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銀河転生伝説 ~新たなる星々~

作者:使徒
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第33話 ロナウディア星域会戦


第四次グリニア星域会戦で敗れたルフェール軍は、商業惑星イストアのあるロナウディア星域で再編を行っていた。

イストアは、かつてルフェールとロアキアの緩衝地帯であった辺境から最も近い有人惑星であり、辺境各国との貿易で潤っていた。
しかし、それも過去のこと。
銀河帝国が辺境を併呑したことで貿易は途絶し、帝国への恐怖から移住する者が後を絶たず人口が激減と衰退の一途を辿っていた。
が、それでも未だ残っている人口はかなり多く、20億を下らない。

軍事的見地から言えばもっと内部に帝国軍を引きずり込みたいルフェール軍が、この惑星を守るように布陣しているのは、この為である。

現在のルフェール軍は、グリニア星域から撤退してきた71000隻とエリザ・ウィッカム中将指揮下の第五独立部隊6000隻を加えた74000隻。
数が微妙に違うのは、損傷により戦闘が困難と見られた艦を破棄した為であるが、それを差し引いても74000隻分の戦力があるとは言い難い。

特に、第五独立部隊は新造艦とモスボールされていた旧式艦、警備・哨戒艦で急遽編成された部隊なため練度はまったくの不十分。
他の艦隊にしても中級指揮官を少なからず失っており、指揮系統に齟齬が生じる可能性は高かった。

数と質、その両方においてルフェール軍は限界に達しつつあった。


* * *


帝国軍が来襲したのは、15日、22時59分のことであった。

迫り来る帝国軍14万隻に対し、ルフェール軍はイストア防衛の観点から正面切っての相対を迫られている。
別動隊を編成して奇襲を掛けるべきという意見もあったが、これだけの兵力差があると各個撃破されるため却下された。

帝国軍の先鋒はバイエルライン艦隊。

30分程の戦闘の後、

「よし、バイエルラインを下がらせろ。こちらの凹陣に敵を引きずり込むんだ」

ミッターマイヤーはバイエルラインに後退を命じた。

「敵が退いていきます、追撃は……」

「無用。これは敵の誘いだ」

「はっ……」

アルベインとて数々の戦いを経験した名将。
この程度の誘いに易々と乗りはしない。
帝国側としては、当てが外れた形となった。

「乗ってこないか……先日の戦いといい、敵の指揮官は優秀だな。………広域に展開せよ。敵の防御力を削り取る」

帝国軍は陣形を広げ、ルフェール軍を包み込むように全軍を展開させようとする。

一方、迎え撃つアルベインは帝国軍の行動を苦々しい顔をしながら見ていた。

「嫌な手でくるな……だが、そうはさせん。右翼、左翼は敵両翼の先端部にピンポイント砲撃、敵の伸びる先を抑えよ。中央部は戦艦を前面に並べ、主砲で一点を集中砲火。これを繰り返し敵陣に断裂を作り出せ」

アルベインは帝国軍の両翼を牽制して背後へと回り込まれるのを封じると共に、中央部に攻撃を集中させて艦列を崩す。
時折、中央突破の気配を見せることで、帝国軍の動きを牽制していた。

「ちっ、上手く手を打つものだ……これでは両翼を伸ばしきれん。それに、あの一点集中砲撃………下手に満遍なく砲撃するより余程効果的だな」

「ですが、このままではこちらの消耗も大きくなり過ぎます。何かしら手を打つ必要があると思いますが……」

「無論だ、手は有る。敵は現状に全力を傾けているからな。ここで放たれる新たな一撃を受け止める余力はあるまい」

「では……」

「うむ、全面攻勢を掛ける。各艦隊は敵の分断を第一とせよ。ある程度分断できたら、ハルバーシュタットとホフマイスターに敵本陣を襲撃させる。………これでチェックだ」


帝国軍の全面攻勢に、たちまちルフェール軍の陣形はズタズタに寸断されていった。

「第一、第四独立部隊……壊滅!」

「第二、第十三、第十四艦隊の戦線が崩壊しました!」

「バンディーク中将の艦隊が800隻にまで撃ち減らされています!」

「第三独立部隊、旗艦ヘイオス撃沈!」

「第二独立部隊、損傷率50%を超過!」

各所から上がる被害報告が、ルフェール軍総旗艦トイホーレへと入ってくる。
その損害は、余りに大きかった。

そこへ、最悪の報告が入ってくる。

「敵、ハルバーシュタット、ホフマイスター艦隊が前進を開始しました!」

「いよいよ最終局面ということか………ハルバーシュタット艦隊には第一艦隊を、ホフマイスター艦隊には第五独立部隊を当てて対処しろ」

「耐えきれますかな……」

「おそらく、第五独立部隊の方は難しいだろう。戦力差に倍以上の開きがある上、あれは寄せ集めの混成部隊だからな。だが……やらねばこちらが全滅する。ウィッカム中将の手腕に期待するしかない」

第五独立部隊は数だけは6000隻と半個艦隊分あるものの、そのほとんどが旧式艦、警備艦・哨戒艦から成り立っている。
また、急遽編成して即実戦投入という状況から錬度など求めるべくもない。

だが、第五独立部隊を指揮するエリザ・ウィッカム中将は、この烏合の部隊を良く纏め奮戦していた。

「戦艦を左舷に配置して敵の攻撃を防げ! 敵の砲撃が止んだら、砲艦にて狙撃。それと、全スカイキープ級で敵中央部に集中砲火」

この時、第五独立部隊はスカイキープ級戦艦を百隻近く保有していた。
これは、スカイキープ級の鈍重さを嫌った各艦隊の司令官が厄介払いとばかりに押し付けたため、第五独立部隊にはルフェールに存在する全てのスカイキープ級が配備されていたのである。

2000メートルの巨体から繰り出される砲撃の威力は凄まじく、主砲の一撃で直線状にいたる帝国軍艦艇2、3隻をまとめて串刺しにしていった。

これには、勇猛で知られるホフマイスター上級大将もお手上げ状態であった。

「むぅ……やりおる」

「敵の守り固く、これを抜くことは困難かと。また、敵巨大戦艦の砲火が中央部に集中しています。このままでは逆にこちらが分断される恐れがあるかと」

「こちらは敵の2倍だ。分断など恐れはせんが……ハルバーシュタットの方はどうなっている?」

「敵第一艦隊の足止めを受け、突破は難しい模様」

「こちらの目論見は失敗だな。全艦を敵の射程外まで退かせろ」

「よろしいのですか?」

「既に決着は時間の問題だ。ここで無用な犠牲を出すこともあるまい……」

・・・・・

ホフマイスター艦隊が攻撃を切り上げたのは、ミッターマイヤー元帥の旗艦ベイオウルフでも確認された。

「ホフマイスターは断念したか……まあいい、敵艦隊の旗艦の半数は討ち取っている。このまま押すだけで十分だろう」

ミッターマイヤーは勝利を確信していた。

その時、

「閣下、ハルバーシュタット艦隊が敵艦隊の凹陣に誘い込まれ、被害甚大とのことです!」

「むっ、相手は第一艦隊か」

「はい。指揮官はマリク・バーバラ中将です」

「奇術師マリク……か。これまでの戦闘で、こちらに幾度か低手痛い一撃を入れた手並みは、彼のヤン・ウェンリーを彷彿させるものがあるな。もっとも、実力・戦績共にヤンには程遠いが……」

ミッターマイヤーはそう言った後、数秒思案して、

「ハルバーシュタット艦隊を後退させよ」

と命じた。

・・・・・

ハルバーシュタット、ホフマイスター両艦隊の攻撃が止んだことで、何とか一息つけたルフェール軍は、総司令官のアルベイン元帥が全軍に命令を発した。

「全軍突形陣を取れ。我らはこれより敵陣へ突撃し、突破後……撤退する」

「か、閣下! イストアを見捨てるのですか!」

「もう勝敗は決した。もうイストアを守る術は無い。これ以上の交戦は無益な損失を出すだけだ」

この時点でルフェール軍の戦力は5万を切っており、重損傷艦を除外すれば、戦力として数えれるのは4万強であった。
また、第二、第十三、第十四、第十五艦隊の旗艦が撃沈されたことで指揮系統が混乱しており、実質的な戦力は更に低くなる。

これは、アルベインとしても断腸の決断であった。

「敵の最も薄い一角に集中砲火!」

最も薄い一角――ハルバーシュタット艦隊を狙い撃ちにして、崩れたところを最大速度(最大戦速ではない)で一気に駆け抜ける。

ルフェール軍は、賭けに勝った。

「これは……やられたな」

そう言ってミッターマイヤーは苦笑した。



宇宙暦818年/帝国暦509年 12月16日 17時45分。
ルフェール軍の撤退を以って、このロナウディア星域会戦は終了した。

その後、帝国軍は惑星イストアを占領。

これが、ルフェール共和国崩壊の序曲となった。
 
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