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不思議なお婆さん

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第四章

「それこそどんな重いものでも持てるぞ」
「そうじゃな」
「お前のあの小屋も持ち上げられる」
 それが出来る自信もあった。
「そして遠くまで放り投げられる」
「そうじゃな、しかしじゃ」
「その俺ともか」
「わしは戦うぞ、勝ち負けは抜きにしてな」
「そうか、しかしな」
 そう言う老婆にだ、ミクーラは確かな声で言葉を返した。
「お前は悪い奴じゃないとわかった」
「ここにおってじゃな」
「人間なら悪い奴だったら教会の中にいても平気じゃ」
「人間はそうじゃな」
「そうだ、碌でもない奴はな」
 まさにというのだ。
「イコンを見ても尊いとも思わないしな」
「しかし妖怪は違うぞ」
 その妖怪である老婆が答えた。
「悪い妖怪はじゃ」
「教会には弱いな」
「そもそも入られぬ」
「しかし御前は入られた」
「そしてイコンや祭壇を見ても普通であったな」
「歌を聴いてもな」
「もっと言えば聖書も読める」
 こちらもというのだ。
「何なら読んでみせようか」
「俺は字は読めない」
 実はミクーラはそうだった、当時のロシアの農夫では普通のことだったので彼もこのことについて思うことはない。
「しかしお前は違うか」
「無論手に取ってもな」
「そうか、なら読んでくれ」
「ではな」
 こうして老婆は聖書を手に取って頁を開いて読みもした、だがこちらも平気でミクーラはあらためて言った。
「さっきよりもわかった」
「わしのことがじゃな」
「そうだ、やっぱりお前は悪い妖怪じゃない」
「何度も言うが食うのは悪人だけじゃ」
「そのこともわかった、だからだ」
 それでとだ、老婆に言うのだった。
「俺はお前をやっつけない」
「そうするのじゃな」
「そうだ」
 こう言うのだった。
「お前を倒さない」
「そうか、それでどうするのじゃ」
「村に帰る」
 彼の故郷で働いていたその村にというのだ。 
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