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八条学園騒動記

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第五百三十六話 山に行くとその七

「江戸時代も」
「ヤクザ者なんぞを捕まえてな」
「やっぱりしていたんだ」
「当時ターヘルアナトミアが出た」
 前野良沢や杉田玄白達の尽力によってである。
「わしもそれを読んでな」
「やってみたんだ」
「解剖をしたりな」
「生きている人をだね」
「麻酔なしでな」
 このことも平然として話した。
「あと解剖した者がどれだけ生きておるかとかな」
「それが生体実験だね」
「病原菌を移したりもした」
「そうしたことは昔からしていたんだ」
「天然痘の治療法は知っておった」
 既にというのだ。
「地球が誕生する前からな」
「それでもだね」
「ジェンナーの話を聞いてな」
「それでやってみたんだ」
「うむ、天然痘菌をそのままな」
 牛痘ではなかった、天然痘の治療のものでは。
「ヤクザ者に移した」
「それ死ぬよね」
「全員死んだぞ」
 天然痘にしてみた者はというのだ。
「苦しみ抜いてな」
「やっぱりそうなるよね」
「破傷風にもしてみた」
 こちらの病気にもというのだ。
「どちらも菌を普通の百倍にしてみたが」
「その頃からひでえな、博士」
「とんでもないことしてるね」
 二匹は博士のその話を聞いて言った。
「そんな悪質な病原菌作るとか」
「そして人に移すとかな」
「だから小悪党じゃぞ」
 博士は自分を咎める二匹にあっさりと答えた。
「市井や村々で普通に働いている者ならともかくじゃ」
「小悪党はかよ」
「殺してもいいんだね」
「生きていて害を為すよりじゃ」
 世間にそうするよりというのだ。
「わしの楽しみの糧になるべきであろう」
「それが惨殺の理由になるか?」
「少なくとも世間はそう思わないよ」
「マッドサイエンティストは世間なぞ何とも思わん」
 実際に博士は世間のことを意識したことは一度もない。
「だからじゃ」
「江戸時代からかよ」
「そういうことしていたんだ」
「実に皆簡単に死んだ」
 強力にした病原菌を移すと、というのだ。
「ころっとな」
「殺しても何とも思ってねえな」
「このことも昔と一緒だね、博士」
 タロもライゾウもまたしても博士が昔から博士であることがわかった。それも実によくわかったと思った。
「人命への配慮ないね」
「見事なまでにな」
「だからわしの楽しみになるのならな」
 それならというのだ。
「その分よいであろう」
「全く、博士は博士だな」
「ずっとそうだったんだね」
「江戸時代もそうでかよ」
「これからもだね」
「二百億年こうなのじゃ」
 江戸時代どころではなかった。 
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