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冬木市にやってきたアルトリアズのお話

作者:H!n0Ri
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休日の朝

何かに邪魔されたわけでもなく、自然に俺は眠りから覚める。
 
時計を確認し、まだ朝食を作るには早いことを確認して起き上がり、隣の襖を開ける。
 
可能な限り音を立てずに俺は隣の部屋で寝ているドッペルゲンガーズの顔を見る。
 
昨日から続いていたゲシュタルト崩壊はある程度の落ち着きを見せ始めていた。
 
寝ている時は着ている服もほとんど同じものになるので、余計に見分けがつかなくなる
 
特に黒トリアとサンタさん、アルトリアとエックスはマジで同一人物にしか見えない。
 
俺はそのまま彼女達を起こさないよう静かに襖を閉め、凝った背中を擦りながら洗顔に向かう。
 
昨日は本当に疲れた。
 
一日で15人を超える来客なんて初めてだったと思う。
 
しかもそれら一つ一つが重大な事件を持ってきていると来た。
 
特に一番疲れたのは他でもない。
 
英雄王の説得だ。
 
 
…………………………
 
 
ギルガメッシュ「考えてやらんことも無い」
 
俺は恰も最初からそこに座っていたかのような存在感を放っている英雄王に、王の財宝を使って金を貸してくれないかと願い出た。
 
勿論、下手なことをすれば俺の首が飛ぶことは分かっている。
 
王の財宝が健在な今、変に刺激すればこの衛宮邸で聖杯戦争が勃発しても何も言えないことになる。
 
そのため、こちらとしては俺とアーチャーの飯食べ放題、アルトリアズと食事を共にすることを全面許可という形でお願いしてみることにした。
 
勿論アルトリアズの口からお願いさせて。
 
士郎「…本当か?」
 
ギルガメッシュ「王に二言はないぞ、雑種。正直、オレも以前から貴様らの飯が気になっていたのだ。良い、一度献上を許す。オレの口に合うのなら、この王の財宝の使用を全面的に許可してやろう」
 
これは一大事である。
 
俺とアーチャーの作る飯次第では今後の食費を考えずに済むし、逆の場合は我が家の財政は一週間と持たない。
 
腕によりをかけて作らねば、その先にあるものは死のみだ。
 
俺の人生の一大事トップ10に入る。
 
因みに他にはアルトリアズがやって来たこととセイバーに告白した時も入っている。
 
士郎「…わかった、少し待っていてくれ」
 
ギルガメッシュ「オレは短気だ。急いで持ってこねば、この家を破壊することも造作ない。英雄王ジョークだ、笑うが良い、フハハハハハハ!!」
 
アルトリアズ「「「「「ハハハハ……」」」」」
 
おお、王は人の心がわかるのですね。
 
ここでもし笑わなかったら、衛宮邸は…。

見るも無残な姿に変わり果てるだろう。
 
アーチャー「……衛宮士郎」
 
台所に移動した俺の隣に、褐色白髪が立つ。
 
その目は、俺を憎む目ではなく、ギルガメッシュに奉仕する目でもなく、ただ一料理人としての目だった。
 
アーチャー「別に、英雄王の舌を巻かせても構わんのだろう?」
 
士郎「…ああ、本気見せてやれ、アーチャー」
 
心得た、と言いアーチャーはエプロンを身につけ料理を開始する。
 
行くぞ、英雄王。
 
宝物庫の俺達に渡す金の貯蓄は充分か。
 
 
…………………………
 
 
そうして意外も意外、結局俺とアーチャーの飯、アルトリアズの健気な奉仕によって機嫌が良くなった英雄王は向こう一年分の食費、及びアルトリアズにかかる費用は向こうで出してくれることを了承した。
 
金額自体は聞いたら失神しそうなので聞くのはやめておいた。
 
飯は世界を変えるということを、俺はこの場でよく知った。
 
因みにアーチャー、遠坂、ランサーは遠坂家へと帰って行った。
 
ランサーに関しては今は帰る家がないとの事で、暫く遠坂家に居候することにしたそうだ。
 
大丈夫だ嬢ちゃん、金はバイトして払うし手は出したりしねぇよ!
 
そう言って土下座していたランサーは元敵ながら見るに堪えなかった。
 
洗面所で顔を洗い終えた俺は台所に立ち、エプロンを着け腕を捲る。
 
士郎「俺としては初めての大人数の飯作りだ。腕がなる」
 
そう言って俺はまな板、包丁、鍋といった調理器具を取り出し山のような朝食を作り始めたのだった。
 
士郎「大人数すぎるからな、簡単に作れる、量もかさばるものにするか」
 
今日のメニューは冷凍しておいたごはんを使ったお茶漬け、藤ねぇが昨日貰ってきた卵たちを使った具材入り卵焼きにしようと思う。
 
まず大量のご飯をレンジで温めておく。
 
その間に出し汁を作る。
 
昨晩からつけておいた昆布を水に入れ中火で火にかけ、沸騰する直前に昆布を取り除く。
 
1度火を止めて水を足した出し汁に鰹節を入れる。
 
ひと煮立ちする前くらいまでアクを取りつつ弱火で加熱して鰹節が沈み始めたら布巾などでこす。
 
こした出汁を鍋に戻してから醤油、塩、みりんで味を付け足す。
 
正直、これが一番のミソになる。
 
その他には味で遊ぶ要素はないので、お茶漬けは汁が全体の7~8割を握っていると思っている。
 
その他で遊ぶには食感や+‪α程度なので、勝負を決めるならここくらいしかない。
 
出汁をとっている間に具材入り卵焼きのための具を用意する
 
大葉、ツナ缶、キャベツ、ハム、紅しょうが、あおさ、シラス、三つ葉などを用意し、洗うものは洗い、切るものは切り、葉っぱ類はサッとゆで水気は切っておく。
 
みじん切りにした具材、卵、白だし、砂糖を入れかき混ぜ、油を引いたフライパンで焼いていく。
 
半熟と固まった状態の中間地点あたりで卵を巻いていく。
 
桜「先輩、おはようございます」
 
後ろから後輩の声が聞こえ、俺は振り返る。
 
士郎「桜か、おはよう。どうしたんだ、こんな早くに。今日の当番は俺だぞ?」
 
この衛宮家ではそれぞれの家事の担当を当番制にして行っている。
 
それぞれの負担を限りなく減らすため、昔桜がお見舞いに来た時以来ずっと続いている風習である。
 
普段の桜ならもう少し遅く来るが、今日は普段よりも30分程早く来ていたのだ。
 
桜「先輩一人では、セイバーさん達のご飯を作るのは大変だろうと思いまして、手伝いに来ました!」
 
むん、と俺のかわいい後輩は胸をはる。
 
いや、別に変なところなんて見てないぞ。
 
これは男として仕方がない、本能的なものでありだな…。
 
あっ、でも桜確実に今俺の目線の先見てた。
 
我が生涯に一片の悔い…ありまくりじゃい!
 
「シロウ、おはようございます」
 
意図してもいない助け舟が来た。
 
この声は恐らくアルトリアである。
 
いや、今はアルトリアズがいるお陰で声での判別は難しい、いや不可能なのだが。
 
俺は船に縋り付く想いで戸から入ってきた人を見る。
 
士郎「お、おはようアルトリ…ア…」
 
桜「おはようございます、獅子王さん!黒獅子王さん!」
 
獅子王「桜もおはようございます」
 
ランサーオルタ「朝食はまだか。この家は王をこの程度の事で待たせるというのか」
 
どうやら助け舟にはとんでもない地雷が仕掛けてあったらしい。
 
助け舟に飛び乗った俺は見事にその地雷を踏み抜き、彼女達の胸の前に下がった豊満な果実を思わず凝視してしまう。
 
いや、桜も桜なんだけど、彼女達、ランサー組はそれを凌駕するほどの破壊力の持ち主だ。
 
獅子王「…?どうかされましたか、シロウ」
 
士郎「あ、い、いや、別になんでもない。飯にしよう。ほかの皆は?」
 
俺は目線を外し話をすり替える。
 
皆が起き始めているようなので、早めではあるが朝食にしようと思ったのだ。
 
ランサーオルタ「ダブルエックス以外は起きている。彼女も今まで働き詰めだったのだ、少しは休ませてやって欲しい」
 
意外だった。
 
人はどうしても見た目で第一印象を決めてしまうため、ランサーアルトリアはとても冷酷な人だと勝手に思っていたのだがそれは違うようだ。
 
人の睡眠の重要さをよく理解しているらしい。
 
そして、ダブルエックスが働き詰めとは…。
 
ここに来る前はなにか仕事をしていたのか?
 
アルトリア「それは貴女の朝食の分け前が増えるから、という理由ではありませんか」
 
オルタ「フン、寝ている人の朝食をその場にいないという理由で盗み取ろうなど王の風上にも置けん愚行だな」
 
続いて居間に入ってきたのはアルトリアとオルタだ。
 
二人は体型も似ているので、アルトリアの服を一度オルタに貸し出しているらしい。
 
二人を見分けるポイントは目の色とアホ毛と肌色くらいだ。
 
オルタの方は目が黄色くアホ毛がなく肌がアルトリアより少し白い。
 
ランサーオルタ「言ってくれるな、オルタ。では貴様は同じ状況下でも、私とは異なる対応をするというのだな?」
 
アカン。
 
この二人の間に火花が散っているのが俺でもよく分かる。
 
士郎「ま、まあ、二人とも落ち着いて。ちゃんと全員分の飯はあるからさ」
 
ランサーオルタ「…シロウがそう言うのなら」
 
オルタ「分かった。残りの皆を呼んでこよう」
 
なんとか懐柔に成功したようだ。
 
いや、今のかなり緊迫感あって疲れたんだけど、これこれから毎日やるの?
 
 
…………………………
 
 
全員「「「「「「「「「ごちそうさまでした!」」」」」」」」」
 
士郎「お粗末さまでした」
 
普段の今のテーブルに加え蔵から引っ張り出してきた簡易的なテーブルの上で俺達は朝食を食べた。
 
やはりアルトリアズは他とは一線を画す食べっぷりであり、少ないご飯を争いお代わりジャンケンを始める始末であった。
 
士郎「今日は運良く休日だから、新都に買い物に行こうと思う。金はギルガメッシュの金があるし。皆の必要なものを買いに行きたいからな。桜とかはどうする?出来れば着いてきてほしいんだけど」
 
正直、女性にしか分からない買い物だってある訳だから桜にはいてもらえると有難い。
 
イリヤは…まあ、金銭感覚の違いがあるからあまり期待は出来ないけど、一人で置いていくのは可哀想だしな。
 
あとやっぱり美的センスは俺なんかより全然良い。
 
遠坂は結局こっちには今日は来ていない。
 
きっとアーチャーが飯を作っているのだろう。
 
藤ねぇ?知らん。
 
桜「私はいいですよ!お供します」
 
イリヤ「わーい、シロウとお出かけだー!」
 
嬉しそうにする桜と子供のようにはしゃぐイリヤ。
 
いや、イリヤは子供なんだけど。
 
取り敢えずこれで女性限定物の判別は彼女たちに任せれば良い。
 
特に…下着なんかは…。
 
ええい、いかんいかん、煩悩絶つべし。
 
リリィ「お買い物ですか!」
 
エックス「この世界の色々なものを見てみたいと思っていたんですよ!」
 
えっちゃん「……ス〇バ行きたい……」
 
皆が目を煌めかせつつ新都に思いを馳せている。
 
まだ見ぬ地への旅立ちはいくつになっても、時代は変わっても感じさせるものは変わらないのだ。
 
士郎「じゃあみんな支度してくれ。終わったらすぐ出るぞ」
 
全員「「「「「「「「「「「「おおーーー!!」」」」」」」」」」」」
 
 
………………………
 
 
バスに揺られること十数分。
 
俺達は数年前に新しく作られた冬木新都市、通称新都へ買い物に来た。
 
俺やアルトリア、桜に遠坂は御用達だが残りのイリヤ、アルトリアズに関しては来ることが初めてなのでまるでフクロウのように360度を見渡している。
 
士郎「まずは軽い服を選びに行こう。そろそろ春だから、そんなに大荷物にはならないはずだし」
 
アルトリアズ「「「「「「「「「「「了解です」」」」」」」」」」」
 
アルトリア「ところでシロウ、質問があります」
 
既に大元として服はある程度揃っているので今回の購入は見送ったアルトリアがこちらにやってくる。
 
士郎「どうした、アルトリア」
 
アルトリア「いえ、いくらこれから春だとはいえ、服だけでもかなりの量になると予想されます。それほどの大荷物をどうするのか…と」
 
俺は固まる。
 
全くもって盲点だった。
 
俺は彼女達の服代、食器代などしか考えていなかったのでその荷物をどうやって運ぶかは忘れていた。
 
士郎「…コインロッカーか、最悪の場合にはランサーにでも頼もう」
 
サンタオルタ「その必要は無いぞ、シロウ」
 
弓トリア「そうですよ、シロウ」
 
メイドオルタ「私達の荷物は自分達で持つ。それは買い物をした人の義務である」
 
今一番普通の服を着て欲しいアルトリアズトップ3が何か言い出した。
 
勿論、自分達で持つという申し出はとても有難い。
 
実際、身体能力はそのまま引き継いでいるのだから俺よりも断然力はあるのだ。
 
士郎「じゃあ…お願いします」
 
俺は男としてのプライドを捨て、女の子に荷物を持ってもらうという最悪に近い選択をしてしまった。
 
まあ、ランサーに会うよりはマシか。 
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