついていくのだった。




***




 その夜、月明かりに照らされた街を屋根から屋根に飛び移りながら移動する複数の人影があった。
 透とクリス、そしてその2人を追跡するメイジ達である。

 何とか体を休める事が出来る場所を見つけた2人であったが、案の定早々に発見されメイジとノイズから逃げ惑う羽目になっていた。廃ビルを追い出されるような形で逃げ出した2人は、二課に捕捉される事も覚悟してイチイバルも用いて必死に追撃を振り切ろうとしていた。

「くそ、こいつら本当にしつけぇな!?」

 文句を言いながらもクリスは引き金を引き、後ろから追いかけてくるメイジとノイズにミサイルと銃弾を雨霰と浴びせた。それを何とか凌いだとしても、次の瞬間には接近してきた透により意識を刈り取られる。

 もう何度繰り返されたかもわからぬその追撃戦が、一区切りついた時には既に東の空が白み始めていた。
 夜明けの光景に、透とクリスの2人は揃ってその場に腰を下ろした。元の服装に戻った2人の顔には、隠しきれない疲労の色が浮かんでいた。

「はぁ……はぁ……はぁ……くそ」

 息を整えながら悪態を吐くクリスを、透がなけなしの体力を振り絞って抱き起しその場を離れていく。このままここに居ると二課に捕捉されたり、次の追撃に晒されるかもしれない。
 百歩譲って二課に捕捉されるのは構わないが、次の追撃に追いつかれたら体力を大きく消耗させた現状対処できるかは微妙な所であった。

 必死にその場を逃げ出す透とクリス。その2人の心には、何時になったら解放されるのかと言う暗鬱とした思いが広がっているのだった。 
 

 
後書き
と言う訳で第40話でした。

響と未来の仲直りはこんな感じに決着つきました。タコノイズの出番も無く平和に終わりました。
その分クリスの方がかなり剣呑な雰囲気漂わせてます。次回からはそんなクリス側の話に移行します。

執筆の糧となりますので、感想その他評価やお気に入り登録等よろしくお願いします。

次回の更新もお楽しみに!それでは。 
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