| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

戦国異伝供書

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第九十一話 会心の夜襲その十二

「そうしたものだからな」
「謀はそういうものだと」
「左様、わしが謀をよく使うのはな」
「見破られぬからですか」
「これが見破ってくる相手ならな」
「使われませぬか」
「相模におられるな」
 ここである者の名を出した。
「伊勢新九郎殿じゃ」
「あの御仁ですか」
「お主も聞いておろう」
「はい、最初は今川家の家臣でしたが」
 それでもとだ、志道も話した。
「そこから身を起こされて」
「伊豆を手に入れられてな」
「相模もとなりましたが」
「先に武田や長尾のご子息の名前も出したが」  
 しかしというのだ。
「あの御仁が相手ならな」
「殿もですか」
「謀は使えぬ」
「見破られるので」
「だからじゃ」
 それでというのだ。
「若しあの御仁と対するのなら」
「戦で、ですか」
「戦うしかないが」
「あの御仁は戦上手ですな」
「そうそう勝てる御仁ではない」
「では戦われぬ」
「迂闊にな、隙を見ないとな」
 到底というのだ。
「動かぬわ」
「そうされますか」
「左様、そういえば伊勢殿は名を変えられたな」
「北条家を名乗っておられますな」
「かつて鎌倉幕府で執権であられたな」
「その末裔とのことですが」
「それはないであろう」
 あっさりとだ、元就は述べた。
「箔を付ける為に言われておるだけでな」
「その実は、ですか」
「北条家とは何の縁もない」
 その伊勢新九郎はというのだ。
「そもそも北条家は鎌倉幕府が滅んで暫く再起も図っていたが」
「消えましたな」
「歴史の中にな」
「それで北条家の末裔と言うには」
「家系図をどうとでも作り変えれば言える」
「そうしたものであり」
「まず関係ない」
 今の補助受けと鎌倉幕府の執権であった北条家はというのだ。
「やはりな」
「そうしたものですか」
「わしはそう見る、ただな」
「ただ、ですか」
「伊勢殿が恐ろしいまでの御仁であることは事実であり」
 それでというのだ。
「あの御仁の様な方が近くにおればな」
「その時は」
「わしはこの様に謀は使えぬわ」
「左様ですか」
「どうもな」
「そしてそうした御仁がおられぬので」
 元就の近くにとだ、志道も述べた。
「殿もですか」
「謀を使える、大内家も尼子家も伊勢殿の様な御仁はおられぬし」
 元就はさらに話した。
「この安芸にもな」
「おられぬので」
「それでじゃ」
 それ故にというのだ。
「わしはこうして謀を仕掛けられる」
「そうなりますか」
「そうじゃ、そしてその謀で今度は高橋家を取り込めた」
「それで尼子家にもですな」
「より確かに対することが出来る様になった」 
「しかしその我等を見て」
「尼子家はこれまで以上に我等を警戒してな」
 そのうえでとだ、元就は話した。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧