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緋弾のアリア 〜Side Shuya〜

作者:希望光
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第1.5章(AA1巻) 切られし火蓋(リマインド)
  第14弾 〜G and H(『武力』と『理力』)〜

 
前書き
第14話です。 

 
 ……強いやつと戦う? 

「そんな事のためにコイツはやられたってのか?」
「そうだ」

 こいつの言葉からは他に何も感じられない。こいつは純粋に思っている事しか言ってないんだ。

「で、お前が望む強い奴———ってのはどういう奴なんだ?」

 駄目元で問いかけてみる。

「そうだな———例えばお前みたいな奴だな」

 ……俺? 

「どういう意味だ?」
「お前が『人間戦車(ヒューマン・チャリオット)』の樋熊シュウヤだろ?」

 こいつ、知ってやがるのか? 

「そうだったとしたらどうする?」
「隠さなくても良いんだぜ? ———お前の情報は全て知っている」

 チッ……掌握済みかよ。

「そうだ。俺が『人間戦車』の樋熊だ」

 俺はホルスターからベレッタを抜きながら返した。

「で、結局俺をどうするんだ?」
「まずはフォースと()らせて、お前がどのくらいなのかを見せてもらう。フォース」
「分かったよ、サード」

 そう言って、フォースと呼ばれた少女は手にした剣を振るった。
 俺は、右肩を時計回りに回して縦に振られた刃を紙一重で回避し、一歩下がって間合いを開いた。

「ふーん、これを避けるのか。でも、こんなの序の口だから当たり前か」

 避けられて当然といった感じてフォースは呟いた。
 普通は避けられませんけど。
 その時、何気なく違和感を感じた。
>
そして、制服の右袖に目を向ける。
 ……防弾制服が切れてる。
TNK繊維を用いているため、刃物でも切れないこの服が。

「どんな切れ味してるんだそれ?」
「今見たまんまだよ」

 それ、最初の攻撃避けられなかったら俺真っ二つだったじゃん。
 気持ちを切り替えながら、俺は右手に持ったベレッタをフォースに向けて連射する。

「銃撃なんて非合理的ぃ」

 そういったフォースは動かない。
 ……何が非合理的なんだ? 
 俺の疑問の答えは直ぐに出た。
 フォースへと直撃した9mm弾(パラベラム)は全て地面へと落ちた。
 そしてフォースは何事もなかったかの様に襲いかかってきた。

「言ったでしょ? 非合理的だって」

 俺は左へと飛びながら攻撃を避ける。今度は俺のいた地点にクレーターができる。
 どうなってんだコイツら。到底人間にはできないことしてやがる。
 俺は体勢を立て直し、銃を仕舞う。

 あのプロテクターに銃が効かないと分かった以上、銃は無用の長物。そして、無駄な事はしないという事を表すためでもある。
 そして、背中に差した2本の逆刃刀を抜きフォースへと向かって行く。

 俺の意図を理解したらしいフォースも同様に向かって来た。
 俺とフォースは斬り合った。
 しばらくの間静寂が其処を支配していた。

 そして、その静寂を断ち切るかのように金属片の落ちる音がした。
 俺は閉じていた瞳をゆっくりと開いた。
 そこには———刀身の真ん中辺りから刃の折れた逆刃刀が映った。

「———ッ!!」

 さらに俺の制服のブレザーの胸元に切れ目が入った。
 いつの間に切ったんだよ……! 全く見えなかった。
 出血はしていないとはいえ、これは素直に不味いかもしれない。

「サード、このまま行くと殺しちゃうけど?」
「そいつが死んだらそれまでって事だ」

 なんだよその扱い……だけど、本当に死んだらそれまでだな、この状況。
 なんとしても切り抜けなければ……! 
 俺はフォースの方へと振り向く。

「まだやるの?」

 フォースは刀を構え直しながら言った。

「ああ。俺は逃げるってのは得意じゃなくてね」

 そう言った途端にフォースは飛びかかって来た。
 しかも、速い……!! 
 フォースは剣の切っ尖を突き刺す勢いで迫って来る。

「あーあ、残念。結局非合理的だからやられちゃうんだよ」

 言葉と共に俺の胸へと剣が当たるその刹那———俺は左手を突き出し刃を受け流す。
 やっぱりここまで来るとお前に頼るしか無いみたいだな。バーストモード! 

「流した?!」

 フォースはいきなりの事に驚いていた。
 俺は折れた右手の刀を思いっきり横一文字に振る。
 振った時の勢いで、フォースを5メートル程後ろに飛ばす。
 飛ばされたフォースはバク宙を決めて着地する。

「ふーん、私達と同じか」

 何かを理解したと言ったような感じでフォースは呟いた。

(同じってどういう事だ?)

 考えれば考えるほど分からなくなりそうなので、それに関する思考を中断した。

「フォース、下がれ。後は俺がやる」

 そう言って屋根の上にいた奴———サードと呼ばれていた男は目の前に飛び降りて来た。
 思考を中断して正解だったみたいだな。

「なんで急に変わったんだ?」
「なったんだろ、強者としてのお前に(・・・・・・・・・)

 ここまで分かってるのか?! だとしたら、こいつは相当手強いぞ! 

「どうだかね!」

 俺はしっかりとした返答はせず、左の刃を振りかざす。
 サードはその刃を右手の指2本で掴んだ(・・・・・・・)
 何だこれ! 刀がビクともしない。

「こっちのお前でもこの程度か?」
「どうだか———ね!!」

 俺は左手の刀を離すと、相手の顎を目掛け右足からハイキックを放つ。
 同時に靴に仕込んだナイフを展開し、リーチを伸ばした。
 サードは刀を離して、右手で足を捉えた。
 全然攻撃がはいらねぇ……! 

「チッ!」

 俺は思わず舌打ちをした。

「随分と変わったところに付けてるな」

 サードは何食わぬ顔で言った。

「なら、こっちはどう?」

 掴まれて居る部分を支点として自分の体を持ち上げ、反動を利用して後ろ回し蹴りを放つ。

「オラよっ!」

 サードは俺の体が浮いた瞬間に手を離した。
 体勢を崩した俺は地面へと落ちて行く。普通ならここでジ・エンドだろう。
 だが、俺はまだ終わらない。

 右手に持った折れた刀を相手の顔目掛けて飛ばす。
 サードはその刀を左手で振り払う。
 ここまでは想定内。
そして、この僅かな瞬間だけで良かった。

 即座に空いた右手を地面に着けて支点とし再び後ろ回し蹴りを放つ。
 今度の攻撃は、相手の胴を捉えた。
 ある程度スピードも乗っていたのでサードは少し横にずれた。
多少のダメージも入ったはず。
 俺は地面を押して体勢を元に戻す。

「俺に1発かますとは——褒めてやるぜ」
「そいつはどうも」

 嬉しか無いけど。

「さて、お前には俺のとっておきを見せてやるぜ」

 ……とっておき? 

「———『流星(メテオ)』」

 そう言ったサードは溜めのような構えを取る。
 俺はカウンターができる構えをとった。
 なんだ。普通の正拳突き———なのか? 
 そして次の瞬間、サードが飛び掛ってて来た。

 俺は攻防を切り替えることを優先した構えと即座に変更した。
 この攻撃は受け止められる。そう確信していた。
 だが、俺は吹っ飛ばされた。後ろへ10メートル程。
 そして、建物の壁にめり込み止まった。

「ッ……?!」

 ヤバイ、背中を強打した勢いで呼吸が出来ない! 

「チッ……アイツやセカンドの奴が強いって言ってたから来てみたが———まだ、成長段階だったか」

 サードは俺に背中を向け立ち去ろうとした。

「……待……て」

 俺は何とか声を絞り出し相手を呼び止める。

「何だ?」
「お前は……何者……なんだ?」

 ようやくできるようになった呼吸をしながら言った。

「俺はGⅢ(ジーサード)だ。行くぞ」

 そう言ったGⅢは、その姿を物理的に消した。
 それに続いてフォースも消えて行く。

「お兄ちゃんに宜しく!」

 そう言ってGⅢ同様に消えて行く。恐らく光学迷彩の類いだろう。

(フォースの言う兄とは誰……だろうか……?)

 俺は緊張が解けると同時に意識も途切れた———





 目を覚ますと周りには警官などがいた。
 通報したんだな。

(そうじゃなきゃ規制線なんぞ貼られるわけが無い)

 俺は上体を起こした。
 ———アレ、良く良く考えてみると俺って壁に埋まってなかったか? 

「シュウ君!!」

 声のした方を向くとマキがいた。

「大丈夫?」
「ああ。それよりアイツは?」
「彼はさっき病院に搬送されたよ」
「容態は?」
「命に別状無しだって」

 本当か……! なら良かった。

「でも、本当に大丈夫? 10メートルも吹き飛ばされた挙句に壁にめり込んだけど?」

 ……そうだあの時、GⅢに殴られて吹っ飛ばされたんだ。
 あいつの拳、推定だがマッハ1は出ていたな。
 この衝撃吸収材を大量に詰めた改造制服じゃなかったら死んでたな。

「……取り敢えず、大丈夫。それより、そろそろお暇しませんか?」

 俺は様々な理由から来る疲労でヘトヘトだった。

「また倒れるのも嫌だし……」
「そうだね。ここは警察に任せて行こうか」

 俺は立ち上がるとマキと共にその場を後にした———





「シュウ君がここに来るのは久しぶりだっけ?」

 部屋に入りながらマキは尋ねて来た。

「そうだな。最後に来たのは去年の2学期頃じゃなかったかな?」

 最近こっち(ロンドン)なんか来てなかったしな。
 来る理由がなかったって言うのが1番な理由だけど。
 でも、今回は明確な目的があって来たわけだ。

「で、マキ。アレ(・・)は?」
「あるよ。入ってきて」

 そう言われたので俺は突入(?)する。
 中は……めちゃくちゃ綺麗じゃ無いですか。
 ゴミ1つ無いと言っても過言じゃ無いくらい綺麗だな。

「はい、シュウ君」

 唐突にマキに介入された俺は意識を現実へと戻した。
 マキが手にしているのは、2本の真剣。それも日本刀である。

「ありがとう。悪いな、長い間預かって貰って」

 お礼を言いながらそれを受け取る。
 この2振りの刀は俺の持っていた刀である。
 今右手に持っている、鞘に藍色のラインが入っている刀は『霧雨』。
 そして左手に持った、鞘に琥珀色のラインが入った刀が『雷鳴』。

 どちらも、俺が神奈川武偵高付属中学の時から使っている武器だ。
 だが、ある時から俺は真剣を振ることを辞めてしまった。
 その代わりに使っていたのが、あの逆刃刀だ。

「それから、逆刃刀壊しちまった……悪い」
「ううん、シュウ君が無事ならそれで良いよ。それに、また壊れても私が打ち直してあげるよ」

 あの逆刃刀はマキが打ってくれたもの。
 俺が刀を振らないと誓ったあの日に送ってくれたもの。
 そんな大切な物を壊してしまった。

「……」

 俺は無言で折れた逆刃刀を見つめた。

「とても大事にしてくれていたんだね」
「ああ」

 当たり前だろ。
これはここまでの人生で1番嬉しかった贈り物なんだから。

「私もシュウ君の打ってくれた刀———『氷華』と『炎雨』大切にしてるよ」

 あれは確か———武偵高に入学してすぐマキに作った刀。
 まだ、大切にしてくれてたのか。

「……お互い様だな」
「そうだね」

 マキは笑顔を向けた。
 その顔が可愛のなんので俺はドキッと来てしまう。
 お前そういう不意打ち何処で覚えて来るんだよ? 
 俺は話題を変える。

「明日もやる事づくめの気がするし———そろそろ寝る準備しない?」
「そうだね。明日はロンドン警視庁(スコットランド・ヤード)に呼ばれかもね」

 そんな事をお互いに言い合いながら、眠りにつく準備を進めて行くのであった———





 翌日、俺は1人でベーカー街221番地を訪れていた。
 マキは昨日の事後処理をしに行った。
 そこに立つのは改装こそされているが、歴史的な趣のある屋敷といった感じの建物だ。
何処と無く19世紀の雰囲気が漂ってくる。
 扉の横には彫金の表札がありそこには『Minuet Holmes』と書かれている。

(メヌエット……それがここの主人(あるじ)の名前か)

 今更ながら、この表札の綴りを見て『オルメス』って読めるな、とか思っちゃったよ。
 でも、ここはシャーロック・ホームズの住んでいたアパート。
 つまり正式な読み方は『ホームズ』。

 アリアはシャーロック・ホームズ4世って事か。
 うわぁ、気付くのめっちゃ遅かった……。
 手紙に書いてあった住所の時点で気付かなかった自分が情けないわ。

(その事は置いておいて早く用事を済ませ無いと)

 と、呼び鈴を押すと……白地に黒いフチ取りをした木のドアが開き、こちらも白黒のステレオタイプなメイド服を着た2人のメイドさんが玄関の左右にいた。
 瞬間、俺の脳裏に『リアル貴族』なる言葉が浮かんだ。

 俺はその言葉を素早く頭から消して、意識を視界へと戻す。
 そのメイドさん達は、ひと目で双子と分かる、俺と同い年ぐらいの金髪碧眼の白人少女。

「樋熊シュウヤです。昨日連絡した通りメヌエット嬢に会いに参りました」
「サシェです。ようこそ(ウェルカム)
「エンドラです。ようこそ(ウェルカム)

 髪が短い方がサシェで、長い方がエンドラか。取り敢えず覚えたね。
 なんか無愛想だけど、メイドってこんなもんなのか? 
 でもかなり美人ですね、この2人。
 とかなんとか訳のわからんことを解析してしまった。

「こちらへどうぞ。メヌエットお嬢様がお待ちです」

 サシェに案内されて廊下を歩いて行く。
 窓からは中庭が見えた。
 円形の———ハーブ園かな? 
 良く見ると一部だけ花が咲いている。

 あれは、1年時計になっているんだ。
 これは植物学の知識がないとできない芸当だな。
 赤紫色の壁紙には金色で柄が描かれていて、その壁には額縁に収まった白黒の写真が飾ってある。
 ———知ってるぞ。あれは、シャーロック・ホームズ本人の写真だ。
 前に探偵科(インケスタ)の教科書で見たな。

「…………!」

 1階の奥間に入ると、途轍も無い光景が目に入った。
 そこはまるで博物館。アンモナイトなどの化石があった。
奥に目をやるとプテラノドンの幼体などの中型恐竜の化石もあった。
 サシェに続いて奥へ進むと、爬虫類や哺乳類の骨格標本もあった。

「ここはメヌエットお嬢様がコレクションなさった品を収蔵した博物室です」

 スッゲーな、おい。これメヌエット1人で集めたのかよ。改めて貴族だってことを思い知らされたね。

「お嬢様のお部屋はこの先の、2階にございます」

 俺は先へ進みながら、ガラス戸の棚中のものにも目をやる。
 そこには、蜂抜きの蜂の巣や、蜘蛛や蝶などの昆虫標本、鷹やフクロウの剥製などなど。
 こういうのもアレだけど、趣味が暗い。
 俺は博物室の先の階段を目指した———





 メヌエットは折角の客人と1対1(サシ)で話したいらしく、双子のメイドのどちらにも上がる許可を下していなかったらしい。
 俺は1人で簡易エレベーターの付いた階段を上る。
 そして、薄暗く静かな廊下を歩いて行く。

 なんかさっきから床がミシミシ言ってんだけど大丈夫? 
 しかしどんだけロンドンに通っても、家の中で靴を脱がないのは落ち着かないな。
 ———サシェの言ってたドアはこれだな。
 金の取っ手、黒縁の白いドア。あってるなみたいなのでノックする。

「……」

 返事が無い。もしかして中にいるのは———ただの屍か? そんな事は無いと思うけどね。
 普通に人の気配はあるし———突入するか。
 俺はゆっくり扉を開く。
 薄明るい部屋の中は、マキの部屋を見た後のせいか、散らかってる様に感じた。

 だが、それは印象だけで実際には『綺麗といえば綺麗』的な感じだった。
 部屋の中にあるものは、蓄音機やら木製のレターボックスやらタイプライター、果ては振り子時計と言ったように、懐古趣味なものばかりだった。
 ここの部屋に住んでる奴幾つだよ。年上感半端ないけど。
 そこに異彩を放つものが1つ。PCだ。しかも唯一の電子機器。

「———火薬のにおい」

 いきなりかけられたアニメ声に俺は振り向いてみると、カーテンを殆ど閉ざした窓際にいた。
少女が。座っている———正確には乗っているというべきだろうか。
その少女は車椅子に乗って窓の外を眺めていたようだ。

「あなたは、お姉様と同じく日常的に銃を撃つ人物。そして、お姉様が寄越したと考える所から、お姉様と同じ武装探偵ですね」

 俺の方を見ないで正解を言った。しかもドンピシャで。

「まあ、元から推理できていたので、合っている問題の答え合わせのようなものですけど」

 なんか……アリアの声を録音したテープを鮮明にして聞かされてるみたいなんだけど。
 でも、若干だがアリアより声が低い……かな? 

「身長は170〜175、といったところでしょう。訓練はされているがあまり筋肉質では無い様子ですね。恐らくですが意図的にそうしている。そして、体重は65キロ前後」

 ……俺の身長は174.0。体重は65.5。ジャストミート。
 ていうか、さらっと人のプロフィール当てないでいただきたいね。

「全て推理して導き出したんだよな?」
「ええ、初歩的な推理なので」

 初歩的ね〜。強ち間違いでは無いけど。

「どうせなので、私が何故あなたのプロフィールを言い当てたのか———小舞曲(メヌエット)の如く、順を追って話して差し上げます」
「いや、その必要は無いね」
「……あなたは既に、私がどこから推理するために必要な情報を手に入れたか分かっているのですか?」

ある程度は……ね。

「ああ。職業に関して当てられたことについては、言ってた通り『匂い』を材料として推理していた。これは普通の人でも答えられる」
「はいそうです。あなたの言う通りです。では、身長や体重は何を推理の材料にしたとお考えで?」

 そこだよ……。心当たりはあるけどな。

「……廊下だ」
「廊下がどうしたのですか?」
「廊下を歩くときにやけにミシミシ言っていた。恐らくだがその音を使っていた。そして、あなたは階段からこの部屋までの距離も分かっている。それを踏まえた上で行くと、ここまで歩いて来る人が発する情報を推理材料としていた。違います?」
「ご名答です。今のであなたがどの様な人物か大体分かりました」

 そういうと、きこッ……と車椅子をゆっくり回転させてこちらを向いた。
 その見た目は、アリアを金髪碧眼にしたらこんな感じのなんじゃ無いのって感じの見た目をしている。
 途中で変色しただけで、そもそもアイツはこういう色か。……なんでそう思ったんだ? 

 でも、この子の目は物忘草色(セルリアン)。しかも、肌がアリアより白い。後で経歴でも洗ってみよっと。
 それは置いといて……服装はなんというか、ゴシックロリータのようなものだ。

「あなたの探偵面は優秀な部類ですね」

 そう言った彼女の手元に俺は視線を注ぐ。
 その手には古いイギリスの軍用ライフル(リー・エンフィールド)を持ち、銃口をこちらに向けている。
 どいつもこいつも、なんでそんなに物騒な物持ってんの? 
ほんと世の中世知辛くなったね。

「ところで、あなた名前は?」
「おっと、これは失礼。自分は樋熊シュウヤです。以後お見知り置きを」

 俺は手を胸に当てお辞儀する。

「初めまして。そして、さようなら。私はメヌエット・ホームズ。ホームズ4世ですわ」

 ———ナイス・トゥー・ミート・ユー・アンド・グッド・バイ———だって? 
 何が好きで会って直ぐの人間にサヨナラされなきゃいけないんだよ。
 あれ? ていうかここ7m半の距離じゃん。
ここにいるってことは、あれの弾必中じゃん。
 しかもご丁寧にスコープまで覗いてるよ、メヌエットさん。





 ———パウッ! 





 俺は音と同時に上体を逸らす。
 俺は視界に映るであろう銃弾に意識を集中———あれ? 
 銃弾が飛んでこない? 
 俺は元の姿勢に戻る。

「あの体勢で避けるのはあまりオススメ致しませんわ」

 メヌエットはそんなことを言ってくる。何食わぬ顔で。
 訳がわから……あ、あの銃まさかだけど……。

「それ空気銃か?」
「ええ。R/I電池(ラジオアイソトープ)でポンプの空気圧を変えられるので殺傷力もあります」

 ええ……。なんてもん持ってやがる……。

「で、本日のご用件は何で?」

 おっと、色々ありすぎて忘れてた。

「アリアから手紙を預かって来たから届けに」

 俺は制服のブレザーの内ポケットから、手紙を取り出しメヌエットに渡す。

「ふむ、確かにこれはお姉様の文字」

 そう言ったメヌエットは、手紙に目を通し始めた。
 2分ほどしてから、顔を上げた。

「30分程時間を頂いてもよろしくて?」
「なんで?」
「お姉様に返事を書くので渡していただきたいのです」

 ああ、そういうこと。

「構わないよ」
「そう、では宜しく。それと———」
「?」
「先程から敬語の時とそうでは無い時が混ざっていますがその理由は?」
「流れ? 俺にもイマイチよく分からん」

 正直なところ、『挨拶はしっかりと』がモットーだから挨拶しっかりやったけど、それ以外はね。

「まあいいですわ」
「それより、この部屋で待機してても良い?」
「構いませんわ。この部屋にそもそも男性を入れている時点で特例ですので」

 そーなのか。そいつは少し名誉なことだな。
 俺は体育座りで壁に背中をつけて待つことにした———





「これをお願いしますわ」

 30分程体育座りをしていたため痛めてしまった体を無理に動かし、俺はメヌエットの差し出した封筒を受け取る。

「はい、確かにっと」

 俺はその手紙をブレザーの内ポケットへと仕舞う。

「俺はそろそらお暇させてもらうよ」
「今夜の便で日本に戻るのですね」
「ご明察通り」
「では、日本に戻る前に1つ忠告して差し上げましょう」
「忠告?」

 なんだ、一体? 

「はい。あなたは近々大きな事件に巻き込まれるでしょう。そこで何かしらの因縁が交錯します」

 なんのこっちゃ? 全然分からんのですが……。

「忠告ありがとう」

 俺はドアノブに手をかける。

「またいらして下さいな。その時はまた、《《歓迎する》》ので」

 ん? なんか凄く最期の台詞に寒気を覚えたんだが。
 俺はホームズ家を後にした———





 所変わって武偵局。
 マキと一緒に事後処理をしていた。

「あの後、GⅢって名前で洗ってみたけど何も出なかったわ」
「しょうがないな。後はロンドン警視庁に任せるとしよう」
「そうだね」

 俺はそう言って武偵局を出ようとした時、肩を掴まれた。

「何か? ———ってアラン先輩」

 そこにいたのはここでの俺とマキの上司に当たるアランさんだ。

「少し耳を貸してくれ」

 俺は言われた通り耳を傾けた。

「先日、日本に君の追っている者が入国したとの情報が入った」

 ……!? 

「本当ですか?!」
「ああ。それを伝えに来た」
「分かりました。ありがとうございます」

 アランさんは中へと向かって行った。

「シュウ君待って」

 マキさんも来たことだし……ってなんだそれ? 

「なんだその荷物は?」
「私も一緒に日本に戻ろうかなと思ってね」

 この日、ロンドン武偵局は軽い騒ぎが起こったのであった———





 あの後なんとか場を鎮めた俺たちは、空港へ行き飛行機に乗った。
 帰りは安全でありますように、っと。
 結局騒ぎが起こった理由は、マキの帰国。

 あんたら、そんなにマキを帰したく無いんですか? 
 まあ、本人が帰りたい言ってたから無理だと思うけど。
 で、その当事者は私の隣の席で眠っていると。

 2日ぐらいしかいないのに疲れた。
マキも同じだろうな。
 エコノミーの座席でも寝ることに支障はないな。
むしろこっちの方が慣れてる気がする。
俺はそのまま眠りについた———





 到着した羽田空港から武偵高へと戻った。
 久々の日本……と言っても数日いなかっただけだが、やっぱり落ち着く。
 ゆりかもめを降りて、台場を歩き、学園島に着いた俺とマキは寮を目指して歩く。

「ところでマキ、お前部屋はどうするんだ?」
「取り敢えず、シュウ君のところ借りようかなと思ってるんだけど」
「男子寮に女子がいるって軽く問題なんだよな……」

 と思ったけど前言撤回した方がいいかな? 

「俺は構わないからいいけど」

 そういうとマキは物凄く嬉しそうな顔をした。
 俺は何となくその顔を見ながらホッとしていた。
 なんだか安心感さえ覚えていた。
 すると突然声がかけられた。

「久しぶりだな」
「「?!」」

 目の前に人影が現れた。

「見ない間にだいぶ成長したみたいだな」

 この声、聞き覚えがあるぞ……! 
 間違いない。俺がずっと追いかけてきた奴。

「あなた何者?」

 マキは問いかける。
 目の前の奴は顔を上げて思いっきり名乗った。

「私は———水密桃だ!!」 
 

 
後書き
今回はここまで。 
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