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ある晴れた日に

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90部分:小さな橋の上でその六


小さな橋の上でその六

「どうしてそこでおうどんは出ないのかしら」
「おうどんはまあ」
「別にこだわりないですから」
 これは茜も咲も同じだった。
「お蕎麦もですし」
「あとお寿司や天麩羅なんかも」
「そうなの。じゃあラーメンとかご当地ものだけ?」
「ええ、まあ」
「そういうものだけですけれど」
 こうして話をしてみると意外とこだわりの幅は狭い二人だった。
「別にそれは」
「特にこだわりないです」
「そうなの。それだけだったの」
「はい。じゃあとにかく今は」
「食べ終わって」
「洗いものしなさい」
 またこのことを念押しする先生だった。
「いいわね」
「わかりました」
「じゃあすぐに」
 何はともあれ二人は朝御飯を食べ終えてそれから洗いものに入った。洗いもの自体は皆真面目にやりすぐに終わった。そしてオリエンテーションの時間になった。
「また凄い組み合わせだな、おい」
「ああ、全くだぜ」
 正道の言葉に野本が応えてきた。皆集まって先生のオリエンテーションに関する説明を聞いている。その中でのことだった。
「何でこんな顔触れなんだ?」
「俺は御前を見て言ってるんだがな」
「おい、俺かよ」
「御前がいると全部そうなるんだよ」 
 実に容赦のない正道の言葉だった。
「何でもな」
「ちっ、いつもいつもえらい言われようだな」
「言われる御前が悪いんだろうが」
 しかも追い討ちまで仕掛ける。
「万事馬鹿ばかりやってるからだろ?」
「ふん、じゃあそれならそれでいいさ」
「それでまた居直るし」
 今度は奈々瀬が呆れた声で野本に言った。
「だから余計に駄目なんじゃない」
「俺は何もかも駄目なのかよ」
「ええ」
「少なくとも今はそうとしか見えないわよ」
 明日夢も参戦してきた。
「あんたと音橋が一緒なんてね」
「頼りになるの加山君だけじゃない」
「僕は別に」
 その加山はいつものように謙虚だった。
「そんなことはないけれど」
「この二人に比べたら遥かに頼りになるわ」
「だから御願いね」
「くそっ、俺は数じゃねえっていうのかよ」
「ただ歩いてるだけでいいから」
「先頭は歩かないでね」
 二人の言葉はここでも何の容赦もない。実に手厳しいものである。
「しかし。俺もか」
「あんたもねえ」
「トラブルメーカーになってるわよ」
 奈々瀬と明日夢は正道にも容赦がなかった。
「けれど一応クイズはできるわよね」
「まあな」
 奈々瀬の問いに頷いた。
「一応はな」
「そう。だったらいいけれど」
「そういう御前等はどうなんだ?」
「うっ・・・・・・」
「そう言われると」
 二人もこう言い返されると返答に窮した。
「まあね。それはまあ」
「何て言うか」
 口ごもった言葉になっていた。本当に態度が急に変わってきていた。
「それはね」
「気にしないで」
「そっちでも頼りになるのってよ」
 正道は女組の残る一人に目をやった。グループは男三人に女三人、それぞれくじ引きで決めたものであるのだ。だからこうした顔触れになったのだ。
「竹林だけかよ」
「私は別に」
 未晴も加山と同じく謙虚な態度だった。
「そんなことは」
「少なくともこの連中よりましだよ」
 正道の言葉である。
「それもずっとな」
「私達も随分言われるわね」
「何かかなり不愉快だけれど」
「不愉快なら不愉快でいいさ」
 正道も引かない。
「それでな」
「開き直ったわね」
 明日夢は今の正道の言葉に目を顰めさせた。
「ここでこう来るなんてね」
「実際そうだろ」
 また言う正道だった。
「どう見ても頼りになるって竹林だけだろ?」
「じゃあ私達は数に入らないってわけ?」
「聞き捨てならないけれど」
「いや、それはなってるからよ」
 しかし彼はそうは言わなかった。
 
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