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老人へのサービス

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第五章

「連日連夜ね、そうすれば」
「それこそね」
「簡単に死ぬわ」
「楽しんでもらって溺れさせて」
「死んでもらう場所ということよ」
「そうだったのね、あの人が亡くなって」
 それでとだ、早百合は今度はしみじみとした顔になって述べた。
「皆大喜びだけれど」
「このことはね」
 まさにとだ、志麻はまた答えた。
「あそこに送ったからこそよ」
「それこそ殺したい人が星の数程いた人だけれど」
「だから殺人は罪でしょ」
「殺す理由はどうあれ」
「それは問題だけれど」
 それでもというのだ。
「死んでもらうと問題はないわね」
「そうね、糖尿病で死んでも」
「病気で死んだことになるでしょ」
「誰がどう見てもね」
「そして実際に殺してはいないわよ」
 志麻は早百合にまた笑って話した。
「死んでもらったから」
「そこは違うわね」
「これなら罪にならない、だからね」
「死んでもらうことね」
「そうよ、一番いいことはね」
「よくわかったわ、それにしても」
 早百合は今度はしみじみとした顔になって志麻に話した。
「どうしても死んで欲しい人は殺さなくてもいいのね」
「死んでもらったらいいでしょ」
「ええ、本当に」
「これで誰もが喜ぶなら」
 この上ない嫌われ者が死ねばというのだ。
「悪いことはないでしょ」
「ええ、けれど私としてはね」
「他の人についてはなのね」
「しないわ、だからね」
 それでというのだ。
「二度とね」
「このことは頼まないのね」
「そうするわ。私もあの人が死んでよかったけれど」
 そう思っているがとだ、早百合は志麻に話した。
「他の人にはね」
「使わないのね」
「そうするわ」
 こう言ってだ、早百合は実際に志麻にこうしたことは二度と頼まなかった。だが彼女も夫の死を喜び菩提を弔うこともなかった。仏壇は開かれているだけで墓に参る者もいない。死んでしまった者に対して。


老人へのサービス   完


                  2019・7・16 
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