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緋弾のアリア 〜Side Shuya〜

作者:希望光
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第1.5章(AA1巻) 切られし火蓋(リマインド)
  第13弾 〜Happening≠Finishing(連続する災難)〜

 
前書き
お待たせしました。
第13話です。 

 
 今の俺が置かれている状況、それはハイジャックである。
 人数は、足音だけでも3、4人はいるな。
 恐らくだが、コクピットの中にもいる筈である。
 それを踏まえた上でいくと、最低でも4人は居るな。

 俺は目を軽く開いて辺りの様子を伺った。
 その視界に入ったのは、犯人と思われる男が2人である。
 見ると、乗客に銃を突きつけている。何をやっているんだ? 
 すると1人の男がこちらに向かってきた。
 そして、俺の真横に立ち銃を向けてきた。

「おい、起きろ!」

 男は、俺に向かってそう怒鳴った。
 男に対して、隣に座っているセアラさんが言い返した。

「やめてください! 寝てる人を起こさなくても良いでしょ?」

 すいません、セアラさん。起きてます……。

「黙れ! とっとと言った通りにしろ!」

 怒鳴りかえした男は両手で持った銃———AKMを俺に向けてきた。
 AKMは、ソビエト連邦軍が使用していたAKー47を改良したものである。
 7.62mm弾を使用する自動小銃で、1回に装填できる弾の数は30発。

 一体、どうやってそんな銃を機内に持ち込んだんだよ……。
 男はAKを俺へと向けて再び怒鳴った。

「早くしろ! さもねぇと、撃つからな!」

 あ、これ撃ったことのない奴の台詞だな。

「良い加減にしてください!」

 セアラさんがそう言い返すと、男はセアラさんへとAKを向けた。
 その瞬間、俺は反射的に男に飛びかかった。
 足払いで相手を床へと倒し上から馬乗りになる。

「何だお前! この!」

 男は俺を逆に押し倒そうとする。不味いな……体格で圧倒されてしまっている。
 俺はそのまま男に押し倒された。
 そして男は、懐からナイフを取り出し、俺の顔に突き刺そうとした。

 瞬間、俺の中で血流の流れが変わる。バーストモードの表れだ。
 俺は、男の右腕を左手で掴んで自分の方へと相手を引き寄せる。
 そして、右肘で肘鉄を相手の鳩尾に入れる。

「グハッ!」

 男は苦しがりながら床へと倒れ伏そうとした。俺はすかさず左肘で首筋に当身を放つ。
 男はそのまま失神してしまった。
 俺は、ゆっくりと立ち上がった。

 俺は改めて、自分がバーストモードになっているということを認識する。
 しかし、血流に何処と無く違和感を感じる。
 いつも通りでいつも通りでは無いこの血流は恐らく———俺の怒りが極限まで溜まっていたのが爆発したからであろう。

 バーストモードは極限状態(・・・・)になることで発揮される。この極限状態は、生死が関わる事でなくても良い。心理的に危なくても発動できてしまうのである。

 特に今回の件に関しては、トリガーこそ普段と同じようなものだが、基盤となったものが怒りであるため、こうなったのであると思う。
 顔を上げるともう1人の男がこちらに銃を向けていた。こちらの銃も同じくAKM。

「てめぇ、何者だ!」

 男は叫んだ。
 俺は、武偵手帳を見せながら答えた。

「武偵だ。大人しくしろ」
「お前みたいなガキが武偵だとぉ? 舐めやがって!」

 男はAKの引き金を引こうとした。
 俺はとっさの判断でポケットから出したフォールディングナイフを展開しながら銃口へと投げた。

 ナイフが銃口に刺さったAKは発砲と同時に先端部分の方が変形してしまい、使い物にならなくなってしまった。
 男は使い物にならなくなってしまったAKを投げ捨てようとした。
 俺は素早く男に近寄ると、相手の腕を掴んでねじ伏せる。

「ガキが相手で悪かったね」

 そう言った後、男の両腕をブレザーのポケットに入っていた結束バンドで縛った。同じ様に両足も縛った。
 俺は、機体の後方にもいるであろう犯人を探しに、ビジネスクラスへと通じる扉を開く。
 扉を開けると、待ち伏せされていたらしくAKを構えた男が立っており、そのまま俺に向けてAKを乱射してきた。

 発砲音と共に乗客の悲鳴が上がる。
 慌てて俺は扉を閉めたが、5発程被弾した。
 お陰で身体中が痛むが、幸いにも頭などには当たっていない。

 参ったな……扉を開けようにも、待ち伏せされて居る。
 そんな事を思っている俺の目に、床が映った。
 直後、俺の頭に電流が走った様な感覚が起こった。
 何だ。何が言いたいんだ。

 今の俺の思考力が落ちていることはお前が一番分かっている筈だぜ。
 ———ああ、そういうことか。分かったよ。
 全部お前———バーストモードの感覚(・・・・・・・・・・)に任せろって事だろ。

 俺は腰のホルスターからDE(デザートイーグル)を抜き、安全装置(セーフティー)を外す。
 そして、扉を開くとほぼ同時に、俺は飛び出した。
 男は突然の事に対処が遅れたらしく、慌ててAKの銃口を俺に向けた。
 そして、引き金(トリガー)を引こうとした。

 俺はバーストモードの感覚のみを頼りにして、床に向けてDEを発砲した。
 斜め下に放たれた弾丸———.50AE弾は、防弾性の床に当たり反射した。
 そして、男の持っているAKの引き金に、男の手を掠める事なく当たり、AKの引き金を破壊して使い物にならなくした。

 男は何が起きたのか分からなかったらしく呆然として居る。
 俺は近づくと足払いで相手を押し倒す。
 それで我に返ったらしい男は暴れ出す。
 暴れる男の腕を強引に捻り上げた。

「クッ……! この野郎!」

 あんまり暴れない方が良いと思うけどな。
 一応忠告ぐらいはしておくか。

「あんまり暴れない方が良いよ。自分の力で腕が折れるかもしれないから」

 俺がそう言ってからも男は暴れていたが、次第に踠き始めた。
 俺は両腕を結束バンドで縛る。
 男は観念したようで、大人しくなった。

 男を縛った俺は、エコノミークラスの方へも向かったが、犯人と思しき人物はいなかった。
 ただ、不可解な事があった。
 20〜30代くらいの会社員のような男が、新聞に目を通しながらも、チラチラとこちらを見てきた。

 しかし俺は、その男に気を止めることなくスイートクラスへと戻った。
 どう見ても普通の乗客だったしな。他にも俺の事チラ見してくる客もいっぱいいたわけだしね。
 自分の座席付近に向かうと、セアラさんが倒れている男達の容態を確認していた。

「やった本人が言うのもアレですけど、容態はどんな感じですか?」
「普通よ。そっちの倒れてる人も昏睡しているだけみたいだから」

 そりゃ、加減してるから容態は普通だよな。

「他に犯人は?」

 そう思っている俺に、セアラさんが尋ねてきた。

「後ろに1人いましたが、他はいませんでした。ただ、コクピットの中に立て籠もっているかもしれません」

 そう言った途端、俺のいる通路の先にある、コクピットの扉が開け放たれた。そして、中にいた武装した男が叫んだ。

「動くな、俺の言う通りにしろ! さもないと———」

 そこまで言った男は、視線を斜め後ろに送る。
 コクピットの中には、両手を頭の後ろに付けた状態になった機長と副機長がいた。
 そういう事か……!! 動けば、コクピットの中で乱射すると。

 今の状況から把握するに、操縦はオートパイロットの筈。
 もし、乱射された場合どうなるか。それによって何が起きるかは容易に想像できる。

「ッ……」
「先ずは手始めに、そこのお前」

 男は俺を指差した。

「お前には、仲間が散々世話になった様だからな」

 そう言った男は俺にAKMを向けてくる。
 狙いは———頭部。
 おいおい、どんだけ危ない王様ゲームだよ。
 俺は、銃口の向きを逸らすために、徐々に態勢を低くしていく。

「動くんじゃねぇ! さもないとどうなるか分かってんだろ!」

 そう言った男は、銃を向けながら怒鳴った。そして、不敵な笑みを浮かべた。
 男は引き金を引こうとした。
 俺は瞬時に神回避(エスケープ)を行う。

 すると、銃声が鳴り、先程まで頭のあった位置を弾丸が通っていく。
 そして、その弾丸———7.62mm弾は、コクピットの中にいる男のAKの銃口へと吸い込まれて行った。
 そして、男の持つAKは壊れた。

 側から見れば偶然に見えるのだろう。
 しかし、これは全て俺が、いや———バーストモードが感覚で行った(・・・・・・)こと。
 俺はコクピットの方向へと走りながら、即座に抜いたDEを後方に向けて放つ。

 放たれた弾丸は後ろにいる、先程まで昏睡していた男の足に着弾する。
 撃たれた男はその場で足を抑えてうずくまる。
 俺が今放った弾は非殺傷弾(ゴムスタン)
 その名の通り殺傷力の無い弾である。

 先程の銃撃はこの男が行ったものだ。
 何と無くだが、俺は起き上がって来たことに気付いた。
 恐らくだが、コクピットにいた主犯格の男もこの男に気付いていて、ギリギリまで俺の視線を正面に固定しようとしていたのだろう。

 だが、今の俺にはそんなことは関係ない。寧ろ逆手に取ったと言ってもいいだろう。
 後ろの男の狙う位置を誘導して、放たれると同時に回避して相手に当てる。
 この一連の動作に名前をつけるなら———銃弾誘い(ガイド)

 後方の男を戦闘不能にしながら、俺はコクピットへと滑り込む。
 男は、懐からナイフを取り出し切りかかって来たが、瞬時に背後を取った俺は、ほぼゼロ距離で非殺傷弾を撃ち込む。

 男は顔を歪め悶絶していた。
 俺は男の両腕を縛った。
 機長と副議長は、ぐったりとしてしまった。緊張が解けたのであろう。
 俺は、機体後方で拘束した男の回収へ向かった———





 4人の犯人を一箇所に集めた俺は自分の席に座っている。
 犯人達は俺の視界に入る位置に集めてある。
 因みに、ファーストクラスに居た乗客は安全面を考慮して、全て後方へと移動してもらった。

 今は、セアラさんがCAさんと話している。恐らく、到着までの対処を話し合っているのだろう。
 すると突然、CAさんが声を上げた。

「お客様お待ちくださいこれより先は———」

 その言葉を遮るかの様にドンと聞こえた。恐らく突き飛ばしたのであろう。
 そして、足音は早足でこちらに向かって来る。
 足音が止まると同時に、俺の正面に人影が現れ刃物が振り下ろされた。
 俺はその刃物を相手の右手首を自分の右手で掴んで止める。
 そこに居たのは、エコノミークラスに居たあの男だ。

「なんの真似だ?」

 俺の問いに対して男は声を荒げて言った。

「黙れ! お前なんかに俺の完璧な計画を潰されてたまるか!」

 自尊心の高いやつだ。俺はこの手の犯人は苦手なんだよな。

「今回の騒動の首謀者はあんたか」

 男は怪しげな笑みを浮かべながら答えた。

「そうさ、今回のハイジャックを計画したのは俺だ」

 ここで俺は思ったことを正直にぶつける。

「アンタ、今ナイフを持ってるこの右手———利き手じゃないんだよね?」

 図星だったらしく、男は驚愕していた。

「簡単な事さ。利き手としては力が弱すぎる。でも、敢えて利き手で持たないということは———利き手の左手で何かを持っているんだよね?」

 バーストモードが切れかかった事によって若干戻ってきた思考力で立てた推測を相手にぶつける。
 男は反射的左手を出す。結構速いな。
 でも、まだ続いてるバーストモードの目からは逃れられないけどな。

 俺も左手を出して対応する。
 男の左手にはデリンジャーが握られている。見た感じだと、装弾数は2発ってところだな。

 俺の左手には、相手のデリンジャーの銃口に当たるよう逆手持ちしたシースナイフが握られている。
 今俺の腕は自分の前で交差する形になっている。

「どうする、このまま撃ってもいいけどその銃爆発するよ?」
「ッ……! だが、何もできない状況はお互い同じだろ?」

 男はそう言った。本当にそうかな? 

「何勘違いしてるんだ」
「は?」

 男は何を言っているのか分からないという顔をした。

「これでもくらってろ!」

 俺は右足を振り上げ、相手の鳩尾に入れる。

「うぉっ!?」

 俺は相手の腕の力が軽く抜けた瞬間に、そのまま右足で相手の鳩尾を突くという追い打ちをした。
 男は胸を押さえながら倒れ込んで悶えてた。
 倒れ込んだ男の顔の前に立った俺は正直な感想をぶつける。

「アンタはさっき、完璧な計画(・・・・・)と言ったな? アンタの計画が失策になった理由は———全てアンタにある」

 俺は計画の何が悪かったのかを話す。

「アンタは相手の戦力を見誤った」

 それに、と言って俺は続ける。

「アンタの計画は、恐らくだけど武偵などが乗り込んでいない時の計画。武偵などが乗っている時の想定の計画をアンタは立てていなかった。違う?」

 男は横目でこちらを睨み、口を開く。

「何が……言いたい?」
「まだ分からないのか?」

 俺は話の核心を率直に言った。

「アンタは計画を立てた時点で、失敗が決まっていた(・・・・・・・・・)んだよ!」

 俺の言葉を聞いた男は驚愕していた。
 俺は追い討ちをかけるかの様に続けて言った。

「何が完璧な計画だ。笑わせるんじゃねぇ!!」

 俺の言葉で自尊心を折られたのか、男は悶えたまま涙を流していた。
 やっぱり、この手のやつはこれくらいしないと大人しくならないな。
 俺は男の手に手錠をかけた。
 そして、男を仲間のそばに座らせた。
 俺はリーダー格の男の目の前に屈んだ。

「……何だ? まだ、俺を罵るのか?」
 ……なんか、不貞腐れてるんだけど。
「いや、ただアンタ等を尋問しようかなと思って」

 リーダー格の男はそっぽを向いた。
 暫く俺は男を見ていたが、やがって見るのをやめて立ち上がった。

「……?」

 男はこちらを見て首を傾げた。

「やめた。アンタ等を尋問してるだけ無駄な気がしてきた」

 俺は座席へと戻る。

「尋問しなくて良いの?」

 セアラさんがそう聞いてきた。

「ロンドン武偵局に丸投げしようと思いましてね。それと、もう時期ロンドンに着きますよね?」
「ええ、そうだけど」
「向こうに着くまで犯人たちを見張っててもらっても良いですか?」
「構わないわ」
「ありがとうございます」
「あ、後」

 セアラさんに呼び止められた俺は彼女の方を振り向く。

「何ですか?」
「どうして結束バンドなんか持っていたの?」

 ああ、その事ね。

「だいぶ前に家の配線を纏めるために買ったんですけど、そのこと忘れて制服に入れっぱなしにしたみたいで入ってたんですよ」

 それを聞いたセアラさんは納得したような顔をした。
 俺は座席に着くとそのまま眠ってしまった———





 飛行機が止まった衝撃で目を覚ました。
 どうやらロンドンのスタンステッド空港に、無事にたどり着くことができた様だ。
 俺は荷物をまとめると、セアラさんとともにハッチから機外へと向かう。
 出てみると外は夜———うわ、ここ滑走路じゃねぇか。ハイジャックされたって情報入ってたのかな? 

 階段の下に視線をやると、複数の人間、それも武装をしている奴らがいた。
 恐らくロンドン武偵局の者達であろう。
 その後ろには、ロンドン警視庁の人間が多数いる。
 そいつらは、俺とセアラさんが階段を降りきるなり取り囲んで来た。

 後ろも銃を構えて厳戒態勢だな。
 あ、これあれか。俺らのこと犯人だと思っているのか。
 俺は武偵手帳を取り出し見せる。
 するとそいつらは、包囲を解いた。

 本当に犯人と勘違いされてたのかよ……。
 ていうかなに? 武偵手帳の名前見たのか知らないけど急に謝ってきたよ。
 なんとかやめさせて、一連の流れを軽く説明した後、「後でロンドン武偵局に向かう」と伝え、その場を後にした———





 空港の入国審査の部分は事件のせいかピリピリしていた。
 俺は、入国審査の金髪の色白お兄さんに武偵手帳を見せて「この後、ロンドン武偵局に用がある」と伝えるとセアラさんも一緒に通してくれた。何故かその時のお兄さんは、満面の笑みを浮かべていた。

 てか、お兄さん入国審査軽すぎない? 
 周りのピリピリした雰囲気に流されてた自分が馬鹿馬鹿しくなってくるよ。
 俺たちは空港の入り口を出てロータリーに出る。

 出て直ぐに右側を向いた。
 するとそこには、身長160センチ程の茶髪でポニーテールの少女が,笑顔でこちらに向かって手を振っていた。
 彼女が、マキだ。





 ———大岡 茉稀
 ロンドン武偵局所属のSランク武偵。俺の依頼者(クライアント)であり、俺の幼馴染。
 二つ名持ちで、二つ名は『死角なし(ゼロホール)のマキ』

 1年の時の俺は、彼女からの依頼をこなしに良くロンドンを訪れていた。
 元々俺と同じく東京武偵高に居たが、1年の1学期の途中ぐらいからロンドン武偵局に呼ばれて移っている。

 武偵高にいた時は、諜報科(レザド)強襲科(アサルト)を兼任していた。ランクは諜報科がS、強襲科はAだった。





「久しぶり」
「うん、久しぶり」

 彼女の言葉に短く返した。
 するとセアラさんの携帯に電話が入った。
 電話に出たセアラさんは2分程で電話を切った。

「どうかしたんですか?」

 俺は尋ねる。

「上から命令が来たの」
「公安のですか」
「ええ、今から日本に戻るわ」
「気をつけてください」

 マキが言った。

「ありがとうございました」

 俺はお礼を言った。
 セアラさんは笑顔を見せた後、空港の中へと向かって行った。

「公務員っていうのも大変なんだね」
「そうだね」

 俺の呟きにマキは短く返してくれた。
 セアラさんを見送った俺たちは、車に乗り込んだ———





 今はマキの運転する車の助手席にに乗っている。
 彼女の運転する車は、トヨタのマークX。
 しかもジオ特別仕様車。色々と解せぬ。

「ねえ」
「何?」
「この車さ、2人で乗るにはデカくないか?」
「武偵局で出せる車がこれしかなかったの」

 え、これ武偵局のやつ? 

「武偵局に日本車なんかあったんだな」
「あるよ。何台かだけどね」

 そう言ったマキの顔は何故か嬉しそうだった。

「何がそんなに嬉しいんだ?」

 そう言われたマキは、ビクッとしながら顔を赤くしていった。
 ……本当にどうしたこいつ? 

「熱でもあるの?」

 マキは首を横にふるふると振った。

「ただ、シュウ君に久々会えたのが少し……嬉しかっただけだよ」

 マキは赤い顔のままそう言った。

「俺に会えたのが嬉しいね……。俺と一緒にいてもロクなことが無いぞ」
「なんで?」
「例えば———ハイジャックに遭遇したりするからかな」
「そんなことないよ。そういえばハイジャックって、シュウ君の乗ってた飛行機で起きたの?」
「そうだけど。出動命令来てないの?」
「私は用事があって向かえないって言ったの」

 ええ……。それで断れちゃうの……。

「それになんとなくだけど、シュウ君が乗ってるんじゃないのかなと思ったの」
「俺が乗ってるとなんなんだ?」
「シュウ君が解決してくれると思ったの」
「どうしたらその根拠に至るんだ?」
「シュウ君の実力かな」

 おいおいマキさんや、私のことを信用しすぎじゃあないでしょうかね? 
 つうか何その根拠? 
 いや、確かにイギリス(こっち)で色々やってきましたけど……。

 何となく現実から逃避したくなった俺は携帯を開き、機内モードを切った。
 回線を見ると、イギリスの携帯会社の回線に変わっていた。
 機内モードを切った瞬間にメールが入って来た。
 メールの差出人は、アリアだ。

 なになに……『キンジがパートナーに決まった』だって? 
 おうおう、どういうこった? 
 何がどうしてこうなった? 俺の苦労は一体なんなんだ? 
 まぁ、どちらにしたってこっちに来る必要はあったんだがな。

 そういえばキンジと言えば———部屋の管理頼むの忘れてた。メールしとこっと。
『俺が戻るまで部屋の管理宜しく』っと。ハイ、送信。
 そう言えば、まだアリアからのメールに続きがあったな。

 えっとなになに———『妹に会って欲しい』だって? 何で? 
 え、何? そもそも、アイツ妹居たのか? 初耳だな。
 良く良く考えると、そんなに関わりがなかったから知らなくても当然か。
 そんな事を考えてると武偵局に到着した。

「着いたよ」
「ん」

 俺は車から降りると、マキと一緒に中へと入って行った———





 俺は武偵局で、ハイジャックの事後処理を行った。
 どうでもいいけど犯人達、武偵局(ここ)での聴取終わったら警察に送られるそうで。
 ロンドン警視庁に連れてかれるとか怖くね? 
 いや、本当のところはどうだか知らないけど。

 で、なんか知らんが俺宛に手紙が来ていたらしく、受け取って開けてみると———アリアからだった。
 これ絶対妹に会わないといけないじゃないですか。何故かって? 
 妹宛の手紙が俺宛の手紙の中に入ってるという状況だからだよ。

 俺の伝令係が決定したな、これ。
 そんな感じで項垂れた後、マキの住んでるアパートに行くことになった。
 そこまでは別にいい。でもな、移動手段が歩き。なんで? 
 まぁ、時間が時間だから交通機関もあまり当てにできないっていうのもあるから仕方ないといえば仕方がない。

 え、マキが住んでるのがどの辺りかって? 
 ベーカー街の辺りだったかな。ベーカー街までは、ここからそんなにかからない……はず。
 何となく不安を覚えながらも、マキとともに夜のロンドンを歩いていく。

 今日は満月の夜だったみたいだ。空には綺麗な月がうかんでいる
 なんかこの雰囲気、気恥かしいな。夜の街で美少女と2人っきりなんて。
 マキは可愛い。多分だけど、アリアにも劣らないんじゃないのかな? 
 夜のロンドンの静けさが、余計に場の空気を引き立てている気がしてきたよ。

「ねぇ」

 マキが唐突に口を開いた。

「どうした?」
「あの時———私と初めて会った時のこと、覚えてる?」

 マキと出会ったのは小学校の時。
 1年生の時のマキは入学から目をつけられていたらしく、3人組の上級生から虐められていた。
 ある時俺は、その場面に出くわした。

 その時の俺は、衝動的マキを庇って上級生の前に飛び出していた。
 上級生達は、俺を見るなり標的を俺に変更した。
 俺はこの時バーストモードになってしまい、上級生を返り討ちにした。
 この時からマキと仲良くなり、良く遊ぶようになった。

「ああ、嫌でも覚えてるよ」

 小1にして乗能力を行使して相手を返り討ちにしたんだからな。
 絶対忘れられないだろ。
 俺の言葉を聞いたマキは何故か嬉しそうだった。
 理由が全くわからんのだが。心当たりも無いしな。
 謎が謎を読んでるな、これ。

「あの時ね、嬉しかったの」

 マキが再び話し始めた。

「誰にも助けを求められなくて、とても怖かったの。そんな時、シュウ君が助けてくれた」
「アレは……前にも言ったけどたまたま助けただけ。それに……困っている人を助けるのは当たり前のことだろう」

 気恥ずかしくなった俺は、頭の後ろを掻きつつマキとは反対に視線を移す。
 そんな感じで言葉を交わせずにいると、前方で大きな音ともに砂塵が舞い上がった。

「「?!」」

 俺とマキは急いでそこへ向かった。
 そこへ向かってみると、建物の壁に大きなクレーターができており、クレーターの真ん中には同い年ぐらいの白髪の少年が倒れていた。

「おい、しっかりしろ!」

 俺は屈んで少年を抱き上げた。
 良かった。息はしている。
 だが、昏睡状態のようで目を開かない。
 少年は額の部分を切ったらしく出血していて、顔の部分には血が垂れてきている。

 こいつの顔を何処かで見た気がする……だが、思い出せない。何処でだ……? 
 そんなことを考えていた俺だが、思考を切って目の前に集中する。
 良く見るとこの少年の着ている服、東京武偵高(ウチ)の制服じゃん。
 どうりで、どっかで見た気がするわけだ。

「……チッ」

 俺は舌打ちをした。
 仲間を傷つけたり(こういう事)されるとどうも冷静になれないな。

「マキ、コイツを頼む」
「うん」

 俺はマキに少年を頼んだ。
 その時のマキは、不安げな表情を浮かべていた。
 俺はクレーターとは逆側の路地の方を向き、叫んだ。

「誰だ、こんなことしたやつは!」

 その言葉の後、暗闇から人影が現れた。

「私だけど」

 ———女?! それも成長期真っ只中といった感じの少女だ。
 その少女は闇に溶け込むようなマッドブラックと、闇に怪しく浮かぶ蛍光ブルーをの塗装を所々に施したプロテクターを着用しており、目には半透明の赤ヴァイザーを掛けている。

 その右手には、日本刀というよりは西洋刀剣に近い感じの刀を握っている。
 ただ、それは普通の刀ではなさそうだ。どう見ても長さが彼女の身長———1・5メートル程ある。
 さらに鎬や樋の部分には、筋のようプロテクターと同じ傾向ブルーの発光が見られる。

「お前がやった……のか?」

 俺は半信半疑で尋ねる。

「そうだよ」

 彼女は悪びれる様子もなく、普通に会話するかのように言った。

「何故こんなことをした?」

 俺は冷静さを保ちながら問いかける。

「サードがやれっていうから」

 ———サード? 誰だそいつは? 

G(グレード)20とか言ってた割には呆気なかったな」

 突然上から声がした。
 思わず俺は上を見上げた。
 そこには、屋根の上に立つ人影があった。

「誰だ?」

 俺が問いかけたが返事はない。代わりに、別の台詞が飛んできた。

「フォースにも勝てねぇようじゃ相手にもならねぇな」

 さっき、G20とか言ってたよな。
 そもそもG(グレード)とは超能力者(ステルス)の強さを表す値。
 この数字が大きければ大きい程、超能力者としては強い。

 そして、屋根の上にいる人物はあの少年のことを言ったはず。
 つまり、今倒れていた少年は超偵。
 そして、そこにいるフォースという少女は恐らくだか、手にした刀一本で強者の部類に入る超偵をここまで叩きのめしたのである。

「……何が目的なんだ」

 俺は再び屋根の上の人物に問いかけた。

「強い奴と戦うことだ」

 屋根の上の男は、満月を背後にそう言った。 
 

 
後書き
今回はここまで。 
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