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蒼と紅の雷霆

作者:setuna
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蒼紅:第九話 宝石

 
前書き
パンテーラは好きな異性に対して暴走しつつ、一途そうなイメージです。 

 
歓楽街から戻って来たソウは出迎えてくれたテーラに思わず安堵の感情を抱いた。

「お帰りなさいソウ」

「………」

彼女の笑顔が一瞬、パンテーラと重なったが気にしていても仕方ないと判断して歓楽街で拾った宝石をテーラに差し出す。

「これをお前にやる」

「これを…また貰って良いのですか?ソウ?」

「男の俺が持っていても仕方がないだろう…お前に渡すために拾ったんだ…これを貰ってくれないと…困る(な、何故だ…前はもっとあっさりと渡せたはずなんだが…このモヤモヤとした感情のせいか…?)」

パンテーラと出会ってからの一連の出来事により、妙にテーラに対して気恥ずかしさを感じる。

「……ありがとうございます…ソウ…嬉しいです」

嬉しそうに微笑むテーラにソウは気恥ずかしさを隠すように自室に戻る。

「そうか…俺はシャワーを浴びて寝る。お前も早く寝ろ…」

「はい」

テーラは渡された宝石を握り締めて部屋に戻ると、指でそっと唇に触れた。

「ふふふ…この暖かい気持ち…これが…真実の愛なのですね…宝剣の力による勢いもあったとは言え、勇気を出した甲斐がありました…」

実はこのテーラ…パンテーラはオリジナルであり、今までの転写体だったテーラは歓楽街にいたオリジナルのパンテーラと交代したのである。

これで皇神からは死亡したと思われているので今後は動きやすくなるだろう。

何時かは計画を実行せねばならない時が来るだろうが、せめて今だけはソウ達の家族の一員であるテーラとして生きたいと思った。

「そう言えば兄さん、テーラが何処に行っていたのか知らない?」

「は?」

着替えの寝巻きを持って風呂場に向かおうとしたソウに尋ねるGV。

「シアンが起きた時には既にテーラの姿がどこにもなかったんだ。多分、自分の所属する組織の所だと思うんだけど…」

「そうか…だが、あいつに敵対する意思がないなら無闇に詮索する必要もない。少なくともあいつはこの暮らしを壊したいわけではないようだしな」

「…そっか……」

フェザーは様々な過去を持つ者が集まった組織であるため、基本的に仲間の過去を詮索することはしない。

それはフェザーを抜けたGVやソウにも染み付いたフェザーのメンバー共通の癖のような物だ。

ソウは寝巻きを持って風呂場に向かったのである。

一方その頃、皇神の宇宙ステーション“アメノウキハシ”。

「紫電様、パンテーラの部隊が壊滅したようです!」

「何だって…!悲しいね…また、フェザーの連中の仕業かい?」

紫電と呼ばれた少年はGVとソウと同い年くらいの容姿だ。

しかしこの少年は念動力(サイコキネシス)の能力者であり、能力SSランクと言うGVとソウ、パンテーラと同格の能力者なのだ。

念動力は思念をエネルギーに変換し、空間や物体に干渉する最も原始的な第七波動であると言われている。

そして、戦闘能力に限れば蒼き雷霆を超え、紅き雷霆に匹敵するとも。

「いえ、それが…生還した者の証言によるとパンテーラを倒したのは紅白の甲冑(アーマー)のような装備を纏った少年だったと…」

「甲冑(アーマー)?ああ、なるほど…神園さんの…」

「ご存知なのですか?」

「うーん…ちょっと厄介な人だけど特に手を打つまでもないかな?彼は組織だって動いているわけじゃないし、能力者でもない…。私怨で動いているだけの“ただの人間”だからね」

神園アキュラに対しては特に気にする必要は無い。

紫電自身が言ったように組織の力の前では個人の力などたかが知れているのだから。

「能力者でもない少年があのパンテーラを…?」

「世の中にはいるんだよ。ごく稀に、本物の天才っていうのがさ…。彼がフェザーと潰し合ってくれれば、こっちとしては楽なんだけどね…今はそれより、モルフォの捜索を優先してくれ。彼女は“プロジェクト”に欠かせない大切な姫巫女なんだから」

「ハッ!」

去っていく皇神兵の姿を見送ると、紫電は地球の方向を見つめる。

「モルフォは必ず確保させてもらうよ…雷霆兄弟」

地球の…日本のどこかにいるであろうGVとソウ、そしてシアンとモルフォに宣言するように呟く紫電であった。

そして翌日の朝、シアンがGVから貰った宝石を見つめて唸っていた。

「どうしたのですか?シアン?」

「あ、テーラちゃん?あのね、GVから貰った宝石なんだけど…私…GVに何かしてもらってばかりだから…何かしてあげたいの」

「シアンは充分、GVの力になれていますよ。あなたの歌がミッション中に聞こえてくるからこそ、GVは心が折れることなく戦えるのですから」

自分の帰りを待っていてくれる人がいるのは意外と支えになるものだ。

「そうかな…でも、もっと何か別の方法でGVの助けになれたらなぁって…」

「なら、プレゼントはどうですか?」

名案が浮かんだとばかりにテーラはシアンに提案する。

「プレゼント?」

「はい、その宝石で何かを作ったらどうでしょう?ミッションでも邪魔にならないように持ち運び出来るような物が良いのでは?」

「そっか…でも宝石…これだと少し足りないかな?」

アクセサリーにしようにも2つだけでは少し物足りない感じがする。

「なら、私がソウに貰った宝石…使います?ソウならきっと分かってくれると思いますし…」

その言葉にシアンは慌てる。

「だ、駄目だよ!それはお兄さんがテーラちゃんのために拾ってきたんだから!!テーラちゃんもお兄さんにそれで何か作ってあげたらどうかな?」

「そうですね…私もソウに何かをしてあげたいですから…手伝いますよシアン」

「うん、頑張ろうねテーラちゃん!!」

GVとソウと言う、それぞれの強敵のために女性2人による共同戦線が張られた瞬間であった。 
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