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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
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無印編
  第15話:見抜かれる者

 
前書き
どうも、黒井です。

今回も読んでくださりありがとうございます。

2020・04・23:アドバイザーの方から色々と指摘を受け、後半を一部書き直しました。 

 
「おはようございま~……って、あれ? 今日は颯人まだ来てないの?」

 その日、奏が二課本部の司令室を訪れた時、珍しい事にまだ颯人は来ていなかった。意外かもしれないが、二課に協力するようになってからと言うもの颯人は装者三人よりも早くに本部に来ていた。そしてその度に何かしら差し入れ(大体はマスドのドーナッツ)を司令室のソファーの上に置いているのだが、今日は彼の姿は勿論差し入れも無かった。

「旦那、今日颯人は?」
「いや、俺もまだ見てないな」
「珍しいですよね。何時もならとっくの昔に来てる筈なのに」

 弦十郎に続き朔也までもが首を傾げる。その様子に奏はちょっぴり不安を覚えた。彼に限ってもしもと言う事はないだろうが、それでももし何かトラブルに巻き込まれていたら? 一応連絡は取ってみるべきかと、二課専用の通信機を取り出した。

 その時である。

「ふぁ~~、おはようさん」

 突然欠伸を噛み締めながら颯人が姿を現した。扉が開閉した様子が無い事から、恐らくはテレポートの魔法でここまで直接やってきたのだろう。

 いきなり姿を現した颯人に、通信機を取り出していた奏は一瞬面食らった。

「うぉぅっ!? 何だ颯人、どうした今日は?」
「随分眠そうだけど、もしかして徹夜でもしてたとか?」

 依然として欠伸を噛み殺し、眠そうに目をしばたかせる颯人。
 まさか彼に限って夜遊びなどする事はないと漠然と信じている奏だったが、彼は明らかに寝不足と言った様子だった。少なくとも睡眠時間を十分取れていないことは明らかである。

 もしや自分達に内緒で夜の間に何かやっていたのでは? と心配する奏達だったが、彼の口から出てきたのは予想外の言葉だった。

「いや、昨日は少し戦闘で魔力使い過ぎてさ。その上ここ最近連戦だったでしょ? 流石に魔力の回復が追い付かなくってさ」

 そう言って彼は再び大きく欠伸をする。ここで初めて奏達は、魔力の回復手段を知る事となった。

「魔力って、寝れば回復するもんなのか?」
「寝るだけじゃなくて物食うことでも回復するよ。だから派手に魔法使った後は矢鱈と腹が減るんだ」
〈コネクト、プリーズ〉

 話しながら颯人はコネクトの魔法でどこぞのハンバーガーショップの紙袋を取り出し、中からハンバーガーを一つ手に取り口にする。眠気が抜けきらず気怠そうな様子とは裏腹に、ハンバーガーは物凄い勢いで形を無くしあっという間に颯人の腹の中に収まった。
 すかさず二個目を口にする颯人だったが、その彼に了子が興味津々と言った様子で近付いた。

「ふ~ん、要は休息で回復するものなのね?」
「一応他にも色々と方法はあるみたいだけど、一番手軽なのはこの方法らしいよ」
「他の方法って?」
「ん~、これは魔法使い同士じゃないと使えない方法だけど、魔力の受け渡しで回復するって方法もある」

 そう言いながらハンバーガーは既に三個目を食べ終え、四個目に突入していた。この時点で少しは魔力も回復してきているのか、先程よりは目もしっかり開いている。

 魔力に余裕が出来てきたからか、徐に颯人は四個目のハンバーガーを食べながら奏に紙袋を差し出してきた。目が食べるか? と訊ねている。既に朝食は済ませているが、折角だしと奏は一つ貰い齧り付いた。

 奏が取り出したのが最後の一個だったのか、颯人は紙袋を片手で器用に潰すと再びコネクトの魔法で今度はゴミとなった紙袋を魔法陣の向こうに突っ込み代わりにマスドの箱を取り出した。

「ほいこれ、今日のお土産」
「あら、何時も悪いわねぇ」
「な~に、いいって事よ。さて、目も覚めてきたし、腹ごなしも兼ねて少し体動かすかな」

 了子が箱の中身を物色する傍ら、颯人は軽く体を伸ばすと本部内のシミュレーターに向かうべく司令室を出ていった。奏もついて行こうか迷ったが、まずは今後の予定や情報などをチェックしようとソファーに座り端末を取り出そうとする。

 その時、不意に先程の元気のない颯人の姿を思い出した。思えば記憶の中の彼は何時でも元気だった気がする。奏の記憶にある中で颯人に元気がなかったのは、彼の両親が事故死した後と、五年前の遺跡での事件で大怪我を負っていた時くらいではないだろうか。

 思えば随分と珍しいものを見た気がする。

――にしてもあれだな。元気のない颯人って、まるで種の無いスイカみたいだな…………どんな例えだ?――

 ふとした瞬間に浮かんだ意味不明な例えに、内心で自分の感性に疑問を抱きつつ、近くのソファーに向かい歩き出し――――――

「あ、そうそう言い忘れたてけどさ」
「ヴァァァァァッ!?」

 出し抜けに目の前に90度真横に傾いた颯人の頭だけが現れ、洒落にならない叫び声が奏の口から飛び出した。その悲鳴に司令室に居た者が全員そちらを見て、颯人の首だけが浮いている光景に更に数名が悲鳴を上げた。

 対する首だけとなった颯人本人は、幽霊でも見たかのような顔をしている奏に今の自分がどういう風に見えるかを考えたのか少しだけ申し訳なさそうな顔をした。

「あ、ごめん。ビックリした?」
「心臓止まるかと思っただろうがッ!? 何考えてんだッ!?」
「いや、この方が早かったからさ」
「お前は……はぁ。ったくもう、それで? 何?」

 殆ど悪びれた様子も見せずにいる颯人に、奏はこれ以上文句を言っても無駄と悟りさっさと用件を聞き出そうとした。
 今彼がどこにいるかは分からないが、首が繋がっている魔法陣の向こう側はこちらとは逆に首無しのデュラハン状態となっている筈だ。何も知らない職員がその光景を見たら、下手すると腰を抜かすかもしれない。早々に用件を聞き出して首を引っ込めてもらわなければ。

 因みにこの奏の判断は時既に遅しであり、既に数人の職員が首無しで廊下に立っている颯人の姿に悲鳴を上げていた。しかもご丁寧に、颯人は首から下をドレスアップの魔法で鎧武者に変えている。これで幽霊を疑わないのは無理があった。

 この一件が原因となり、暫く二課本部内には時折首無しの鎧武者が現れるという噂が流れる事になるのだった。

 閑話休題。

 そんな事など露知らず、奏が問い掛けると颯人は首だけの状態で手短に用件を告げた。

「あぁ、んな大したことじゃないんだけどさ。箱の端にあるカラフルな奴は俺のだから食わないでねって話」
「分かった分かった。分かったからさっさと首引っ込めな。変な噂流れるから」

 繰り返すが、奏の心配は既に手遅れだった。颯人の確信犯的行動により、向こう暫くは変な噂が流れる事が確定している。

「へいへい。んじゃ、また後で」

 半ば追い払われるように首を魔法陣の中に引っ込める颯人を見送った奏。彼の頭が無くなり魔法陣も消え、扉の方を見て誰も入ってこないのを見ると奏は早速了子に近付き彼女が物色しているマスドの箱を横から覗き見る。すると確かに箱の端の方に、矢鱈とカラフルなドーナッツが入っていた。これが颯人の言っていた奴だろう。

 それを見た瞬間、奏は一切躊躇せずそれを掴むと口に運んだ。奏の行動を見て真っ先に弦十郎が慌てて口を開く。

「おいおい、奏ッ!? それは今さっき颯人君が食べるなと言っていた奴じゃないのかッ!?」

 非難混じりに弦十郎が言うと、奏はあっけらかんとした様子でドーナッツを平らげながら答えた。

「いいのいいの。こちとらしょっちゅう揶揄われてんだから。こう言うところで仕返ししとかないと」
「因みにこの事を颯人君には――?」
「言う訳ないっしょ? 颯人には盛大に困ってもらうんだから」

 口の端に着いたチョコを舐めとりながら、奏はニヤリと笑みを浮かべる。悪戯っ子の様なその笑みに、司令室の者は全員が同じことを思った。

 似た者同士…………と。




***




 それから時が経ち、学業を終えた翼に遅れ響も本部へとやって来た。
 彼女達に加えて、既に本部で控えていた颯人と奏も交えミーティングが行われた。

 その内容は、この二課本部の地下深くに保管されているデュランダルと言う聖遺物――それも保存状態が良好な所謂『完全聖遺物』と呼ばれる物――に関するものであった。
 要約すれば、それが敵に狙われており、ここ最近頻発するノイズの発生はデュランダルを狙ったものである可能性が高いというのである。

 弦十郎達はそれに加えて、デュランダルを巡って国家間で色々と複雑な足り鳥などがある事を話し合っていたが、それ以上に颯人が気になったのはノイズの発生に何者かの作為が働いているかもしれない、と言う事であった。

 思い出すのは5年前、奏が家族を失い颯人が奏と別れる切っ掛けとなった遺跡での惨劇だ。
 二課に協力する事になってから知った事だが、あの時の遺跡にも聖遺物があったらしい。

 完全聖遺物が保存された二課本部周辺で頻発するノイズの発生と、聖遺物の存在する遺跡に発生したノイズ。これは果たして偶然だろうか?

 その事に対し疑問を抱き、1人悶々としていると奏がそれに気付き声を掛けてきた。

「どうした、颯人? 考え事か?」
「ん? あぁ…………奏さ、5年前の事、どう思う?」

 5年前……奏にとっても当時の事は忌まわしき過去なのか、颯人の口からその言葉が出た時奏は露骨に顔を顰めた。
 それを見て、颯人は己の言葉が軽率だったと気付き口を噤んだ。

「……悪い。迂闊だった。今のは忘れてくれ」
「いや、もう大丈夫だよ。それで、5年前がどうしたって?」
「もし……もしも、だ。あの時出たノイズも、誰かが遺跡にあった聖遺物を奏の親父さん達に取られないように誰かが(けしか)けたものだったら…………どうするよ?」

 颯人からのその問い掛けに、奏はすぐには答えなかった。顔から表情を消し、何処とも知れぬ虚空をじっと見つめていた。

 答えを返さぬ奏を、颯人は急かすことなくじっと見つめる。

「颯人は、あれも誰かの仕業だって思ってるの?」
「確証はねえよ。ただ、人気が多くない所にノイズが出たって話はあんま聞かないから、あんなところに出るなんざ余程の偶然か誰かの作為が働くしかないって思ってさ」

 自分で言っていて、だんだんと颯人の心にはどす黒い感情が渦巻き始める。
 もし本当に5年前の出来事が誰かの意思によるものだとしたら、颯人はその相手を絶対に許すことは出来そうにない。
 そいつの所為で、奏は心に傷を負い命を危険に晒す戦いに身を投じることになったのだ。その報いを受けさせねば気が済まない。

 彼も気付かぬ内に拳を握り締め、掌に爪が食い込むほど握り締める。

 その握り締められた拳に、奏がそっと手を乗せた。

「ッ!?」
「何でお前がそんなに怒ってんだよ?」
「いや……別に……ってか、奏はいいのかよ?」

 普通に考えれば奏がもっと怒りを見せてもいい話の筈だ。にも拘らず、彼女は微塵も怒りを感じた様子を見せない。
 あの時の事を完全に整理を付けた訳でもないだろう。
 だというのに何故?

「勿論、アタシだってあの時の事を完全に整理つけた訳じゃないよ? ただ、それでも今は颯人が居てくれるだろ?」
「――――え?」
「あの時の事は今でも思い出すだけで嫌な思いになるけど、颯人は……アタシの希望は今ここに居る。そう思えば、嫌な思い出だって乗り越えられるんだよ」
「え、あ、そう……」

 自分の事をじっと見つめてそんな事を告げる奏に、颯人は一瞬自分の耳を疑った。
 奏がそんなことを自分から口にするとは思ってもみなかったのだ。

 何時も口先手先で奏を翻弄する側だったので、思わぬ奏からの天然の反撃に珍しく気が動転してしまったのである。
 らしくなくドギマギする颯人だったが、それでも流石にマジシャンとしてポーカーフェイスを鍛えていただけに、その内心を奏に悟られるようなヘマはしなかった。残された理性と表情筋を総動員して見た目だけでも平常を保って見せた。

 もしここで表情を少しでも変化させていたら、すかさず奏が鬼の首を取ったように攻め立てるだろう。

 尤も、平常を保てたのは表面だけで心の方はまだ動揺しまくりだったが。

「ん? 颯人?」
「んあっ!? 何っ?」
「何? はこっちのセリフだよ。どうした、急にボーっとして?」
「いや…………な、何でもねぇよ。ちょっと色々考えすぎて、脳が糖分不足になっちまっただけだ」
〈コネクト、プリーズ〉

 話題を強引に変えるべく、颯人は少し離れた所に置かれているマスドの箱を魔法で引き寄せた。今朝、司令室の者達への差し入れとして持ってきた奴だ。
 これには当然奏や翼、響達の分も入っている。

「ちょいと休憩しよう少なくとも翼ちゃんと響ちゃんはまだ食ってないだろこれ」

 まだ動揺が抜けていないのか早口になる颯人に奏は疑問を感じたが、彼女にとってそれはどうでもいい事であった。

 颯人が箱を開けるのを、奏は近くでほくそ笑みながら見ていた。颯人と翼、響以外は知っている。あの中に、颯人が自分用に買ったやつが入っていないことを。

 期待に胸を膨らませる奏の視線と、呆れを滲ませた弦十郎達の視線を受けながら颯人は箱を開け――――――その中身を見た瞬間動きを止めた。

「…………おい、奏」
「ん~? 何?」

 突然動きを止めた颯人に何事かと注目していた翼と響。事情を知らない2人を余所に、颯人は低いトーンの声で奏に声を掛けながらゆっくりと彼女の方に顔を向けた。その颯人の様子に、奏はこみ上げる笑いを抑えきれないのか声を弾ませる。

「お前、俺が食うなよっつったドーナッツ食べただろ?」
「知らないよ、そんなの。最初から入ってなかったんじゃない?」
「ほほぅ――?」

 飽く迄も白を切る奏。颯人の言葉と奏の様子から何があったかを察して翼は思わず額に手を当て溜め息を吐いた。今日は珍しく奏が反撃しているようだが、正直に言わせてもらえば下らない争いとしか言いようがなかった。

 だがそれは飽く迄も外野から見た様子である。当の本人たちからすればこれもまたある種の真剣勝負であった。そして真剣勝負であるが故に、颯人もやられてばかりではなく反撃に移った。

「でも俺はそんなお前の正直な心を信じてる」
「は?」
〈コネクト、プリーズ〉

 颯人は真剣な表情で魔法陣から一つの小箱を取り出した。真新しい、買ってから一度も開けていないトランプの箱だ。彼は取り出したそれの未開封であることを示すセキュリティーシールを剥がすと、中身を取り出し素早くシャッフルし始めた。流石にカードマジックでよく扱うだけあって、その動きには一切の澱みや無駄がない。

 一頻りカードをシャッフルした颯人は、そこから一枚を奏に選ばせた。

「ほれ、どれでもいいから一枚引きな」

 言われて奏は少し顎に手を当てながら考え、本当に適当に一枚選んだ。彼女が選んだカードはクラブのJだった。

 颯人はそのカードを奏から受け取ると、マジックペンでそのカードに『犯人は私です』と言う文字を書き込んでいく。突如始まったマジックショーに、しかし最早これもここ数日で見慣れたものとなっている為何も言うことなく何が行われるのかを奏以外の周囲の者は見物していた。

 寧ろ神経を張り詰めているのは奏の方だ。まだ何も口に出してはいないが、これはタネを見破る事が出来なければ何か罰ゲーム的なものを課せられる流れである。それを全力で阻止する為、奏は颯人の一挙手一投足に神経を集中させていた。

 周囲からの視線を浴びつつ、文字を書き終えた颯人は奏を含め周囲の者にそのカードを見せつけ山に戻した。

「今、確かにカードはこの中に入ったな? これを今からシャッフルするぞ」

 再び颯人の手の中でシャッフルされるカード。奏がそれを真剣な表情で見つめていると、徐に颯人が今度は奏にカードのシャッフルを要求した。

「奏、お前も何回か切ってくれ」
「え?……おぅ」

 渡されたカードをシャッフルする奏。

 その様子を見て、響は翼に声を掛ける。

「あの、どうなるんでしょうこれから?」
「さあ? ただこの流れは…………」
「この流れは?」
「…………奏がロクでもない目に合う未来しか見えないわ」

 翼の懸念を他所に、奏は切り終えたカードを颯人に返した。颯人はそれを受け取ると、丹念にシャッフルされたカードを指差しながら周囲に問い掛けた。

「今、このカードの中には奏が選んで俺が書いた、『犯人は私です』と書かれたクラブのJがある。俺はそれが今どこにあるのかは分からない。でも……」
「でも…………何?」
「奏は、奏の心はそれがどこにあるのかを知っている。奏、俺が今から一枚ずつ引いてくからタイミング見てストップって言いな」

 言うが早いか、颯人は一枚ずつ引くとそれを脇に置いていく。何枚かそれが繰り返されるのを見て、山が半分ほどになったところで――――

「ストップ!」

 奏の声に、颯人が動きを止める。彼は今手に持っているカードを捨てずに、裏返したままの状態で全員に見せた。

「奏、お前が選んだのはこれでいいんだな?」
「あぁ、いいよ」
「よし。奏は確かにこれを選んだ。そしてこれには、さっき書いた文字が書かれてる。口では何だかんだ言っても、正直な奏の心は自分の罪を認め白状してる筈だ」
「大した自信だね。もしそれで何も書かれてない奴だったらどうする?」
「そん時は奏が思いつく限り一番高いケーキでも何でも奢ってやるよ。ただし書かれてるやつだったらその時は今日一日メイド服姿になってもらうからな」

 そう言うと颯人は裏返したままのカードをひっくり返して絵柄を全員に見せた。奏を含め誰もが固唾を飲んで見つめていると、その絵柄が明らかになる。

 果たしてそこにあったのは…………『犯人は私です』と書かれたクラブのJだった。

「はぁっ?!」
「あ……」
「あ~ぁ」

 颯人が勝ち誇った顔をする中、奏は驚愕の表情でカードを引っ手繰りそれに何の仕掛けも施されていないのを見ると、捨てられたカードや未だ颯人の手の中にある山をも奪い取り何かタネがないかを確認していく。特にカードが二枚重ねになっていないかを念入りに調べた。と言うのも、過去に似たようなシチュエーションで全く同じようにして罰ゲームをさせられたことがあったのだ。その時のタネは予め全てのカードが二枚重ねになっているというものだったが、今回はそうなってはいないらしい。

「おいおい、買ったばかりの新品を開けたのはお前も見てただろ?」
「ぐっ――――!?」
「さぁて、奏?…………覚悟は良いか?」

 タネを見破る事が出来ず、悔しそうに歯噛みする奏の手を取り颯人はドレスアップのウィザードリングを嵌めさせる。咄嗟に翼や弦十郎、響達に助けを求める視線を向けるが、誰もが一様に全てを諦めた顔をしている。
 助けはなく、魔法は秒読み段階。事此処に至り、奏は全てを察した。あの時ドーナッツの事を話したのは彼の罠だったのだ。言われなければあんな変な色のドーナッツ、手を出すことはしなかった。颯人がキープしているドーナッツという餌に、奏はまんまと食い付いてしまったのだ。

「チックショォォッ!?」
〈ドレスアップ、プリーズ〉

 勝ち誇った颯人の顔を前に、奏は叫び声を上げあえなく魔法を掛けられてしまうのだった。 
 

 
後書き
読んでくださりありがとうございました。

執筆の糧となりますので、感想その他お待ちしています。

それでは。 
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