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冬木市にやってきたアルトリアズのお話

作者:H!n0Ri
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来客

鍋は皆で食べた方が美味い。
 
一人で食べる高級イタリアンより、友達と食べるおにぎりの方が美味しいという話を俺は思い出す。
 
きっと、1人でこの家に住んでいたら今日は鍋になんてしなかっただろう。
 
だが、皆で食べると言ってもこの人数はいくらなんでも想定外にも程がある。
 
士郎「じゃあ、話をしてもらおうか、セイバー」
 
俺、桜、遠坂、イリヤ、藤ねぇが座っているテーブルとはキッチンから反対側に鍋敷きと鍋と菜箸を持って行ったセイバーと同じ顔の皆さんの中心に座っているセイバーを見る。
 
セイバー「実は私も、今ひとつ理解している訳ではないのです」
 
セイバーは白菜を口に運びつつ答える。
 
士郎「理解していない?」
 
理解していない、という事は本人の意思には関係なくこの世界に留まっているということ。
 
何の力が働いてこの世界に彼女が、彼女達が留まることが出来ているのかは分からない。
 
あの時、俺は確かにセイバーが消えるのを見た。
 
有るべきところに帰っていくのを俺は確かに見届けたはずだった。
 
しかし、今現にここにセイバーは存在している。
 
俺の目の前で、鍋に箸を入れては具材を口に運んでいる。
 
士郎「それで、後ろの方々は…?セイバー、十一つ子なのか?」
 
流石に同じ顔がここまで並ぶと気色が悪い。
 
俺はセイバーの後ろでまた別の鍋を囲み我先にと箸を突っ込みあっているセイバーと同じ顔の女の子達を見る。
 
確かによく見れば姿かたちは異なっている。
 
水着のセイバー、目が金色でアホ毛のない黒いセイバー、大人びたセイバー、逆に子供らしいセイバー、帽子をかぶったセイバー、眼鏡セイバー。
 
「私は鍋よりもハンバーガーが食べたい」
 
「何を言うのですか。シロウのご飯に文句をつけるのならロンゴミニアド型フォークで一刺しですよ」
 
「セイバー貴様私の肉を!!ぶっころぉぉぉぉす!!」
 
「私はランサーでもセイバーでもない身、お前に殺される筋合いはない」
 
「和菓子…」
 
「皆さん落ち着いて…えっちゃんは嫌な落ち着き方ですね」
 
なんという混沌。
 
なんというカオス。
 
なんという殺伐とした空気。
 
こんな空気はランサーがうちに押しかけてきた時以来だ。
 
セイバー「これも私には全く分かりません。あの後、私は確かに向こうに帰りました。ベディヴィエールにエクスカリバーを渡し、池に捨ててもらいました。確かにあの時、私はそこで力尽き永遠の眠りについたはずなのです」
 
凛「あああもう!そんな事を言ってたって、今ここに貴方はいるじゃない!」
 
セイバー「凛……」
 
辛気臭い雰囲気は嫌いな遠坂がムードブレイカーを発揮する。
 
確かに、折角セイバーが帰ってきてくれた日なのにそんな重い話を最初からしたくはない。
 
藤ねぇ「そうよー!今までどこ行ってたの?色々聞かせてよー!」
 
藤ねぇの元気さも今回ばかりは感謝しかない。
 
その場にいるだけで空気を明るくすることが出来る彼女は今のこの場に何よりも必要な存在だ。
 
士郎「じゃあ複雑な話は後にして、今は思いっきり食うか!お代わり欲しい人ー!」
 
アルトリアズ「「「「「「「「「「「はい!!」」」」」」」」」」」
 
 
…………………………
 
 
士郎「食費、どうしよう…」
 
俺はこの先2日分は優に超える程の食材の山があった後を見て、セイバー達の食べっぷりに驚きを通り越して恐怖に震え上がっている。
 
俺と凛とセイバー達は食後、皆が帰った後のリビングでこれからの事を話していた。
 
凛「ひとつ聞きたいことがあるの。今のあなた達からは魔力を微塵も感じない。今、あなた達はサーヴァント?それとも人間?」
 
セイバー「それは分かります。今の私達は、サーヴァントの頃の身体能力こそはそのまま受け継いでいますが、魔力は一般人と同等。怪我をしたら人間と同じ回復時間を要しますし、寿命も来ます」
 
士郎「つまり、セイバー達は人間、ってことでいいんだな」
 
セイバーはコクッと頷く。
 
セイバー「私には、この世界における生が与えられている。この世界では、一人の少女として生きることが可能です」
 
士郎「そうか……」
 
言いたいことは山ほどあった。
 
だが、どれもこれも喉元で引っかかって上手く出てこない。
 
俺はセイバー達を見渡して、一番聞きたい事を聞くことにした。
 
士郎「なぁ、セイバー。今のセイバーはサーヴァントとしてのセイバーじゃないんだろ。その…勿論セイバーっていう名前も良いんだけど、本名みたいなのは…なかったのか?」
 
セイバーは一瞬驚いたように見えたが、俺が言いたいことを理解したのか天使のような微笑みで返してきた。
 
セイバー「私の真名は、アルトリア・ペンドラゴン。ですので、人間としての私はアルトリア、とお呼びください」
 
士郎「アルトリア…それが…セイバーの…名前…」
 
アルトリア。
 
アルトリア。
 
何度も声に出す。
 
何度も頭の中でその名を呼ぶ。
 
もう失わないために。
 
二度と、彼女のそばを離れないために。
 
士郎「それで、奥の皆さんは…」
 
黒いセイバー「私もセイバー、アルトリア・ペンドラゴンだ。だが、それでは名前が混ざってしまう。黒セイバー、黒トリア、好きなように呼ぶがいい」
 
大人びたセイバー「私は本来ランサーである身。普通にランサーでも、槍トリアでも、獅子王でも構いません。獅子は良いですよ、獅子は」
 
黒い大人びたセイバー「私はランサーのとは真逆の身。無難に黒ランサーとでも呼べ」
 
水着セイバー「こほん、次は私ですね!私はアーチャーのアルトリアです!可愛らしい名前も欲しいところですが、今は弓トリアで我慢しましょう!」
 
黒い水着セイバー「私もランサーのと同じ、黒ライダーとでも呼ぶがいい。」
 
幼いセイバー「わ、私はまだカリバーンを抜いたばかりの半人前の身…ですので、これといって呼ばれる名を要求しませんが…別の世界ではリリィと呼ばれていた記憶もあるので、区別するならリリィ、と」
 
黒いサンタ服のセイバー「サンタさんだ。悪い子にあげるプレゼントはないぞ、シロウ」
 
帽子をかぶったセイバー「私はセイバーを殺すために生まれた、対セイバー用決戦兵器です!尤も、今は人間として存在している以上セイバーを殺すことは出来ませんが…あ、私のことはエックスとお呼びを」
 
眼鏡セイバー「…えっちゃんって呼んで…あと和菓子…」
 
なんかOLっぽいセイバー「私はエックスの未来の姿、xxです。普通にダブルエックス、と呼んでください、シロウくん!」
 
士郎「え、えーと、黒トリア、槍トリア、黒ランサーに弓トリア、黒アーチャーにリリィ、サンタさん、エックス、えっちゃん、ダブルエックス…か…」
 
凛「こう並べてみると、どうしてセイバー…じゃなくてアルトリアがこうも乱立するわけ?」
 
遠坂は頭を抱える。
 
無理もない、俺だって今あまりの出来事に頭はグルングルンだ。
 
もう頭の半分はアルトリアでゲシュタルト崩壊を起こしている。
 
「それは私が説明しよう」
 
俺と遠坂はハッと声がした方向を見る。
 
空いた戸の向こうには、憎たらしいほどにかっこいい最期を遂げ、単騎でヘラクレスを5度も殺した男が立っていた。
 
士郎/凛「「アーチャー!?」」
 
「俺もいるぜー」
 
そういって青の髪をなびかせつつ戸の後ろから部屋に入ってきたのは、ケルトの大英雄、クーフーリンだった。
 
士郎「説明って…どういうことだ!まず、何故ここに…!?」
 
アーチャー「どういうこともクソもない。ただ、私は全てをある人に教えてもらったのだ」
 
アルトリア「ある人…まさか、マーリンか!?」
 
アーチャー「なんだ、やはり知り合いだったのか」
 
マーリン。
 
かつてアーサー王の元に仕えた宮廷魔術師。
 
その腕から、残した逸話は数え切れない程という。
 
士郎「教えてもらった、ってのは、マーリンもサーヴァントなのか?」
 
アーチャー「そうだ。私はあの時、ヘラクレスに殺された。その後、英霊の座に還った時にこの聖杯戦争の行く末を、この出来事までもを教えられたのさ」
 
 
…………………………
 
 
アーチャーの話によると、今、アルトリア達がこの世界で生きているのは元は聖杯の召喚の為の魔力の力であり、それらが今回、第五次聖杯戦争に関与したサーヴァント達を受肉させ第二の生を与えたという。
 
ある物を押し込もうとすると、それは反発して押し込んだ力分跳ね返そうとする。
 
それは魔力であっても同じなため、聖杯召喚の為に用意された魔力は結局聖杯は破壊されたため行き場を失い、結果としてその膨大な量の魔力はサーヴァント達の元へ流れ込み受肉させたとか。
 
そして、サーヴァント達にはそれぞれifの世界線も存在するという。
 
もしあの時こうしていなかったら、その先でも英霊となるほどの力を得て、同じだが異なる英霊となった存在にも、横の繋がりとして魔力は流れ込むとも。
 
今回のアルトリアが良い例で、今回の聖杯戦争で唯一聖杯に触ったアルトリアのif、過去、未来の世界線で有り得た可能性から実際に英霊となった存在へも優先的に魔力が流れ込み今ここで存在していると。
 
少々面倒なのが、アルトリア達全員にセイバー自身の記憶が流れ込んでおり、基本的にセイバーが抱いていた感情は引き継がれているらしい。
 
現に俺が自己紹介をしなくても皆俺の名前や遠坂を知っていたし、大食いなのもそこからだろう。
 
士郎「つまり、今のアルトリア達、アーチャー、ランサー…クーフーリンは聖杯の力で生を得た、ってことでいいんだな」
 
アーチャー「大方その解釈で問題は無い。そして、それぞれの宝具はそのまま自分の身体の一部として受け継いでいる。ランサーの刺し穿つ死棘の槍ゲイ・ボルグ、私の固有結界、セイバーの約束された勝利の剣エクスカリバーなどだ」
 
そう言うとアーチャーはそこに並び座ってクーフーリンの相手をしているアルトリアズの顔を一人一人見てから、シニカルな笑みを浮かべながら俺にある提案をする。
 
アーチャー「さて、衛宮士郎。彼女のような特例では別だったが、本来サーヴァントであった我々は食事を必要としない。しかし今の私たち、彼女らは人間だ。彼女達の食費はどうするつもりだったのかね」
 
今直撃している当面の最重要事項に奴は触れる。
 
何故そこまでピンポイントで当てられるのか、いや、先程の食べっぷりを見れば誰だってそう思うか。
 
高校生の俺はアルバイトしかないし、大きな収入がある訳では無い。
 
藤ねぇだってまず自分の家の分の金が必要だし教員の給料は言ってはまずいが高が知れている。
 
士郎「…正直に言うとプランはない。何かいい案はないか?」
 
そう言うとただでさえニヤけていた顔をさらに悪い笑みに染め、想像しうる最高の、そして最悪の手段を提供してきた。
 
アーチャー「全てのサーヴァントが復活したのだ。ギルガメッシュも例外ではあるまい。彼の宝具、王の財宝ゲートオブバビロンを使うことが出来れば、財政に困ることはそうそうない」
 
士郎「待ってくれ、ギルガメッシュがそう簡単にこちらの提案に乗るはずがないだろ。まずメリットがない」
 
そう言うとアーチャーはやれやれといった仕草を見せ、アルトリアズを見る。
 
アーチャー「ここにこれ程までに彼の愛した人がいるのだ。適当にウチで飯を食わせてやるから金を出してくれとでも言えばノコノコ現れるだろうさ」
 
確かに理には叶っている。
 
ギルガメッシュはアルトリアの事を欲しいと言っていた。
 
うちで飯を共にできるとでも言えば乗ることは間違いないだろう。
 
士郎「しかし、そう簡単にギルガメッシュが現れるのか…?」
 
ちょうどその時、家のチャイムがなった。
 
来客である。
 
なんで今日はこうも来客が多いのか。
 
せめてもう少し分散して来て欲しいところではある。
 
士郎「はーい、宗教なら間に合って…」
 
そう言って戸を開けた俺は思わず絶句した。
 
なんでさ。
 
なんでこうもお前達は揃いも揃って、足並み揃えてやってくるのさ。
 
それは、今一番来て欲しく、そして来て欲しくない人物の訪問だった。
 
ギルガメッシュ「よう、雑種。セイバーはおるか?」
 
 

 
後書き
今受験勉強中なんですけど、明治の英語って意外と簡単なんすね

文法以外 
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