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戦国異伝供書

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第六十三話 成長その八

「よく学び詠むでおじゃる」
「さすれば」
「その様に」
「そしてでおじゃる」
 義元は竹千代に笑って話した。
「そちらでも立派になるでおじゃる」
「承知しました」
「文武両道」
 そうであってこそ、というのだ。
「武士でおじゃるかなら」
「それでは」
「もっとも麿は公卿の方々の様でおじゃるが」
 義元はまた自分の話を笑ってした。
「いかんでおじゃるな」
「それは」
「ほっほっほ、冗談と思って聞き流すでおじゃる」
 今の言葉はというのだ。
「他愛もなきこと、しかし井伊家のことと」
「贅沢と」
「和歌のことはその様にでおじゃる」
「有り難き幸せ」
 こうして竹千代は義元に井伊家のことを許してもらった、それと共にまたしても大事なことを教えてもらったと主に感謝した。
 気付けば竹千代の下には三河武士達が集まっていた、彼は屋敷に集まっていたその者達を見てこんなことを言った。
「わしは果報者であるな」
「といいますと」
「殿がおられ和上がおられ」
 そしてとだ、鳥居元忠に答えた。
「彦五郎様に母上、弟もおってお主達もじゃ」
「それ故にですか」
「これで果報と言わずして何と言う」
 こう言うのだった。
「まさにな」
「そう言われますと」
 鳥居は主に恐縮して言った。
「我等も」
「果報だと申すか」
「殿にそこまで言って頂けるなら」
 こう言うのだった。
「まさに」
「そうなのか」
「我等殿の為にです」
 鳥居は主にあらため言うのだった。
「これからも尽くしていきます」
「そう言ってくれるからな」
「果報だと言われるのですか」
「左様じゃ、ここまで果報なら」
 それこそというのだ。
「充分じゃ」
「ですが殿」
 今度は榊原康政が言ってきた。
「まだです」
「足りぬというか」
「殿はまだ元服されておらず」
 そうしてというのだ。
「奥方様もです」
「迎えておらぬか」
「そしてお子も」
 こちらもというのだ。
「ですから」
「まだ満足するにはか」
「早いかと」
「そうしたものか」
「やはりです」
「妻を迎えて子ももうけてか」
「そうしてです」
 そこまで至ってというのだ。
「ようやくかと」
「満足すべきか」
「はい」
 榊原はあらためて述べた。
「そこまで至って」
「そうしたものか」
「殿は謙虚で無欲ですが」
「それでもじゃな」
「やはりです」
「妻と子もか」
「必要ですので」
 それ故にというのだ。 
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