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魔法少⼥リリカルなのは UnlimitedStrikers

作者:kyonsi
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第62話 宣戦布告

――sideフェイト――

 アースラを本部として、空を往く。新たな機動六課の本部となった、大切な思い出の船。

 奏達が居なくなったことが分かって1日が経った。相変わらず何処にも引っかからないことから、ただ事ではないということは分かる。

 だけど、その中で唯一シグナムだけが。ポツリと呟いた。

 ―――天雅達3人はともかく。楠舞と有栖がこのまま黙って引き下がるとは思えない。ある意味で、あいつららしい話だ。

 曲がりなりにも管理局が関わってることからはやても頭を抱えてる。知らないところで大変な目にあってるんじゃないかって。この事をFWの皆にはまだ伝えていない。状況が状況ということもあって、心配事を増やして、不安定にさせるわけにはいかないから……。

 奏達ばかりに構うわけにも行かない。当初の通り私達の出来ることをやっていこう。

 そう決めたときに。
 
『フェイトさん。ギンガを見なかったですか?』

「ううん。どうしたの?」

 ブリッジにいるリインからの艦内通信を受けて、何処にいるか分からないことを伝える。
 困ったように唸るリインを見ながら、最近のギンガを思い出すと、オーバーワーク気味で、どうしようかと悩んでいるところでもあるんだよね。
 
『教会騎士、いえ、今回の場合は知り合いだから連絡できませんかーって通信が入ったんです。シスターアーチェから』 
 
 ぱぁっと、目の前が明るくなった様な気がした。
 現状で、最も対等な相手だったねと。その事を思い出して。
 
「リイン。折り返しは効く?」

『は、はい。アーチェからも折り返しでもいいからって言ってますです』

「わかった。見つけたらリインに伝えるから繋げてくれる?」

『はいです。でも、今のギンガが素直に連絡するなんて……』

「うん。無いと思う。だから、私が見つけてリインに教えるから」

『あ、分かったです。その事伝えときますねー』

「お願いねリイン」

 さぁ、直ぐにギンガを見つけないとね。
 
 ――――
 
 奏達をアースラには乗せないと伝えた時、誰よりも動揺して、責任を感じてしまったのがギンガだった。
 FWの皆にはまだ……ショックが大きいと、響が敗けた映像は見せていない。
 それでも、スバルとギンガ、その後をやってきたティアナは察しているだろう。なのはが言うには、現場には大量の血痕が飛び散っていたらしい。
 紗雪と、銀髪の――チンクと呼ばれる子の血もあったが、それ以上に響の血液が多数を締めていた。
 
 それを見ている以上、それほどまでの相手だというのは察しているが、唯一ギンガだけは、その映像があるのなら見せてほしいと懇願され、映像を見せた。
 
 誰よりも悔しそうに、誰よりも辛そうに映像を見て、黙って泣いていた。
 
 ギンガと一緒に二度目を見ていて、そこで気づいた事がある。
 なのはも言っていたけれど……途中から響の動きが変わったのは分かっていたが、見切った上での行動だと考えてた。一打で、二度攻撃していることを。
 
 花霞を修復している間は、完全に防御姿勢をとっていた、しかし、少しずつ刀を持った時に攻めている時。刀の打ち込みではなく、逆手で握った柄の打撃から始まり、その流れで刀身を滑らせ斬りかかるという方法。
 よくよく見れば、ストレートの打ち込みに対して、肘で迎撃したり、相手の拳に対して柄を立てて防御、そこから右逆手で持った鞘の鯉口を真直打ち込み、弾き飛ばす等……明らかに響の手数が増えている。
 
 妙だと思う反面、なんでこんな行動を? と考えて……震離の身体強化の一つを思い出した。体を奔る僅かな電流を可視化、動かす部位を見て予測する方法もあることを思い出して。
 
 相手はもしかして、響の行動の先読みが出来ている?
 
 その事を頭に入れて、この後の紗雪を見る。初見の筈なのに、直ぐに本体を見抜いて迎撃している事から可能性は高い。
 一打目が読まれているから、二打目を打ち出しやすい攻撃をしているのは分かった、それほどまでに精度が高いのかなと疑問はある。
 
 そんな中で、響と紗雪が倒されるまでを見たギンガは。
 
 ――ごめんなさい。
 
 俯いて、涙を零していた。
 初めて見たのなら、その気持ちはよく分かる。実力で敗けたのなら、まだ納得できる。其上で対策を考えて、次につなげれば良いんだから。
 でも、この戦いに関しては違う。
 勝てた……いや、少なくとも敗けはない戦いだったはずなのにと考えてしまう。
 
 特にギンガは、自分が残っていたらと強く考えてしまうんだろう。
 
 それからだ。ギンガが居なくなった皆の代わりに動くようになったのは。
 オーバーワーク気味に作業をこなし、空いた時間には無理だと思うようなトレーニングを。
 無理やり待機命令を出さないと止まらないほどに。
 
 なのはも一度強く注意をした。いつかのティアナの時とは違う、ちゃんとお話をした上で……それでも止まらない。
 細かい連携からの、鋭い一打が持ち味だったのに、たった数日でスバルとは違う。疾く強く壊す事に特化していった。
 なのはも力ずくでも止めるべきだと言っていたけれど、そのなのははブラスターシステム開放の為の調整で動けず、そもそも時間が噛み合わないせいですれ違ったままだ。何より、分かってるからこそ私達を避けているし。
 
 だからこそ、ギンガと短い期間でも一緒に居たアーチェならばと。
 
 
――sideアーチェ―― 
 
 第二……や、第三ラウンドに立つ事無かった敗北者です。
 シャッハさんや、ロッサさんと一緒にスカリエッティのアジトを探しているんですが……もしかすると響と紗雪を倒したと言うアンノウンに遭遇したら、ということを考えたら、とりあえず映像だけでも確認しようという事になった。
 
 ……うん、あれ。シャッハさんなら、ワンチャンスあるかなー。私やロッサさんだと駄目かなーって。
 元々響とアンノウンには因縁ありきだったから、あの場でタイマンと言う流れに持っていけた。
 アグスタの頃から、変な防御あるというのは聞いてたけども、それ以上に動きを見切っていることが恐いなと思う。
 ただ……響にアンノウンをお願いして、ウェンディとノーヴェと、そのちっちゃいお姉ちゃんの三人を相手取れたかと聞かれれば……無理だったと断言できる。
 まず、私の負傷が思ってた以上に深かった事と、ギンガだけを……文字通り生きていれば良いという状態まで削られる恐れがあった。
 
 そういう意味では、私達を転移させた判断は間違って無かった。
 唯一のミスがあるとすれば、返しの一手で勝ちに行こうとしてしまった事なんだけど……あれは責められないんだよ。
 しかもあれって、勝ちに行こうとしたというより、流れを変えようとしたんじゃないかなーって。
 
 まぁ、それは置いといて……折り返しが遅いわー。
 
 絶対に、いや確実にギンガは気に病んでるだろうから、少し話でもと思ってたのに……個別メッセージにも反応しないし、そもそも既読つかねぇし。
 
 唯でさえ……唯でさえ、他の同い年同盟が軒並み行方くらましてんのに……最近できた友達が冷たいんだ……。
 
 なんて考えてたら。
 
『……どうしたのアーチェ?』

「……わぉギンガ久しぶり!」 
 
 突然過ぎて、一瞬反応遅れちゃったよ。でも、久しぶりに会えた事に喜び半分、やっぱり思い詰めていたんだなと直ぐに分かってしまった事。
 
 だから話をすれば――
 
 ――――
 
「だから1人で勝てると思い上がらないでって言ってんのさ!」

『少なくともあの時私が足を引っ張ったからこの結果になったんでしょう!』

「それ言ったら負傷した私が悪いんだよ。ギンガの理屈だとそうなるよ! 自己犠牲ぶらないでくれますかぁー?」

 まぁこうなるよねぇって。
 分かってたから躱す方向に向かってたはずが……駄目だなぁ私は。
 皆だったらうまく話を持っていけたんだろうけど……違う、私がやるんだ行くぞオラァ!

『ちが……でも何方にしろ狙われた私が……私が』

 あと一手だったみたい。気合入れたのが空回っちゃった。 
 
「あのさ。そっちでどう分析したか分からないけど。正直私が負傷しても無くても……あの状況は詰んでたんだよ」

『……え?』

 ゆっくり話していく。多分現状で私だけしか、あのときの響をきちんと説明出来ないだろうから。
 だから、丁寧に丁寧に、あの時考えたであろう響の行動を伝えていく。
 仮に私が無傷だとしても、護衛として送ったであろうということ。響が気に入られている事を逆手に取るためでもあること。
 怪我した私だけ送ったとしても、3対1になってしまえばいくらギンガでも持たない可能性があったということ。
 
 何より、最後の一手は勝ちに行くためじゃなく、流れを変えて撤退するための一手だった筈ということを改めて伝えた。
 
「……悔しいんだけどさ。正直な所、私の上司……シャッハさんを当てたとしても、正直可能性低いんだよね。
 私はそもそも響やギンガみたいに、手数で勝負ってタイプじゃない以上……勝てる見込みは少ない」
 
 それはギンガだって、と続けようと思ったけど。通信越しで直ぐに理解して……なんとかなったと確信した。
 
「奏達が居なくなったのも……今の管理局は本当に手数が足りないから、呼ばれて応じたんだと思う。
 響以外の6人は、本当に優秀だから引き手数多なんだから大丈夫。今は顔を出せなくてもちゃんとこの事態をなんとかしようって動いてるはずだよ」
 
『……ッ……ウッ』 
 
 ……あーぁ。時間を作って、側に行けばよかった。
 あんなに強い人が悔しいって泣いているのに、私は声を掛けるしか出来ないんだもん。
 
「大丈夫。誰よりも、あの人らが一番怒ってるよ。リュウキに続いて響までだもん。2度もやられた。だから3度目になる前にやり返す。
 やられたらやり返すっていうのが、基本理念だもの。だからさ、皆帰ってきた時に、おかえりって言ってさ、何処行ってんのよバカって叱ってやろうよ?」
 
  
 ――sideギンガ――
 
『大丈夫。誰よりも、あの人らが一番怒ってるよ。リュウキに続いて響までだもん。2度もやられた。だから3度目になる前にやり返す。
 やられたらやり返すっていうのが、基本理念だもの。だからさ、皆帰ってきた時に、おかえりって言ってさ、何処行ってんのよバカって叱ってやろうよ?』
 
 思わず笑ってしまった。
 アーチェが奏とそっくりな事をいった事に。
  
『アーチェ、ロッサが呼んでます。そろそろ……』

『あ、はい。さてとギンガ? もう大丈夫?』

「……うん。大丈夫。あ、ねぇ? もし……もしさ、アーチェならどうする? もし響を倒した人と相対出来るかもしれないとしたら」 

『勝率が高い人にお願いする。自分だけって言うなら、次に繋げる様にするよ。だけどギンガ?』

「分かってる……大丈夫、私は私の出来ることをちゃんとするよ。気をつけてね?」

『うん。そちらもね? 上手く行けば今回で見つかるかも知れない。その時は宜しくね?』

 最後はニッとお互いに笑って通信を切った。

 わかってた。今の私じゃアイツには勝てないと。夢に見るほど後悔と悔しさがあったけど、わかってた、でも認めてしまえば……響のしたことが無駄になってしまうと。
 だから、ずっとずっと一太刀浴びせたくて、無茶をして……思うように行かなくて悔しかった。
 
 響達が敗けた映像を見て、それは余計に理解してしまった。あの場に居ても……私じゃ役に立てなかったって。
 だから、だからせめて奏達の代わりに戦わないとって、取り返さないとって。
 
 でも私だけが悔しいわけじゃなかった。わかってたはずなのに……全然わかってなかった
 
 アーチェは強いのを知っている。なのに、そのアーチェが勝てないって認めるまで……どれだけ悔しがったのか、私は分からない。
 でも、その上で次の一手を出せるのは本当に凄いことだ。
 
 ……さぁ、私も動こう。最近はなのはさんの教えを無視してたんだ。ちゃんと謝らないと。
 

 そう決めたときに。

 
 アースラの中で、アラームが鳴り響いた。
  
  

――sideアーチェ――

「この洞窟がですか?」

「僕の猟犬を発見して、その上一発で潰した。並みのセキュリティじゃない。ここがアジトで間違いないね」

 ロッサさんが険しい表情でそう話しながら、希少技能、無限の猟犬(ウンエントリヒ・ヤークト)の発動を解除。

「凄いですね、ロッサ。こんな場所よく掴めました」

「シャッハ、いいかげん僕を子供扱いするのは止めて欲しいな」

 翠に輝く猟犬を撫でながら話すロッサさんに、嬉しそうに、誇らしそうに話すシャッハさんをみて、こちらも嬉しくなる。

「これでも一応カリムやはやてと同じく、古代ベルカのレアスキル継承者なんだよ」

無限の猟犬(ウンエントリヒ・ヤークト)。あなたの能力は存じ上げていますよ」

「ま、今回の発見は、フェイト執務官やナカジマ三佐の地道な捜査があってこそのものだけどね」

 うん、早いわぁ!!
 
 人知れず突っ込みそうになるのを必死に堪える。くっそ、さっきの今で、もうだよ? なんだコレ?
 2人が会話をしてる横で、がさりと茂みが動いたのが見えて、腰を落として構える。

「……来た」

 静かに呟くと同時に、鉄球を、ミーティアを取り出して展開。瞬時に手足に鎖が巻き付き4つの鉄球が現れる。周辺に隠れていたガジェットⅠ型が一斉に姿を現した。
 後は……うん、懐かしい気配に、思わず口が緩みそうになるのを堪えて。

「大人しく帰してくれる気はなさそうですね」

「戦闘はあまり得意じゃないけど……まあこのくらいなら」

「お任せください、行きますよアーチェ……え!?」

 瞬時に防護服を纏ってるシャッハさんを他所に、高く飛び上がって全身をひねると同時に。

「……邪魔ァッ!」

『Meteorschauer.』

 4つの鉄球を繋ぎ留める鎖を延長。同時に躰の捻りと共に周囲に高速で叩きつけていく。

 同時に鉄球部分に仕込まれたブースターを点火し、更に勢いとその威力、衝撃を高め、それらをガジェットへと叩き込む。

 そして、出現した分を全て撃墜したのを確認した後。

「「……」」

「……行って下さい。既に連絡は入れているとは言え、私はこの中には入れません(・・・・・)」 

 ぽかんとする2人を尻目に、一際高い岩の上に着地すると共に、再び鉄球を構える。

「な、アーチェちゃん!? 何を!?」

 下で困惑するロッサさんの声を聞きつつ、周囲に意識を向けると、ピリピリと肌が粟立つ。この感じを私は知ってる。

 だって、この感覚は……。

「人が留守(・・)にしている時に玄関先で暴れるのは無礼千万だと……親兄弟から習わなかったか、女中よ!」 

 どこからか現れて、私と同じ位の位置に存在する木の上に着地した黒い影。

 というか、この野郎……今なんて言った? この格好を女中? 女中と言った? 女中……ねぇ。

 あったまきた。奥歯を噛み砕くくらいの怒りを抑えながら、睨みつける。

 黒い仮面でよくわからないけど、明らかに私を侮ってるのがよく分かるよ。

「申し訳ありません。私()は孤児院出身なもので……、礼儀作法は知っております。が、私の友人が務める部隊を襲っておいて、それを言うのは……フェアではないかと?」

「女中風情が囀る。いいだろう、拙者が相手を仕る! すぐに倒れてくれるなよ!」

 ビキビキと眉間に皺がよるのがわかる。
 そんな私を他所に、懐から赤い銃を、腰の赤い刀を抜いて連結。全く、最初から本気で来てくれるのは感謝しか無いよ。

「アーチェ! 先に先行します、頼みましたよ!」

「御意」

 さぁ、始めよう。何度目かわからない貴方と私の喧嘩を、最初で最後の命の取り合いを!

 だからこそ!

「教会所属ゥ。アーチェ・ノヴァク。いざ、圧潰してみせましょう!」『Jawohl.』

「シュバルツだ! いざ、罷り通る!」『了!』

 女中なんて良い度胸だ、行くよ、リュウキ!!


――sideはやて――


 けたたましくなるアラームを聞きながら、眉間に力が入るのが分かる。

「オペレーター各員、急いで情報の収集と整理を! 情報がまとまり次第転送の方をお願いな!」

「了解です!」

 とは言ったものの、既に地上の頼みとも言われたアインヘリアルは……もう。

「はやてちゃん、一体どうしたの!?」

「まさかこんなに早くこのアラートを聞く事になるとはな……」

「緊急招集アラートっていう事は……もしかしてスカリエッティ達に動きがあったの?」

 ブリッジになのはちゃんとフェイトちゃん、シグナムが駆け込んできたのを確認して、そちらの方へ振り返る。

「みんな来てくれたね。それじゃあとりあえず分かっている事だけになってまうけど説明を行っていくよ……リイン、表示の方頼めるか?」

「了解です、マイスターはやて!」

 リインの操作により空間モニターが表示されると共に。1つの連絡が入った。

「アインヘリアル1号機、2号機の戦闘機人、撤収していきます!」

 シャーリーが貰った連絡を読み上げるとともに、ブリッジの正面モニターに映し出された地図と、そこに示される敵を示す赤い光点を見つめていた。

「前回よりも、動きが速い……」

 グリフィスくんの言う通りや。地上本部の襲撃時よりも間違いなく動作レベルが上っている。

「うん。しかも、嫌な感じに拡散してる。私達が突っ込んで行けないように……ってことかな」

 映像を見たなのはちゃんが苦々しく呟く。実際その通りでモニタに映る光点、それぞれが数人ずつのグループに分かれて別々の場所へと移動しているようや。
 この場合考えられるのは……こっちの戦力を警戒して、分散させて叩こうって考えなのか……それとも、よっぽど自分達の戦力に自信があるのかのどちらかや。

 まぁ、スカリエッティのことや。後者やろうけど。

「アコース査察官から直通連絡!」

 シャーリーからの報告と同時に正面モニターにロッサの顔が映し出される。だけど、その表情は苦々しく苦悶に満ちてた。

『はやて、こちらヴェロッサ。スカリエッティのアジトを発見した!』

「ほんまか!」

 この報告はナイスなタイミング……のはずやのに、それでもロッサの表情は変わらない。

『だが、最悪だ。スカリエッティは既にアジトを出ていた!』

「なんやて!?」

 出ていたって、何処にいくっていうんや!? 

「え、あ……え!? 地上本部から通信! 中将です!」

「は!?」

 このタイミングで……レジアス中将!? 何でや!?

『はーい、はやてさん。お久しぶり……あら、取り込み中?』

 ……うん!? え、は、え?! 待って、この人が中将?! だって、この人……この前来た時、秘書官って言っとったやん!? 何で?

「……中将だったんですか、フレイさん……?」

『えぇ、表向きは秘書官ですけどね。私の要件は後で結構です。先に教会側の方を』

『あ、あぁ、申し訳ない。だが、そちらの方は?』

 ……なんちゅーか。アースラを中継して連絡を取り合ってるのが、何というか凄いシュール。片や凄く焦って緊迫感MAXやのに、片やお茶でもどう?ってくらいの緩い感じやし……。あ、いかんいかん。気を抜いちゃ不味い。

『なら、私の方から。アインヘリアルを破壊した()達の一部が、廃棄区画から本部へ接近、それにともなって、ヴィータさんと交戦した騎士も接近している。その上、アヤ・E・クランベルの接近も感知しています』

 ……アカン、マジか……。その連絡を受けたとほぼ同時に廃棄区画の道路を走る戦闘機人と、空を飛ぶ騎士と、アヤさんの映像がモニタに映る。

 という事はや、FWの子たちを予定通り地上の防衛ラインに回すとして、騎士をシグナムにお願いして……アヤさんを……誰が相手にしたら。

『……平気ですよ。アヤ・E・クランベルはこちらで対応します。それだけを伝えに来ました。六課の皆さん。後で必ずお伺いします。私はあなた達に謝らなくてはいけない』

「へ、それってどういう……?」

『それでは、ご武運を』

 敬礼と共に通信が途切れた。謝ることって……何や? 私たちに階級を偽ったことか? いやでもおかしい……。って、それは後や。今は!

「ロッサ!」

『え……あぁ! はやて、スカリエッティ達は既に乗り込んでいたんだ。ここには戻らないつもりでね!』

「え、何のことや!?」

「え、何コレ!? 全周波に無理矢理割り込んで――」

 こ、今度は何や!? そう思いながらモニターを睨みつければ。

 画面いっぱいに、不敵な笑みを見せるスカリエッティの姿が映し出されて、思わずゲンナリしてまう……分かってたことやけど次から次へとほんまにもう!

「スカリエッティ!」

「だけど、どうしてや……」

「八神部隊長、どうやら管理局で共有して使用する通信回線がジャックされ、それを利用して通信が行われているようです!」

 アルトの報告を聞きながら、画面の向こうでは、両手を天に掲げながら恍惚とした笑いを張り付かせ、狂ったように笑うスカリエッティが映し出されている。その視線の先には、山肌や地面に取りつき、地震を起こしている大型虫が映っているモニタがいくつも浮かんでいるのが分かる。

『さぁ、いよいよ復活の時だ。私のスポンサー、そしてこんな世界を作りだした管理局の諸君と偽善の平和をうたう聖王協会の諸君も……見えるかい、これこそが君達が忌避にしながらも求めていた絶対の力!』 

「部隊長! アコーズ査察官の通信が行われている付近から特大のエネルギー反応……何かが地面より出現します!」

 今度はルキノが叫ぶと共に、ロッサの映ってたモニターの背景が外の風景へと切り替わっているのに気づいた。それとほぼ同じくして、大きく地面が揺れた後に大きな裂け目が何カ所にも発生する。そして地面を持ち上げるように地下から巨大な戦艦のようなものが空中へと迫り上がり、森が大地が溢れ落ちていく。

『旧暦の時代、一度は世界を席捲し、そして世界を破壊した古代ベルカの悪魔の叡智。見えるかい? 待ち望んだ主を得て、古代の技術と英知の結晶は今その力を発揮する!』

「っ……ヴィヴィオ!?」

 今度はスカリエッティが映っていたモニターの表示が切り替わったかと思うと、玉座のような椅子が映し出される。そこには玉座に向けてケーブルらしきものを繋がれたヴィヴィオが手足を拘束された状態で座っており、涙を流していた。

『ママァ……っ!?』

 ヴィヴィオが呟やいた。なのはちゃんから声にならない悲鳴が上がり、それと同時に王座に繋いであった装置が起動しだした。

『怖いよぉ、痛いよぉ……! ママ、ママァ!』

「くっ……!ヴィヴィオ……」

 画面越しに、ヴィヴィオが助けを求めてるのに、何も出来へんのがこんなにも辛い……私達でコレや。ママだと慕われている2人はもっと辛いやろう……、下種にも程がある……ッ!

『旧暦の時代、一度は世界を席捲し、そして破壊した。古代ベルカの悪魔の叡智……さぁ、ここから夢の』

『破壊はしてないし、悪魔の叡智だ? 冗談じゃねぇよ三下』

 突然ノイズが奔ったと思えば、スカリエッティとは違うモニターが展開された。画面は潰れて声しか聞こえない、だけどこの声は……。

『おっと、こちらからの一方通行とは言え……誰かね君は?』

『ハハッ、名前なんてとうに捨てた身だ。強いて言うなら……なんて名乗ったらいいか、キュオン(・・・・)?』

『私に振らないで下さい。ほらほら、コレ急がないと直ぐ切れてしまいます。そんな事より速く要件を済ませて』

 ……何や? 黒い画面の向こうで、どっかで聞いたことあるような無いような……何が起きてるんや?

『まぁいいか。どうせそちらに行くんだ。その時でいいだろ……さて、ゆりかごを目覚めさせた愚か者どもよ? 警告は既に為されてた筈だ。だから言うがその前に。不殺の誓いを建てた身故、命は救おう。
 だが、貴様らは既に我ら(・・)を怒らせた。
 オリヴィエ様、そして、ヴィヴィアン様の写し子を使い、あまつさえゆりかごを目覚めさせた事。只では済まさん。ゆりかごを打ち砕く。コレは脅しでも警告でもない。既に決まった確定事項だ』

 ゾクリと背筋が凍りつく。声は間違いなくあの子のものや。だがコレは……。

『ふ、ふはは、ふははははははは! 面白い! やってみろ! 私達の夢の始まりを止めて見せろ! ははははははははは!』

 ブツリとスカリエッティ側が途切れた。だけど……。

『はぁ。最悪だコレは……通信は終わり? そっか。で、どうするキュオン? コレであの予言は俺とお前だと確定したわけだが……どうよ? 真祖の吸血鬼(ハイデライト・ウォーカー)、いや。生命無き血の女王(ノー・ライフ・ブラッド・クイーン)って言ったほうがいいか?』

『鬼神様には言われたく無いですよー。と言っても、全盛期の半分も出せない私と貴方。その上お互いに次に繋いでしまってる最中ですし、それでも砕くと?』

 ……おっと。通信割り込んだ割に、通信が切れたと思ってるんかなコレ? だけど、全然話が見えへん……何やコレ?

『知っているさ。その為に次へ繋ぐ。その為に今日まで生きてきた。いや、存在してたんだ。それになキュオン。我等に勝る者など、この世にあってはならない……だろう?』

『知っていますとも。我等を知る者などもう居ない。だから始めましょう。あの日叶わなかった我等の宿願を』

 ノイズが大きくなっていく。それと同時に2人? が離れていくような足音が聞こえた。

 ……コレって、かなり凄いやり取りなんじゃ? なんて考えてると。

『……この2人……ですので、あ、後、わた……ぶ……です!』

 最後にノイズでまみれで聞き取りにくかったけれど、それでも聞き慣れた声が……もう聞けないと思った声でそう締められた。

 ―――

「それじゃあ時間もあんまり無いし、手短に説明や指示をさせてもらうよ。しっかりと聞いといてや! 最後のあれは私も気になるけど、一旦置いとくよ!」

 ブリッジからブリーフィングルームへと場所を移し、隊長やFWの皆が席に着いたのを見回して確認した後にばんっと、作戦の概要データを表示する。席に着いたフォワード陣の面々は、先程の映像を見た事もあってかいつにもまして真剣な表情になっとる。
 だけど、途中の不明な人と、最後に聞こえた声。その2つを聞いた時皆の表情が和らいだ。だってあれは……って。アカン、集中や!

「現在、ミッドの空にはゆりかごが飛行していて、ガジェットや戦闘機人の子らが人々の安全を脅かそうとしている。それぞれに時空管理局の艦隊や部隊が対応する事になっているけど、高レベルのAMF戦を行える魔導師はそこまで多くない。せやから私達機動六課は、二手に分かれて行動してもらう事になるよ」

 概要データを切り替えて。2つのチームに分けられたデータを表示させる。

「まずは空! 私となのは分隊長、ヴィータ副隊長。そして、フェイト隊長で構成されるこのグループはアースラでゆりかごに接近、周囲のガジェットを空戦部隊と共に撃退しつつ、隊長陣はゆりかご内部へ侵入経路が確保され次第内部へ突入!」

「了解!」

 まずはゆりかご突入の面子を確認する。本来ならフェイトちゃんはスカリエッティのアジトへ送るつもりだった。
 だけど、そのアジトには黒い侍以外存在していない。それどころか実験素体も何も見つからない状態やったと、ロッサとシスターシャッハから連絡を受けた。2人はそのまま内部の捜査を続けてもろてる。もしかすると何か痕跡を発見できるかもしれへんから。

 さて!

「次は陸の皆や! 首都防衛の為に主にガジェットや戦闘機人と戦ってもらう事になると思う。これに分けられるのは各分隊のティアナを中心としたFWの3人とギンガ陸曹、シグナム分隊長とリインフォースⅡ曹長になるよ」

「了解!!」

 ティアナ達に視線を向けると、5人は声を揃えて元気よく返事をしてくれる。

 本当ならば、ギンガは響の救出に行きたいんやろうけど……ホンマにゴメンな。地上に降りた子たちの中に響らしき子は見えなかったことから、きっとゆりかごか、アジトの中で眠ってるのだと予想を立ててるけど……どこまであってるか分からへんし。

 正直、あの5人もここに連れてきたかった。きっと私は認めていたら何処かへ行くことは無かったのかもしれへん。私がしっかり守ってあげていたら……ほんま後悔しかない。

 せやけど、突然の通信の声を聞いて心から安心した。だからこそ!

「皆。ここが正念場や。それぞれ想いはあるし、向かう場所は異なる。せやけど、皆の気持ちはいつも一緒や。皆が皆の無事を、しっかり帰って来ることを願ってる。ここに居ない皆の分もしっかりとやり遂げて、また戻ってくるんや、機動六課、出動や!」

「はいっ!」

 さぁ、始めようかスカリエッティ!
   
 

 
後書き
 長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。
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