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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
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無印編
  第26話:一時の静けさ

 
前書き
読んでくださる方達に最大限の感謝を。

2020.05.05:諸事情により、入院中の翼のシーンをカットしました。 

 
 クリスと透と言う装者と魔法使いのコンビに颯人達が煮え湯を飲まされてから早数日が経っていた。

 その間、響は弦十郎との鍛錬に精を出し、颯人は驚異的な速度で傷を癒し奏と共に模擬戦を繰り返して互いに切磋琢磨していた。

 彼も何だかんだであの時の敗北は悔しいのか、かなり実戦を意識した鍛錬で奏と時々は響も交えて激しい鍛錬を行っていた。

 フレイムスタイルでのオーソドックスな戦闘訓練は勿論の事――――――

「ほれほれ攻撃当ててみなっ!」
「だぁぁっ!? 当たっても意味ないだろうがッ!?」

 ある時はウォータースタイルでリキッドの魔法を使い、液状化した体で奏を翻弄した。ただでさえ液状化して攻撃が通用しない上に、液状化しているが故の不規則極まりない動きは奏を大いに困惑させる。

 また時には――――

「ぶーんぶぅーーん! おらおら、ちんたら走ってると当てちまうぞ?」
「クッソ!? 空飛べるからって調子乗りやがって、チクショウッ!?」

 ハリケーンスタイルとなり空中を自在に動き回るウィザードに追い掛け回され、ロクな反撃も許されず終始逃げに徹せざるをえなかったりもした。

 そして更には――――

「響、行くぞッ!」
「はい! うおぉぉりゃぁぁぁぁぁっ!!」

 奏と響、2人揃って突撃する先に居るのは、これまでに見せた事の無い新たなウィザードの姿。アーマーと仮面の色が黄色いウィザードは、突撃してきた2人の攻撃を一人一本の腕だけで受け止めてみせた。

「何ぃっ!?」
「嘘っ!?」
「へっへっへっ、力には自信のあるスタイルなんで、ねっと!!」
「わぁぁぁぁっ!?」
「ひゃぁぁぁぁっ!?」

 ウィザード4つ目の姿、ランドスタイルによる力技で2人同時に圧倒される奏と響。

 この様に1人で様々な戦いが出来るウィザードを相手とした鍛錬は奏は勿論、弦十郎との修行の合間を縫って時折鍛錬に参加した響にも良い刺激となっていた。

 そうなると今度はウィザード自身にも何か刺激が欲しくなると言うもの。そこでこの男が動いた。

「よしっ! じゃあ今度は俺も参加しようッ!!」

 ウィザードと奏達の鍛錬に刺激されたからか、それとも響との修行で燻ぶっていた何かが燃え上がったからか、ウィザードと奏の鍛錬に弦十郎が参加したのである。

 最初、シンフォギアを纏った奏とそれに匹敵する力を持ったウィザードにただの人間である弦十郎が生身で相手をするなど何の冗談かと颯人は不安を覚えた。一体どれだけ力加減をすればいいのか、と。

 だがそれは非常に甘い考えだった。弦十郎を交えた鍛錬を終えた時、そこにはシミュレーションルームの床で大の字に寝ている奏と心ここに非ずと言った様子で虚空を見つめながら座り込む颯人の姿があった。

「おいおい…………嘘だろ? あのおっちゃん何で魔法の鎖引き千切れんだよ? 生身の人間だったらピクリとも動かせない筈だぞ?」
「旦那に理屈を求めちゃダメだよ颯人」

 一方翼に関してだが、こちらは思いの外傷が深く、命に別状は無いが一カ月の入院を余儀なくされていた。
 あれほどの一撃を喰らい、それでも一カ月の入院で済んだのだから運が良かった方だろう。まだ意識は無いままだが、医者の話ではそう遠くない内に目覚めるだろうとの事だ。

「しっかし、今更になってだけどあの時の一撃って何だったんだろ? 了子さんが言うには絶唱に匹敵する威力とフォニックゲインだったらしいけど?」
「あれはほら、透だったか? そんな風に呼ばれてた奴が演奏で向こうの装者にバフ掛けしてたんだよ」

 この日、定期的なミーティングの為に二課本部の司令室で待機していた颯人と奏、響は弦十郎が来るまでの暇な時間に先日の戦闘に関する考察を行っていた。
 奏が知る限り、あれほどの威力は普通ではない。それこそ、絶唱でも使わない限りは不可能だった。

 その疑問に対する答えを颯人は知っていた。あの時クリスが矢鱈と高威力の攻撃が出来た事には、ある意味当然と言うべきか行動を共にしていた魔法使い=透の存在に秘密があった。

「演奏って、あの剣をヴァイオリンの代わりにしてた奴か?」
「そう。あのヴァイオリンで演奏するとどうも味方にバフを、敵にはデバフを掛ける事が出来るみたいだな。それがあのクリスって子の適合係数を上げて負担を限りなく下げ、代わりにこっちの奏達のギアの適合係数を下げて戦えなくしてたんだろ」
「あれ? でも奏さんは普通に動けてませんでした?」
「そりゃ奏の負担は全部俺が受け持ってるからな。絶唱を歌ったとしても奏には何の影響も無いぜ!」

 考察の中、響がふと口にした疑問に颯人は自慢げに答える。

 だがそれに黙っていない者が居た。そう、奏だ。

 奏にとって、自身に掛かる負担が全て颯人に向かうと言う颯人に掛けられた魔法は呪いにも等しい。
 単に全力が出せないだけではない、今回の様に何かの拍子にギアのバックファイアを受ける際、意図せずに颯人に要らぬ負担を掛ける事になるのだ。それも命を削るほどの負担を…………。

 自分の所為で颯人が命を削る、そんな事を奏が許せる筈がなかった。

「威張って言うな馬鹿ッ!? いい加減この魔法解けッ!?」
「そんで奏が無茶して死んだりするのを黙ってみてろってか? 出来る訳ないだろそんな事」
「颯人の事が心配だって言ってんだよッ!?」
「それはこっちも同じ事。本当だったら戦いから遠退いてほしいくらいなんだが、奏の事情を考えれば俺にそこまでのことは出来ねえよ。となると、俺に出来る事なんてお前が無理しないようにしつつ一緒に戦うくらいだろ」
「~~~~~~!? ああ言えばこう言う――――!?」
「お互い様だろ?」

 突如始まった2人の口論。

 距離があるオペレーター達は、痴話喧嘩は放っておけと言わんばかりに無視を決め込み、対照的に響は何とか2人を止められないかとオロオロしだす。

 そこへ、弦十郎がやって来た。彼は司令室に入るなり、口論している颯人と奏を見て溜め息を吐く。

「やれやれ、今日も相変わらず元気だなお前らは」
「「颯人(奏)が強情なだけだよ…………あん?」」
「あ、あはは…………あっ! そう言えば師匠、了子さんは?」

 何だかんだ言いつつ息ピッタリな2人に、響は苦笑すると次いでこの場に居るべきもう1人が居ない事に疑問の声を上げた。

 その言葉で颯人と奏も了子がまだ来ていないことに気付き、口論を止め室内を見渡す。
 人の事を言えた義理ではないが、彼女が居ないと妙に静かだ。

「そう言えば確かに、何時もだったらここら辺で茶化してくるのにな?」
「旦那、了子さんは研究室かい?」
「いいや、永田町さ」

 弦十郎の答えに3人は首を傾げた。
 それを予想していたからか、弦十郎は特に気にした様子もなく了子が永田町に居る理由を話す。

「政府のお偉いさんに呼び出されてな。本部の安全性及び、防衛システムについて説明義務を果たしに行っている」
「あ~、そんなのがあるんだ?」
「え~っと、誰だっけ? あ、そうだ、広木防衛大臣」

 奏が口にしたのは、二課の理解者とも呼べる人物だ。
 二課やシンフォギアの存在を公にし明確な武力として機能するように政府に働きかけているらしい。それでいて二課に対しては厳しい姿勢を崩さないようだが、それは敢えて特別扱いしない事で周囲からの反感を減らそうと言う思いからの事である。

…………と言うのが弦十郎の言だ。まぁ早い話が、二課に対して公平な立場を取る政府の偉い人である。

 恐らくそれは並大抵の苦労ではないだろう。秘匿情報が多いお陰で他の官僚からの評判は悪く、しかもそれでいて外交カードに利用しようと考える輩まで居ると言うのだからやりきれない。
 にもかかわらず、二課にある程度の自由を許しつつその存在を守ってくれる。何とも頼もしい人物である。

「な~んか、ややこしい話ですね」

 と、ここまでの話を聞いて響がそうぼやいた。
 その発言には颯人は勿論奏も同意見だった。こっちは日々の戦いで必死に命賭けて戦っていると言うのに、現場から遠く離れた所にいる連中はこっちの苦労などお構いなしに勝手な事を考えては振り回してくるのだから堪ったものではない。

「アタシもこの世界入ってから何度も思ったよ。ねぇ旦那? もういっその事ふんぞり返ってるモグラ連中全員ここ引っ張り出して現場の空気感じてもらった方が早いんじゃないの?」

 もう色々と考えるのが面倒くさくなったのか、奏がそんなちょっと物騒な事を口にする。その気持ちが分からなくもない颯人は思わず苦笑を浮かべると、徐に彼女の背中を軽く叩いた。

「と、何するんだよ颯人?」
「ちょっとかっかし過ぎだって、落ち着けよ」
「颯人君の言う通りだぞ奏。世の中そんなに簡単じゃない事くらい、お前だって分かっているだろ?」

 颯人と弦十郎の2人に言われ、奏は両手を軽く上げソファーの背もたれに体重を預けた。その様子はどう見ても降参である。流石の奏も、今のは暴論だったと自覚したようだ。

「へいへい、アタシが悪うございました。ところで流石に了子さん遅くない?」
「ふむ、確かに。何か妙だな?」



***



「このハンカチ、よ~く見てな。ほい、ほい…………ほい!」
「おぉっ! ハンカチが鳩になった!!」
「そんでこいつを、こう! ほい、これ奏にやるよ」
「いや鳩サブレってお前、多分違うんだろうけど食い辛いよ!?」


 場所は戻って二課本部。

 連絡も無く一向に来る気配を見せない了子を待っていた颯人達は、気付けば奏と響を観客とした颯人によるマジックショーの様相を呈していた。

 一方弦十郎他二課の職員達は、時間を無駄にすまいと空いた時間を使って各々やるべき仕事を片付けていく。

 そんな時、朔也の通信機に通常のものとは異なる通信が入る。非常事態を可及的速やかに伝える為の通信だ。

「ッ!? 司令、緊急通信です!!」
「どうしたッ!?」
「ひ、広木防衛大臣が――――」

 弦十郎が朔也から報告を受けるのを、2人の会話を聞いて何事か起こったことを察した颯人は奏に鳩サブレを差し出した体勢のまま見ていた。
 その佇まいは先程まで無邪気に手品をしていた時とはガラリと変わっており、それを見ていた奏と響も否応なしに表情を強張らせた。

「…………どうやら、長めのブレイクタイムは終わりらしいな」

 そう言いながら鳩サブレを自分の口に放り込む颯人。すかさず奏は彼の傍に置いてあった水の入ったペットボトルを回収し、サブレを食べて水分が減った口を潤そうとしていた颯人から恨みがましい視線を受けしてやったりな笑みを浮かべる。
 一方の響は、ちょっとサブレが食べたかったのか少し残念そうな顔をしていた。

 一頻り颯人の口惜しげな顔を堪能した後、奏は彼にペットボトルを渡しながら弦十郎に何があったかを問い掛けた。十中八九厄介事か厄ネタだろうが、知らない事には始まらない。
 奏の問い掛けに、弦十郎は若干思慮する様子を見せた後口を開いた。

「広木防衛大臣が何者かの襲撃を受け、殺害されたらしい」

 弦十郎の口から語られた内容は、思っていた通り厄介事の匂いを盛大に漂わせていた。その匂いに充てられた響は絶句して弦十郎を見つめ、奏は表情を険しくさせる。
 そして颯人はと言うと、先程の朔也の通信に対する応対からある程度予想していたのか、弦十郎の口から出た言葉に驚いたり警戒したりするようなことはせず、ただ小さく溜め息を溢すだけであった。 
 

 
後書き
と言う訳で第26話でした。

志村けんさんの訃報など、新型コロナ絡みで暗い知らせばかりですが、コロナに負けずに皆さん頑張っていきましょう。

執筆の糧となりますので、感想その他展開や描写への指摘などお待ちしています。

次回の更新もお楽しみに。それでは。 
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