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ソードアート・オンライン~漆黒の剣聖~

作者:字伏
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アインクラッド編~頂に立つ存在~
  第三十話 折れることを知らない不死鳥の剣

どちらからともなく地面を蹴り、お互いの間合いを詰めていく。ソレイユは力負けしないように長刀を諸手で持ち、オシリスの大剣と斬り合っていく。いつぞやのコロシアムで戦ったときよりも激しい斬撃の嵐が巻き起こる。そんな中、ソレイユは必要以上にインファイトを仕掛けていた。

「おや、今日はずいぶんとインファイトを仕掛けてくるな。ヒットアンドアウェイとか、もっと他の戦法をとってくると思ってたんだけど?」

「≪月光剣≫の餌食になるだろうが。本気のおまえ相手に距離を取るのは愚の骨頂だ」

「ははっ。けどな、ソレイユ、≪月光剣≫は何も相手が遠距離にいないと放てないわけではないんだが?」

「別に今ここで放ってもいいぞ?放てる、ならな」

オシリスは口から出た言葉とは裏腹に≪月光剣≫の最大の特徴である光の斬撃波を放とうとしない。いや、放てないのだ。その理由は、ソレイユとの距離が開いていないからではない。ソレイユが必要以上にインファイトを仕掛けているからなのだ。なぜなら、ソレイユほどの実力者になれば、おそらく技の出潰しが可能かもしれないということである。もし、出潰しをされれば、致命的な隙となる。その懸念がオシリスの頭の中にあり、≪月光剣≫が使えないでいる。
それを知ってか知らずか―――おそらく知っていて―――ソレイユは不敵に笑いながらオシリスを挑発する。普段ならばそんな安い挑発に乗るオシリスではないが、今日に限って普段のオシリスではなかった。

「ならお望みどおりはなってやるよっ!!」

ソレイユの挑発を受け刀の斬撃をパリィした後、大剣に光を纏わせソレイユに向かって叩きつけた。まさか挑発に乗ってくると思っていなかったソレイユは、咄嗟に刀で受け止めようとしたが、その行動は間違いであった。
ユニークスキル≪月光剣≫の最大の特徴は、防御不能な光の斬撃波にある。これは斬撃を光の衝撃波にかえ、飛ばすことのできるスキルなのであり、それは例え盾や武器で防御しようとも、すり抜けて襲い掛かってくる厄介なものなのである。なので、刀で咄嗟に防御したソレイユは、叩きつけられた大剣の方は防御できたとしても、そこから放たれた光の斬撃波は防御できずに食らってしまう。そのため、回避行動をとるべきだったのだが、直前にパリィされたことにより、少しばかり体勢を崩していた。なので、この攻撃をソレイユは躱すことはできず、防御したとしても食らってしまうという訳であった。キィンと甲高い金属音が鳴り響き、光の斬撃波の影響であたり一帯に砂埃が舞う。
しかし、当たったことを確信できるタイミングだったにもかかわらず、オシリスの表情はすぐれない。眉にしわを寄せ難しい顔をして叩きつけた大剣を見据えていた。

「まさか、本当に放ってくるとは・・・・・あんな挑発に乗るなんて・・・大人げないぞ、オシリス!」

砂埃が徐々に晴れていく中にソレイユの自分の言動を棚に上げた声が響いた。完全に砂埃が晴れると、そこには大剣を長刀で受け止めているソレイユ姿があった。パッと見、ソレイユはダメージを受けている様子はない。そのことを疑問に思っているオシリスは大剣に力を込めながら、ソレイユに問い掛けた。

「しかし、どうやって凌いだ?」

「まっ、≪月光剣≫にもつく場所あったってことさ」

「つく場所?」

「ああ」

ソレイユの言ってる意味を理解できないでいるオシリス。そんなオシリスをよそにソレイユは言葉を続ける。

「種明かしをすれば、あの時、大剣の一撃を長刀で防御した。しかしそれだと、≪月光剣≫の斬撃波は防げない。だから、二刀目を使ったのさ」

いつの間にか腰に差してあった刀がソレイユの左手に逆手で握られていた。

「逆手から繰り出すソードスキルが短剣スキルにはあるだろ?まぁ、早い話が、だ・・・」

言葉を区切り一息つくと同時にソレイユは身を引く。いきなりのことに体勢を前のめりに崩されるオシリスだったが踏ん張った瞬間、今度は鍔迫り合っていた大剣が力強く弾かれた。そのため、必然的にソレイユとの距離が開いた。

「≪月光剣≫の光の斬撃波はソードスキルで相殺することができるという訳さ・・・それを考えると、スキルディレイが存在しない≪剣聖≫ってのは≪月光剣≫を倒すために作られてるみたいだな」

ソレイユの言葉にを聞いたオシリスは驚きで軽く目を瞠る。

「・・・・・いつ、気が付いた?」

「“わたし”とあんたが七十五層の闘技場で戦ったとき、“わたし”は≪フラッシング・ペネトレイター≫を使っただろ。そのときにあんたは光の斬撃波を使わなかった。ペネトレイターは直線的な突進技だ。あんたの腕をもってすれば、そんな単調な攻撃に斬撃波を当てられないわけがない。だから≪月光剣≫の弱点がソードスキルであることが分かった。そして、≪剣聖≫の効果はスキルスロットにセットしてある他系のソードスキルをスキルディレイを起こさずに使うことができる、と言うものだ。そこから考えられるのは、もはや自明の理だろ?」

「とんでもねぇ観察眼だな・・・。しかし解せないな、なぜ、そんなピンポイントで適当なソードスキルを使うことができた?一体いくつの武器スキルをスロットに入れている?」

「スキル詮索は野暮ってもんだぜ、と言いたいがいまさらだからネタばらしといきますか・・・」

「・・・・・・・」

息をひそめ、ソレイユの言葉を待つオシリス。そんなオシリスに構わず、ソレイユは自分のステータスを明らかにしていく。

「“わたし”のレベルは296。スキルスロットは三十六。それで全武器スキルをセットしてある」

「・・・・・レベルについては何も言うまい。ジェネシアスをクリアしてきたんだ、そのレベルも頷ける。だが、三十六のスキルスロットに五十近くもあるソードスキルを入れるなんて不可能だ」

「そこで登場するのがこのコートなわけだ」

まるで何かの通販の宣伝みたいなノリでソレイユはオシリスの質問に答えていく。

「≪コート・オブ・アドジョイン・ザ・デス≫、聞き覚えは?」

「・・・・・知っている。だが、それを使おうとするプレイヤーがいるとは思ってなかった」

「だろうな。だが、≪剣聖≫にはおあつらえ向きの装備だろ?」

≪コート・オブ・アドジョイン・ザ・デス≫。死と隣り合わせを意味するその装備の効果はスキルスロットを倍にすると言うものである。しかし、当然のごとく相応のリスクは伴う。防御力ゼロ。もはや防具の意味をなしていない装備である。

「伊達や酔狂でもその装備を使おうとする奴はいないと思ってたんだがな・・・ましてや、今のSAOはデスゲームだ。下手をすれば一撃で死ぬことだってあり得る」

「その一撃を喰らわなければいいだけだろ」

傲岸不遜にも言い放ったソレイユにオシリスの纏う雰囲気が一段と鋭くなった。

「ずいぶんな自信だな・・・・・・ついでにもう一つ聞いておきたい」

「なんだ?答えられる範囲でいいなら答えるぞ?」

「おれときみが闘技場で戦ったとき、最後にきみが放った≪ワールド・エンド≫は発動されなかった・・・それはなぜだ?」

「ああ、スキル・キャンセラーのことか・・・」

「スキル・キャンセラー?」

聞き覚えのない言葉にオシリスは首をかしげるが、すかさずソレイユから説明が入る。

「あらかじめ設定されているソードスキルの動きに設定されていないイレギュラーを起こすことでスキルをわざとファンブルさせる。それがスキル・キャンセラーだよ」

「だが、だからと言ってそう簡単にイレギュラーを起こせるはずが・・・」

「ああ、ないよ」

「なら、どうやって・・・?」

未だに種がわからないオシリスにソレイユは不敵に笑いながら種明かしをしていく。

「簡単だよ。ソードスキルが発動されるのは剣を持っているからだ。ならば、剣を持っていなければスキルが発動されることはない」

「・・・?」

「解らないなら言い方を変えようか。システムが剣を持っているという認識を得て、設定された動作をすることでソードスキルは発動する。ならば、システムが剣を持っていないという認識を与えれば、スキルが発動することはない。つまり、だ。“わたし”がソードスキルを発動させた後にわざと剣を離すことでソードスキルのファンブルを起こしている。これが、スキル・キャンセラーの全容だよ。まぁ、システムが優秀だからできることなんだけどね」

「とんでも、ねぇな」

まさかそんなやり方でソードスキルを無効化し、あまつさえそれを実践に取り入れるなど考えもしなかった。素直にオシリスが感心しているとソレイユが口を開いた。

「感心するのはいいが、いいのか?そこ・・・」

言葉が途切れソレイユの姿が消えると消えた瞬間、オシリスの背後からソレイユの言葉が響いた。

「・・・“わたし”の間合いだぞ?」

声の聞こえた方に視線を向けると長刀を横薙に振るっていた。咄嗟に大剣で防御する。筋力値はオシリスの方が上なのか、体勢が十分でなかったのにもかかわらず押し負けることはなかった。しかし、オシリスは失念していた。今のソレイユは―――二刀流なのである。

防御されたことなど気にも留めず、すぐさまソレイユはいつの間にか順手に持ち替えていた左手の刀で突きを繰り出した。オシリスの顔面を狙ったその攻撃は、オシリスが顔を傾けたため攻撃は直撃しなかったが、それだけでは躱し切れず少しばかり掠り、HPが数ドット削れる。

「ちっ!?」

舌打ちをして不十分な体勢であるにもかかわらず、筋力値任せに大剣を振るう。しかし、ソレイユはそれを刀で器用に去なし、即座にカウンターを放っていく。まさか去なされると思ってなかったオシリスは、そのカウンターを避けることはできずに喰らってしまう。幸い、急所ではなかったのでクリティカルヒットは出なかったものの、ここに来て初めてまともな攻撃を受けた。

その後も甲高い音を立てながら剣戟が行われるが、時折織り交ぜられるソレイユのカウンターにオシリスは翻弄されていく。下手に攻撃を仕掛ければ、手痛いしっぺ返しを食らってしまう。そのためオシリスは攻めあぐねていた。

「嫌味、だぜ・・・!ここに来てそんな奥の手を出してくるなんてな・・・っ!!」

「悪趣味なあんたが言えたことか?」

打ち合いながら雑談する二人であるが、剣戟の勢いは衰えるどころか激しさを増していく。そんななか、上段から勢いよく振り下された大剣を長刀の切っ先で去なすと、そのまま長刀で横薙にカウンターを打つ。今度は後ろに飛び下がることでやり過ごそうとするオシリスだが、ソレイユのカウンターのキレがそうはさせなかった。避けきることができず、鮮紅が舞う。

「・・・・・・これでもよけきれないのかよ・・・」

オシリスのボヤキを無視して、間をおかずに肉薄していくソレイユ。それに応戦していくが、いつ、どの技を返されるかわからないオシリスは精神的に追い詰められていく。そこへ拍車をかけるようにソレイユは不敵に笑いながら言った。

「悪いな・・・全てが布石なんだよ、カウンターのためのな。どんな状況だろうと、どんな力だろうと、どんな技だろうと絶対に返す。それが、“わたし”の剣だ・・・」

それを聞いたオシリスは苦虫を噛んだような表情になる。戦いの駆け引きではソレイユの方が上手だったらしい。先ほどまでの、均衡していた戦いは見る影もなかった。どうやら、決着のときは近いようである。



そこから、二人のHPが減るのは早かった。カウンターという隠れた奥の手をだし、オシリスを崩していったソレイユはもちろん、それに負けじとオシリスもソレイユのHPを削っていく。ソレイユの防御力はないに等しいのでたった数撃当てるだけですでにHPは大幅に削れていく。すでに二人のHPは危険領域まで落ちている。あと一撃、ないし二撃で決着はつく。
もはや、何合打ちあったかなど数えるのが馬鹿馬鹿しくなるほど剣戟を繰り返した結果、ソレイユが下段から切上げを行い、それを迎え撃つ形で上段から大剣を勢いよく振り下し刀と大剣がぶつかり合った瞬間にそれは起こった。

「おらよっ!!」

ガギィンッ!!

「っ!?・・・ちっ!!」

今までよりも一層高い甲高い音を立て、ソレイユの刀が折れてしまった。刀の破片が舞う中、ソレイユは即座に左手持っていた折れた刀の柄をシリウスに向かって投げ距離を取っていく。システムアシストもついたため、勢いよく飛んでいく。その飛んでくる柄をオシリスは体を捻り避けるとソレイユに向きなおり、してやったりの顔で口を開いた。

「アポカリプスのときに消耗しすぎたな・・・ただでさえ、刀ってのは耐久力が低いからな・・・さぁ、これからどうする?」

「まだ、こいつがあるさ」

そういって長刀を鞘に納めると、居合の構えを取る。その構えは七十五層の闘技場で見せたものと同じものだった。案の定、居合の構えを取ったソレイユの長刀に黄金色のライトエフェクトが纏われた。
しかし、その技はすでに見切られているはずである。それをわからないソレイユではないはずなのだが・・・。ソレイユの意図がつかめないオシリスだが、その体はしっかりとソレイユを迎え撃てるようにしていた。

「わかってるのか・・・その技はすでに破られてるんだぞ?」

「ああ、そんなことは百も承知だ、よっ!」

オシリスの言葉にソレイユは不敵に笑うだけであった。そのことに眉をひそめるオシリスだが、そんなことはどうでもいいようにソレイユは鯉口を切った。

最上位剣聖剣技 ≪ワールド・エンド≫

七十四層のフロアボスであるグリームアイズを葬り、七十五層の闘技場でオシリスに見切られていたソードスキルである。

「だから、それは見切れるって言ってるだろ!!」

しかし、今回は七十五層の闘技場のときと同じようにワールド・エンドの攻撃範囲から外れようとはしない。なぜなら、もし、あの時のようなことをすれば、二の舞になるのは目に見えている。だから、オシリスはワールド・エンドの間合いから逃れることができない。したがって、それを破るには別の手段を使うことにした。
大剣を上段に構え、鮮やかな蒼色のライトエフェクトを纏わせる。そう・・・すなわち、オシリスがとる手段は――――真っ向勝負である。

重単発月光剣技 ≪ルナティック・ミーティア≫

鞘から勢いよく抜かれるソレイユの長刀。上段から勢いよく振り下されるオシリスの大剣。この状況では、先日の様にスキル・キャンセラーを使いオシリスの虚をつくことはできない。そのため、ソレイユはスキル・キャンセラーを使うことなく真っ向からぶつかりに行った。

最上位剣技同士がぶつかり合い、今までにない甲高い音があたり一帯に響き渡ると同時に衝撃波まで伝わった。そして、再びソレイユにとってあまりよろしくない、オシリスにとって好機とも取れることが起こった。すなわち・・・

ガギィンッ!!

愛刀である長刀が折れてしまった。粉々に砕け散る刀身の破片が宙を舞う。それを見たオシリスは勝利を強く確信した。タイミングよくディレイが解け、ソレイユに斬りかかっていく。ソレイユもディレイが解け、斬りかかってくるオシリスを迎え撃つ。

「俺の勝ちだ!!≪剣聖≫!!」

「まだだっ!!」

一瞬だが、ソレイユの行動の方が早かった。ポリゴン片になる前の折れた長刀をオシリスに向かって振るう。そんな苦し紛れの攻撃をオシリスは意に介すことはしない。折れた剣で戦えるほど、剣の世界とは優しくない・・・・・・そう、優しくないのである。だが、それ以上に優しくなかったのはソレイユという存在だった。

―――――それは唐突に起きた。

ソレイユが振るっていた長刀に焔のような紅蓮のライトエフェクトを纏い、美麗な不死鳥の鳴き声が一声鳴り響くと、折れたはずの刀身が復活していた。

「なっ!?」

想定してなかった光景に驚愕するオシリス。だが、復活したソレイユの長刀が鮮やかなライトエフェクトを灯し、オシリスを襲う。オシリスはソレイユを攻撃するはずだった大剣を即座に防御に回す。
タッチの差でオシリスの大剣の防御が間に合ったその時、ソレイユの言葉が響き渡った。

「一つ、教えておこう・・・スキル・キャンセラーにはこんな使い方もあるんだよ」

突如ライトエフェクトが消失し、ソードスキルにしては軽い斬撃が防御した大剣を襲う。困惑するオシリスをよそにソレイユは長刀を振りかぶる。やっと事態の認識が追い付いたオシリス先ほどの攻撃を無理な姿勢で防御したため体勢が崩れていた。ソレイユの長刀に深紅のライトエフェクトが灯り、オシリスを襲う。

二連剣聖剣技 ≪グランド・クロス≫

「う、うおぉぉぉぉぉっ!!!!」

それは今までにない咆哮だった。大剣を手離し、転がりながらグランド・クロスの一撃目を避ける。オシリスが素早く起き上がりながらソレイユの方を向くと二撃目が放たれ終わった所だった。それを見たオシリスは敏捷値が許す限りの超高速で大剣を拾い上げソレイユに斬りかかっていく。スキル・ディレイが通常よりも長くセットしてある≪剣聖≫のソードスキルを使ったのだ。この一撃をかわせるはずがない、とふんでの行動だった。先ほどはなった月光剣の最上剣技ではないソードスキルで止めを刺しにかかった。

最上位月光剣技 ≪フルムーン・ディストラクター≫

上段から思い一撃が光の斬撃波と共に相手に襲い掛かるソードスキルであろ。そのソードスキルを発動するために再び上段に構えられた大剣が蒼天を思わせる蒼いライトエフェクトを纏う。だが―――

「な・・・に・・・っ!?」

オシリスがソードスキルを発動させる直前にソレイユの上段からの一閃がオシリスを襲った。本来ならシステムアシストを受けているソードスキルが通常攻撃に力負けすることはまずないのだが、今回はタイミングが悪すぎた。なぜなら、ソードスキルが発動する瞬間、システムのアシストが十分に働いていない状況に攻撃を受けたのだ。要するに、一番力が入っていないときに攻撃を受ければ、いくらソードスキルと言えど通常技に押し負けてしまう、ということである。しかし、オシリスが驚いたのはそこではなかった。

「なぜ・・・動ける・・・スキル・ディレイは、どうした・・・?」

なぜスキル・ディレイ中にそんな精密さを要求する行動ができたのか、それがオシリスの最たる疑問だった。

「お前は気がついて無かっただろうが、グランド・クロスは不発だったんだよ」

「・・・スキル・・・キャンセラーかっ!?」

先ほどのオシリスは転がるようにしてグランド・クロスを避けた。それが良い判断なのか悪い判断なのか状況にもよるが、あの場合はああするしかなかったので仕方がないのだろう。だが、今回はそれが悪手になってしまった。なぜなら、避けている間はソレイユから視線が外れていたことに他ならない。だからこそ、ソレイユはわざとグランド・クロスが避けられた演出をした。だからこそ、オシリスは気が付かなかった。ソレイユにスキル・ディレイなど課されていなかったことに。

「言ったはずだぞ・・・全てがカウンターの布石だと・・・どんな状況だろうと、どんな力だろうと、どんな技だろうと絶対に返す。それが“わたし”の剣だ、と」

驚愕しているオシリスにソレイユは微笑すると長刀に鮮やかな紅色のライトエフェクトを纏わせ、たった・・・たった一言、呟いた。

「“わたし”の勝ちだな、≪冥王≫・・・」

その呟きとともに放たれたのは、≪剣聖≫のもう一つの最上位剣技だった。 
 

 
後書き
ソレイユvsオシリスの決着回でした~

ソレイユ「なんつーか・・・自分で言うのもなんだが、無茶苦茶だな」

そうだねぇー、SAOの中じゃ無茶苦茶もいいところだよねー
そういえば、話数的に言ってあと五話もあればアインクラッド編が完結してしまうんだが・・・回収し忘れたフラグとかないよね?

ソレイユ「さぁ、な」

・・・・・・ないことを祈ろう。
それでは、感想やご意見お待ちしております!

【武器説明】
≪天凰フェニクニス≫
レジェンド・クエストの一つである【フェニックスの護衛】というクエストから入手できる素材を使って鍛えていった武器。基本的な性能はドロップ品の中で最高資質を持つ魔剣クラスより少し上くらい。その特殊能力が、耐久値の蘇生にある。再生ではなく蘇生。これは、耐久値がゼロになると一定の確率で耐久値がマックスまでに戻るという効果なわけである。絶対に蘇生するという訳ではない。これの効果が発動せずに耐久値がゼロのままだと、いつぞやのどこかの武具店で真っ黒クロ助が試し切りに使った剣のような道をたどることとなる。
恒例だが、なぜそのような効果が付いたのかというと

『不死鳥の素材が元なんだ。そういう能力が付いたとしても不思議ではない』

と言うものだった。

≪コート・オブ・アドジョイン・ザ・デス≫
ソレイユ愛用の防具・・・と言っていいのかわからない装備。基本的な防御力はゼロ。スキルスロットが二倍になるというエクストラ効果のみ付随されている防具。たいていのプレイヤー、特にデスゲームにとらわれているプレイヤーには必要とされない装備。
この装備を装備すると、スキルスロット欄にこの防具専用の特別欄が出現し、そこにスキルをセットするだけでそのスキルを使えるようになる、といった感じになっている。この装備を外すとその特別欄に装備されたものが自動的に外れるが、再び装備しなおすと外す前のスキルがセットされた状態となっている。もし、セットしているものが被ったらこの装備にセットしている方が消える。

【ソードスキル説明】
≪ルナティック・ミーティア≫
上段から光の斬撃波と共に勢いよく振り下す力技。月光剣特有の光の斬撃波がともに放たれるおかげでガードされても無意味だが、今回はその利点が上手く利用できなかった。

≪フルムーン・ディストラクター≫
≪月光剣≫の最上位剣技。上段から振り下した後、相手の懐に深くもぐり込み回転しながら斬撃を見舞い、同時に回りの敵も一掃するという剣技。

【スキル補足】
≪月光剣≫
≪月光剣≫は大剣専用のユニークスキルではないが、スキルホルダーのオシリスが大剣使いのため、本人は主に上段からの攻撃を好んで使っていた。なぜ好んでいたかというと、大剣の性質上、上段からの攻撃が一番有効であるためである。 
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