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ある晴れた日に

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89部分:小さな橋の上でその五


小さな橋の上でその五

「それでいいわね」
「うう、わかりました」
「それじゃあ」
「食べ物の話はお腹が空いてると駄目なのよ」
 江夏先生の持論であるようだ。
「それはね。だから早く食べなさい」
「わかりました」
「それじゃあ」
 二人もそれに従い食べる。だが江夏先生は二人のその食べっぷりを見てまた言うのだった。
「それにしても二人共」
「はい?」
「今後は何ですか?」
 御飯を頬張りそれぞれの手に箸と御椀を見ながら先生に顔を向ける。
「一体」
「何か?」
「いえ、よく食べると思ってね」
 先生が言いたいのはこのことだった。
「やっぱり育ち盛りよね」
「そうですか?」
「これ位普通ですよ」
 二人は先生の言葉を受けてもこう返すだけだった。まだ二人にとってはこれだけ食べるということも当然のことであるらしい。
「そうよね」
「ねえ」
 しかも二人は今度は顔を見合わせて言い合う。
「これ位食べるのって」
「朝から三杯は食べないともちませんよ」
「朝から三杯ね」
 江夏先生はそう聞いてまず苦笑いだった。
「そこが凄いのよ」
「はあ」
「そうなんですか」
「二人共そのわりに痩せてるし」
 ただし咲は少し肥り易い莞爾のする身体つきだった。だが彼女自身には余り自覚のないことであるらしい。
「羨ましいわね」
「そう言われるとちょっと」
「先生だってスタイルは」
「先生は努力してるの」
 言葉に少し棘が入っていた。
「これでもね」
「絶対嘘だよな」
「なあ」
 ここでクラスの面々が先生の後ろでヒソヒソと話をする。
「先生って酒豪なんだろ?」
「それもかなりらしいわよ」
「そうよね」
 男組も女組も混ざって話をしている。
「それで努力してるってな」
「絶対に嘘よ」
「聞こえてるわよ」
 先生の耳は地獄耳だった。
「生憎ね」
「うう、流石は」
「おみそれしました」
「確かに飲んでるわよ」 
 先生もそれは認める。
「それもいつもね」
「田淵先生とですよね」
「確か」
「お互い色々参考になるのよ」
 この言葉はただの理由付けだけではない。二人共結婚していて年齢も近い為何かと意見交換をしているのである。酒は潤滑油でもあったのだ。
「だからだけれど」
「あれっ、その田淵先生は」
「何処に?」
「呼んだかしら」
 遠くからその田淵先生の声が聞こえてきた。
「何かあったの?」
「別に何でもないわ」
 江夏先生が田淵先生の声に対して述べる。
「ちょっとね。生徒と話してるだけよ」
「どんなお話ですか?」
「別に大した話じゃないから」
 こう返すのだった。
「そっち御願いね」
「わかりました」
 これで先生達の間での話は終わった。江夏先生は二人に香を戻してあらためて言ってきた。
「それで。食べ終わったら」
「はい」
「何ですか?」
「洗いものは忘れないでね」
 このことを二人に対して強く言うのだった。
「わかったわね」
「うっ、何か信用ない?」
「ひょっとして」
「少なくともお芋のことで喧嘩するようなお子様には念を入れるわ」
 江夏先生も実に容赦がない。
「わかったわね」
「わかりました」
「残念ですけれど」
 彼女達もこう言うしかなかった。流石に江夏先生は手強かった。
「お芋勝負なら帰ってから好きなだけやりなさい」
「はい」
 あらためて先生の言葉に頷くのだった。
「北海道でも九州でもね」
「うう・・・・・・」
「それにしても二人共」
 話が一段落したところでまた二人に声をかけてきた。
 
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