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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
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無印編
  第28話:狂宴の幕開け

 
前書き
どうも、黒井です。

今回から天下の往来独り占め作戦となります。 

 
 その後、颯人の口からはジェネシスが行った悪行が語られた。

 曰く、ジェネシスは攫った人を無理矢理サバトに掛け、強制的に魔法使いにする。その際、半分以上は生贄として殺され残った半分もその殆どが魔法使いとしての才能を開花させる前に息絶える。

 曰く、そうしてサバトに掛けられ奇跡的に魔法使いとしての才能を開花させた者も、ワイズマンにより洗脳され使い捨て同然の扱いで無理矢理戦わされる。
 颯人は彼らを可能な限り生かしたまま無力化しようとするのだが、彼の努力を嘲笑うようにジェネシスの幹部はメイジ毎颯人を始末しようとするので結果的に助けられない場合が多い。

 それら外道・非道の行いを聞かされ、弦十郎を始め響や奏が嫌悪感等で顔を歪める。
 特に弦十郎は、取り分け裏の情報に触れる機会が多かっただけにその存在を微塵も掴む事が出来なかった事に悔恨の念を抱いていた。

 もし知る事が出来ていたら、何かしら手を打てていたかもしれないのに、と…………。

 だが何よりも弦十郎が悔やんでいたのは、そんな連中との戦いを結果的にとは言え若者である颯人にのみさせてしまっていた事だ。
 聞けばウィズと共に戦っているのは颯人一人だと言う。つまり、ウィズの手が及ばない所は必然的に颯人の負担となると言う事で、彼の様な若者が、翼や奏と違い何の報酬も得ることなく孤独な戦いを強いられていたのかと思うとやるせない気持ちになった。

 それらの話を聞かされた後、弦十郎から颯人にほぼ1人での戦いは辛くなかったのか?

 響から、洗脳された魔法使い達は助ける事が出来るのか?

 そんな事を訊ねられた。
 颯人としては、奏の死の未来を知らされた時以上に辛い事は無かったし、洗脳された魔法使い達を解放する方法も一応はあるので特に澱みなく答えていった。

 颯人が疑問の声を上げたのは、それらに答え終えた時の事だ。

「────にしても、だ。あの透って奴は何で1人だったのかが分っかんねぇんだよな~?」

 徐にそんな事をぼやいた、彼の言葉に奏が代表して問い掛けた。

「1人って、クリスって奴が一緒だったろ?」
「あぁ~、そう言えばこれは言ってなかったな。白い仮面の奴は幹部候補ってだけじゃなく、他の雑魚メイジを率いる小隊長的な役割もあるんだよ。だからこいつが居るなら、他に雑魚メイジが居ても良かった筈なんだけどな────?」

 厳密に言えば、彼は1人ではなくクリスと行動を共にしていた。

 だがそれは彼女を部下として率いていると言う感じではなく、対等なパートナーと言う感じだった。
 颯人が知る限りで、ジェネシスの中に対等なパートナー関係を築いている者はいなかった筈だ。連中には力関係からなる隷属と言う上下はあっても、対等な関係からくるパートナーと言うものは存在しない。そういう連中だ。

 だからこそ、透とクリスの関係がイマイチ理解できなかった。

──あれ? もしかしてあの透ってジェネシスと関係切れてる?──

 不意にその可能性に行きつく颯人だが、現時点で正解を知る術はない。知りたいのであれば、何らかの方法で彼と接触するしかなかった。

 その方法を考え、右手を顎に当てて人差し指で顎を叩く颯人。そんな彼のこめかみを、徐に奏がデコピンして思考を中断させた。

「……何すんだよ?」
「今はそこまで難しく考えても仕方ないだろ? 大事なのは次の移送任務でクリスやノイズだけでなく、そのジェネシスって奴らが襲撃掛けてくるかもしれないって話だ。違うか?」
「あ~……まぁ、そうだな」
「だろ? ならさ、今はとにかくそっちに備えようや。そうだろ、旦那?」

 奏の言う通り、今大事なのはデュランダルの移送任務であり、透含めたジェネシスと言う組織に於ける不審な点を云々する時ではない。重要なのはデュランダルの護送そのものだ。

 颯人の口から語られたジェネシスと言う組織が想像以上に驚異的だったのでうっかりしていた。その事に弦十郎は思わず苦笑を浮かべる。

「奏の言う通りだ。敵は強力かもしれないが、それでも俺達はやり遂げねばならない。了子君!」
「デュランダルの予定移送日時は、明朝0500。詳細はこのメモリーチップに記載されてます。皆、開始までに目を通しておいてね」
「いいか、あまり時間は無いぞ! 各自持ち場へ付いて準備を進めるんだ!」

 弦十郎の言葉を合図に、ミーティングは終了。この場は解散と言う流れになった。

 朔也達銃後の者は明日の移送任務の為の情報の整理などに向かい、その一方で颯人など戦闘で活躍する3人は明日の移送任務中に発生するだろう敵からの襲撃に万全に備える為に体を休める事となる。

 颯人などは真っ先に立ち上がり、ブリーフィングルームを後にしようとする。

 その際、彼はドアの前で振り向き奏に声を掛けた。

「あ、そうそう奏?」
「ん?」
「作戦開始前に身の周りの物をチェックしといた方が良いぜ。失せ物とか忘れ物が無いようにな」
「…………そいつは一体どう言う──」
「そうだ、おっちゃん! 後でちょっとだけ時間作っといてもらえるかい? そんなに長い時間は取らねえからよ」
「ん? まぁそれくらいなら……」
「頼んだぜ。じゃぁな!」

 それだけ言って颯人はその場を去っていった。

 後に残された奏は、彼が出ていった後急いで自身の身の回りをチェックした。
 彼女は気付いたのだ。自分に最後の言葉を掛ける瞬間、明らかに颯人の声色が変化したことに。

──あれは颯人が何か仕掛けた時の声だッ!!──

 奏は絶対颯人が何かをしたと確信していた。

 だがよくよく考えてみると、現時点で自分は大して物を持っていないことに気付く。
 バッグの類は持っていないし、身に付けている物と言えばギアペンダントくらい。だがそれも持っていかれた形跡はないと来ている。

 失せ物忘れ物と言う事は、何かが無くなっているという事だが──?

「あれ? 奏さん、ちょっと……?」
「どうした?」
「ちょっと失礼します」

 何かに気付いた様子の響。奏がどうしたのか問い掛けると、それには答えず響はそっと奏の脇を覗き込み──────

「ひゃんっ!?」

 徐に奏の胸を横から突いた。その瞬間の感触、服越しに伝わる胸を突かれる感触に奏は一瞬変な声を上げてしまう。

 突然の事に奏は響に文句を言おうとしたが、その直前胸に感じた違和感に彼女も気付く。

「響ッ!? なに、す…………ん?」
「奏さん……下着、は――――?」

 その違和感の正体…………それは、服の下に下着の感触──ブラジャーの存在を感じ取れなかったことだ。もしあれば響に突かれたとしてもここまでダイレクトに感触は胸に伝わらない。
 試しに自分で服越しに胸を触ってみると、服と胸の間にある筈のブラジャーの存在が感じられなかった。

 恐る恐る衣服の胸元を引っ張って見てみると…………そこには服のすぐ下にある、肌色の双丘が…………。

「は…………颯人ぉぉぉっ!?!?」
「あっ!? 待ってくださぁぁぁぁぁい!?」

 衣服しか押さえるものが無くなった為、激しく動くと左右に揺れる胸を腕で押さえながら颯人を追いかける奏。響も慌ててその後を追い掛ける。

 大事な作戦前だと言うのにまたしても始まった2人の追いかけっこ+αに、弦十郎は軽く頭痛を覚え額に手を当て、了子は楽しそうに笑みを浮かべるのだった。

 因みに──────颯人はそれから数秒と経たず奏に発見され、彼の口から消えた奏のブラジャーは響の上着のポケットに入っている事が明かされた。
 下着無しの胸を放置することは出来なかった為、仕方なくトイレで響にブラジャーを返してもらっている間に颯人にはまんまと逃げられてしまうのだった。




***




 翌日の朝5時、颯人達は予定通りに移送任務を開始した。

 颯人は愛車のマシンウィンガーに、奏と響は了子が運転する車にデュランダルを入れたケースと共に乗っていた。いざと言う時、直ぐにデュランダルと了子を守れるようにする為だ。

 尚今回の任務では、弦十郎もヘリに乗って上空から直接指揮している。いざと言う時、より迅速に指示が出せるようにだ。

 そんな中、奏はあることに不安を覚えていた。
 今日になってから、颯人が嫌に気が立っているのだ。

 明確に不機嫌と言う訳ではない。ただ、明らかに何かを警戒しているのである。その警戒っぷりと言ったら凄く、先日の仕返しをしようと言う気が失せるほどだった。

 今だって、了子が運転する車の隣を走る彼の周りにはレッドガルーダとイエロークラーケンが居て、絶えず周囲を警戒している。

 出発前のギリギリのタイミングに了子から知らされたことだが、先日クリスが脱ぎ捨てたネフシュタンは結局回収出来なかったらしい。とすれば、彼が強く警戒しているのはネフシュタンを再び纏ったクリスとメイジに変身する透だろうが、それにしては少し度が過ぎているように思える。

「颯人君ってば、やる気満々ねぇ? 奏ちゃんと響ちゃんも負けてらんないわよ?」
「…………あぁ、分かってるよ」
「はい! 頑張ります!」

 勿論奏と響だって警戒していない訳ではない。颯人・奏・響の3人はともかく、他の者はノイズに襲われては一溜まりもない。

 誰もが周囲を警戒し、緊張しながらも情報統制により一般車両や一般人の居ない公道を走る。
 了子の運転する車の前後左右にも護衛の車両があり、その車内に居る二課のスタッフも何か異常がないかつぶさに周囲を観察していた。

…………そんな彼らの姿を、あるビルの上からじっと眺めている者達が居た。

 紫の仮面をしたメイジ──メデューサと、その配下の琥珀色の仮面のメイジ達だ。

 メデューサは眼下を走る車両群を、その中で取り分け目立つ颯人のマシンウィンガーと了子の車を見やり、小さく鼻を鳴らすと部下たちに指示を出した。

「…………やれ、狙うは聖遺物だ」

 指示を受け、周囲のメイジ達が一斉にライドスクレイパーで飛び立ち車両群に向け飛んでいく。

 今正に襲い掛かろうとする魔法使い達。その存在に真っ先に気付いたのは、颯人の周囲を飛び回る使い魔達だった。

「ん?」

 突然、ある方向を見て騒ぎ始めた使い魔達に、颯人がそちらを見やると彼も迫りくるメイジを目にした。

 次の瞬間、危険なレベルで了子の車に近寄ると後部座席の窓を乱暴に叩く。

「オイッ!!」
「な、何だ、どうしたッ?」
「すぐ戦闘準備しろ、敵襲だッ!!」
「敵ッ!? クリスか?」
「ちげぇよ、悪い魔法使いだよッ!!」

 奏に怒鳴って告げると、了子の車から距離を取りメイジ達を迎え撃つべく変身する。

〈シャバドゥビタッチ、ヘンシーン!〉
「変身!」
〈フレイム、プリーズ。ヒー、ヒー、ヒーヒーヒー!〉

 ウィザードに変身した颯人は、コネクトの魔法でガンモードのウィザーソードガンを取り出し迫りくるメイジ達に向け躊躇なく発砲した。

 それを見るや、奏は窓から了子の車の屋根に飛び乗りながら自身も迎撃の為にシンフォギアを纏う。

「Croitzal ronzell gungnir zizzl」

 シンフォギアを纏い、奏は飛んでくるメイジを睨みつける。

 向かってくるメイジは目に映る限りで総勢10人。颯人がウィザーソードガンで迎撃し何人かには命中したが、メイジ達は構わず突っ込んできた。

 損害を気にせず突撃してくるメイジ達に、奏は舌打ちしウィザードは仮面の奥で忌々し気に顔を顰める。

「ったく、しょうがねえなぁ──! お前らも俺のマジックショーの虜にしてやるよ!」

 颯人の銃撃を切り抜けて接近してきたメイジが2人、左手のスクラッチネイルで斬りかかってくる。

 左右から迫る攻撃を、颯人はバイクの上で跳躍して回避しバイクに着地する瞬間、ソードモードにしたウィザーソードガンで切り裂いた。

「ぐあっ?!」
「がはっ?!」

 ウィザードに切られたメイジ2人は、ライドスクレイパーから転げ落ちて後方に流されていく。普通なら大怪我どころか死亡する危険もあるが、魔法使いであればあの程度なら怪我で済む。

「さぁ、タネも仕掛けもないマジックショーの開幕だ!」




***




 二課とジェネシスの戦いの火蓋が切られた頃、とある洞窟の中にウィズは居た。洞窟の中は幾つかの部屋に分けられており、それぞれの部屋の前には扉も付けられている。

 その扉の一つをウィズが空けると、そこには全身を黒いローブで覆い隠した人物が居た。

 ウィズはその人物に近付くと、手にしていた宝石のような物を渡した。

「待たせた、漸く見つける事が出来たぞ。これだ」

 赤いルビーの様なそれを受け取ったローブの人物は、満足そうに頷いた。

 その人物はそのまま席に着き、目の前の机に置かれた器具でそのルビーのような石を削り始めた。

 が、徐に何を思ったのか作業を中断してウィズの事を見やる。その視線が何を言いたいのかを察したウィズは、その人物が何かを言う前に口を開いた。

「今回は颯人達に任せる。ワイズマンが出ないのであれば、あいつだけでもなんとかなるだろ。一応装者達も居るのだ、心配はいらん」

 ウィズの言葉に、ローブの人物は何かを躊躇するように軽く俯き、直ぐに気持ちを切り替えたのか作業を再開した。

 その様子を眺めながら、ウィズは今正に戦闘の真っただ中だろう颯人に思いを馳せた。

──すまんな、今回はお前に任せるぞ──

 心中でそう呟く、ウィズの声は誰に届くこともなく洞窟の闇の中に消えていくのだった。 
 

 
後書き
と言う訳で第28話でした。

次回から本格的な戦闘となります。結構な激戦となる予定ですので、お楽しみに。

執筆の糧となりますので、感想その他展開や描写への指摘もよろしくお願いします。

それでは。 
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