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提督はBarにいる。

作者:ごません
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提督式ブートキャンプ・改~その2~

 ランニングを終えたら引き続き、基礎体力を付けるための筋トレだ。腹筋、背筋、スクワットに懸垂等々、地味なトレーニングが続く。100回を1セットとしてそれを複数回。

「どうだい?キツいかな」

「当たり、前だろ……チビスケ」

「ハラショー、喋れる上に反抗的な態度までとれるならまだまだ余裕だね。もう3セット追加で行ってみよう」

「……悪魔め」

 目の前ではアトランタと響がそんなやり取りを繰り広げている。俺が言うのもナンだが、響の奴も中々にドSだ。恐らくはチビと言われた事にイラッとしたんだと思うが。アトランタ以外の他の連中は、ノルマを達成して地面の上でへばっている。

「やはりまだまだ鍛え方が甘いですね。もう少し厳しくしないと行けないでしょうか……」

 等と、神通は新人達の様子を見て困った表情をしている。

「いやいや、まだ訓練初日だ。少しずつ身体を馴れさせていって徐々にトレーニング量を増やしてけ」

 急激なオーバーワークは逆に身体を壊してしまう。ましてや相手は建造されたばかりの新人だ、無理はいけない。

「う~っし、午前中はこれまで。各自汗を流したら食堂に集合!昼飯だ」

 俺の言葉を聞いて崩れ落ちる新人達。同じメニューをこなしていた俺・神通・響の3人はケロリとして、

「ふい~っ、いい汗掻いたなぁ」

「シャワー浴びてビールでもキュ~っといきたい気分だね」

「お、気が合うなぁ響」

「駄目ですよ、提督。まだ勤務時間中です」

「冗談だって。俺だってそれくらいの分別はあるからな」

 そんな会話を交わしながら、3人でシャワー室へと向かう。20分後、サッパリとした俺達とは対照的に砂まみれのままで食堂に現れた新人達。どうやら、あの後もグラウンドに倒れ込んだままでいて、食事の時間に遅れそうだったからそのままここに来たらしい。流石に不衛生なので、着替えて来るように命令する。更に10分後、漸く小綺麗になってテーブルに着く。その腰には、ウェストポーチ位の大きさの機械が取り付けられている。

「さて、食事の前にお前らに『機関部コア』を装着して貰った意味を教えよう」

 機関部コア。読んで字の如く、艦娘の艤装の要とも言えるパーツだ。腰椎に埋め込まれたアタッチメントに装着して、艦娘と艤装を連結させ、艦娘の体内に存在する艦霊(ふなだま)と同調し、人のサイズに巨大な軍艦のパワーを産み出させる謂わばエンジン。これが無いと艤装は動かないし、コアだけ装着しても全開のパワーは出せない。それでも最大馬力の2割程度は出せるらしいが。

「お前達にはこの訓練中、機関部コアを装着して日常生活を送ってもらう。この訓練の目的は、艤装展開中の細やかなコントロールを身に付ける事にある」

「提督、その行為に何の意味があるのでしょうか?」

 この様な行為に意味など無いだろう、そう言いたげな顔でパースが質問してくる。

「新年会の時にも説明したが、ウチの鎮守府は少々特殊でな。規模の大きさ故に大規模作戦の際などには他の攻略艦隊への支援艦隊の派遣やCSAR……戦闘捜索救難に駆り出される事もあるし、平時の任務でも企業などから依頼を受けて船団護衛任務を行う事も多々ある」

 特にもCSARは大変だ。戦闘地域での艦隊からの落伍者を捜索・救難するという事は『連れ帰って』初めて任務完了という事だ。それも、敵に囲まれる可能性の非常に高い状況下でだ。

「その際、何が求められるか?戦闘能力も勿論大事だ。敵の包囲を突破できるだけの実力が無くては、捜索隊が二次遭難を起こしかねん。しかし戦闘能力よりも重視すべきは継戦能力……ズバリ、スタミナだ」

 捜索救難任務を例に取ってみよう。敵との遭遇を避けつつ、落伍者を捜索して救助、そして戦闘地域からの撤退。ただ戦闘するだけよりも数倍の労力と燃料を消費する。しかし、艦娘の艤装に増槽を取り付けて航続距離を稼ぐにも限界がある。増槽=可燃物の塊だ。そんなものをぶら下げて戦闘が出来る程、深海棲艦はぬるい敵ではない。

「ならばどうするか?平時の燃費効率を上げればいい。その為にお前らには艤装コアを着けた状態でも日常生活が送れる位までになるように微細な力のコントロールを覚えてもらう」

「仰りたい事は解りました。しかし、何故この様な簡素な食器なのでしょう?」

 苦言を呈してきたのは神州丸だ。この訓練に関わっている連中の食器は俺の分も含めて全て金属製に統一してある。

「まぁ、その辺は実際に食ってみれば解るさ。んじゃ、いただきます」

『いただきます』

 全員の唱和で昼食が始まる。と同時に、テーブルのそこかしこでメキッ、だのバキッ、だの食事中に聞くはずの無い音が響く。見れば、スプーンを握り潰している奴がいたり、皿の縁を引きちぎっている奴がいたりか。酷い奴だとコップを握り潰して水浸しの奴までいる。

「お~お~、ここまで狙い通りだといっそ清々しいなオイ」

「成る程、力の制御が甘いと艦娘の馬力に耐えきれずに壊れてしまうという訳ですか」

「流石だな神通」

 神通と響は平然と食べ続けている。長年の経験から、どの程度力を掛けると不味いのかを感覚的に解っている為だ。

「一応この食器類は全てチタン合金製なんだがなぁ。お前らのパワーは2割程度でもそれだけの破壊を引き起こす事が出来ると自覚しろ」

 はぁ、と溜め息が漏れる。無意識に出てしまった。

「艦娘として一度海に出れば、人命救助の機会も無いとは言い切れん。だが、その時に力加減を間違えてみろ。あっという間に人間のミンチの完成だ」

 それを想像したのか、サッと顔が青ざめる新人達。まぁ、艤装を装着していれば妖精さんがある程度コントロールの補助もしてくれるのでそんな事故はまず起きないのだが。

「力を持つ者にはそれに比例する責任が伴う。その辺りの事もこの1ヶ月でしっかりと学べ……食事を続けろ」

 新人達はおっかなびっくり、といった様子で食事に戻る。スプーンを持つ手が若干震えているのも仕方無いと言えるか。

「あぁそれと、この訓練後にはお前達の初任給が手渡される」

 訓練中とはいえウチの所属だからな。給料が発生する。

「だが、その給料からはお前達が破壊した食器類等の備品の弁償代が天引きされる」

「「「えっ」」」

 その衝撃的な俺の発言に驚いて、また何人かがスプーンやら食器を破壊している。

「気を付けろ、給与明細が借用書に化ける可能性すらあるからな?」

 あまりにも備品を壊しすぎるとそういう事もあるだろう。

「……鬼だね、司令官」

「そうか?『壊したら弁償』……当たり前だろ」

 さぁて、午後からは座学だ。楽しくいこう。 
 

 
後書き
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