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リュカ伝の外伝

作者:あちゃ
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才能と素質 後編

 
前書き
この作品はフィクションであり、実在する、人物・地名・団体とは一切関係ありません。 

 
(芸術高等学校)
ディレットーレSIDE

夕方と言うにはまだ早い時間……
姪のピエッサが私の執務室に訪れた……とんでもない随伴者を連れて!
随伴者は2名。

1人は彼女等(マリピエ)のスポンサーであり、私に面倒な依頼をしてきた張本人であるウルフ宰相閣下。
そしてもう一方(ひとかた)は、あろうことかこの国の王様……リュケイロム陛下であらせられました!

何事かと思いピエッサを見ると、何やら泣きはらした様な赤い目をしており、陛下のご来校もそれに関係する事柄の様子。
きっと陛下をも巻き込んで、ここに来たのはウルフ閣下の策略に違いない。

「へ、陛下! い、一体如何致しましたか!? 何か姪が……ピエッサがご無礼を働きましたか?」
「安心して。彼女は1ミクロンも悪い事はしてないよ。でも全部説明するのは面倒臭いから、途次(みちすがら)簡単に話すから、一緒に来て」

そう陛下は言うと優しい声でピエッサに「教室まで先導よろしく」と言い、ウルフ閣下と共に部屋から出て行く。
私も慌てて陛下の後に続きます。







アイリーンという生徒の盗作……
そして講師の屈辱的な発言……
ある程度の事は学長室からの途次(みちすがら)に説明された。

そして問題の教室の前に到着。
「ここです」
とピエッサが小さな声で呟く。

「あ! 聞き忘れてたけど、講師の名前は?」
入室を前に陛下が今回の講師の名前を尋ねてきた。
咄嗟には思い出せず戸惑っていると……

「サム・ラゴウスだ」
とウルフ閣下が代わりに答えてくれた。
何で知ってるの?

「サ○ラゴウチ!?」
「違う。『サム・ラゴウス』だ!」
「ああ……『サム』ね。『サム』と『ラゴウス』ね。ビックリした」
「こっちはリュカさんの聞き間違いレベルにビックリだ。誰だサムラ○ウチって?」

「そんな事より……入ろうぜ」
「ちょっと待って」
普段からこんなんなのか国家のナンバー1と2の遣り取りを見せられながら、教室へ入ろうとした時……突如ウルフ閣下が待ったをかける。

「何?」
「教室への入室順だけど、身分の低い順からにしてくれ。その方が中の連中の思考回路も凍結しにくいはず」
なるほど。

いきなり陛下が登場したら、その後に誰が登場しても意識が回らず話の内容も頭に入ってこないだろう。
流石は若くして宰相を任されてるだけはある……
性格の問題を差し置いても出来る男である事は間違いない。

「分かった。じゃぁ僕からだね♥」
え!?
いやいやいや……ち、違うでしょ!!

「あ、悪い。言い間違えた……『建前上身分の低い順』だ。だから建前上リュカさんが一番最後に入って。じゃぁピエッサさん、入って」
陛下も陛下なら、この少年も困りものだ。だが私より多く(時間・回数)交流しているピエッサは気にする事無く指示に従ってる。

ウルフ閣下の指示通りピエッサが教室へ入ると一瞬のざわめきが起きる。
だがそれは直ぐに収まり、試験の為にピアノを弾いていた男子生徒も彼女を気にする事無く演奏を続ける。

続いて私が入る。
するとピエッサの時よりざわめきが長く大きく起こり、演奏者も一瞬だけ指が(つっか)えた。だが直ぐに立て直し演奏を続ける……大した胆力だと思う。

しかし、そんな胆力のある生徒もウルフ閣下が入室してきて完全に手が止まる。
そりゃぁそうだ。皆、私の登場時はこう思ったに違いない……盗作疑惑で進退窮まって叔父に言い付けに行ったピエッサ……と。

だが現れたのは国家のナンバー2……
言い付けに行ったレベルの問題では無い。
だが諸君。驚くのはまだ早いぞ!

「お邪魔するよ!」
軽く柔らかい口調と共に、試験会場である教室に入ってくるのは……国王陛下!
宰相閣下の登場で最大級の驚きを感じていると思ってた生徒諸君は、直ぐさまそれを上回る驚きを体験する。

「へ、陛下!?」
試験官で講師のサム・ラゴウスが跳ねる様に立ち上がり直立不動になると、驚きで思考が止まっている生徒らも同じように直立不動になる。

ちょっとだけ面白く感じていると、私の横に居るウルフ閣下が……
「ふふふっ……これが見たかった(笑)」
と、私やピエッサにしか聞こえない声で呟いた。もしかして入室順を決めたのって……

「ああ皆……気にしないで座って。ちょっとピアノを弾きたいだけだから」
ずっと変わらぬ口調の陛下は、そう言うと優雅な動作でピアノまで近付き、試験を受けていた生徒を他の待機生徒の下へと帰し椅子に腰掛ける。



そしてある曲を弾き終えた。
これが盗作された曲だろう。
ピエッサが感情的になるのが解る素晴らしい曲だ。

「さて……アイリーン・アウラーはどなたかな?」
盗作された曲を弾き終えた陛下は、座ったまま身体を生徒達の方へと向けると、問題の者の名をあげた。
すると幾ばくかの間を置いて1人の女生徒が震える様に手を上げる。

「君か……じゃぁ椅子を持ってこちらへ来て。立ち話もなんだからねぇ……」
言われたアイリーン・アウラーは震えながら椅子を持ち陛下の傍まで来ると、持って来た椅子を置き顔面蒼白で立ち尽くす。

「いや……立ち話したくないから椅子持って来させたんだけど(笑)」
そう言われ震えるぎこちない動作で置いた椅子に座るアイリーン・アウラー。
もう誰もが事態を理解してる。

「最初に言っておくけど……僕ね、一度会った女性は絶対に忘れないんだ。男は憶えられないけど(笑) だから自信持って聞くけど、僕と会った事無いよね」
「……ありません……」

アイリーン・アウラーは消え去りそうな声で答えた。
凄い能力だ……私なんか昨日の夕飯も憶えてないのに。
陛下の能力の真偽は兎も角、ここで『ある』とは答えられないだろう。

「うん。じゃぁ今弾いた曲……僕が君から盗んだって事は無いよね?」
「……ありません……」
「うん。じゃぁ聴くけど、今の曲と同じ曲を試験で披露したけど、君の作曲なのかな?」
「……ます……」

「え、何? 聞こえなかった」
「……違い……ます……」
遂に盗作を認めた。そして泣き出してしまった。

「あぁ泣かないで……泣かせに来たんじゃないんだ。ピエッサの名誉回復が目的の一つなんだから……」
「あ~あ、女泣かせてやんの。さいてー」
はい。これはウルフ閣下の言葉です。

「あのね聞いて。僕は君を責めようとは思ってないんだ。誰にだって過ちの1つや2つ……あるいは40~50個はあるさ」
「そんなにあるのはアンタだけだ」
はい。これもウルフ閣下の台詞です。

「聞いた話だと君はピアノや歌の技能は凄いらしいじゃないか。しかも聞いただけで完全にコピーできるんだから、才能は豊かで素晴らしいと思うよ。でも如何(どう)やら新たに作り出す能力が皆無みたいだね」

なるほど……
誰かが作り出した曲であれば、どんなに難しくても弾きこなせるのか。
でも自身じゃ作り出せない……この試験は厳しいだろうな。

「試験の内容的に誰かとの共作でも良いんでしょ? 友達に頭を下げて共作扱いにさせて貰えば良かったんじゃないの? ……頭を下げるのはプライドが許さなかった?」
「……は……はい……」
なまじ技量があるから、他者に頭を下げられなかったのか。

「そっか……で、先生に相談したらこうなったのか」
「……………」
アイリーン・アウラーは黙って頷いた。

「盗作を見逃す代償として身体での支払いにしたのは……君から? それとも先生が要求してきたの?」
「……………」
「へ、陛下! わ、私は「ちょっとサムは黙ってて! 後でゆっくりお話しするから」
サム・ラゴウスは慌てて言い訳をしようとしたが、厳しい口調の陛下に遮られる。

「……わ、私からです」
「あら……予想と違った」
私の予想とも違った。てっきりサム・ラゴウスからだと……

「追い込まれてたんだね……でも若いんだから遣り直しは効く。今日から……いや、今から少しでも努力していこうよ。あんなオッサンにこんな可愛いオッパイを託すのは勿体ないよ」
陛下は優しく言うと、服の上からでも解る巨乳にナチュラルにタッチする。余りにも自然な動作で誰もそれがセクハラに当たるとは思えない。

「うん。じゃぁこれからは努力するし、力及ばない時は誰かに頭を下げられるね?」
「は、はい陛下」
胸を触られてるのに、怒るどころか瞳を潤ませ陛下を見上げるアイリーン・アウラー。

「よし頑張れ」
優しい口調のまま胸を触ってた手を彼女の頭へ移動させ、ナデナデをする。
アイリーン・アウラーは完全に陛下に惚れてしまっただろう。

「さ~て……ここからが本題だな。なぁサム!」

ディレットーレSIDE END



 
 

 
後書き
まさか後編で終わらないとは思わなかった。
次回こそ終わらせるよ。完結編でね!

余談
「ふふふっ……これが見たかった(笑)」
この台詞を書いた時、作者の私でも
『こいつ性格悪っ!』
って思った。 
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