ブサカワ犬

　　　　　　　　　　　　　　　ブサカワ犬
　都内の高校に通う橋口望は家族の初詣の後で神社からの帰り道に一匹の白い子犬を見付けた、その子犬は垂れ目で左の眉の模様がなく口元の左のところにやけに大きな黒い模様があった。
　そして異様な垂れ目だった、望はその子犬を見てすぐに言った。
「うわ、何ていうか」
「不細工な犬だな」
「これはまた凄いわね」
「そうね、ただ」
　その犬を見てさらに言った。
「この子首輪していないから」
「野良犬みたいだな」
「捨てられたのかしら」
「ううん、この前お父さんうちで犬飼いたいって言ってたわよね」
　望はここで父の元就に問うた、黒髪をおかっぱにしていて目は優しい感じだ。背は一五八程でありすらりとしたスタイルが動きやすい服装に似合っている。
「そうよね」
「ああ、じゃあな」
「この子拾う？」
「このままだと保健所に行くしかないしな」
「だったらね」
　母の杉香も言ってきた、大柄で筋骨隆々としていて厳めしい顔の父と違い背は望と同じ位でふくらとした頬に黒髪を長く伸ばして後ろで団子にしている。
「今からね」
「うちで引き取ってな」
「飼いましょう」
「そうするか、おいうちに来るか？」
「ワン」
　犬は父の言葉に応えた、これを了承と捉えてだった。
　この犬は望の家族になった、名前は元旦に拾ったのでそのまま元旦となった。種類は雑種で性別は雌だった。
　その雌であることについて望は家で両親に言った。
「絶対に雄だって思ったわ」
「お父さんもだ」
　警官である父はきっぱりと言い切った。
「あの顔だからな」
「そうよね」
「ああ、絶対に雄だってな」
「最初見て思ったわね」
「それが雌でな」
　獣医さんに病気がないか診てもらっても言われたし家に引き取る時にもわかった。
「驚いた」
「そうよね」
「けれどね」　
　それでもとだ、母が言ってきた。
「大人しくて優しくてね」
「言うことちゃんと聞いてくれてね」
「とてもいい娘だから」
「いいわね」
「ええ、あのお顔もね」
　不細工に見えるそれもというのだ。
「慣れるとね」
「可愛いわよね」
「そうよね」
「あれだな」
　父が笑って言ってきた。
「元旦はブサカワだな」
「そっちになるの」
「ああ、不細工だけれどな」　
　それでもというのだ。
「それがかえってな」
「可愛いのね」
「元旦はそういう娘だな」
「そうね、性格も仕草も凄く愛嬌があるし」
「ブサカワだ」
「そうした娘ね」
「とてもいい娘だ」
　父は笑って言った、そうしてだった。
　家族全員で元旦を可愛がり続けた、元旦はもう家族にとっては一員でかけがえのない存在になっていた。
　望はその元旦を連れてよく散歩に連れて行った、彼女にとっては非常に楽しい時間になっていた。その時に。