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提督はBarにいる。

作者:ごません
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鎮守府のバレンタイン事情~オムニバス編・2020~

~如月の場合~

「はい、司令官。あーん♪」

「あ~……如月?」

「何かしら?」

「何してるんだ?」

「あら、今日はバレンタインデーよ?だ・か・ら……あーん♪」

「いや、何もこんなトコであーんせんでも」

 ここは執務室ではなく、鎮守府の敷地内に在る運動場。今まさに新人達の研修が佳境を迎えていて、俺を含めて神通達の指導も厳しい物になっている……んだが、如月が俺の隣に立って背伸びをして俺の口元にチョコを近付けているせいで張り詰めた空気が台無しだ。若干だが、神通からも苛立っているような空気を感じる。

「だって……最近司令官ったら新しい娘にかかりっきりで、私達の事構ってくれないんですもの」

「仕方ねぇだろ、仕事なんだから」

「私達はもう古いって事?提督は新しい女に乗り換えようとしてるのね……?」

 くすん、くすんと鼻を鳴らしながら涙を拭う仕草をする如月。だが、涙の零れる様子はないし本気で泣いているなら雰囲気で判る。

「誤解の生まれるような発言をするんじゃねぇよバカ野郎」

 俺がデコピンを如月に喰らわせると、痛みのあまりに如月が蹲る。

「いったぁ~い……もう、本当に涙が出てきちゃったじゃない。……あっ」

 ハイ、嘘泣きの自供頂きましたっと。

「何か申し開きはあるか?如月」

「……てへっ♪」

 てへぺろしてる姿が可愛いのは認めるが、迷惑なのに変わりはない。流石は卯月の姉と言うべきか。

「如月、罰として1週間トイレ掃除な?」

「えぇ~!?」

 不満げに顔を膨れさせる如月。いい加減にしないとそろそろヤバいと思うぞ?

「……それなら、代わりに3日だけでもこちらの訓練に参加しますか?そうすれば提督も赦してくださいますよね?」

 如月の背後に、笑みを浮かべた神通が立っていた。だが、その笑みがコワイ。スタンドの様に盤若が見える気がする。どうやら、グラウンドの空気を乱されるのがよっぽど腹に据えかねたらしい。

「ト、トイレ掃除ね!解ったわ。顔が映るくらいピカピカにしちゃうんだから!」

 そう言って駆け足で逃げていく如月。やれやれ、ウチの嫁さんじゃないがTPOは弁えろと言いたい。



~榛名の場合?~

 午前中の訓練が終わって昼飯時。流石に1ヶ月も艤装コアを着けて過ごさせただけあって、新人達も合金製の食器は卒業して普通の食器で飯が喰えるようになっている。なので別のテーブルで食事を摂っていたんだが……

「て、提督!相席よろしいでしょうかっ!?」

「榛名に比叡か。別に構わんぞ」

 じゃあ失礼しますね、と2人が目の前に座ってきた。

「いやぁ、それにしても久し振りですねぇ司令」

「……なんだ比叡、俺に会えなくて寂しいか?ん?」

「そりゃあ寂しいですよ!ねぇ榛名?」

「ふえっ!?ははは、榛名は大丈夫ですよ!?」

 比叡に尋ねられて咄嗟に顔が赤くなる榛名。そうは言っても俺の鍛え直しも兼ねた研修だったからな。

「すまんな。普段から接してるお前らの顔を見ると、甘えが出そうでな」

 俺の精神面を鍛え直すには、そういう普段置かれている環境を切り離す必要が有る、と感じた為にこの1ヶ月は新人研修用の宿舎に寝泊まりしている。

「あ~、確かに司令1ヶ月前より痩せた……っていうか引き締まりましたもんねぇ」

「お、解るか比叡?体重は若干増えたが体脂肪率は激減しててなぁ。中年肥りがホレ、綺麗なシックスパックだぞ?」

 そう言って着ていたシャツを捲り、腹筋を露出させる。実は学生時代もここまで絞った事は無かったからな。何気に腹筋が割れたのは初めてだったりする。

「ちょ、ちょっと提督!しまって下さい!」

 榛名が顔を赤くして、両手で顔を覆っている……が、その指の隙間からチラチラと腹筋を眺めているのが丸わかりだ。

「ん?別に堂々と見てもいいぞ、減るモンじゃなし」

「そ、そうじゃなくて……その////」

「あ~、司令。その光景は他の娘にも刺激的過ぎるんで早いトコしまって下さいね?」

 比叡にツッコまれて周りを見回すと、確かにこっちをチラ見してたり凝視したりしてる奴等がチラホラ。その半数位が鼻血垂らしてるんだが……反応がベタ過ぎやしないか?

「いやぁ、スマンスマン。ここまで鍛えるとちょっと自慢してみたくなってな」

「い、いえ……とても眼福でした」

 茹で蛸の様に赤くなっている榛名が、鼻を抑えながらサムズアップしている。

「ほら榛名、試しに提督にハグでもしてもらえば?」

 比叡がニヤリと笑いながら、肘で榛名をつつく。

「ハハハ、ハグですか!?いや、でも……」

「遠慮すんなぃ。ハグ位幾らでもしてやるぞ?」

 昼飯も食べ終わったので食器を片付ける為に立ったついでに、榛名に近付いて抱き締める。瞬間、榛名がグラリとよろめく。

「お、おい榛名しっかりしろ!?」

「は、はるにゃは……もうダメれすぅ」

 頭から煙を上げながら、榛名はガクリと気絶した。俺はそのままグッタリとして動かない榛名をお姫様抱っこで入渠ドッグまで運び、明石に怒られた。解せぬ。





~金剛の場合~

「……なんて事があってなぁ」

「あはは、それは榛名にはいいサプライズプレゼントだったね~darling?」

 業務終了後の執務室。明日で新人達の訓練も終わりとなるので、ここ1ヶ月間提督代理を任せていた金剛から何か異常が無かったかの引き継ぎを受けている。とは言っても特に問題は無く、呑兵衛達がウチの店の1ヶ月間の長期休業に堪えかねて飢えているという、何ともウチらしいトラブル?があった程度だ。

「にしても、今年も随分と届いてるなぁ……」

 執務机の横には、山積みの段ボール箱。中身は全てチョコレートだ。

「まぁ、darlingはモテるからネー。wifeとしても鼻高々デース!」

 えっへん、とばかりに金剛がその立派な胸を張る。仕事は出来るし、他の女にも寛容とか出来すぎじゃないですかね?ウチの奥さん。

「でも~……darlingにはまずこれを食べて欲しいカナ?」

 そう言うと金剛は給湯室の冷蔵庫からチョコレートケーキを持ってきた。どうやら執務の合間を縫って、俺の為に準備していたらしい。切り分けると、ふんわりとオレンジの香り。それと共に酒精も香る。

「オレンジリキュール……か?」

「Wow!流石はdarlingネ。『グランマルニエ』をたっぷり入れてありマース!」

『グランマルニエ』とは。またいい酒を使っている。良くカクテルに使うコアントローと同じくらい……下手するとそれよりも有名なオレンジリキュールで、コアントローよりもオレンジ本来の香りや風味、苦味も強いのでお菓子の香り付けに使うならコアントローよりも向いている。

「どれ、早速」

 フォークで切り分け、一口頬張る。しっとり、ねっとりとした食感の中に、しっかりとチョコの甘味とオレンジの酸味、そして両者のほろ苦さがバランス良くやってくる。これならデザートとして食べるだけでなく、赤ワインやウィスキー、ブランデーなんかにも合うだろう。そう思い立って戸棚からブランデーとグラスを2つ取り出す。

「金剛、付き合ってくれるか?」

「of course!……デモ、立てなくなったら運んで下さいね?」

「任せろ、お姫様抱っこで運んでやる」

 鍛え直したからな。今なら部屋まで余裕だろう。

「……は、恥ずかしそうだから遠慮しときマス」

「今更だろ、この鎮守府じゃ」

 俺達夫婦だぞ?イチャついて何が悪い、寧ろ見せつけてやる。そんな事を考えながら飲んでいたら金剛が本当にノックアウトされてしまい、お姫様抱っこで運んだ翌日に真っ赤になってポカポカ殴られたのはまた別の話。 
 

 
後書き
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