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戦姫絶唱シンフォギア~響き交わる伴装者~

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第1楽章~覚醒の伴装者~
  生命(ちから)宿す欠片の導き

 
前書き
奏者と装者ってよく間違えますよね。「装者」であり「伴奏者」という響きは中々いい語感だと思ってます。

って事で今回はようやく、皆さん首を長くしてお待ちしていたであろう、運命の瞬間です!祝え! 

 
「翔くん!大丈夫!?」
「たち……ばな……」
 着地すると、慌てて翔くんの傍へと駆け寄る。
 翔くんはひどくグッタリとした状態で、もう一歩も動けない様子だった。
 それでも手にはしっかりと、生弓矢の鏃を握り締めている。
 もう、本当に真面目なんだから……。
「翔くん、逃げるよ!ほら、しっかり掴まって!」
「立花……すまない……。って、ちょ、おい!?」
 動けない翔くんを両腕で抱え上げる。
 普段の私じゃ出来ないだろうけど、シンフォギアで強化された筋力のお陰か、私より背の高い男の子の翔くんは軽々と持ち上がった。
 
 ただ……仕方がないとはいえ、構図がちょっと……。
「ごめん翔くん!でも今はちょっと我慢して!」
「し、仕方ない……。女の子にお姫様抱っこされるとか生き恥でしかないんだが、今はそれどころじゃないからな……。走れ、立花!」
「ホンットごめん!じゃあ、走るよ!」
 そのまま地面を思いっきり蹴って走り出した直後、背後でノイズが起き上がる音がした。
 私の力じゃ、あのノイズには敵わない。でも、翼さんが来てくれるまでの間、翔くんを守って逃げ切る事は出来る!!
 
 ∮
 
『翼!立花が翔を連れて走っているが、ギガノイズが2人に迫っている!すぐにそちらへ向かえ!』
 司令からの通信に、私は目を見開く。
「あの二人に強襲型が!?くっ……邪魔だッ!!」
 これで何十匹のノイズを斬り捨てただろう。ようやく全て片付けられると思った所で、立花の方にいたノイズの群れが融合した。
 ……私の責任だ。私がこいつらを相手取るのに時間を浪費したが故に、このような事態に……!
「友里さん!あと何匹の反応が残っているのですか!?」
「ノイズ総数、残り30!」
「疾く失せろ!一掃する!」
 振るい続けた一振りの刀を、身の丈の倍はあろう大剣へと変形させ跳躍する。
 
〈蒼ノ一閃〉
 
 蒼き残月の如き一太刀が地を割り、残るノイズを纏めて殲滅した。
 刀を元の形に戻すと、着地し、そのまま走り出す。
 バイクがないのが不便だが、仕方あるまい。車よりもシンフォギアで高められた脚力で走った方が今は間に合う!
「もう二度と……喪ってなるものか!」
 何より大事な弟と、奏が救った命だ。私が必ず守りきる!
 
 ∮
 
「了子くん!聞こえているか!?」
 ヘリで地上を見下ろしながら、弦十郎は端末へと必死に呼びかける。
「了子くん!了子くん!」
『ハ~イ、弦十郎く~ん?どうしたのん、そんなに慌てちゃって~』
 ようやく繋がった端末から、櫻井了子が軽い調子の声で答える。
 無事だった事に安堵の溜め息を零しながら、弦十郎は了子に問いかける。
「了子くん!大丈夫か!?」
『ごめんごめん。プラン通り、RN式は展開時間が短いから、翔くんを途中で回収して一気に駆け抜けるつもりだったんだけど……やっぱり現場じゃプラン通りにいかない事の方が多いわね。もう少しで翔くんに追い付けそうだったのに、ギガノイズに道路を破壊されて先に進めなくなっちゃったのよ』
「そうか……君が無事で何よりだ。翔は響くんが保護している。作戦はこのまま実行だ」
『りょーかい。じゃ、私は……あら翼ちゃん、良いスピードね。あれなら世界取れるんじゃないかしら?』
 どうやら翼が近くを通り過ぎたらしい。自分の持ち場に現れたノイズを殲滅して、ギガノイズの方へと向かっているようだ。
「了子くんは負傷者の確認、並びに別ルートから目的地へと向かってくれ!」
『はーい、任せなさいな』
 
 最後まで軽めに返して、了子は通信を切った。
 弦十郎は端末をポケットに仕舞いながら、眼下に伸びる立体道路を這いずり進むギガノイズを見下ろす。
 その先を、少年を抱えて疾走する少女の姿を見て、弦十郎は歯痒く思うのだ。
 俺が戦場へと出られれば、あの子達にあんな苦労をさせる事などないのだが……と。
 了子は冗談半分のようなノリで言っていたが、おそらくあの発言は本心なのだろう。「風鳴弦十郎ならRN式を使いこなす事ができる」と。
 だからこそ、弦十郎は苦悩するのだ。自ら戦場に立つのが難しい立場である事に。
 しかし、なればこそ。彼は子供達を支える為、戦士ではなく"司令官"として在り続けるのだ。
「翔……響くん……無事に逃げきってくれ……」
 
 ∮
 
「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
 両足の鎧から展開されたパワージャッキが、音を立てて地面を削る。
 その反動を利用した跳躍力で、立花はノイズとの距離を広げつつあった。
 あちらは図体がデカい分、脚はとても鈍重だ。一方こちらには、小さい分だけ足の速さに利がある。
 牛の歩みと鼠の走り、くらいの差だ。逃げ切るだけならこれで充分!
 ただ、やはり倒す事が出来ないのが一番の問題だ。合流ポイントまで辿り着いても、こいつを倒せていなければ叔父さんのヘリは撃墜されるだろう。
 引き離すにしても、距離を考えなくてはならない。
 姉さんが追い付けるように、一定の速度を保っていなくてはならないのだ。
「立花、分かっているな?」
「引き離し過ぎないように、だよね?難しいけど分かってる!」
「なら、このまま速度を保って……」
 
 そう言いかけた瞬間だった。頭上に複数の敵影が現れる。
 ぎょっとして見上げると……嫌な予感は当たっていた。
「不味い!立花上だ!」
「えっ!?うそおおおおおおお!?」
 左にステップを踏んで落下してきた敵を避け、バックステップで後退する。
 見回せば、周囲はあっという間に空から降ってきたノイズの群れに囲まれてしまっていた。
「ノイズがこんなに!?一体どこから……」
「ギガノイズからだ……。あいつ、小さいのを吐き出す能力あるから一番厄介なんだよ!」
「えええ!?じゃあ、私達絶賛大ピンチ!?」
「袋の鼠だな。こりゃあ逃げられそうにないぞ……」
 周囲を完全に取り囲まれた。これでは逃げ場がない。
 跳躍して、上から包囲網を超える手も考えたが、見上げればギガノイズの頭がある。どうやらそれも無理そうだ。
 かといって、側壁を壊して下に降りれば道路の下にある民家を巻き込みかねない。
 ここで全て倒す他に道はないらしい……。
 
「わかった……。翔くん、そこを動かないで」
「立花、お前……」
 俺を地面に降ろすと、立花は俺を庇うようにノイズ達の前へと立ち塞がった。
 立花のやつ……こいつら全員相手にするつもりか!
「翔くんは私が守る。何があっても、絶対に!うおおおおりゃあああああ!!」
 そう言うと、立花は眼前に立ち塞がるノイズの群れに向かって行った。
 拙い構えで、素人丸出しの拳で、彼女は俺を守る為に前へと踏み出した。
 
 ∮
 
 見えた。あそこだ。
 眼前にようやくギガノイズの姿が近付く。
 このまま走り続ければ、1分足らずで奴の背後を狙う事が出来るだろう。
 先程、ギガノイズの動きが止まり、司令から連絡があった。
 翔と立花がノイズに囲まれて動けないらしい。
「まったく、素人の分際で戦場
いくさば
に立つからこうなるのだ!」
 口ではそう言ってしまう反面、同時に自らの不得を悔いる。
 もっと早く、先程のノイズ達を殲滅出来ていれば。もっと私自身が強ければ。
 そうであればと願う度、胸が締め付けられていく。
「待っていろ二人とも、今すぐそちらに……」
 
 その時だった。背後より紫電が迸る音が聞こえ、横へと飛ぶ。
 次の瞬間、巨大なエネルギー球が、一瞬前まで私が居た場所を通り過ぎ、前方の地面を抉り爆発した。
「お仲間の所へは行かせてやんねーぞ?」
「何奴!?」
 振り返ると、そこには一人の少女の姿があった。
 少女が身に纏っているのは、全身を細かい鱗状のパーツで形成され、肩部には何本もの紫色の刺が並んだ銀色の鎧。
 バイザー状の奥に見える銀髪の少女を私は知らないが、鎧の方は知っている。忘れる筈がない、その鎧は!
「ネフシュタンの鎧、だと!?」
「へえ、アンタこの鎧の出自を知ってんだ」
「2年前、私の不始末で奪われたものを忘れるものか。何より、私の不手際で奪われた命を忘れるものか!!」
鎧の少女はそれを聞くと、好戦的な笑みを浮かべた。
「あたしの役割はアンタの足止めだ。ま、手加減は出来ねぇから倒しちまうかもしれねぇが、悪く思うなよ?」
 鎧の少女は肩部から伸びる鎖状の鞭を手に、挑発じみた笑みを向けて構えた。
「貴様が何者かは知らぬが、邪魔立てするなら容赦はしない!」
「しゃらくせぇ!やれるもんならやってみな!」
 
 翼が翔と響の元へと辿り着かない理由が、一人の少女による襲撃だということを、この時の二人は知る由もなかった。
 
 ∮
 
「せりゃああああ!!」
 振りかぶった拳が躱される。よろけた瞬間、クロールノイズの体当たりで体が右に吹き飛んだ。
 流石に数が多過ぎる。素人の私じゃ、この数は捌ききれないどころか、まともに相手をすることもできない。
「でも、まだ諦めない……!私が戦わなきゃ!」
 両脚に力を込め、もう一度立ち上がる。
 目の前のノイズに拳を出そうとしたその時、頭上から迫る影に顔を上げる。
「立花!上だ!」
 次の瞬間、3体の鳥っぽいノイズがドリルみたいな形になって、私目掛けて突撃した。
「うわあああああああああああ!!」
「立花!!」
 衝撃に吹き飛ばされ、何回も地面を転がって倒れる。
 もう何回目かの繰り返しだった。何度か翔くんが、殴り方のアドバイスだったり、何処からノイズが来てるかを教えてくれたりと指示を飛ばしてくれたから大分戦えたけど、私の身体が追い付いていなかった。
 でも……私は、まだ……諦めない。
 翼さんが来てくれるまで、負けられない……!
 何とかしなくちゃ……なんとか、しなくちゃ……。
 
 うう、脚がフラフラする。身体が重くて、目の前がぼやけて揺れている。
 何回も吹き飛ばされてる内に、私の心はまだ負けてないのに、身体の方は先に疲れちゃったんだ。
「大丈夫……まだ、私……」
 お願い……動いて私の身体……!
 ここで私が倒れちゃったら、翔くんが死んじゃう!
 私はまだ諦めたくない!だから……。
「この任務を終わらせて……お好み焼き、食べに行くんだから……!」
 だから……お願い、誰か……。
 
 立花はフラフラになりながら、また立ち上がる。
 もう体力はとっくに限界を迎えているはずなのに、まだ諦めない。
 それはきっと、彼女の根底にある「人助け」の精神に彼女が支えられているから。
 ここで諦めれば、俺の命は助からない。だから姉さんが来るまでは一人で戦い続ける。
 立花の意思は本物だ。優しさと強さを兼ね備えた、気高い意思がそこにある。
 だが、それでもこれ以上、彼女を一人きりで戦わせては行けない。
 このままでは俺より先に、立花が死んでしまう!
「……お前の力は、どうすりゃ引き出せるんだ……?」
 腕のブレスレットを見つめ、誰にともなくそう呟く。
 時間が経って、精神的疲労も大分マシになった。今ならもう一度、RN式を展開する事が出来るかもしれない。
 短い間だが、時間を稼ぐ事くらいならできる。しかし、問題はその後どうするかだ。
 
 策を考えるけど、人が足りない。せめてあと一人必要になる。
 せめて俺がシンフォギア装者であれば……。そう思いたくなるくらいに、この状況は詰んでいた。
 左手に握り締めた生弓矢を見る。聖遺物は何も語らない。ただ、朽ちかけたその身を晒すのみだ。
「俺の歌でも起動するならいくらでも歌ってやる……。だから、頼む……この状況を打開する方法を……」
 
「あ……」
 その耳に聞こえてきたのは、絶望の色を含んだ一言だった。
 咄嗟に立花の方を見ると、その目の前には両手がアイロン状ではなく、刃の形をしたヒューマノイドノイズが立っていた。
 既にその手は振り上げられており、次の瞬間にはギロチンのように振り下ろされるだろう。
 立花はもう体力が限界を迎えている。へたり込みながら、その口から出た言葉に絶望が混じっているのは、避けられない事を実感したから。
 背中越しだから見えないが、今の彼女の表情はこれまでに見たことも無いほど、絶望の色に染まっていっているのを感じた。
 
 その姿が、2年前のあの日と重なる。
 あの時、俺は立花に手を伸ばすことが出来なかった。
 掴めたはずの手を取る事が出来ず、以来ずっと後悔し続けてきた。
 あの日をやり直せたならどんなにいいか。そう願っては何度も自分を責め続けたあの頃は、俺の心を蝕み続けた闇そのものだと言える。
 
 でも、今の俺は──あの日の弱い()じゃない!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 次の瞬間、立花の前に躍り出ると俺は迷わず彼女を庇った。
「翔くん!!」
 両腕を広げて彼女を庇った俺の肩から、刃は袈裟懸けに振り降ろされた。
 その箇所から俺の体は炭になり始める。こうなる事は分かっていたはずなのに、俺は迷わず飛び出していたのだ。
 
 ……時間が、ゆっくりと流れていく。今だけスローモーションになったかのようだ。
 
 切り口から感覚が消え、それが広がっていく。自分の体が炭にされる感触って、意外と痛くはないんだなと何故か納得して苦笑いする。
 
 あーあ。RN式、結局あんまり役に立たなかったな……。
 
 左腕に嵌められたブレスレットに目をやると、それは相変わらず鈍く輝くだけだった。
 
 こういうのは土壇場で一番活躍してくれないと……なんて、映画の見すぎだと言われても仕方が無いことを思う。
 
 再展開の見込みは五分五分。命を賭けるにしては不十分だと分かっていたのに、俺はどうして立花を庇う事が出来たのだろうか?
 
 ふと浮かんだ疑問への答えは、意外とあっさり出た。
 
 ああ、なんだ。そんなもの、愚問でしかないじゃないか。
 
 これは罪滅ぼしでも、後悔からの自殺衝動でもない。
 
 人類全てが持っている無償の対価。
 
 形、呼び方は多々あれど、これはそれら全ての根底に根ざしたモノ。
 
 全ての奇跡の種にして、この世界を回すもの。
 
 この瞬間、俺を突き動かした理屈のない衝動。
 
 それは─── “愛”だ。
 
 
 


 
 
 
 
 
 次の瞬間、胸の奥に何かが浮かぶ。
 ゆっくりと炭の塊へと変わっていく心臓の奥から何かが溢れ出して、左手の中に握った鉄塊が熱くなった。
 衝動が、身体中を駆け巡る。
 左手の中から、とても強い力が伝わって来る。
 その時、俺の頭に浮かんだのはついこの前、了子さんに見せてもらった立花のメディカルチェックの結果と、立花がシンフォギア装者へと至った理由。そして、この手に握る神話の遺物が司る伝説だった。
 
「生弓矢……俺に……彼女を守る力を!!」
 
 胸に突き刺したそれは、身体を内側から焼き尽くすほどに熱く、目を瞑りたくなるくらいに光り輝いていた。
「うっ……ぐっ、がっ……ああああああああぁぁぁああああああ!!」
 痛みを超えて広がる熱と、身体中へと広がる力の波紋。
 炭素分解され、感覚を失っていた器官さえもがそれを感じていた。
 やがて、鏃は先端から尾っぽの先まで全てが吸い込まれていく。
 胸の奥に異物が入り込んだ違和感は、一瞬で掻き消された。
 代わりに、この胸の奥から届いたのは……一節のフレーズだった。
 
「──Toryufrce(トゥリューファース) Ikuyumiya(イクユミヤ) haiya(ハイヤァー) torn(トロン)──」
 
 衝動のままにそのフレーズを口にした次の瞬間、身体の内側を突き破る程の力が溢れ出す。
 刹那の中で、俺の意識を塗り潰せんとする強い力。ドス黒い破壊の衝動。
 同時に、この身体を骨の一本に至るまで焼き付くそうかという熱と、細胞の一片までをも侵食していくかのような激しい痛みを伴うその力は、向かう方向も知らずに走り続ける暴れ馬のように駆け抜ける。
 
 負けない……聖遺物の力に負けてたまるものか!
 
 立花は諦めなかったんだ……だから俺も、諦めない!!
 
 心の中で叫んだ直後、力に流されるばかりだった身体を何かが覆う。
 まるで、止めどなく溢れ出す力を抑え込むかのように。力を力で捩じ伏せるのではなく、優しく包み込むように広がっていくそれは両手に、両腕に、両肩に、両脚に、腰に。
 胸から背中に、脚はつま先から足裏まで。
 そして最後に頭を。顔を両側から包み込むような感触があり、最後には全身を包んでいた光が弾ける。
 その時にはもう、全身に広がった熱も痛みも消えていた。
 
『ノイズとは異なる高エネルギー反応を検知!』
『これは……アウフヴァッヘン波形!?ネフシュタンの反応に続き、新たな聖遺物の反応です!』
「なんだとぉ!?」
 困惑するオペレーター達に、弦十郎も驚きの余りヘリから身を乗り出す。
 翼の前に現れたネフシュタンの鎧の少女。今すぐにでも出向きたいが、作戦行動中に指揮官が動くわけにはいかず、空から静観するしかなかった弦十郎。
 手間取っている翼に痺れを切らし、もはや出撃もやむなしかと思っていたその矢先だった。
 翔と響を襲っているギガノイズの足元から、強烈な光が迸ったのだ。
 弦十郎だけではない。戦っていた翼と鎧の少女も、その光に目を奪われる。
「なんだ……あの光は!?」
「んだよアレ、あたしは何も聞いてないぞ!?」
 その場にいる者全てが困惑する中、本部のモニターに表示された照合結果に、弦十郎は再び驚きの声を上げた。
生弓矢(イクユミヤ)、だとぉ!?」
 

 
「聖遺物、生弓矢。それは生命を司り、地に眠る死人さえ黄泉帰らせる力を持つ聖遺物……」
その女は、誰にともなくそう呟いた。
一人ビルの上に立ち、眼下の光景を傍観する彼女の金髪が風に揺れる。
サングラスの下の彼女の表情を知るものは、誰もいない。
ただ、女は目の前の喧騒をただ笑って観測するのみである。
「奪った後で、米国政府との交渉材料にするつもりだったけど……やっぱり、何が起きるか分からないものね。まさか、こんな予想外の結果をもたらすなんて」
女の見つめる先。迸る光の中で、その予想外そのものである彼は生まれ変わる。
女は卵が孵るのを待つように、ただその光景を見守り続けていた。
 

 
「翔、くん……?」
 あまりにも一瞬の出来事に、何があったのか理解が追いつかず、思わず固まってしまった。
 目の前に広がる青白い光がゆっくりと弱まり、やがて一つの人影が姿を現した。
 ついさっき、私を庇ってノイズに殺されるはずだった人。
 その直後、自分の胸に鏃を突き刺したはずの男の子。
 人影は自らの死因になるはずだったノイズを一撃の拳で粉砕し、こちらを振り返った。
「立花……大丈夫か?」
 差し伸べられた手には、私や翼さんと同じ黒いグローブ。
 向けられた表情はとても優しげで、その声からも私の事を気遣ってくれているのが伝わった。
 さっきと変わったのは、彼の全身を覆う装束……私や翼さんのものと少し似たそれが彼の身体を包んでいた。
 両耳にはヘッドフォンのようなパーツ。両腕や両脚、身体全体を包み込むように……あるいは、まるで内側から溢れ出しそうな何かを抑え込むように、装束の上からは陽光に鈍く光る灰色の鎧が全身を覆っている。
 胸の中心には、まるで下向きにした弓のような形をしたクリスタルが、透き通る様な赤を放っていた。
 
 聞きたいことは山ほどある。言いたいことも沢山ある。周りはノイズだらけで、今はやるべき事が残っている。
 でも、私の口から何よりも先に出た言葉はただ一言。
「もうへいき……へっちゃらだよ」
 頬を伝う熱い雫はとっくに、流れる理由を変えていた。
 
 

 
後書き
1日に2回も主人公が死にかけるハードスケジュール。誰だこんな展開用意したの!
俺か。俺だったわ。
しかし翔くんも翔くんで、二日連続で響を泣かせてる中々罪な男ですね。
今回泣かせた理由は目の前で一度死んでるからですけど。

ちなみに翔くんのRN式イクユミヤギアがこちらになります。



翔「ようやくか~」
響「ようやくだね~」
翔「特別編除いて15話目、結構かかったな」
響「私でもここまで長くかからなかったよ?」
翔「そりゃ主人公だし、でもライブから2年はかかって……」
響「12話目、最終回でようやく変身シーンお披露目だったんだけど……」
翔「何処の世界線の話をしている!早くクーリングオフしろ!」
響「悪質契約には気を付けよう!」
翔「もう何も怖くないな、このコーナー……」

次回、遂に活躍!装者翔くん!

生弓矢(イクユミヤ):立花響が配属されて数日後、日本で発掘されたばかりの第4号聖遺物。日本神話にて、須佐之男命(スサノオノミコト)が持っていたとされる三種の神器の一つ。生命の宿る弓矢であり、地に眠る死人さえ甦らせる力があるとされている。
残る神器である生太刀(イクタチ)天詔琴(アメノノリゴト)は残っていなかったと報告されているが……?

RN式回天特機装束①:シンフォギアシステムの試作品。性別を問わず、フォニックゲインの代わりに使用者の精神力で聖遺物の力を引き出すために開発されたが、その燃費の悪さは開発者の了子でさえガラクタ以下と評価する欠陥品。現在改良が進んでいるものの、やはり使用者の精神力に性能を大きく左右される点だけは変えられないらしい。
しかし数秒と言えどノイズから身を守る事は出来るため、護身用であり最終手段として翔に貸し与えられる。
訓練されたレンジャー部隊でさえ数秒しか持たなかった所をなんとか3分も保たせたものの、翔の精神力は大幅に削られ、ノイズに襲われる隙を生ませてしまった。
この一件により、実戦投入は更に先送りにされるかと思われていたが……。
 
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