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遊戯王BV~摩天楼の四方山話~

作者:久本誠一
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ターン23 かくて語り部は神を称える

 
前書き
丸1カ月以上空いたのはさすがに初めてですね。
本当にお待たせしました。

前回のあらすじ:家紋町の地下を走る上下水道、そこを仕事場とする清掃ロボ。無数の同型機の中に1台密かに混ざっている巴の手によるカスタム品と、そこから手に入る町全体の出入りをリアルタイムで把握していた情報ネットワークを求め、鼓千輪は単身地下へと潜る。そこで彼女が相対したものは、神の名を持つモンスター群であった……!(倒しました) 

 
「さあさそこ行くおにーさんおねーさん、じーちゃんばーちゃんにお子様方も。寄ってらっしゃい見てらっしゃい……デュエルフェスティバル、開幕です!」

 どこまでも飛んでいけそうなほどに青い秋晴れの空に、清明の声が朗々と響く。演芸場めいた高台とそこに作られた簡易的なデュエルスペースと、全体的に野外ライブ会場めいたステージの舞台袖から糸巻は、本来この呼び込みは鳥居の役目だったんだがなと複雑な思いでそれを見つめていた。

「さあ皆様方、よくぞおいでくださいました!本日はお日柄もよく、デュエリストたちも皆とても気合が入っていることでしょう。この特別ステージをその目で見ることのできるあなた方はとても運がいい、私はそう思いますよ?」

 あまり捻りがあるわけではないが、それゆえにかえって当人の興奮と熱気が伝わってくる。本来ならばこの手の口上がいくらでも湧いてくる鳥居はまさに適任だったのだが、最後の電話以降彼とはいまだに連絡が取れないままだ。
 どうすっかと頭を抱えていたところに「鳥居が逃げた」と微妙にずれた話を聞きつけた清明が「んじゃ僕にやらせてー」と例によっての軽い調子で売り込みに来て、やりたいやりたいとあまりにうるさいのでよしじゃあお前何かあったら責任取れよと押し付けたのがつい昨日。完全にぶっつけ本番にしては全く恥じらいのない、クオリティに目をつむれば妙に堂に入った司会っぷりである。一応本人は当初から叩き売りなら得意だから任せて、と変な自信に満ち溢れていたのだが。
 そんな絶好調の彼がふと集まってきた観客の中からある人影を見つけ、意外そうな顔になりながらも手招きした。釣られて糸巻もそちらに目をやるが、そこにいたのは彼女にとっては見知らぬ、いかにも気弱そうな眼鏡の少女。

「竹丸さん、こんにちわ。来てくれたの?お兄さん嬉しいよー」
「はい!あの、先日は本当に、本当にありがとうございました!」

 糸巻も八卦の学校で起きた事件の話はある程度本人の口から聞いてはいたが、彼女は彼女でこの祭りを目的としたテロへの対策やロベルトたちのやられた事件の後処理などで忙殺されていたためあまり突っ込んだ情報までは聞いていない。犯人への尋問まで行った唯一の男である鳥居が理由は不明だがせっかく捕まえた男2人を解放してしまったため、知りたくともそれ以上どうしようもなかったということも大きい。

「それでその、私、デュエルモンスターズのルールってそんなに詳しくないんですけど……」
「ああ、大丈夫。今日はお祭り、あの時みたいなことにはならないからさ。もちろんこのゲーム自体が合う合わないはあるけど……見ててなんとなくでも面白そうだなーなんて思ってくれれば、僕も嬉しいかな」
「あ、いえ、だからその、一緒に……いえ、なんでもないです……」

 悪気ゼロの爽やか営業スマイルを前に文学少女が精一杯の勇気を振り絞っての誘いの言葉はあっさりと空振りし、すごすごと客席へと引き下がっていく。一方で開いた口が塞がらなかったのは、別に聞き耳を立てていたつもりはないがすべて聞こえていた糸巻である。

「……アイツ、どこであんな子引っかけてきたんだ?」

 この段階ですでに糸巻及び鼓のデュエルポリス組、そして八卦と清明の一般人組の間には今回のイベントについて致命的な認識のズレが生じていた。そもそも彼女は、この時点で何かおかしいと気が付くべきだったのだ。普段から彼女の後をお姉様お姉様とキラキラした目でついて回り、今回のイベントも楽しみにしていた少女の姿がまだ見えていないことに。
 実は糸巻たち、いまだこの2人にはデュエルフェスティバルの裏で蠢いているテロ計画のことを伝えていない。当然一本松をはじめとする、デュエリスト襲撃事件の存在も伏せたままだ。身元を明かすものはすべて焼け落ちていたため、ニュースから彼らの名前が漏れることはない。
 危ないから?プロの仕事だから?無論、それもあるだろう。しかし彼女らの心の奥底、当の本人すら気づいているか怪しいものであるその本音は、ひとえに失うことへの恐怖だった。彼女たち旧世代のプロデュエリストにとって八卦九々乃は10年以上の長きにわたり待ち望み、ようやく生まれた次世代デュエリスト希望の星だ。これ以上、デュエルモンスターズの歴史の闇に触れて欲しくない。自分たちが当たり前のように育んできた、デュエルは楽しいものであるという認識を少女の中でも少しでも強固なものにしたい。だからこそ、このデュエルフェスティバルは純粋な祭りとして受け止めてもらう必要があった。そこまではっきりとした考えがあったわけではないが、なぜ情報を秘匿していたのかを注意深く紐解いていけばその結論はそこに帰結する。
 その無意識下での判断が余計に問題をこじれさせたことを彼女らが思い知るのは、もう少し後のことである。

「さ、そんなこんなでいよいよデュエルフェスティバル、開幕の時間となりましたね。本日はお日柄もよく、お集まりいただいた皆さんには感謝しかありません。まずは開会にあたりこの町の守護神、デュエルポリスは家紋町代表。糸巻太夫さんより、開会のお言葉をいただきます。ほら糸巻さん、何か喋って」

 ちらりと時計を見て急に雰囲気を真面目なものに変えた清明が、さもそれっぽいセリフと共に開会の言葉を丸投げした。無駄に手際のいい動きに押し切られて突き付けられたマイクを受け取ってしまい、やむを得ず咳払いする。視界の端に捉えたしてやったりとばかりの得意げなウインクに拳を無言で握りしめながら、それでもなんとか淀みなく声を張る。

「えー……かつてあの忌まわしい事件により、デュエルモンスターズは一度は忌み嫌われる存在へと堕ちました。そしてそれは、残念ながら今現在においてもあまり改善されているとは言えない状況が続いています。無論、我々デュエルポリスが不甲斐ないせいだと言ってしまえばそれまでの話でしょう」

 普段の彼女からは想像もつかないほど真面目かつ殊勝な話っぷりに、隣のマイクを突き出してきた張本人が目を丸くしているのが気配から伝わってきた。鼓あたりにこれを言うと鼻で笑われるのだが、彼女とて一応はいっぱしの社会人なのだが。あのアクティブニートのプー太郎はアタシのことを何だと思っていたのかという疑問は一度脇に追いやり、彼女の話に耳を傾ける老若男女の顔をぐるりと見渡す。
 決して人数が多いわけではない……少なくとも、かつて彼女のデュエルを見ようとする人々でひしめき合ったプロの舞台と比べれば。それでもこの仕事に就いて以降は久しく感じていなかった現役時代、ファンの期待を背負って戦う心地いい感覚に似たものを感じ、少し気分がよくなった。

「ですが、私は信じています。それでもデュエルモンスターズの本質は、皆が楽しめるものであると。そしてそのことを忘れない限り、必ずかつてのように世界中の人間が同じカードの元に繋がることができると。本日のデュエルフェスティバルは、その決意の一歩です。そんな小さな一歩から後に続く二歩、三歩へと踏み出せることを願って、ここに開会の言葉と代えさせていただきます……おう、こんなもんでどうだ」

 一礼、そして客席から巻き起こる拍手。柄にもない話をした反動で無性にニコチンが摂取したくなったが、さすがにこの観衆の前でおもむろに一服するほど彼女は馬鹿ではない。ここにいるのは普段彼女が相手しているどう思われようが知ったこっちゃない「BV」犯罪者ではなく堅気の人間、このデュエルフェスティバル自体がイメージアップのための仕事なのだから。喫煙者に対する昨今の風当たりの強さは、ヘビースモーカーの彼女自身が一番身に染みて知っている。

「はーい、ありがとうございました。では堅苦しい挨拶はこれまでとしまして、本日のメインイベント。いよいよ皆様お待ちかね、デュエル大会を開催いたします。まず記念すべき第一試合を飾りますのは……エントリーナンバー6番!眠りし遺物、星守る神の探究者。『考古学者』の寿(ことぶき)神助(しんすけ)さん、どうぞーっ!」

 その名を呼ばれた老爺が立ち上がると、拍手の中をおもむろに壇上へと昇り一礼する。年齢の重みを感じさせる深い皺の刻まれた顔の中にあっていかにも度の強そうな分厚いレンズの眼鏡越しに人の良さが透けて見えるような柔和な目が覗く、一見するといかにも好々爺といった風情の小柄で痩せた老人……しかしそんな寿の過去の姿を知る糸巻はもちろん、清明も一目見ただけでそれはこの老人の見掛けに過ぎないことを悟った。確かに衰えてはいるものの無駄のない付き方をした筋肉、きびきびとした動作。それはとりもなおさず、その老人の実力を物語る。元プロの名は、決して伊達ではないのだ。
 ある程度拍手が収まったタイミングを見計らい、改めて清明がマイクに口を近づける。すでに事前のくじ引きにより、対戦カードは決まっている。

「そんな寿氏の対戦相手は……皆さんご存じデュエルポリス、家紋町の守護神にして死霊の女番長。『赤髪の夜叉』、糸巻太夫さんです!」

 巻き起こった拍手は、先ほどよりも気持ち大きいか。そこのあたりはやはりホームの強み、ということなのだろう。今しがた降りてきたばかりの壇上に再び登ろうとした糸巻だったが、その直前にふと気になって清明の方を向いた。

「しかしアタシはともかくとして、よく寿の爺さんのことなんて知ってたな」
「あー、今の?七宝寺さんのとこで予習しといたのよ」

 なるほどな、と納得する。あの爺さんなら、焼き討ちを逃れた当時の雑誌やなんかを保管していてもおかしくはない。今の口上も、あらかじめそのデュエリスト特集あたりで得た知識を繋ぎ合わせたものだろう。

「まずかった?さすがに映像までは残ってなかったから、今一つ不安なのよね」
「いや、その調子で頼む」

 やや不安げな背中をバンと叩いて安心させると、改めてステージの上に立ち老人と向かい合う。

「久しぶりですね、こうして舞台に立たせていただくのは」
「ああ、爺さんは引退組だっけか。悪いな、わざわざ呼び出しちまって」

 お互いに10年以上の年月を経ての久々の再会ではあるが、その言葉に遠慮はない。そしてこのデュエルを通じ、もしかつての同僚であったこの老人こそが爆破テロの片棒を担いでいたことが判明したとしても……彼女の対応に、迷いは生じない。軽い口調の裏に隠れた抜き身の刃のような彼女の本気を感じ取ったのか、老人の眉がピクリと動く。

「……本気でいくぜ、爺さん。終わってから鈍ってたなんて言い訳は聞きたくないからな?」
「おや。私とて腐ってもプロデュエリストと呼ばれた身、余計な気遣いは不要ですよ」

 その言葉は単に彼女の気合を察知しての戦士としてのものなのか、はたまた自分がテロリストであることを暗に認めたうえで彼女を挑発しているのか。判別はつかなかったし、すぐにそれ以上考えるのを止めた。無理に言葉の裏まで読み取ろうとするよりも、カードに聞く方がよほど手っ取り早い。それに、その方がずっとアタシ好みだ。

「「デュエル!」」

 糸巻は嘘は嫌いだ。本気と宣言した以上は本気を出すし、大体デッキもそれに合わせてくれる。

「先攻はアタシだ、牛頭鬼を召喚。そしてフィールド魔法……生あるものなど絶え果てて、死体が死体を喰らう土地。アタシの領土に案内しよう、アンデットワールド、発動!」

 牛頭鬼 攻1700

 荒ぶる獣の雄たけびと共に牛の頭を持つ筋骨隆々の妖怪が木槌片手に仁王立ちすると、周りの風景が彼女の領土へと侵食されていく。分厚い雲があたりを包み、地面からはコンクリートを押しのけてねじれ曲がった枯れ木が頭をもたげ、いたるところでは瘴気に誘われた霊魂が半透明の姿を見せ、骨ネズミがキーキーと不快な鳴き声と共に駆けていく。

「あーっと!糸巻選手、いきなり自らの得意とするフィールドに舞台を移しました!アンデットワールドは、戦士や魔法使い、ドラゴンお様々な顔を見せるモンスターの種族を、常に強制的にアンデット族へと書き換えるカード。これでいきなり主導権を握ろうというのでしょうか!あ、急遽やることになった実況は引き続き私、遊野清明でお送りします。いえいっ!」

 あまり場の雰囲気に似つかわしくない明るい声が、死霊ひしめく荒野に響く。しかし、それがかえって功を奏していたことは糸巻も否定できなかった。アンデットワールドの情景に明らかな怯えを見せていた観客の恐怖が、底抜けに明るい自称実況者によって多少緩和されたからだ。

「あー、そうか。そらそうだよな、ソリッドビジョン自体見慣れてないもんな。いきなりアンワは刺激が強すぎたな」
「ジェネレーションギャップですね。私たちが現役のころは、まだようやく2本の足で立てるようになった子供ですら今ので喜んでくれたものですが」
「軟弱になったのか、それとも健全になったのか……ってか?ま、アタシらの仕事は時代に逆行した化石みたいなもんさ、どっちにせよいつも通りにしかできない哀れな生き物だよ。爺さんだってその口だろう?続けるぜ、このまま牛頭鬼の効果を発動。1ターンに1度デッキからアンデット族1体、グローアップ・ブルームを墓地へ。そしてこのカードは墓地に送られたその瞬間、自身を除外することで場に死霊の仇花を咲かせる。デッキからレベル5以上のアンデットを1体サーチするが、この時アンデットワールドがあるならばそいつをそのまま特殊召喚もできる。死霊を統べる夜の王、死霊王 ドーハスーラ!」

 死霊王 ドーハスーラ 攻2800

「牛頭鬼はともかく、1ターン目からアンデットワールド下でのドーハスーラとは。本当に、手加減というものがありませんね」
「その割には随分余裕そうだな、爺さん。選択ミスったか……?カード1枚セットして、ターンエンドだ」
「はい、今の解説しましょうねー。糸巻選手の発動したアンデットワールドは、先ほど説明した通りモンスターをアンデット族に書き換えます。そしてあのドーハスーラは、アンデット族の効果の発動をトリガーとして強力な効果を発動できるまさに死霊を統べる王様と言うべきモンスター。高い攻撃力と相まって強固なこの布陣を前に『考古学者』、いったいどのような戦術を魅せてくれるのでしょうか!」
「やれやれ、なんだかハードルを随分と上げられた気もしますが。元とはいえどプロデュエリストとしては、ここはやはり乗り越えてみるとしましょうか。カードを1枚伏せて魔法カード、パラレル・ツイスターを発動。私のフィールドの魔法、罠カード1枚をコストに、フィールドのカード1枚を破壊。観客の皆様には少々刺激の強すぎるアンデットワールドには、ここで退場願いましょう」

 悔しそうな表情になる糸巻だが、何も言わずに破壊を通す。セットカードをコストにして荒れ狂うパラレル・ツイスターが、死霊の荒野を分厚い暗雲ごと吹き飛ばした。

「あーっと!ドーハスーラの反応できない魔法カードによる除去で、アンデットワールドが消え去りました!これで種族の書き換えがなくなったことで、相対的にドーハスーラは弱体化します」
「そして魔法カード、調律を発動。デッキトップのカードを墓地に送り、デッキからシンクロンモンスター1体を手札に。そして私が加えたアンノウン・シンクロンは、デュエル中1度だけ相手フィールドにのみモンスターが存在する場合に特殊召喚ができます」

 アンノウン・シンクロン 攻0

 先陣切って寿が呼び出したのは、触覚が付いた機械の目玉のようなモンスター。それ単体ではドーハスーラはおろかすぐ横の牛頭鬼にも及ばない、しかし当然その先がある。

「攻撃力は0……しかし、だからといってそれが弱いということには決して繋がらない。それがデュエルモンスターズというゲームなのです。次に私は、SR(スピードロイド)ブロックンロールを召喚」

 SRブロックンロール 攻1000

 次いでその隣に、ギターをモチーフとしたらしき機械のモンスター。

「チューナーモンスター、そして他のモンスター。これは、まさか!」

 もはや実況だか前振りだかわからない清明の声を背後に、寿が手を掲げる。合計レベルは、5。

「レベル4のブロックンロールに、レベル1のアンノウン・シンクロンをチューニング。星降る空に祈りを託し、集いし加護は天翔ける翼へと昇華する。シンクロ召喚、レベル5。星杯の神子(みこ)イヴ!」

 半透明の青い翼を持つ少女が天から舞い降りると同時に、シンクロ素材となったはずのブロックンロールが奏でる者もいないのにひとりでに音色をかき鳴らす。

「この瞬間にシンクロ召喚に成功したイヴ、及び素材となったブロックンロールの効果を発動。そのシンクロモンスターと等しいレベルを持つSRトークンを特殊召喚し、デッキから星遺物カード……星遺物の守護竜を手札に加えます」

 星杯の神子イヴ 攻1800
 SRトークン 攻0

「永続魔法、星遺物の守護竜を発動。このカードの発動時、私の墓地に存在する4以下のドラゴン族1体を宇田に加えるか特殊召喚することが可能となります。聖刻龍-ドラゴンヌートを選んで蘇生、そのまま星遺物の守護竜のもうひとつの効果を使います。このドラゴンヌートを対象に取り、その位置を別のメインモンスターゾーンに移動」

 聖刻龍-ドラゴンヌート 攻1700

「ドラゴンヌート……おそらくは、先ほど発動された調律によって墓地に送られたカードでしょう。無駄のない蘇生コンボにより、さらにモンスターを増やしにかかる寿氏。これが元プロデュエリスト、『考古学者』の実力なのでしょうか!?」

 清明の言葉通り、ドラゴンヌートは調律発動時にデッキトップから墓地に送られたものだ。そしてドラゴンヌートが横に1マスずれたことで複雑なルートによるコンボは、ついに大詰めを迎えていた。

「そしてこの瞬間、カード効果の対象となったドラゴンヌートの効果を発動。私のデッキか墓地に存在する通常モンスターのドラゴン族を、その攻守を0にして特殊召喚します。ラブラドライドラゴン、特殊召喚」

 ラブラドライドラゴン 攻0 守2400→0

「ひぃ、ふぅ、みぃ……1ターンで全部揃えやがったか……でもちょっと安心したぜ爺さん、耄碌したアンタなんてアタシも見たくなかったからな」
「ふふ、その減らず口は相変わらずなようで私も安心しましたよ。私は闇属性ドラゴン族のラブラドライドラゴン、風属性機械族のSRトークン、水属性魔法使い族の星杯の神子イヴの3体をそれぞれ左、右、下のリンクマーカーにセット。星降る夜に目覚めしは、眠りし神の終劇もたらす破壊の力。リンク召喚、顕現せよ!星神器デミウルギア!」

 3体のモンスターが宙に吸い込まれ、馬鹿馬鹿しいほどに巨大な影が差す。空を覆うほどに巨大な、まるで太陽のような光球と、その周りで弧を描く1対の螺旋と格子模様の付いた外殻。星遺物の集大成にして寿のエースカードが、ドーハスーラの巨体ですらまるで昆虫か何かに見えるような意思なき威圧感をもってその場に浮遊する。

 星神器デミウルギア 攻3500

「なんと後攻1ターン目にして、あれほどの大型モンスターを出してみせた!フィールドの主導権を1瞬にして覆された糸巻選手、これはもう絶体絶命か!?」
「ハッ、馬鹿言ってんじゃねえよ」

 強気な言葉とは裏腹に、その表情は険しい。デミウルギアの効果は、彼女自身もよく知っている。まして、あの素材は非常にまずい。

「星杯の神子イヴ、その最後の効果を発動。フィールドから墓地に送られたことで、デッキから星杯1体を特殊召喚します。神話を看取った星々の器……星遺物-『星杯(せいはい)』!」

 星遺物-『星杯』 攻0

「では、デミウルギアの効果を発動。種族と属性の異なるモンスター3体を素材としてリンク召喚された時、このカードは1ターンに1度自身以外すべてのフィールドに存在するカードを破壊できる。フェイス・デミウルゴス!」
「黙ってやられてたまるかよ。速攻魔法発動、逢華妖麗譚(おうかようれいたん)-不知火語!相手フィールドにモンスターが存在するときに手札のアンデット1体を捨てることで、カード名が異なる不知火1体をデッキか墓地から特殊召喚できる!来い、妖刀-不知火!」
「ならばその妖刀ごと、焼き尽くすまでのこと」

 妖刀-不知火 攻800

 そして無機質な太陽から、無数の滅びの光が放たれる。雨のように降り注ぐ破壊のエネルギーは文字通り無差別に降り注ぎ、その前には妖刀はもちろん死霊の王も、そして味方であるはずのドラゴンヌートや星杯も区別はない。後に残ったのは、地表を見下ろす神の器のみ。

「まだだ、牛頭鬼の効果を発動!墓地に送られた場合、別のアンデットを墓地から除外して手札のアンデットを特殊召喚する!ドーハスーラを切って……」
「逃しませんよ。速攻魔法、墓穴の指名者を発動。このカードの効果によりそちらの墓地から牛頭鬼を除外、そして除外したカードの効果はこのターン無効となります」
「ちっ!」
「すぐさま防御を仕掛ける糸巻選手、その逃げ道を塞ぐ寿選手!強烈な効果を持つドーハスーラを除外してしまったことが、この先どう響くのでしょうか!」

 反撃の手は断たれ、今度こそ糸巻に打つ手はなくなった。そして彼女の頭上で、沈黙を保つ神の器が再び起動する。

「道は開きました。デミウルギアで攻撃、ザ・クリエイション・プロローグ!」
「くっ……!」

 デミウルギアの中央の光球がひときわ強く光を放ち、一時的に視界が奪われる。ようやく光が収まってきたときには、すでに糸巻のライフは風前の灯火にまで追い込まれていた。

 星神器デミウルギア 攻3500→糸巻(直接攻撃)
 糸巻 LP4000→500

「3500のダイレクトアタックが通ったーっ!しかも糸巻選手の場は完全にがら空き……あーいや、しかしご覧ください皆様。まだ彼女の心は、その闘志は折れておりません!」
「折れてない?少し認識がずれているな」

 地下。マンホールの隙間から漏れるかすかな外の明かりとわずかな喧噪に包まれながら、上水道で清掃ロボにもたれかかる鼓が小さく呟いた。同型機からリアルタイムで送られてくる町中のデータを処理しつつ、その声が反響する。一度作業の手を止め、昔を懐かしむようにふと見上げる。

「むしろ追い詰められるほど、手負いの傷が深くなるごとにより激しく強く燃え上がる。そういう女だ、奴は」

 誰も聞く者はおらず、当然目の前の清掃ロボから返事が返ってくるわけもない。すぐに肩をすくめ、再びデータの奔流との格闘を再開する。そして地上では、首の皮1枚で持ちこたえた糸巻に再びターンが移っていた。

「やるじゃねえか、寿の爺さん。でも悪いが現役デュエルポリスとしちゃあ、隠居した爺さんに負けるわけにはいかないんでな。アタシのターン、ドロー!」

 先ほどのターンで、すでに仕込みは済んでいる。そして現在の不確定要素は、実は老人に残された手札1枚のみ。実は見かけほど、彼女は追い込まれたわけではない。確かに厄介ではあるが決して突破できないほどではない、それでいて一見すると絶望感溢れる布陣。
 そしてそれは、先ほど彼女の牛頭鬼を防いだ墓穴の指名者にしてもそうだ。墓地に妖刀-不知火が送られたのはお互いに見ているのだから、あのターンに戦闘ダメージを与えるのは諦めてでもそちらを狙い打っておけばライフこそ残るものの結果的に今よりも状況は悪くなっていた。しかし、寿はそれをしなかった。

「いいでしょう、かかって来てください」

 彼女らの現役時代からこの暗黙の流れをイカサマ、馴れ合いと批判する動きもあった。しかし彼女たちは断じて手を抜いているわけではなく、結局のところ観客だって完膚なきまでの封殺や、相手に何もさせない一方的な勝利の押し付けが見たくて金を払っているわけではないのだ。相手の反撃の余地を残しつつ、かといって馴れ合いでは終わらせず締める所は逃さず締め、己の白星は自力で獲りに行く。このあたりの絶妙なバランスは、観客の前で大立ち回りを長年魅せてきたベテランならではの技といえるだろう。

「墓地に存在する妖刀-不知火の効果を発動。このカードとアタシの墓地のアンデット族、レベル4の不知火の武士(もののふ)を除外し、その合計と等しいレベルを持つアンデット族シンクロモンスター1体をエクストラから特殊召喚する。戦場(いくさば)切り込む妖の太刀よ、一刀の下に輪廻を刻め!逢魔シンクロ、レベル6!刀神-不知火!」

 刀神-不知火 攻2500

「出ました、糸巻選手の不知火、その最大の強みにして根幹!テーマ単位で行われる墓地リソースのみでのシンクロ召喚によって、手札を一切使わずにシンクロモンスターを呼び出しました!」

 破壊の光を浴びて地に打ち捨てられたはずの妖刀がふわりと浮き上がり、人型の炎がその柄を握ると和装の剣士の姿へと変化した。顕現した剣豪が鋭いまなざしで頭上のデミウルギアへと居合の構えをとると、それに反応したかのようにデミウルギアが明滅する。するとそんな光の信号に誘われでもしたかのように、大地を割って巨大な金属の冠のような物体がせり上がってくる。

「ならば相手がエクストラデッキからモンスターを特殊召喚したことにより、デミウルギアの更なる効果を発動。デッキから星遺物モンスター1体をリクルートします。星々より降りかかる苦難と決意の標、星遺物-『星冠(せいかん)』!」

 星遺物-星冠 守2000

「星冠……エクストラから出たモンスターの効果発動時、リリースするとそれを無効にして破壊できるんだっけか?読み違えたな爺さん、アタシの狙いはモンスター効果でどうこうすることじゃねえ!ユニゾンビを通常召喚、その効果発動だ。刀神を対象にデッキから馬頭鬼を墓地に送って、そのレベルを1上げさせてもらうぜ」

 ユニゾンビ 攻1300
 刀神-不知火 ☆6→☆7

「なんと糸巻選手、またしてもチューナーモンスターを呼び出してそのレベルを操作。これはまさか、連続してのシンクロ召喚を行おうというのでしょうか!?」
「小細工が通用しないなら、正面突破でぶち抜いてやるよ。レベル7のアンデットモンスター、刀神にレベル3のアンデットチューナー、ユニゾンビをチューニング。戦場統べる妖の太刀よ、輪廻断ち切り刃を振るえ!シンクロ召喚、炎神(ほむらがみ)-不知火!」

 ☆7+☆3=☆10
 炎神-不知火 攻3500

 ついに抜き払われた糸巻の切り札の一角にして、不知火流の頂点にして開祖でもある炎の軍馬に騎乗した銀髪に白装束の剣士。しかし頭上のデミウルギアは、沈黙を保ったまま動かない。炎神を外敵と認識していないのではなく、そのシステム上の弱点のせいだ。

「デミウルギアのリクルート効果は、1ターンに1度しか使えない。なるほど、効果の隙をついてきましたか」
「そうさ。そして発動しない効果なら、ご自慢の星冠も反応できない。バトルフェイズ、炎神でデミウルギアに攻撃……」

 その言葉に従うように、炎神が手にした妖刀が純白の炎を纏う。刀身に沿って伸びるそれは一振りの巨大な炎の刃となり、迎撃のためにエネルギーを集中させて不気味な発光を始めたデミウルギアと対峙した。

「……不知火流奥義・蓬莱斬!」
「ザ・クリエイション・プロローグ!」

 炎神-不知火 攻3500→星神器デミウルギア 攻3500(破壊)

 この世ならざる炎の剣閃が、世界を粛正する破壊の光が、フィールドの中央で激突する。互いに譲らない力と力の激突は、拮抗状態のまま行き場を失ったエネルギーだけが高まっていく。

「炎神の効果!アンデット族が破壊されるとき、アタシの墓地の不知火1体を破壊の身代わりに除外できる!」

 半透明な刀神がほんの1瞬だけ炎神の前に両手を広げて立ち、暴走するエネルギーを引き受けて消えていく。対して防御機構を持たないデミウルギアはその核を深々と切り裂かれ、次第にその光がくすんでいく。

「はっ、どうだ……」

 しかし、その言葉を最後まで言い切ることはできなかった。もはや地に堕ちるのを待つばかりかに思われたデミウルギアだったが、突如として逆再生の動画でも見ているかのように受けたはずの致命傷が元に戻っていったのだ。

 星神器デミウルギア 攻3500

「これはどうしたことでしょうか!両者の攻撃力は同じ、しかしその耐性を盾にすることで一方的に炎神が勝利を収めたかに見えたエースモンスター同士の戦い。しかし倒れたはずのデミウルギアが、今再び再起動してフィールドに君臨しています!」
「墓地よりトラップ発動、星遺物の(もたら)す崩界。私のサイバース族リンクモンスターが破壊された際、このカードを除外することでサイバース族リンクモンスターを墓地より蘇生します。私が選ぶカードは当然、破壊されたデミウルギア!」
「最初にパラレル・ツイスターで墓地に放り込んだカード……!」
「残念ながらこのデミウルギアはリンク召喚されたものではないため、フィールド破壊効果は使えません。ですが星遺物を呼び起こす効果、そしてモンスター効果を受け付けない耐性はいまだ健在。まだもう少し、粘らせていただきましょうか」
「……前言撤回だ。少しぐらい耄碌してたって良かったんだぜ、爺さん?カードを1枚セットして、ターンエンドだ」

 互いにリソースこそ削れてはいるものの、決定打に欠ける状態。当然寿の立場で真っ先に思いつく次の手としてはもう1度デミウルギアで炎神に攻撃を仕掛け、相打ちで両者が破壊された隙に星冠で直接攻撃を行うことだろう。そうすればこのデュエルは終わる……しかし、糸巻の場にはいまだ伏せカードがある。そして彼女は、不知火のみならずバージェストマを操るデュエリスト。あの1枚がブラフなどではない何かしらの妨害手段であることは想像に難くなく、デミウルギアの耐性も罠カードに対しては無力。

「ならば……ドローします」

 そして引かれたカードを見て、老人がわずかに微笑む。どうやらこのデッキは、いまだ彼に力を貸してくれるらしい。

「墓地に存在する『星杯』の効果を発動。このカードを除外することで、デッキより星遺物カードを手札に。そしてサーチした魔法カード、星遺物を継ぐものを発動。デミウルギアのマーカー先に、私の墓地のモンスターを蘇生します」

 星杯の神子イヴ 攻1800

「先ほど寿選手の展開を支えた立役者、イヴが再びフィールドに降り立ちました!このまま一斉攻撃をかけるというのでしょうか、どうなる糸巻選手!」
「確かにこれだけでも戦力としては十分ですが……」

 あの伏せが相手モンスターを裏守備にするバージェストマ・カナディアあたりならば、別に迷うことはない。デミウルギアはリンクモンスターであるため裏守備にならず、イヴと星冠の片方を止めたところでもう1体で攻撃すれば済む話だ。しかし問題は、モンスターの攻守を半減させるバージェストマ・ハルキゲニアや【バージェストマ】とも相性のいい迷い風といったコンバットトリック用のカードや、不知火のフィールド荒らし担当の(つばくろ)の太刀といったカードで彼女が待ち構えていた場合だ。デミウルギアの攻撃で炎神を突破できなかった場合、残りの2体では攻撃力3500を超えられない。
 そういった問題の大部分は、彼が今引いたカードならば無視できる。反面戦術の柔軟性は大きく失われ、読み間違えていた場合のリスクもこのカードを出した場合の方が大きい。
 出すべきか、出さざるべきか。迷った末に寿は、ちらりと客席へと視線を向けた。いったいこの膠着状態からどのように戦況が動くのか、固唾を呑んで見つめている人々の顔が見える。予想は裏切り、期待は裏切るな……この言葉を最初に口にしたのは、いったい誰だったろうか。彼はプロデュエリスト、エンターテイナーの代名詞。迷いは、消えた。

「この一撃で終わらせましょう。星杯の神子イヴ、星遺物-『星冠』、星神器デミウルギアの3体のモンスターをすべてリリース!」
「何いっ!?」
「な、なんと寿選手、3500もの攻撃力を誇るデミウルギアを捨ててまで、さらなるモンスターの展開を選んだ!……って、モンスター3体リリースって、まさか……!」

 思わず素の反応が出た清明の驚愕の声を背後に、3体ものモンスターが一斉に消えていく。そして降臨するのは、デミウルギアに負けず劣らずの巨体を持つ更なる神の偉容だった。

「その者、降臨せしむれば、灼熱の疾風大地に吹き荒れ、生きとし生ける者すべて屍とならん。オベリスクの巨神兵よ、今こそ降臨せよ!」

 オベリスクの巨神兵 攻4000

「オベリスク……まさかこんなところで見ることになるとはねえ。人生わかんないもんだね、いやまったく」
「……時に、あちらの彼はなぜあそこまで感動しているのかね?オベリスクはそう珍しいカードでもないはずだが」
「アタシも正直、アイツの反応ポイントはよく分かんねえんだよなあ。この間なんて、なんかストレージにぶち込まれてたネオス見て腰抜かしそうになってたし。まあいつものことだから、爺さんもスルーしてやってくれ」

 すっかり実況も忘れてしみじみと頷く清明に視線をやりながら、ひそひそ声で寿が問いかける。しかし問われた側の糸巻も、その疑問には答えようもない。彼のいた世界におけるカードの価値はこの世界のそれとは大きく異なり、世界中に1枚しか存在しないカードなんてものもざらにある。その前提条件は、いまだ共有されていない。

「まあいい。カード効果の対象にならないオベリスクならば、バージェストマに入るような罠はほぼ無視できる。攻撃してもダメージはわずか500、しかし今はそれだけあれば十分だ、そうだろう?」
「さて、な」
「バトルだ。オベリスクで炎神に攻撃、ゴッド・ハンド・クラッシャー!」

 おもむろに右腕を振りかぶった神が、大地を砕くほどの勢いでその拳を叩きつける。再び刀に炎を纏わせてそれを真っ向から受け止める炎神……しかしデミウルギアのそれを上回る膂力を前には奮闘虚しく、少しずつその腕が、大地を踏みしめて堪える炎の馬が、じわじわと神の力を前に押し込まれていく。
 だが。

「突っ込んできたのがデミウルギアなら、そのまま返り討ちにできたんだがな。でもまあ十分だ、トラップ発動!」
「ダメージステップで?コンバットトリック……それも、ステータス上昇系ですか」

 オベリスクで上から押さえつける、その判断自体は決して間違っていたわけではない。リリースされたデミウルギアらの3体で一斉に攻め込むという選択肢とは、どちらも一長一短の関係でしかなかった。ただ寿は、そのどちらも正解だったはずの選択肢での読みを間違えただけだ。それは現役から退いていたゆえのブランクなのか、それとも『考古学者』寿神助のデュエリストとしての限界なのか。いずれにせよ、糸巻はそこを突く。

「バージェストマ・エルドニアの効果で、炎神の攻撃力はこのターンの間だけ500アップする。迎え撃て、不知火流奥義・蓬莱斬!」

 オベリスクの巨神兵 攻4000(破壊)→炎神-不知火 攻3500→4000(破壊)

 爆発的に伸びた炎の刀身はこの日2度にわたり神を討ち、しかしその代償として振り下ろされた拳は最後まで勢いを減じることなくその目的を果たす。神の名を持つ2体の相殺により久しぶりに開けた視界は、なぜだかやたらとだだっ広く見えた。

「……オベリスクまで倒されたとあっては、もはや打つ手はありませんね。ターンエンドです」
「そうか。なら終わりにするぜ、爺さん」

 もはや彼女に、カードを引く必要すらなかった。これまでの墓地リソースですでに勝敗は決しており、お互いにそれを見逃すような愚は侵さない。

「墓地から馬頭鬼の効果を発動、このカードを除外してアタシの墓地のユニゾンビを蘇生。ユニゾンビの効果で自身を対象にその効果を発動、デッキから2枚目の馬頭鬼を墓地に送りレベルを1上げる。そしてこの馬頭鬼も同じく効果を発動して、炎神をもう1度現世へと呼び戻すぜ」

 ユニゾンビ 攻1300 ☆3→4
 炎神-不知火 攻3500

「久しぶりに戦えて楽しかったぜ、爺さん。それに安心した。アンタは間違いなく、ふざけたこと抜かすテロリストなんかじゃないってのがこのデュエルで伝わってきたからな。バトルだ、ユニゾンビで攻撃」

 ユニゾンビ 攻1300→寿(直接攻撃)
 寿 LP4000→2700

「これでラストだ。不知火流奥義……蓬莱斬」

 炎神が騎乗状態のままその妖刀を天高く掲げ集中すると、これまでの静かに、しかし激しく燃え盛る業火とは違う色とりどりの炎がその刀身を中心に燃え広がる。その姿は本人の白装束も相まってそれ自体がまさしく1本の樹……白銀の根、黄金の茎、そして白玉の実を持つとされる伝承の存在、蓬莱の玉の枝のごとし。
 そして、その静かに吹き上がる炎が振り下ろされた。

 炎神-不知火 攻3500→寿(直接攻撃)
 寿 LP2700→0

「ええ、私もこうして久々にデュエルができて、楽しかったです」

 最後の呟きはごく小さかったが、糸巻の耳には確かにはっきりと届いていた。 
 

 
後書き
まだイヴはセーフ。ギリギリセーフ。投稿時点で余命6時間切ってるけどセーフ。 
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