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小豆洗い

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第三章

「私も是非、ただ」
「ただ?」
「ウェンティゴみたいな妖怪は勘弁して下さい」 
 久理子に笑って言うのだった。
「そうした妖怪は」
「ウエンティゴっていうと」
「我が国のネイティブに伝わる妖怪で冬の山とかに出まして」
 その妖怪の名前を聞いて怪訝な顔になる星夏に話した。
「人を凍死させます」
「雪女みたいですね」
 星夏はミシェルのその話を聞いてこう言った。
「それだと」
「日本の妖怪ですね」
「冬に寒い場所に出て来て」
「人を凍死させますか」
「他にも色々なお話がありますが」
 その雪女にはというのだ。
「そうしたお話もあるんですよ」
「そうですか」
「はい、まあとにかく食べて飲んだ後は」
「ええ、ここから木津川まですぐだし」
 久理子がまた言った。
「それでね」
「そこまで行ってですね」
「そうしてね」
「その妖怪に会うんですね」
「そうしましょう」
 こう話してだった、久理子はお好み焼きの後で星夏を連れてミシェルを案内した。そして木津川の方に行くと。
 夜の川、街の灯りが傍に見えるそこから何か声が聞こえてきた、その声はというと。
「小豆とごうかそれとも人取って食おうか」
「?この言葉は」
「小豆とごうかって言ってるわね」
「それで人取ってとか」
「これが小豆洗いよ」
 久理子はミシェルに話した。
「日本の妖怪の一つなの」
「そうですか」
「そう、そしてね」
「そして?」
「姿は見えないの」
「そういえば」
 ミシェルは川の方を見回した、夜であるが目が慣れてきているし灯りもある。だから暗いなりに見えるが。
 それでも川の方には何も見えない、それで久理子に話した。
「何も」
「姿は見えないし声も聞こえるけれど」
「人取って食おうかとか」
「そう言ってるけれど」
 それでもというのだ。
「別にね」
「何もしてこないですか」
「ええ、だからね」 
 それでというのだ。
「害はないし怖くないから」
「言ってるだけで」
「だからね」
 それでというのだ。
「このまま聞けばいいから」
「そうですか」
「ええ、気にしないでいいわよ」
「そうなんですね」
「こうした妖怪よ」
 こうミシェルに話した。
「小豆洗いっていうけれど」
「小豆をとごうかって言うのね」
「その名前なの」
「わかりました」
 ミシェルはここまで聞いて久理子の言葉に頷いた。
「それじゃあ」
「そういうことでね」
「あの、姿は見えないですが」
 それでもとだ、星夏はここで言った。見ればその手には彼女のスマートフォンがありその画像を暗い中で観ている。
「今調べたら」
「どうしたの?」
「小豆洗いの昔の絵があるんですが」 
 画像には川のところで屈んで両手で小豆を洗っている禿げて痩せた昔の日本の農民の服を着ている老人の絵がある。その絵を見て久理子に言うのだ。 
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