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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
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無印編
  第6話:奏、吠える

 
前書き
読んでくださりありがとうございます。 

 
 戦いが終わって、奏と翼の2人は二課所属の救護隊によって病院に搬送された。勿論、あの少女も一緒だ。

 あれだけの戦闘であったにも関わらず、装者2人は大きな怪我もなく簡単な手当てと休養を兼ねた検査入院で翌日には退院となった。尤も、奏に関しては精密検査もあったので翼に一日遅れでの退院だったが。

 そして、翼に遅れる事無事退院した奏。戦闘に関する諸々の報告と情報の整理の為に二課本部へと足を運んだ、彼女を待っていたのは弦十郎の鉄拳だった。

「この馬鹿者がぁっ!?」
「ぐっ?!」

 顔面をかなり容赦なく殴られ壁に叩き付けられる奏。年頃の少女を相手にやり過ぎと言う気もしなくはないが、そこは流石に色々と鍛えられているからか必要以上に痕が残ったりしないよう絶妙な力加減が為されている。

 何より、奏がこのように弦十郎に殴られるのは彼女が二課に入ってからはよくある事だったのだ。

 大体は独断専行する奏の自業自得によるものである。今でこそ大分鳴りを潜めているが、二課に配属当初は翼との連携などそっちのけで修羅の様にノイズを狩りまくり、その度に命令無視を繰り返しては弦十郎に鉄拳制裁を喰らっていた。

 奏がこんな事をしていたのは、言うまでもないだろうがウィズが原因である。
 あの日、遺跡で見せたウィズの圧倒的強さに奏はただ力を手に入れただけでは颯人を助けられないと、自身を強くする為に只管戦いを求めた。

 その結果、確かに奏の強さは翼に比べて抜きんでたものとなっていたが、その一方で翼との連携を疎かにしたが為に無駄に窮地に陥る事も何度かあった。

 3年と言う月日の中で奏も精神的に成長したおかげで今では翼とも問題なく連携が取れるようになっており、それに伴い彼女が弦十郎から鉄拳制裁を受けることも無くなっていたのだが、今回絶唱を使い自らの命を危険に晒したと言う事で久しぶりに弦十郎からの鉄拳制裁を喰らう羽目になったのだ。

「全く、何度言ったら分かるんだお前はッ!?」
「いっつつ……」
「もっと自分を大切にしろと、いつも言っているだろう! 特にお前の場合は絶唱など以ての外だぞ。分かったか!!」

 行動は乱暴だが、その表情と言葉は心から奏の身を案じていることが伺えた。寧ろ、彼女の身を案じているからこそ、暴走しすぎないようにかなり厳しく接しているのだ。

 奏自身もそれを理解し、且つ颯人の生存も確認できたこともあってか、彼女自身も驚くほどあっさりと弦十郎の言葉を受け入れ頭を下げた。

「分かってるよ、今回は悪かったって。それに、もう、んな無茶出来ねえよ」

 そう言いながら、奏は右手の中指の指輪を撫でる。颯人に付けられた、ボンズのウィザードリングだ。
 彼曰くもう着けていてもいなくてもパスは繋がったままなので無理して着ける必要はないのだが、あの後も奏はその手に指輪を嵌め続けている。

 どこか愛しそうに指輪を撫でる奏の様子に、弦十郎は溜め息を一つ吐き表情を和らげると奏に訊ねた。

「それで、本当なのか奏? お前が受ける筈だった絶唱のバックファイア、それを今までお前が探していた明星 颯人君がその指輪を通して全て請け負ったと言うのは?」
「あぁ、颯人は確かにそう言ってた。だからあたしはもう絶唱は使わない。これ以上、あいつに迷惑はかけられないからな」

 今回颯人は大きなダメージを負うだけで済んだ。だがこの次もそれで済むとは限らない。いや、下手をすれば彼の寿命を縮める可能性だってある。奏は今後絶対絶唱を使うまいと心に誓った。

 奏の決意を感じ取ったのか、弦十郎はそれ以上奏の絶唱使用に関して何かを言う事は止めた。代わりに話を件の颯人自身の事に切り替えた。

「しかし、まさか本当に生きていたとはな。奏、本当にあの時の彼が明星 颯人君で間違いないんだな?」

 ライブステージでの戦いの様子は、会場内にある監視カメラの映像からすでに確認している。だからこそ奏が絶唱を使ったことも弦十郎たちの知るところとなったのだが。

 そして当然そこには、途中から戦いに乱入して奏に近付いた颯人の姿も映っていた。
 そこで漸く弦十郎達は、颯人の存在を確認したのだ。

「あぁ、あれが颯人だ。信じてなかったのか?」
「そりゃそうよ。今だから言っちゃうけど、奏ちゃんが言う颯人君は3年前に遺跡でノイズに殺されてて、連れ去られたっていうのは奏ちゃんの妄想だと思っていたくらいだもの」

 歯に衣着せぬ言い方で颯人の生存を信じていなかったと告げる了子に、奏の鋭い視線が刺さる。

 だがそれも仕方のない事である。了子だけではなく、弦十郎も含め二課の職員は誰もが同じようなことを思っていたのだ。
 当時の彼女にそんなことを言ったら大暴れするだろうことは想像に難くなかったので、誰も口に出すことはしなかっただけである。

 以前の奏であればこんなことを言われたら誰が相手だろうと殴り掛かっていただろうが、颯人の生存が直接確認できた今、心に余裕を取り戻した奏は沸き上がった怒りを自らの意思で静める事が出来た。

 そんな奏に安堵の溜め息を吐きつつ、弦十郎は彼が使った力に注目する。

「とは言え、依然としてわからないことは多いな。彼がノイズを倒せた事もそうだが……」
「本当にねぇ。どう見てもシンフォギアを使ってる感じじゃないのに、この拳銃みたいなので次々とノイズを倒しちゃうなんて。これも彼と一緒に居た仮面の男の言う、魔法ってやつなのかしら?」

 そう言いながら了子は手元のコンソールを操作してモニターにある映像を映した。それは会場の外、ビルの屋上に立つウィズの姿を映したカメラの映像だ。

 その映像の中でウィズが上空に手を翳すと、空に無数の魔法陣が現れ次々と爆発が発生し、空からライブ会場に迫っていた飛行型のノイズを次々と撃ち落としあっという間に全滅させてしまった。
 さらに彼は別の魔法でその場から一瞬で会場内に移動すると同様の魔法でノイズを殲滅していくのが別のカメラに映っていた。

 見たこともない攻撃でノイズを圧倒する、ウィズの戦闘力に弦十郎を始め二課の職員は目を釘付けにされる。

「…………凄いものだな。奏、お前はこれを以前にも見たことがあるんだな?」
「見た。忘れもしない。あの時もあいつはあの爆発で、あたしと颯人を守ったんだ」

 厳密には、颯人を守っただけなのだろう。奏は恐らくそのついでだ。

 その事に奏は己の力不足を再認識し、拳を握り締める。こうして力を得たからこそ分かる。ウィズの力は圧倒的だ。あの絨毯爆撃もかくやと言う攻撃に曝されては、自分は何も出来ずに敗北することが嫌でも理解できてしまった。

 それでも幸いなのは、颯人の言葉を信じるなら彼は敵ではないという事だろうか。

「それにしても魔法ねぇ。奏ちゃんの絶唱のバックファイアを請け負った事と言い、この攻撃と言い。是非とも直接会って話を聞きたいところだけど…………」
「な~に、そう心配しなくてもその内会えるよ。あいつが、颯人が会えるって言うんだ。それまでの辛抱さ」

 そう言って奏は指輪を撫でる。脳裏に浮かぶのは、颯人が別れ際に奏にプレゼントした一輪の花、ダイヤモンドリリー。今は彼女の自室の花瓶に差しているその花の花言葉は、『また会える時を楽しみに』、だ。

 彼は奏と再び会える時を待ち望んでいる。その事が今の奏の心の支え、希望となっていた。
 すぐには会えないかもしれない。だが、きっと再会の時は来る。彼が再会を約束し待ち望んでくれているなら、自分もその時を待ち続けよう。

 奏はそう心に誓うのだった。




 ***




 それから数日、ノイズの襲撃は鳴りを潜めており、一見すると平和な日々が続いていた。

 だが、実際は平和なんてものではなかった。あの事件以降、厄介な問題が発生していたのだ。

 あの事件での生存者に対する、悪質なバッシングである。主にマスコミと評論家があの事件での生存者を一方的に悪者に仕立て上げ、生存者の中には既に住所が割れるなどして周囲から迫害を受ける者が出ているのだ。

 ただあの場で奏と翼の歌を楽しみにし、そして突然の災難を何とか生き延びることが出来ただけの無実な観客たちが、だ。

 その現状を聞き、奏は黙っていられなかった。

 確かにあの事件での死者の中には人災によって命を落とした者も少なくはないのだろう。
 だが、それが当事者の間で諍いとなるならともかく、無関係な世間が生存者だけを一方的にバッシングすると言う現状が許せなかった。

 しかし奏が何よりも許せないのは、そもそもあのライブを行った自分たちツヴァイウィングに対しては何のアクションも起こしていないくせにただ見に来た観客だけを叩いている事だ。
 これで世間が奏たちの事もバッシングしていると言うのであれば、この後の奏の行動ももっと大人しいものになっていたのだろうが、生き残った観客だけを悪者にしている現状は必要以上に彼女の神経を逆撫でした。

 故に、奏は行動を起こした。

 その日も、テレビで大きく取り上げられているのは先日のツヴァイウィングのライブ会場で起こった、ノイズによる災害を取り扱ったものだった。
 被害の詳細確認などもあるが、何より大きく取り上げられているのが被災した生存者が如何に非道かと言うものである。

 曰く、生存者は我が身可愛さに他人を見捨てた外道である。

 曰く、ノイズよりも生存者の方が悪い。

 曰く、生存者に裁きの鉄槌を。

 司会やメディアによく顔を出す評論家、コメンテーターが口を揃えて生存者をバッシングし、それに感化された事件と関係ない視聴者が頷く。そして大多数の者はそれに異を唱えることなく、否、異を唱えたことで自分も異端扱いされることを恐れて何も言う事はない。

 集団の恐ろしいところは正にそれだ。例え大多数の意見に間違っていると思えるところがあろうと、少数派の意見は多数派に容易く踏み潰されてしまうのだ。

 この日も終始生存者へのバッシングだけで番組が終わると、誰もが思っていた。

 だが、この日は違った。今この時この瞬間、誰も言えなかった多数派の間違いを正面から指摘する者が現れたのだ。

「ちょっと待ちやがれテメェらッ!?」

 突然その生放送番組に乱入したのは、怒髪天を衝く勢いで怒り心頭な様子の奏だった。彼女は並み居る警備員や撮影スタッフを薙ぎ倒しながら番組に乱入すると、カメラの前で堂々と司会や評論家を前に彼らの意見に異を唱える。

「お前らがあの事件の生存者の何知ってるってんだッ!? あの場に居もしなかったくせに、好き勝手言ってんじゃねえっ!?」
「あ、貴女は、ツヴァイウィングの天羽 奏さんッ!? こんなところで何を?」
「何をだ? んなもん決まってんだろ、お前らがアホな事抜かしてるからその間違いを言いに来てやってんだよッ!?」

 奏は机をひっくり返す勢いで拳を叩き付けると、右手の親指で自らを指さしながら啖呵を切った。

「いいか、よぉく聞けッ!? 今回の事件、まず文句があるならあたしらツヴァイウィングに言えッ!?」
「はぁっ!?」
「あのライブをやったのはあたしらだッ! 観客は、それを楽しみにやってきただけだッ! つまりあの事件の最大の原因はあたしらにこそある筈だッ! 分かるか? そもそもあたしらがライブをやらなけりゃ、あんな事件は起きなかったんだよッ! それを理解せずただ生存者が悪いとか、お前ら全員頭に豆腐でも詰まってんのか、あぁっ!?」
「で、ですが、実際人災で多くの方が──」
「じゃあお前同じ状況になっても誰にも迷惑かけずに生き残る自信があるのかッ!? それとも同じ状況に立ち会ったことあるのかお前はッ!?」
「い、いや。それは……その…………」
「どうせお前、話聞いただけで勝手に想像して決めつけてるだけで、実際の状況とか何も知らねえんだろうが。群衆がパニック起こしたら後先考えてる余裕も無くなるってことくらい、教養あるならわかるだろうがッ!? 評論家名乗るならちったぁ頭働かせろ、この脳タリンの馬鹿野郎ッ!?」

 勢いに飲まれつつも何とか反論した評論家を罵詈雑言混じりに言葉で黙らせると、カメラの方を向いてテレビの向こうの視聴者に向けて口を開いた。

「これ見てるお前らもだッ!? どうせこれ見てるの、あのライブ会場に居もしなかった連中だろう? そんな奴らが知った風な口きいて生き残った連中をどうこう言うんじゃねえッ!? 生き残った連中は文字通り、命の危険を肌で感じたんだ。それを知りもしない連中がとやかく言うなッ! もし納得できないってんなら、まずあたしに文句を言いに来いッ! あたしは逃げも隠れもしないッ! そして何よりあたしも生存者だッ! それもあのライブをやった、観客が集まった理由のだッ! あの事件で誰よりも文句を言われる筋合いがあるのはこのあたしだッ!」

 それは、奏のアーティスト生命を賭けた啖呵だった。下手をすればこれでツヴァイウィングは干されるどころか、多くの民衆からのバッシングに遭いまともに生活すら送れなくなる危険性がある。

 だが奏は止まる気はなかった。ここで止まってしまっては、あの時命をかけて戦ったことが無駄になってしまう。

 何より、自分のライブで多くの人が不幸になったというのに自分だけがのうのうとしていては、颯人に顔向けできない。同時に、同じ立場なら颯人もきっと同じ行動をしたという確信があったというのもある。

「だからあの事件で文句があるなら、まずあたしに言えッ!? それが出来ないなら生き残った連中に鞭打つような真似してんじゃねえッ!? 分かったか、日本全国のクソ野郎どもッ!!?」

 その言葉を最後に、奏は現場を後にした。

 残された司会やコメンテーター、評論家は何もいう事が出来ず、なし崩し的にその番組は終了となった。

 その後の事を簡潔に述べれば、結果的には何かが大きく変わるという事はなかった。あの番組以降も依然として生存者への迫害は続いた。番組以前に比べると大なり小なり大人しくなった印象はあるが、その程度だ。

 一方で、あれだけの啖呵を切った奏たちツヴァイウィングに対してもこれと言って大きなアクションは起こらなかった。
 流石に何の波風も立たないという事はなく、特に奏をバッシングの対象にする声は多少上がったが、アーティスト生命に支障が出るほどの何かはなかった。

 ただ流石にテレビであれだけの罵詈雑言を口にしておいてこれまで通りに活動すると言う訳にもいかないので、当面は活動を自粛することとなる。

 肝心の奏がどうなったかと言うと、テレビ局を後にした後放送を見ていた弦十郎が向かわせた慎次により強制的に本部へと連行され、勝手な行動をしたことをこっぴどく叱られた。
 事は奏個人だけでなく、翼を含めたツヴァイウィングに関わった者全員に影響することだったのだ。寧ろ叱られる程度で済んだのは最大限の恩情かもしれない。

 結局のところ、奏の行動は特に社会に対し大きな影響を及ぼすことはなかった。精々、ツヴァイウィングの奏と言う少女に対する民衆からの印象が変化した程度だ。

 だが、彼女の行動は決して無駄ではなかった。この時の彼女の行動は、少なくとも一人の少女に勇気を与えたのだ。

 奏がそれを知ることになるのは、それから2年後の事である。

 そして、その2年後…………彼女は指輪の魔法使いと再会を果たす。 
 

 
後書き
今回はちょっと奏を乱暴に描きすぎたかな?でも今XDUのゴジラコラボを見てる限りだと、自分の納得できない事なんかにはとことん食って掛かる感じがするんで、あながち間違っていないと思いたい。

さて、次回より本格的に原作と交わっていきます。皆さん待望の颯人の変身もだんだんと近付いていますので、楽しみにお待ちください。 
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