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戦国異伝供書

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第九十三話 安芸の掌握その七

「何よりも有り難いわ」
「家の為にも」
「これからもな、しかし世にはまとまっておらぬ家が多い」
 元就はこのことについては眉を顰めさせて言った。
「尼子家にしてもな」
「あの家は今、ですね」
「親子の間でじゃ」
「揉めていますね」
「そしてじゃ」
 そのうえでというのだ。
「やがて骨肉の争いが起こる」
「そうなってですか」
「どうなっても悪いことになる」
「親子の争いがあり」
「親子兄弟でも家の中で争うとな」 
 そうなると、とだ。元就は妻にさらに話した。
「いいことは何一つないわ」
「それが戦国の世の常とはいえ」
「それで無残なことになった家ばかりじゃ」
 家の中がまとまらず相争ってというのだ。
「それでじゃ」
「当家は、ですか」
「何としても争わぬ」
「その様にしていきますか」
「うむ、力を合わせて家を盛り立てていく」
 妻に確かな声で話した。
「そうしていく」
「殿も子達もですね」
「左様、誰もがじゃ」
 それこそというのだ。
「まとまってな」
「そうして家を盛り立てていくのですね」
「そうあるべきじゃ、ではな」
「これからも」
「家のことは頼む」
 妻に微笑んで頼んだ。
「頼むな」
「わかりました、家のことはお任せ下さい」
 妻も微笑んで応えた。
「子達のことは」
「くれぐれもな、ではな」
「はい、出陣されて」
「そしてじゃ」
 そのうえでというのだ。
「帰ってくる」
「お待ちしております」
 こう言ってだった。
 元就は安芸の兵達を連れて出陣した、だがこの時だった。
 彼は出陣してすぐに軍議を開き家臣達に話した、皆緑の服の上に緑の具足を付けて緑の陣羽織を羽織っている。毛利家の色である緑だけがあった。
「さて、この度の戦であるが」
「敗れる」
「そうなりますな」
「必ず」
「左様、大内家の兵は多いが」
 それでもというのだ。
「しかしじゃ」
「それでもですな」
「この度は無理な出陣なので」
「それで、ですな」
「負ける、それもかなりの負けとなる」
 ただ負けるのではなく、というのだ。
「機を見ておらぬ、しかも急な用意で家の中もまとまっておらぬ」
「陶殿の独断ですな」
「あの御仁が無理に言われてです」
「そのうえでの出陣でありますので」
「それで、ですな」
「しかも尼子家に勝てると侮り尚且つ尼子家のことを碌に調べておらぬ」
 このこともあるというのだ。
「これでどうして勝てようか」
「戦の用意も出来ておらず」
「しかも敵のことも知らぬ」
「それではですな」
「勝てるものではないですな」
「これで勝てれば苦労はせぬ」
 到底というのだ。 
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