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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第7章:神界大戦
  第224話「宿りし“天使”」

 
前書き
今回は眠っているなのはと奏の話。
なお、冒頭に若干優輝side入ります。
 

 












「ッ……!はぁっ、ふぅっ……!」

 極光が降り注ぎ、理力で構成された武器が次々と振るわれる。
 それを、優輝は悉く躱し、受け流す。
 だが、数の差と長時間戦闘による疲労が積み重なり、動きが鈍くなる。
 さらにイリスの“闇”による固有領域の浸食がそれに拍車を掛ける。
 そのため、確実に優輝はボロボロになっていった。

「凄まじいな……最初に集めた戦力を、半分も削るとは」

「っ……そういう割には、増援で相殺されているがな……!」

 理力の剣をぶつけてくる神が、感心したように言う。
 優輝は現在、戦い続けた事でかなりの神と“天使”を倒していた。
 だが、同時にイリス側にも援軍が来て、結局数は変わっていない。

「(体も鈍くなってきた。……やはり、数の差が一番大きいか……)」

 数の差を何とか凌ぐ優輝だが、代わりにイリスの“闇”の影響が大きい。
 優輝の固有領域は半分程浸食され、優輝の体にも所々斑点のように浸食している。

「(……“天使”がいればな)」

 ないものねだりだ。
 だが、それでも優輝は思い浮かべていた。
 神々と同じように、自分にも眷属となる“天使”がいれば、と。































「……ここは……?」

 優輝が未だに戦い続けている頃。
 なのはは、どこか知らない空間にいた。

「(神界に似ている……?)」

 そこは何もなく、どことなく桃色のような、紫色のような靄が掛かっている。
 それ以外が、まるで神界のように何もない白い空間が広がっていた。

「っ………」

 “神界に似ている”。
 その事からなのはは警戒する。
 何が起きてもいいように、首から掛けているレイジングハートに手を掛け……

「あれ?」

 その手が空ぶった。
 当然だ。そこにはレイジングハートがなかったのだから。

「……そっか。確か、あの後私は眠って……」

 そこで、寸前まで自分が何をしていたのか思い出した。
 なのはは、つい先程休息のために仮眠を取ったのだ。

「じゃあ、ここは夢……?」

 眠って、気が付けば見知らぬ空間にいた。
 そうなれば、まずは夢を疑う。

「(……ううん。違う)」

 だが、すぐに違うと判断した。
 なぜなら、なのはにとってそこは夢の空間とは違うように感じたからだ。

「(夢のようで、夢じゃない……明晰夢……とも違うかな?)」

 警戒だけは解かず、分析を進める。
 しかし、分かるのは“分からない”と言う事だけ。
 
「どうしよう……」

 今のなのはは、かなり疲労し、弱体化している。
 神界にいた時のあの冴えた感覚も、今は一切ない。

「……なのは?」

「えっ……奏ちゃん!?」

 そんななのはに、声を掛ける存在がいた。
 いつの間にかいたのか、靄の中から奏が現れたのだ。

「……本人?」

「え?そうだけど……?」

 どうしてそんな事を聞くのか。
 なのはは疑問に思い……すぐに気付く。

「そっか。こんな空間だから、偽物が現れても……」

「ええ。おかしくないわ。……そういう事を言うのなら、本人の可能性は高いけど」

 それでも、奏は警戒を解かない。
 演技の可能性も疑って、無防備にならないようにしているのだ。
 それはなのはも同じで、警戒したままだった。







「―――安心してください。お二人共、正真正銘ご本人ですよ」

「「ッッ……!?」」

 突然、第三者の声が響く。
 なのはと奏は即座にその声が聞こえた方向から飛び退く。

「(二人……!?)」

「(全然、気づけなかった……!)」

 そこにいたのは一人ではなかった。
 なのはと奏の身長と然程変わらない女性が二人、そこにいた。
 特筆すべきなのは、何よりも背にある羽と頭上の輪だ。

「天使……?」

「いえ、なのは。この二人は……!」

「っ、神界の“天使”……!」

 一見すれば、それは神話などの天使に見える。
 だが、つい先程まで嫌という程見てきた二人なら分かる。
 目の前の二人は、神界に存在する“天使”と同じ存在だと。

「………!」

「……警戒するのもわかります。私達が“天使”なのは事実ですから」

 この空間に来てから、二人は今までで一番警戒する。
 “天使”と来ればついさっきまで戦ってきた。
 そんな“天使”と重ねて見て、警戒するのも仕方がないだろう。

「(……敵?それとも……)」

「(判断がつかない……)」

 イリスの洗脳を初見で見破る事は出来ない。
 普段の言動との相違である程度見分けがつくが、見知らぬ相手や演技している場合は理力でも使えない限り判別できない。

「ふぅ……困りましたね。これでは会話もままなりません」

「判別のできない人の身では、仕方ないかもしれませんけどね」

 決して警戒をやめない二人に、目の前の“天使”二人も呆れた様子を見せる。
 だが、理解はできるため対話を諦めようとはしない。

「(……よく見れば、どことなく片方はなのはに似ている……)」

「(あっちは奏ちゃんに似てる……じゃあ、もう一人は私……?)」

 ふと、二人は目の前の“天使”が自分達に似ている事に気づく。
 尤も、若干似ている程度なので、双子や兄弟姉妹程は似ていない。

「……気づきましたか?」

 クリーム色に近い金色の柔らかなセミロングの髪に、碧眼のどこかなのはに似た“天使”が言う。

「私達は、ずっと貴女達と共にありました」

「共に……?」

 続けるように、同じ髪色の長髪と碧眼を持つ奏似の“天使”が言う。
 その言葉に、なのはが首を傾げ……奏が気づく。

「まさか、私達に宿っていた……」

「そう。私達は貴女達の内に宿っていた者です」

「度々体を借りていた事については……何分、本来の体がありませんので」

 優輝が言っていた存在が目の前の“天使”達なのだと、二人は理解する。
 その上で……未だ、警戒を解かずにいた。

「……それが真実とは限らない」

「……うん」

 ソレラと祈梨の裏切りが、ここに来て影響していた。
 二人の“天使”の言い分も演技なのではないかと、疑っているのだ。

「“天使”に対する疑いが強いですね」

「それも仕方ありませんよ。むしろ、イリスにあそこまでしてやられておきながら、すぐに信用するようではこちらが安心できません」

 対する“天使”は、その疑りは尤もだと肯定する。

「……この際、信用するかどうかはおいておくわ。……わざわざこの場を用意して、私達に一体何の用かしら?」

「そうですね。今は信用よりも本題を話すとしましょう」

 一拍置いて、“天使”は本題へと入る。

「私達の目覚めの時が近づいています。いえ、神界と関わった事でようやく目覚める条件が揃おうとしている、と言った所でしょうか?」

「目覚め……?」

 “天使”の言葉に、なのはが思わず聞き返す。

「はい。便宜上の言い方ではありますが、私達が力を取り戻す事になるので、その言い方が適切かと」

「……目覚めたら、どうする……いえ、どうなるのかしら?」

 わざわざ話をする事から、何かあると察した奏が尋ねる。
 “天使”二人は、そんな奏に話が早いとばかりに返答する。

「肉体を取り戻すまで、貴女達の体を借りる事になります」

「ただし、自我を塗り潰す訳ではないので、肉体を取り戻せば貴女達の意識も戻ります。体を借りる事を含め、この事は伝えておくべきだと判断しました」

「体を、借りる……それって」

 なのはは思い出す。
 以前、一時的に自分の意識が飛んでいた事を。
 そして、自分が自分じゃない感情に見舞われた事を。

「今なのはさんが思い浮かべた事の通りです。以前から兆候はありました。今回は、神界に行った事で箍が外れました」

「っ……!」

「次、神界の存在に接触すれば、遅かれ早かれ確実に私達は目覚めます」

 今の所、奏達に神界の存在へ干渉する術はない。
 だが、そうだとしてもその言葉は衝撃に値した。

「なんで、私達に……」

 どうして自分達に“天使”のような存在が宿っているのか。
 まだ目の前の“天使”達がそうだと決まった訳ではないが、いずれにしろなぜ宿る対象が自分達だったのか、聞かずにはいられなかった。

「……別段、決まっていた訳ではありません」

「私は貴女と、姉さんは彼女と、どこかしら共通する、もしくは似た気質を持っていた故の偶然に過ぎませんよ」

 戸惑いを見せるなのはに、出来る限り落ち着かせる口調で答える“天使”。

「それに、“宿る”と表現しますが……実質的に、貴女も私も同じ“高町なのは”で間違いないんですよ」

「同じように、私と貴女、どちらも“天使奏”に相違ありません」

「それは、どういう……?」

 遠回しな言い方に、今度は奏が聞き返す。

「私達は後付けで貴女達と一緒になった訳ではありません。……私達の魂が神界外の輪廻及び魂の循環路に入り込み、それが人の子として生まれ変わった……それが今の私であり、貴女なのです」

「“天使”として力を失った私達は、最早人間と大差ありません。……こうして、自我が復活している事自体が奇跡そのものと言えます」

「つまり、私達の魂が今の貴女達になっているのですよ」

 それは、言い換えるならば前世と今で二重の人格になっているようなものだ。
 元々が同じ魂だからこそ、“天使”もそれぞれ“高町なのは”と“天使奏”と同一だと言い表せるのだ。

「元々、私達の魂は“天使”だった……?」

「そうなりますね」

「神界に来た時、やけに頭が冴えていたでしょう?それも、元々が“天使”だったからです。神界が魂と体に馴染んだのでしょう」

 簡単に信じる訳にはいかない。
 だが、その言葉は二人にとって何よりも浸透するものだった。
 まるで、それが真実だと、本能や魂、体が確信しているかのように。

「っ………!」

 本能的に信じそうになったのを、なのはと奏は理性で拒む。
 相手は規格外の存在。そういう風に信じ込ませようとしている可能性もある。
 その考えから、何とか理性だけでも警戒はやめずにいた。

「……いい警戒です。本能は分かっていても、理性で拒む。同一の存在からの言葉に対し、そう対応するのはいい傾向です」

「え……?」

 二人のその姿勢を、“天使”はむしろ歓迎した。
 そんな反応を見て、なのはは呆気に取られる。

「貴女達は貴女達で、私達は私達で。徐々に乖離していくことによって、私達は無事に分離することができます」

「そうなれば、貴女達に悪影響を残すことはないはずです」

 “天使”達となのは達は違う。
 その事実が明らかになる事で、スムーズに分離する事が出来ると“天使”は言う。

「……悪影響、ね」

「もしあまり乖離していなければ、魂及び存在が欠けた状態になります」

「……そうなると、寿命への影響はもちろん、欠けた分だけその体は弱ってしまいます。記憶や精神にも影響が出るかもしれません」

 魂を二つに分けるのは、本来一つなものを無理矢理分ける行為そのものだ。
 クッキー一枚を割って二つにすると一つ当たりの量が減るように、魂を二つに分けるのにも相応のリスクを背負う。

「私達が目指す安全な分離は、人で言う細胞分裂に近いです」

「私達と貴女達が乖離していくに連れ、既に分離は始まっています。無理に分ける場合と違うのは、同時にお互いの魂を補填している点ですね」

「……?」

 最早概念的な話になってきたためか、なのはが首を傾げる。
 黙っている奏も、半分程しか理解出来ていなかった。

「……理屈は無視してください。本当に、要は細胞分裂に似た形で分離すれば何も問題はないと言う事ですので」

「……そう」

 見かねてか、奏に宿っている方の“天使”が簡潔に纏める。
 規模や詳細は全く違うが、とりあえずそれに近いものとして二人は認識する。

「……話を戻しましょう」

「と、言っても話すべき事は粗方話し終えましたが」

 閑話休題。会話の軌道修正を行う“天使”。
 しかしながら、本題も粗方話し終えていた。

「……決戦の時はそう遠くありません。努々、精進する事をお忘れなきよう……」

「全ては貴女達、人の“可能性”に懸かっています」

 一拍置いて、威圧すら感じる真剣な目で、“天使”は言う。

「決、戦……?」

「はい。……決着は、まだついていません」

 確かに、まだ何もかも諦める訳にはいかない。
 だが、それ以上に“敗北”の二文字が司達には刻まれていた。
 奏となのはも同じで、故にまだ戦いが続いているという言葉に引っかかった。

「託されたはずです。……希望を、“可能性”を」

「人の持つ“可能性”は、まだ尽きていません」

「あ……」

 思い出すのは、神界を脱出する時の事。
 あの時、確かに奏達は優輝に後を託された。

「………」

「……敗北の経験が身に沁みついてしまっているようですね」

 それでも、前に踏み出せない。
 敗走した経験が、足枷となって二人を引き留めていた。

「一度安全な場所まで退避した事で、より深く理解してしまったのですね。……神界の規格外さを、絶望的な戦力差を」

「ぅ………」

 要はトラウマになっているのだ。
 神界から脱出するその瞬間まで、決して諦めない覚悟と意志を持っていたなのはも、“もう二度と経験したくない”と思ってしまっている。
 それほど、神界での敗北が身に沁みていた。

「っ………!」

「……まぁ、無理もありません。諦めるのなら、それもまた手です」

 “今後どうなるかは置いておいて”と続け、“天使”は改めて奏となのはを見る。

「……ですが」

「ッ!」

 その眼差しに、奏となのはは気圧される。
 まるで、これを聞き逃せば後悔するぞと、訴えかけられるように。

「決して、後悔のない選択を。……貴女達が本当に望むもののためなら、決して妥協しないでください」

「ぁ………」

「私達から言う事は、これだけです」

 そこまで言うと、“天使”の体が……否、空間そのものが薄れ始める。

「今度会うとすれば、それは現実になるでしょう」

「その時まで、私達の“可能性”も預けます」

「「どうか、貴女達にとっての最善を尽くしてください」」

 夢のような時間が終わる。
 二人は、それを止める間もなく、その場での意識を落とした。













「っ………」

 アースラにある仮眠室にて、奏は目を覚ます。

「夢……いえ、今のは……」

「奏ちゃん……?」

 先程までの事を思い出していると、なのはも同じように目覚める。

「なのは、さっきまでの事……覚えているかしら?」

「……うん。夢……みたいな所の事だよね?」

 覚えているかの確認を取ると、肯定が返ってくる。

「……場所を変えましょう。まだ眠っている人もいる事だから」

「……そうだね」

 一旦場所を変えるため、二人は仮眠室を後にする。
 手ごろな部屋に向かい、途中で飲み物も持って改めて話を切り出す。

「……まずは、お互い“同じモノ”を見たのか擦り合わせを行いましょう。早々ないとは思うけど、微妙に違うモノを見ていた可能性もあるわ」

「……そうだね。確かめておいた方が無難だね」

 まずは認識の違いがないか、お互いの記憶の擦り合わせを行う。
 何せ、神界という規格外な場所を経験してきたのだ。
 万が一、と考えたからには確かめるべきだと二人共思った。



「―――覚えている限りでは、違いはないわね」

「じゃあ、同じモノを見たのは確定?」

「確定……とまでいかなくても、仮定としては十分ね」

 しばらくして、お互い同じ内容だったことが分かる。
 これでようやく、夢で見た事について考察が出来る。

「……本当だと思う?」

「どうでしょうね……。確信できる材料はないわ」

 ソレラと祈梨に騙されていた事から、神界に関するものを二人は信用できなくなっており、未だに疑っていた。
 だが、嘘とも本当とも判別がつかず、判断しかねていた。

「私達は……元々“天使”だった」

「自分が自分じゃないあの感覚は、全てその影響を受けていたからなのね」

 真偽は別として、聞いた内容は納得がいくものだった。
 以前、神夜のステータスにあった“■■の傀儡”という項目を見た時、明らかに自分じゃない感覚に見舞われていた。
 その原因が、今回みた“天使”二名の仕業であれば納得が行く。

「……うん。今なら理解できる。あの“■■”(部分)は、邪神が入るんだね」

「そうね……」

 “天使”が宿っていると自覚したからか、■■が何を表すのかが理解できた。
 すんなりと、まるで当然かのように二人はそれを受け入れる。

「神界の存在と関わった事で、影響が出る……」

「もしかして、あの時の優輝さんそっくりの人も……」

「ええ。間違いなく神界産のものね。あのイリスが生み出したと考えるのが妥当でしょう。攻撃が通じなかった事を踏まえ、あの“闇”の気配は間違えようがないわ」

 直接イリスと対面したために、当時の優輝そっくりの敵が持っていた“闇”の気配が、イリスの“闇”と同じだった事が理解出来ていた。

「……もしかして、帝君が言っていた事って……!」

「十中八九、私達ね」

 結局、あの男を倒した存在の正体を奏達は知らなかった。
 優輝や司、一部の面々は帝によって教えられていたが、それ以外の者は依然正体不明として扱われている。
 それが今、“天使”の仕業だと判明したのだ。

「……あれ?でも、大門の守護者の時は……?」

「え……?」

 だがそこで、一つの事に引っかかる。
 大門の守護者と優輝が戦っている時も、“天使”の影響が出ていた。
 しかし、その時は神界の存在は関わっていないはずなのだ。
 ステータスに邪神の名が刻まれているなど、そう言った些細な事すらなかった。

「あの時、本当に唐突だったよね?」

「……あったとすれば……優輝さん?」

 あの時、優輝は感情を代償に導王流の極致に至っていた。
 奏にとって、思い当たる節はそれだけしかない。

「……いえ、違う。違うわ。あの時……そもそも大門を開いたのは……!」

「パンドラの……ううん、エラトマの箱……!」

 否、一つだけ存在していた。
 そもそもの発端がエラトマの箱だったのだ。
 当時は正体不明のロストロギアとして扱い、保留していたために影が薄かったが、よくよく考えれば一番深く関わっている。

「……一応、辻褄は合うわね」

「そうだね」

「(でも、何か違う気が……)」

 辻褄は合う。しかし、奏はどこか釈然としない気分になる。

「(いえ、そこの考察は重要ではないわ)」

 だが、今は重要ではないだろうと判断し、その思考を打ち切る。

「……決して、後悔のない選択……」

「最後の方に言ってた言葉だよね……?」

 この際、“天使”の言っていた事の真偽は関係ない。
 それよりも重要だったのは、最後に告げられた言葉だ。

「あんな事を言われて、引き下がる訳にはいかないわ」

「……うん。まだ、諦められない」

 掌を見つめ、自分の意志を確かめるように握る。
 “天使”の言葉が発破となったのか、二人の瞳に敗北感はなかった。

「(風は空に、星は天に、輝く光はこの腕に、不屈の心はこの胸に)」

 自身の愛機を展開する際の呪文を、なのはは胸の中で呟く。
 その呪文の通りに、不屈の心を胸に抱きながら。

「……よしっ!」

 心機一転。
 頬を軽く叩いて、なのはは部屋を出る。奏もそれに続いた。

「とりあえず、まずは……」

 その時、二人の腹から可愛らしい音が鳴る。

「……………」

「……食堂、行こっか?」

「……ええ」

 神界に乗り込んでから何も食べていないため、二人は空腹だったのだ。
 何はともあれ、まずは食堂に向かう二人だった。









「あら、なのはさん、奏さん」

「あ、リンディさん」

 食堂でなのはと奏が食事を取っていると、リンディが通りかかった。

「目を覚ましていたのね。相席してもいいかしら?」

「どうぞ……」

 少しして自身の分の食事を持ってきて、リンディは同じテーブルに座る。

「食べながらでもいいから、聞きたい事があるわ。本来なら、ちゃんと場を設けるつもりだけど、状況が状況だものね」

「聞きたい事……ですか?」

 なのはが聞き返す。

「ええ。……神界での戦い、そこで貴女達が感じたモノについて」

「っ……!」

 “神界”と言う単語に、なのはと奏は身を引き締める。
 軽い世間話ではないと即座に理解し、思考を切り替えた。

「感じたモノ、ですか」

「司さんから大体の事は聞いたのだけどね。出来れば、本人からも聞いておきたいの。特に、二人は神界において動きが良くなっていたみたいだから」

「……なるほど」

 確かに気になる事だと、奏は納得する。
 同時に、その事について心当たりが丁度存在した。
 先の夢に出てきた“天使”だ。

「まだ確証はありませんが、心当たりならあります」

 全てを信じた訳じゃない。
 しかし、無関係ではないと判断して、奏は夢での“天使”について話した。

「“天使”の……転生体……」

「神界の空気に馴染みがあったから冴えていた……そう考えています」

「なるほどね……なのはさんが間接的にとは言え理力を扱えたのも……」

「それが遠因かと」

 そこまで聞いてリンディは少し考えこむ。
 奏達のソレが吉兆か凶兆か、判断しかねているのだろう。

「貴女達は、どうするつもりなの?」

「……最期まで、諦めるつもりはありません」

「決して後悔しない選択を、私達にとって最善の選択をしていきたいと考えてます」

 まだ何をしていけばいいのかわからない。
 それでも、最善を選んでいく。そう二人は言った。
 ……否、何をすべきかはもうヒントが出ていた。

「……“天使”の片鱗が残っているのなら、手段によっては神にも攻撃を徹す事が出来るはず。……なら……」

「それはあまりにも不確定要素過ぎるわ」

「分かってます。ですが、もうリスクなしには戦えない。既存の手段では通じない。……そうなると、これしかありません」

「……そう、ね」

 リンディとしては不安なのだろう。
 否、当の本人であるなのはと奏も不安だった。
 だが、それでも利用するしかないと考えた。

「……わかりました。どうするかは当人である貴女達に任せます。……ですが、あまりにもリスクが高いと判断した場合は、せめて周りに話してください」

「……はい!」

 提督として二人に告げ、神界についての話は終わる。

「ただ、まずはしっかり体力を回復させるようにね」

「あはは……実はまだふらついたり……」

「かなり反動が残っているみたいね……」

 食器を持って立ち去るリンディを見送り、まだ回復しきってない体を引きずって二人は移動していった。



















   ―――敗北を喫した戦いの傷跡は深い。







   ―――だが、それでもまだ、不屈の心は再燃する。



















 
 

 
後書き
ちなみに、なのはと奏に宿っている“天使”はどちらも丁寧語ですが、
なのは→物腰柔らかめ、奏→冷静沈着、と言った感じでそれぞれ宿っている“天使”の性格は若干違います。
説明のための対話なので区別がつきませんが……。
なお、なのはに宿っている“天使”が妹で、奏の方が姉の姉妹だったりします(元ネタの天使も似たようなものなので)。
 
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