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蒼と紅の雷霆

作者:setuna
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無印編:トークルームⅣ

《雷霆兄弟の指輪》


「GVとお兄さんって、よく指輪をつけてるけど…何か大切な指輪だったりするの…?」

「ああ…これか、この指輪は第七波動を高める効果があるって言われている霊石や…特殊な金属で出来ているんだ」

「原理的には、恐らく皇神の能力者が持つ宝剣に近い物なのかもしれんな…まあ、あそこまで劇的な変化はしないが…」

兄さんの呟きに僕は胸中で同意した。

装備1つでいちいち劇的に体が変化していたら体に適応させるにも時間もかかるし。

「指輪にしているのは僕の趣味と兄さんが動く際に邪魔にならないからって言ってたからであって…あくまで任務のための装備だね」

「そっか…良かった…(大事な人からの贈り物とかじゃなかったんだ…)」

その言葉に僕と兄さんは疑問符を浮かべる。

「良かった…って何が?」

「シアンはGVが身に付けてる指輪が女性からのプレゼントじゃなくて安し…むぐぐ…」

「それ言っちゃ駄目!!」

シアンが顔を真っ赤にしてテーラの口を押さえて叫ぶ。

「お前、顔が赤いぞ…熱でも出たか?」

兄さんがコーヒーを飲みながらシアンに指摘すると顔を真っ赤にしたシアンがテーラを引っ張ってリビングから出ていこうとする。

「な、何でもない!何でもないよお兄さん!熱なんて無いから!!2人共、指輪、似合ってるよ…」

「…?…ありがとう…?」

「何だったんだあいつら…」

シアンの奇行に僕と兄さんは首を傾げるしかなかった。


《EPと格好いいポーズ》


「GVとお兄さんがたまに取ってるポーズって…何なの?」

「ポーズ…?…ああ、チャージの…あれはEPエネルギーをチャージするための型…。精神集中するための自己暗示…みたいなものかな?」

「いーぴーえねるぎー?」

「ELECTRIC PSYCHO エネルギー。俺とGVの能力因子が生み出す電気エネルギーのことだ。俺はこの能力因子のエネルギーと体質が噛み合ったことで蒼き雷霆が紅き雷霆に昇華された。俺とGVは能力の使用に他の能力者とは違ってこのエネルギーに依存しているから、残量によっていちいちエネルギーをチャージしなければならない欠点はあるがな」

「…つまり、ただのカッコイイポーズじゃなかったんだね」

「自己暗示のためのものだからそういう認識でも間違ってはないけど…」

そんな風に思われているなら…ちょっと控えたくなってしまうな…。

「あっ…違うの!格好いいと思うよ!凄く!私も何か考えてみようかな…モルフォを呼ぶ時のポーズ」

「…必要ないと思うよ」

「いいえ、ポーズは必要です。シアン、私とポーズの練習をしましょう。こうです!!」

テーラが謎のポーズをして僕とシアンを唖然とさせ、兄さんを呆れさせた。

「さあ、シアンも!!」

「ええ!?こ、こう?」

「この美しいポーズは腰の捻りが重要なのです。このポーズは真実の愛のポーズ!!絶技なのです!!」

謎のポーズの練習会が始まり、最終的に何故か僕と兄さんまで強制参加させられた。

最大の不運は遊びに来たジーノに謎のポーズを決めた直後を見られたと言うことだろう。

この記憶は永久に封印しておこうと心に決めた。


《雷霆兄弟とジーノ》


あの謎のポーズをジーノに見られてしまったと言う人生最大の汚点から数日後。

「ジーノさんって、よく遊びに来てるけど…どういう人なの?」

「いい加減な人に見えるけど…ああ見えてフェザーの中でもトップクラスで、実力は兄さんも一目置いている程なんだ。歳も僕達の2つ上で近いし、仲は良い…かな。何時もあんな感じだからあんまり年上って感じはしないんだけどね」

「ソウが一目置くほどですか…(納得出来ますね…私と戦って生き延びたのですから)」

「まあ、実力だけはあるな。実力だけは」

とはいえ、フェザーの構成員であるジーノが僕らに接触するのには、様々な工作や手続きが必要なはずだ。

その手間を惜しんででも、度々この家に顔を見せにくる辺り、あの人が僕達のことを気遣ってくれていることは分かっている。

「…GVとお兄さんってジーノさんのこと信頼してるんだね。そんな目をしてる…」

「信頼出来る人がいると言うのは素晴らしいことです」

「「………」」


《無能力者の歴史》


「そう言えば、お兄さんは無能力者の人が嫌いなんだよね?」

「え?」

突然のシアンの質問に僕は驚く。

テーラも興味があるのか耳を傾けている。

「そうだけど…どうしたの?」

「お兄さん…無能力者の人が嫌いなのに…フェザーの無能力者の人や街の人達には何もしないから…どうしてなのかなって少し気になって…」

僕は少しの間を置いて口を開いた。

「兄さんは、過去のことが原因で今でも無能力者が嫌いだよ。昔は無能力者の人達ってだけで能力で攻撃しようとしていたくらいだし…」

「では、どうして今のソウは皇神の無能力者や不良無能力者くらいしか攻撃しないのですか?」

「僕達が暮らしているこの家も、僕達が利用している家具類も、電気も、食べ物も、全て無能力者がいて存在する物。僕達は無能力者達が培ってきた恩恵で生きている。生きている以上、どうしてもそれを直視せざるを得ないんだ。兄さんも悩んだけど、無能力者の技術を利用するってことで落ち着いたようなんだ。実際、無能力者の人達が築き上げてきた物が僕達の生活を支えている」

「GV…もしも…もしもですよ?もし、世界の無能力者が滅びて能力者だけとなったら…どうなると思います?」

無能力者への憎しみを持っているテーラからの質問に僕は悩んだものの、答えるために口を開いた。

「…多分、厳しいと思うよ?僕達能力者の歴史は…無能力者に比べて遥かに短い。長い時間をかけて彼らが培ってきた物を全て吸収するのは不可能に近いと思う。」

「……(ですが、可能性が全くないと言う訳でもありません。私は能力者の楽園を…)」

僕はテーラが拳を握り締めて俯いている姿に何も言えなかった。


《能力者の楽園》


私はソウと2人になった時、思い切って聞いて見ることにしました。

「ソウは能力者だけの楽園は可能だと思いますか?」

「楽園?…それがお前の所属している組織の目的か?」

「はい、無能力者を殲滅して能力者だけの世界を創る…それが私の所属する組織の目的です」

「…無能力者がいなくなるのなら個人的に清々するがな。でもそれは現実的に厳しいだろう。」

「…無能力者の歴史…ですか?」

「そうだ。悔しいが、俺達と比べて無能力者の歴史は長い。だから奴らの全てを奪って能力者の物にするには相当の時間が必要になる。加えて能力者の環境は最悪に近いからな…まともに知識を得る環境があるのかどうかも疑問だ」

「そう…ですか…」

楽園の可能性をソウにまで難しいと言われた私は悲しくなりました…。

「無能力者にも一応認めてやらなくもない奴もいるからな…シープス3とかな…無能力者だが、ナビゲートやお前達とのことで色々世話になってるから借りは何時か返さなければならんだろう。借りを返すのは人として最低限のルールだからな…俺は皇神の屑共のように利用するだけして捨てるような奴にはなりたくはない」

「(全ての無能力者がモニカさんのような者達ばかりなら私達は虐げられずに済んだのに……でも今更ですね…無能力者と能力者が手を取り合う時期は既に過ぎているのですから…ごく一部の無能力者のために能力者が虐げられたままでいいはずがないのですから)」

自分の理想の厳しさを改めて感じた私はソウの腕に縋るように抱き付きました。

「どうしたテーラ?」

突然の私の行動にソウは困惑したような顔をしていました。

「ソウ…少しの間だけ…良いですか?」

「…好きにしろ」

私を振り払おうとしないので、私はソウの優しさに甘えることにしました。

「次は抱き締めて欲しいです…」

「………」

ソウは少し困った表情を浮かべた後に私を予想していたよりも優しく抱いてくれました。

一緒に暮らして分かったのですが、ソウは一度心を許した相手には甘いようです。

だから私の願いを聞いてくれると言うことは私もソウに受け入れてもらえているのだと理解しました。

しかし夢中になっていたからか、シアンが覗いていることに気付けませんでした。

「あ…あわわ…」


《弟は兄の幸せを願う》


兄さんの部屋を覗いて顔を真っ赤にしているシアンの姿を不思議に思いながら僕もシアンの後ろから部屋を覗くと、兄さんとテーラが抱き合っていた…。

「え…?兄さんと…テーラ?」

何で兄さんとテーラが抱き合っているんだろう…しかも何故か普段の2人とは少し雰囲気が違うような…。

いや…兄さんもそう言う関係の人がいてもおかしくない年齢なんだけど。

「G…GV…お兄さんとテーラちゃんが…」

同居人のこんなシーンを見てしまったシアンは真っ赤だ。

兄さんとテーラがどうしてああいう状態になったのか気になるけれど…。

「いや、駄目だ。いくら兄弟でも兄さんには兄さんの関係があるんだ。弟の僕でも深入りしてはいけない…シアン…行こう…」

「も、もう少し…」

「良いから…!!」

もし、兄さんとテーラがそう言う関係になるなら…応援した方が良いのかな…僕は…?


《シアンは運動が苦手》


俺がリビングでコーヒーを啜っていると、シアンが溜め息を吐いた。

「はぁ…」

「どうした?溜め息を吐いて?」

「あのね、お兄さん。明日は学校で体育の授業があるの…」

「なるほどな、運動能力が壊滅的なお前からすれば嫌な時間と言うわけか」

俺とGVに助けられるまでシアンは電子の謡精の本体として幽閉状態だったので運動が苦手なのも仕方のない話だろう。

「お兄さんやGVは運動…勿論得意だよね。でも…お兄さんもGVだってすっごく努力したんだろうし。私も、頑張らなきゃ…」

確かに、戦うための訓練は死に物狂いで重ねてきたが、俺達の場合は雷撃の第七波動による身体能力の強化もあってのものというのは、黙っておいた方がいいかも知れないな。

羨ましがられても困るし、シアンにとっては足りない知識と運動能力を得るためには必要なことだとは思うしな。

やる気を持たせるのも大切だろう…まあ、本人のやる気がどこまで続くかは分からないが。


《シアンとモルフォ》


「そう言えば前にあの馬鹿が…」

「馬鹿って…ジーノさん?」

「ああ…あいつは確か、モルフォのファンだと言っていてな」

『フフ…嬉しいわね 今度サインでもしてあげようかしら?』

モルフォが現れる。

何時も通り、神出鬼没だ。

確か…あの馬鹿はモルフォの大人っぽいところが好きだと言っていたな…。

ふむ…改めてモルフォとシアン、2人を見比べる。

「え?何…そんなに見つめて…は…恥ずかしいよ…お兄さん…」

「いや、あいつはモルフォの大人らしいところが良いと言っていたからな…確かに…モルフォと比べてシアンは外見も中身もガキだな…最近は本当にテーラより年上なのかも疑わしくなってきたからな…」

「ひ、酷いよお兄さん!!でも…言い返せないぃ…」

11歳と言う年齢であるにも関わらずに落ち着いており、おまけに博識でシアンよりも遥かに運動出来るテーラと自分を比べたのか…シアンは肩を落とした。


《ロボットの悲しき恋》


「くすん…」

学校で借りてきたという本を読んでいたシアンが突然、涙を滲ませ始めました。

「…大丈夫ですか?」

私が差し出したハンカチをシアンが受け取って涙を拭きます。

「…うん…この本が…悲しいお話で…パン職人のロボットが…人間の女の人と恋に落ちるんだけど…女の人…死んで…ぐすっ…」

シアンの目元に、再び涙が溜まっていきます。

元アーティストだけあって感受性が豊かなのでしょう。

しかし私も似たような経験があります。

本屋に立ち寄った際に見つけた2つの組織に所属するロボットの男女の悲しき愛の話です。

ロボットの女性はロボットだけの世界でロボットの男性と暮らすことを望んでいましたが、ロボットの男性はロボットだけの世界を幻と断じて、最後の最後まで想いが重ならずに終わってしまった悲しき愛のお話です。

…これを読んだ時、私は何故か他人事とは思えませんでした。

「…その本、今度私にも読ませてくれませんか?シアンにも読んでもらいたい本があるんです」

「うん…」 
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