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異能バトルは日常系のなかで 真伝《the origin》

作者:獣の爪牙
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第一部
第四章 異能バトル
  4-4




「ここにはいないみたいだね〜」
グラウンド隅の部室棟。
一番大きな部屋に、酒とタバコ、仕立ての良さそうなソファとそれらしき部屋はあったが、プレイヤーらしき影は無かった。

「次は校舎に向かいましょう。あまり戦いには向きませんが」
あたし達は事前にこの高校の見取り図を調べた。
南側から順に、あたし達が入ってきた校門、グラウンド、グラウンド西側の部室棟、H字に伸びる校舎、一番奥に体育館となっている。

H字の校舎の西側から入り教室の中を覗くが特に異常は見られない。
「職員室に家庭科室。どうやらこちらは特別教室棟のようです」

夜の学校。
鳩子が前を光で灯してくれているが、敵と同じくらい暗闇も怖い。
「千冬ちゃん、怖くない? 手繋いであげよっか?」
「大丈夫」
「……」
ちっ。作戦失敗か。

「二階に連絡通路があります。あれで東側に渡りましょう」
階段を登りH字の真ん中、連絡通路に差し掛かった時、鳩子が止まった。
「どしたの鳩子? なにかあった?」
「今あっちの体育館でなにか光ってた気が……」
学校内は基本的に暗い。
光が動いたとすればそこに相手がいるとみて間違いない。

「どこに……」
場所を聞こうとしたその時、頭上からピーと電子音が聞こえてきた。
音の方向を見た瞬間に恐ろしい物に気付いた。
「あぶなっ……!」
私は音から逃げると共に近場の鳩子を押し倒す。
僅かに遅れて巨大な爆発音が響いた。


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コンクリート製の建物の崩落音。
「鳩子さん‼︎ 灯代さん‼︎ 無事ですか‼︎」
「鳩子! 灯代!」
爆発は二階の連絡橋の上と下で起こり、通路の真ん中に大穴を開けていました。
千冬さんと私は運良く爆発地点から離れていましたが後の二人はかなり近くにいました。


「いつつ」
「灯代ちゃん平気⁉︎」
煙の向こう側で二人の声は確認出来ました。
灯代さんがとっさに「時渡」を使ったようです。
「擦り傷です! こっちは大丈夫!」
「すぐ向かいます! 千冬さん橋を繋げて下さい」
「わかった」
合流を優先しようしたのも束の間、

「きゃ!」
鳩子さん達の側から悲鳴と共に更なる爆発音が向こうから聞こえます。
そしてこちらには……。
「また不良ですか」
先程までにはいなかった顔ぶれが四人、武器を持ち待ち構えています。
目的は分断と挟撃……!
「千冬さん、ひとまずは目の前の敵を。合流は後で考えましょう」
「りょうかい」

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最初の爆発から間髪入れず、今度は手榴弾のようなものが近くに転がってきた。
「鳩子!」
「きゃ!」
暗闇の中で手榴弾に気付かない鳩子を引っ張って連れ出す。
爆発は先程よりも小さかった。
更にもう一つ足下に転がされるも、追い越してこれを回避。

敵の接近を警戒したものの近付いてくる者はいなかった。
敵がなぜ追撃しないのかが読めなかったが、
「そうか! 分断を狙ったのか!」
「へ?」
よく見れば橋の崩壊も広がっている。
これでは合流できない。
そうなるように手榴弾を投げたみたいだ。
「あたし達がバラバラになるように仕向けたのよ。それはつまり……」

爆弾魔は未だ姿を現さない。

「ここからはプレイヤー同士の戦いよ。鳩子も気を引き締めて」
「う、うん。分かった」
爆弾を生み出すという異能の特徴状、接近されては困るはず。
罠を配置して近づけないようにするのがセオリーならばこの先はまず爆弾が仕掛けられているだろう。

一見茨の道だけどこっちには鳩子がいる。
「ということで鳩子。この先の二階を水浸しにしちゃって!」
「うん! りょうかい!」
爆弾は水をかけるとショートしてかえって爆発しやすいと聞く。なので水で覆えば先に爆発させる、またはシケさせることが出来るはず。
子供なら溺れるくらいの高さまで水が流れ、廊下と教室を覆い尽くした。
所々で爆発が起きているのをみると読みは当たったらしい。
「オッケー、鳩子。止めてみて」
ある程度時間が経ち鳩子の元へ水が引いていく。
教材やら机やらイスやらが流され津波の被害に遭ったかのような酷い有り様だがそこはしょうがない。
「これで先に進めるわね」

「灯代ちゃん! 後ろ!」

弾かれたように背後を見ると近くに朧げながらも人の輪郭が見えた。
前回の戦いで透明化の異能を持つ者がいるということで、鳩子には異能を使ってない時は風の異能を使用し周囲を索敵し続ける役割を彩弓さんから任された。

対策は当たったがしかし

(まずい……! 近過ぎる……!)

発見した時点で敵は鳩子に迫りつつあった。
そして右手にはナイフの輪郭がうっすら見える。
「えと、えーっと」
鳩子の異能もあたしの「時渡」も間に合わない!

「鳩子っ‼︎」

最悪の予想が頭をよぎる。

敵のナイフが鳩子の心臓目掛け突き出される瞬間。

「やっぱ、違うっすよね。こんなのは」

そう言い、敵の動きが止まった。

そして鳩子の水が間に合い、敵を押し流した。



敵は水で捕らえた。
水で捕らえた時点で透明化は解除された。
あたし達と同い年くらいの男子だった。

後は水ごと外の中庭に叩きつけ土に埋めれば終わりだ。
自力で脱出は出来ないため透明になっても意味はない。

「ちょっといい灯代ちゃん」
合流を急ぎたかったが鳩子は私も気になっていたことを問い質した。

「どうしてさっき止まったんですか?」

さっきのやりとりは距離的に止まっていなければやられていた距離だった。

「……おれっちには友達がいるっす」
「え?」

「生真面目で、世話焼きで、肝心なところでおっちょこちょい」
「……」
「あの時、その友達を思い出したっす。それでやっぱり違うなと思ったっす」
「……なにがでしょう?」

「おれっち達にも望みがあるっす。だけどそのために人を殺めるのは違うっていま気付いたっす」

あたしは押し黙っていた。
今更気づいた。敵にもそれぞれに戦う理由があるのだと。

「図々しいっすけど頼みがあるっす」
「なんですか?」

「山崎さんは殺さないでくださいっす」

男は項垂れながら懇願した。
それを聞いて鳩子はあたしを見た。
鳩子は優しい。自分を殺そうとした人の頼みを聞いてしまうほどに。

それに対しあたしは
「いいんじゃない? 元々そのつもりだしね」
「ありがとう、灯代ちゃん」
「ありがとうっす」

これでいい。
甘いと言われようとこの甘さがあたし達なのだから。
「名前はなんて言うんですか?」
「おれっちの? 山下っす」

その後、鳩子は山下をしっかりと埋め、あたし達は先を急いだ。

 
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