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魔法少⼥リリカルなのは UnlimitedStrikers

作者:kyonsi
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第61話 貴女のせいではないんだって

――side奏――

 あれから泣いてるちびっ子2人を慰めてると、スターズのコンビも遊びに来た。何やら大切な話があるそうで、しばらく話を聞いた。

 で。

「……えーと。ダメだ。気の利いたことを返せないから思ったこと言うね? ……だからスバルってばあんなに……体重がごじゅ」

「わーわーわー!!」

 慌てて口を塞がれる。だってスバルってば私と同じくらいの身長なのに、私よりちょっと有るはずなのにあんなにスタイルいいんですもん。あんなに食べてるのに、私とほぼ同じくらいなんだからコレくらいの意地悪は良いと思う。

 もう言わないという意思を込めて、私の口を塞ぐ腕をタップ。本当に言わないよね? って視線を受けつつ、大きく頷く。流石にもう言いませんて。

「ぷはっ。まぁ……正直思ったことはあれだけど……別に言われたところでねぇ。今更だし。だからどうした? って話になっちゃうし」

「……まぁ、そうだけど」

「あんたらはもう……まだ言わないほうが良いって言った私が馬鹿みたいじゃない」

 俯くスバルを他所に、奥の方でティアががっくりと項垂れる。

 まぁ……お陰で何であの時……。響が紗雪に頼んで2人を転送させたのかようやっと分かった。なるほど、ギンガを一度下げることで安全圏に送った訳で、最悪な結果を回避したわけだ。

 恐らくあの時の響は……手負いのアーチェと、狙われるであろうギンガを戦わせることを良しとしなかった。
 だから、勝てないと分かっていて、響は時間稼ぎの為に戦った。
 そう言えば、もし狙われてなかったら二人で時間稼ぎをしただろうに……言ってたもんね。あのフードのアンノウンには、もっと魔力出力のある人を当てるか、斬撃を通す(・・)なら結果が変わるだろうって。
 でも後者は……今出来ないもんね。花霞が折れるって言ってたし。

 だが、戦闘不能まで追い込まれて、連れて行くメリットってなんだ? 
 純粋に助けたいと思ってくれたのなら嬉しいけど……。

 ちらりと視線を隣のベットへ向けて。軽くため息が出る。もし時雨が起きてたら、響とよく戦術で話してたから。こういう時の行動パターンも、予測できると思うけど……未だ起きる気配はないしなー。

 そして、ふと気づく。扉の前に誰かがいることを。

「……しぃ」

 人差し指を口の前に立てて皆に静かにしてもらう。そのままゆっくりと扉の前まで行って……。

 ガチャリと開けると同時に腕を差し込み、掴んで!

「……いらっしゃい、ギンガ」

「……ぁ、うん」

 昨日の夜も、今のように来ていたであろう来訪者を歓迎する。その表情は少し青ざめてる。

 まぁ無理も無い。だけどね……。

「その、奏……私!」

「待った。その前に……」

 ギンガの手を改めて両手で取って。ギュッと握って……。

「お互い無事……とは言えないけれど。何事もなくてよかった。さ、まだ起きて間もないの。だから色々話を聞かせてくれると嬉しいな」

 ゆっくりと手を引いて中へと案内。

 するはずだったけど……。

 振り返ってギンガの顔を見て、私は間違えたんだと悟った。

 だって……。

「ッ……何で、何で言ってくれないの奏!? 私は……あの時、送られてしまった! あの場に居たのに、全部使って追いかければ! 追いついたはずって!」

 ボロボロと涙を零して。左の拳からは血が滴ってる。スバルやティア。エリオもキャロもいるのに、それでもギンガは今感情を爆発させた。

 そうだ、あの場の……誰よりも響が連れて行かれて、誰よりも悔しくて、誰よりも無力さを呪ったはずなんだ。 

「お前のせいだって! お前が響を連れ回さなければこうならなかったって! 敵の狙いは私だった! 私があの場に居なければ……私がこんな体じゃなければ!」



 血が滴る左の拳を取って、包み込むように握って。



「違うよ。誰のせいでもないよ」

「違う、あれは!」

「違わない。だって貴女もスバルもここにいる。それだけで響はまだ本当の意味で敗北してない。ねぇ、ギンガ?」

 ギンガの手から、頬へと手を移してそっと添える。

「辛いことを言うね。あの時何が合ったか私は分からない。だけどその敵の狙いは貴女だった。タイプゼロ(・・・・・)と呼ばれた貴女とスバルを」

「……そのせいで響が!」

 ギンガの涙が添えた手に滴る。何時もしっかりとしたお姉ちゃんと言う感じの子なのに、今ではすっかりグシャグシャになってる。

「ごめんねギンガ。もっと速くに私は目覚めるべきだった。この数日で誰よりも責任を感じてた貴女を放っといて、私は寝てしまった」

「違う、私が……私が」

 私の手を取り、俯くギンガを見て。ギュウッと抱きしめる。

「ごめんね。貴女の気持ちも考えずに……誰よりも悔しかったよね」

 この数日。きっとギンガは辛かったんだろう。いっその事お前が悪いって責められたいほどに。だけどそうじゃないんだよ。
 ここに居なくて、未だにあえて無いけど……アーチェだって悔しがってるだろう。まだ戦えたのに、と。

「だからこそね、ギンガ。ここで私達がするべきは後ろを向いて後悔することよりも。前を向いて次を、その先を見つめないと」

 フェイトさんとにいった言葉と同じフレーズを使う。嘘偽りもない本心を込めて。

「だからこそ。あの人が帰ってきたら胸を張って、おかえりって言ってさ。その後うんと叱ろうよ」

「……ごめん……なさい、ごめんなさい、ごめんなさいッ」

 わんわんと涙を流して泣きじゃくるギンガを抱きしめる。

 ずっとずっと、大声を上げるギンガを、ギュッと。



 ――――
 

「いやー、ギン姉も人だったー。良かったー」

 あははと大口で笑うスバルの横で、ギンガが恥ずかしそうに顔を覆ってる。まぁ、妹の前であんなに大泣きしたことなんて始めてだろうしねー。 
 
「まぁ、人それぞれだよ。仕方ない。第一泣かした時点で響が悪いし」

 はぁ、とため息が漏れる。大体あの人が捕まらなけりゃこんなにややこしい話になることは無かったんだから。

 ポットからお湯を注いで紅茶でも飲もう。病院の備え付けだからあんまり美味しくないけど……。まぁ仕方ない。

「でも奏? 怪我は本当に大丈夫なの?」

「うん? あぁ、へーき。凍りついたとは言えど、それだけだもの。不意打ち食らったとは言え……次は勝つ」

 ティアが心配そうに聞いてくるのを、笑顔で返す。大丈夫。次はきっと私は勝つ。当たるかどうかは別だけどね。

 あ、そうだ。

「ギンガ。私の分も仕事片付けなくていいよ。無理は禁物だよー」

「……でも」

 ……まーだ気にしてるんだね、この子は……。

「そうだよギン姉。今無理して、ヴィヴィオと響を取り返すときに動けなくなったらダメだよ! 最近ギン姉。ご飯のおかわりも何時もより三杯も少なかったし、いざってときに動けないのはダメ!」

 ……三杯もって。もって何さ? ちらりとティアの方を見て……。

 ふいっと目を逸らす。キャロの方も同じく。目だけ逸してる。

 唯一エリオだけは最近少なく頂いてますし、心配ですって言ってるけど……マジか。

 え、ていうか待って。この子たち、あれだけ食べてるのに何で身にならないの? おかしくない? 私なんて夜お菓子食べたらちょっと体重増えるのに……。コレでもカロリー制限して過ごしてるのに。何ていうか、ずるいなぁって。

「最近ずっと詰めてたからね。だけどもう平気。しっかり食べて、しっかり頑張る。奏達と一緒に取り返すために」

 顔を赤くしたままだけど、ニッコリと笑顔を見せて言うギンガをみて。ホッと一安心。コレでもう……大丈夫だと思いたい。

 さぁ、後は私は体を動かせる程度まで回復させなきゃねー。

 ガチャリと扉が開いたのが見えて、入ってきた人と目が合い頬が緩むのが分かる。だってそれは―――


――sideアーチェ――

「……私の意見としては貴女には安静にしてもらいたい。ですが、きっと聞かないでしょう?」

「無論です。ロッサさんから話を聞きました。近いうち2人でスカリエッティのアジトっぽい場所にかちこむと」

「かちこむなんて言わない。迂闊でした。まさかロッサから直接聞くとは……全く」

 目の前で頭を抱えるシャッハさんを、ベッドの上から睨みつける。

 この人達ってば酷いんだ。私に黙ってかちこむ計画を立てていたんだから。だから、しばらく来れないって言うシャッハさんに直接言った。私もついていくと。

「ダメです。あなたの怪我は軽いものではありません」

「軽いものです。皆に比べればかすり傷程度のもの。すでに治癒魔法である程度回復してますし、動けます。
 シャッハさんの機動力には及ばなくても破壊力だけなら、あなたよりも遥かに上だと自負もあります。何より……コレでも騎士の端くれです。己の身くらい守ってみせます」

 眉間に皺を寄せるシャッハさんを、睨む……と言うより、その目をジッと見つめる。そのアジトに行けば私の想い人の情報が有るかもしれないという期待と、何より。

「あの時負傷しなければ、六課の緋凰……いえ、響は連れ去られることは無かったはずです。そして、六課に所属してる奏たちの出撃を禁じたんでしょう?」

「な、アーチェ、何故それを?」

 皆が動けないのならば、私がやり返す。あの時も、今回も……私は見てるだけだった以上。皆の代わりに私が引導を渡して決着をつけるだけだ。
 
 ……それが終わってから、ギンガに話を聞くことだって出来る。
 まだ何も話せてないんだ。体のことだって、あんなタイミングで知ってしまって、何も言えてないんだ。
 
「とにかく! 誰に何と言われようと私も行きます。置いていった場合は……アコース査察官は変態って言いふらします」

「もっと他のことにしなさい!」

 フッと表情が和らいだのを確認して、こちらも一息。

「……わかりました。出発する時には必ず声を掛けます。三人体制で出ますが……さっきの件、言ってはいけませんよ?」

「勿論、言いませんよ。だけど……何故? 奏はもう起きたと聞いてますが?」

 了解を取り付けたのでこっそりガッツポーズを取りつつ、気になったことを聞く。まだ4人は目覚めてないのは知ってるけど、奏位なら出撃できるはずじゃ?

「……あなただから言います。以前ここに来た男の子? を覚えてますか?」

「えぇ、響と震離と流。あの子が?」

 凄く言いづらそうにするシャッハさんを見ながら首を傾げる。何かあったのかな?

「先日、叶望震離の生存がほぼ無いということがわかりました」

「……は?」

 ……まって、えーと。シャッハさん。生存がほぼ無いって……え? 何で?

「彼女は流の付き添いとして、機動六課の特使として出向きました。特殊鎮圧部隊という場所へ」

「……そ……れが何ていう部隊、なんて知りませんし興味もないです。だからって、それが何故?」

 声が震える、喉が渇く。
 震離が死んだ? 嘘だ。だって、人一倍警戒心の強い震離だよ? 

「……遺体の山の中に、もう炭化して誰だったのかすら分からない中に、その子の腕だけが見つかったそうです」

 ……え? 腕があったって……、待ってよ。だったら。

「ま、まだ生きてる可能性だって!」

「……辺り一面豪雪の中で、火災の中心で……生存している可能性が有ると思いますか? そして、その腕も何者かによって切り落とされた後だとしても?」

 涙で目の前が歪む。嘘だと思いたい。そんなわけがないと。

「……そんな。この事を奏達は……?」

 静かに首を振るのを見て、察した。察してしまった。

 じゃあ何? あの人達は……下手をすれば既に2人失って……そんな!

「このことはまだ伏せておくそうです。そして、今日には奏さんに伝えられるでしょう……出撃を認めないと」

 そこまで聞いて、私の目の前が真っ暗になってしまった。
 
 


――side奏――

 入ってきて早々に、ギンガやティア達を退室させた時点でなんとなく嫌な予感がした。

 いや、それよりも。

 何時もニコニコしてるこの人が―――フェイトさんが、笑わないで。執務官として仕事をする時の様な表情をしてたから。

 そして。

「……八神部隊長からは以上の通りです。なので、天雅空曹の機動六課への合流は一時保留。並びに怪我の治療に専念するように。これで以上です」

 淡々と語るフェイトさんを見て、色々言いたいことは有る。いや、有ったというのが正しいか。

 だって、目を合わせたら会話できる程度に仲良くなった方ですしね、痛いほど伝わってきた。

 ―――ごめんなさい。

 ただ、その一言が。痛々しいほどに。きっとはやてさんもフェイトさんも、色々考えての事だろう。

 それにしても私も馬鹿だな……集中治療室に入ってたのに、出撃できると思い上がってたのだから。

「了解しました。テスタロッサ隊長もわざわざ感謝致します。後は……治療に専念致しますので」

「……私達もコレより隊舎を移動する関係であまりお見舞いに来ることが出来ません。が、具合が良くなるよう、お大事に。それでは失礼します」

 お互いに敬礼をして、フェイトさんは部屋を出ていった。

 ……ポツン、というわけではないけど。座った姿勢のまま、ぼふり、とベッドに横たわる。

 気持ちは分かる。私が上の立場でも恐らく同じ指示を出していただろうし、間違ってないんだコレは。

 だけど……。

「悔しいなぁ、あそこで墜ちなければ……一緒に戦えたはずなのになぁ」

 病室の天井が滲んで見える。私がやられた時のことを思い出して、今更になって悔しさが滲んでくるんだから。

 


 だからこそ……。




「……何時から起きてたのよ。時雨?」

 私は親友に頼ることを選ぶんだ。





――sideシャーリー――

「本当にいいのね、花霞?」

『構いません。お願いします』

 目の前で浮かぶ小さな鈴……ううん、花霞に最後の確認を取る。

『マッハキャリバーは、自身の改造プランを提出して許可を得たと聞きました。ならば私も主を救うためにこの身を変えます』

「……そうはいっても。確かに後は心を入れるだけ。響からも入れるならあなただと言われてるけど」

 この融合騎の躰の持ち主が居ない以上、どうしても決めあぐねてしまう。

『……あの時、もし私が砕けなければ。罅が入らなければあのような結果に繋がることは無く。有利な状態で進めることが出来ました。主があの隙を攻めたのは言うなれば私のせいなのです。
 砕ける刀身、終始圧倒される無手での格闘の中で、主は一筋の光明と言わんばかりにそれを見切って攻めてしまった。結果相手を庇って被弾。そして撃墜まで行ってしまったんです』

「……」

 私も響が倒された映像を見せてもらった。隊長達だけと言われていたけど、花霞自身が見せてくれたんだ。私はこの人の矛にも盾にもなれなかったんだと。

 だからこそ……。

「花霞。正直な所ね。この躰の機動データはほとんどリインさんを参考に組み込んでるの。だから性格は変わるかもしれないし、そのへんの修正は効かない。融合騎に成ったからと行って出撃は認められる保証もない。それでも?」

『構いません。可能性があるのなら、あの人に使かって頂けるのなら!』

 あー……っと、軽く項垂れる。正直奏と震離のデバイスの完成を急ぐつもりだったけど、奏の合流は無くなったし、震離は未だ帰ってこないしどうしようかなって時のコレだ。

 だけど。

「分かった。直ぐに取り掛かるよ。AIコアの移植は時間がかかるから……それは許してね?」

『感謝致します』

 直ぐに作業に取り掛かると共に、厳重に閉じられたアタッシュケースを取り出して、響から預かってる躰を取り出し花霞の隣に浮かべる。

 さぁ……始めようか。
 しばらく徹夜になっちゃうなーコレは。

 だけど、頑張らなくちゃ! 大切な上司の想い人があんなことになって悔しくないわけ無いんだもん!


――sideフェイト――

 速いもので……地上本部と機動六課壊滅の日から6日。思い返すとあっという間だった。

 だけど、不思議なものでその日その日は長く感じてたんだよね。特に伝えてからの3日は凄くね。

 あの日、奏の出撃は許可できないと伝えた日。ギンガ達も何も言わなかった。いや、皆察してくれたんだと信じてるけど……。

 それ以上にあの日の私は普通であろうとしたのに、結局普通を演じきれなくて、仕事の時の私を出してしまった。

 だからこそ、奏が何も言わないで納得したことが……辛くて、悲しかった。いっその事怒ってくれたら良かったのに。

 だけど……明日にはシスターシャッハやアコース査察官が東部森林地帯へと踏み込む。査察官曰く、かつてゆりかごがあったかも知れない場所。ここの捜査の許可を得るために時間がかかり結果明日まで持ち越してしまった。

 私も調べてたけれど……恐らくスカリエッティのアジトがあるとしたら、ここにあるかもしれない場所。

 騎士カリムの予言にあった。聖地よりかの翼が蘇る……それがゆりかごだとしたらと言う推測故の捜査だ。もしコレが当たりだとしたら……。ここから追跡戦が始まったらと考えると、その前に挨拶をしておこうと思って。

 私は病院を……いや、奏達がいる病室の前まで訪れた。奏に伝えたい事があるし。花霞が融合騎になったこと。奏と震離のデバイスが完成間近だということ。

 奏や皆の分まで、想いを背負って戦うってことを伝えたくて。……でも、最後の別れ方が別れ方だから……凄く気まずいし。

 ううん、それは私のせいだ。軽く深呼吸をして……よし!

「奏ー、ごめんね。今日まで来れなく……て……え?」

 扉を開けて思ったのが、電気が点いていない。今日は天気が良いとは言え、扉の近くは若干薄暗いから何時も点いてるはずだ。次に目が入ったのが奥のベッドに、シーツも何も掛かっていないこと。
 それにともなって、真ん中のベットも掛かっていない、そして奏がいるはずのベットも……。

「な……え?」

 直ぐに扉を締めて、入院患者のプレートを確認する。確かに名前は三人分ある……。

 まさかと思って、後2人の病室へと急ぐ。途中ナースさんの注意を受けるけど、それでも駆ける。見えたと思ってノックもせずに扉を開けて……膝をついた。
 
 この部屋にも居るはずの、眠ってるはずの2人が居ない事を分かってしまったからだ。

 近くのナースさんを呼び止めて話を聞いて、更に驚く。

 お昼前に5人共退院手続きを取ったんだと。それも管理局からの指示があったからと。直ぐにはやてとなのはに連絡を取って事情を説明して。直ぐに驚いたような表情をした。

 なのはは六課の皆に彼女らが来ていないかの確認。はやては直ぐに病院へ確認して。私は直ぐに車へ乗って、彼らのミッドのお家を目指した。聖王教会系列の病院だから、割りと直ぐ近くに家があるし、行ったこともあるから直ぐに向える。

 その際2人から連絡を貰った。なのはからは本局のアースラの付近では見かけていないということ。そのまま直ぐに本局へ来たことを確認すると。はやてからは、確かに誰か(・・)が奏達の退院の許可を下していると突き止めたが……病院関係者には管理局からの令状しか届いていないため、誰がそれを許可したのかわからないそうだ。
 だから今度は、奏達に接触した人物の特徴を聞く方向へシフトした。

 その連絡をしている内に、彼らの住む場所へと着いて。誰かがいるのが見えて……。

「奏!」

 車から降りて駆け出す……がすぐに足を止めて。そこにいる人を見て驚いた。

 修道服に、拘束着の様に赤いベルトを巻きつけた、赤みがかった金髪。以前流がロストロギアに取り込まれそうになったときに現れた……。

「マリ・プマーフ……なぜ、ここに?」

「……あら、まぁ」

 ぎこちなく笑う彼女を見て、直ぐに防護服を展開。バルディッシュを構える。

 だけどそれを見て、ため息を吐いて……。

「交戦の意思はない。私はただここにモノを取りに来ただけです」

 そう言うと何かが入った紙袋を掲げるように目立つように見せる。だけど……。

「ここは個人の家だ。何故貴女が出入りできる?」

「借りたから。ほら」

 そう言って懐からカードキーを取り出す。だが、何故……借りたと言っても、誰から?

 響はそもそも今連れ去られているし、奏達は行方が分からなくなってる……後は。

 そこまで考えて、最悪な予想を立てる。

「まさか、震離から奪ったものか?」

「違う……って言っても信じないでしょう? ならそれでいいわ」

 震離の名前を出した時に一瞬反応したが、すぐにおどける。

「これ以上彼らから何も奪うな!」

 思わず叫んでしまう。それまで興味がない素振りだったのが一変して。

「……それはどういう事? 地上本部が落ちた事は今日(・・)知った。それと同じくして近隣の部隊が落ちたことも。まだ、判断するには情報が足りなさすぎる。だがそれでも……彼らからというのは、何かあるの?」

 困惑したような表情を浮かべる彼女を見て、一瞬戸惑う。よくよく考えれば、彼女はロストロギアを持ち出したと言うだけで、あの日流を助けに来たようにも見えた。

 コレははやても同じ意見だった。必要以上に大事になってしまったことだと気にしてたし……。

 でも。

「……機密につき話すことは出来ません」

 一般には響が連れさらわれたという事は公表されていない。だから言えない……けど。ある意味コレは回答だ。

「……そ……うなの」

「ッ」

 ポロポロと瞳から血涙を流す。思わず慌ててしまうけど……それに気づいたのかこちらを向きながら、手の甲で涙を拭うけど、血がついていないのが不思議だった。

「あぁ、ごめんなさい。私は()ではないので……普通に涙を流すことが出来ないんです。気にしないで」

「失礼ですが……人ではないというのは、どういう?」

「文字通り人ではありませんよ。私もあの人(・・・)も」 

 キラリと赤い瞳が悲しく光ったように見えた。私と違って真紅の様に赤い瞳。

 でも、それは一旦置いておこう。もしかしてこの人はあの2人を……。

 そこまで考えて。

『すまんフェイトちゃん。シグナムやヴィータ、シャマルにも手伝ってもらって調べてるけど5人共行方が掴めへん』

「え、あ、了解」

 突然の連絡に驚きながら、一瞬気を取られてる間に、目の前からあの人が消えていた。

 ――――

 一旦、マリ・プマーフと遭遇したことは伏せることにして、直ぐに本局へ、はやて達の元へと戻り。情報を整理する。

 私が最後に会ったあの日に時雨と紗雪が目を覚ました。そして、その次の日には煌と優夜も目覚めた。そこまでは喜ばしい事だ。だが、その日の内に病院に1つの要請が来て、明日の午前中には5人を退院させると連絡が来た。
 病院側は勿論拒否。だが、院長の元に令状とお手紙が1つ届いてから事態は一変した。

 院長自ら退院手続きを取ったと、聞き込みを行ったナースさんは言った。

 そして、私が行ったわずか数時間前に彼女らは何処かへ行ってしまった。コレに対して院長はそう指示をうけたから応じただけだと、詳細を話してくれない。それどころか何処か怯えたようにも見えたらしい。

 コレを受けてはやては。

「……最悪や」

 本局の六課の皆へ与えられたスペース。その中のはやての部屋で皆がそれぞれショックを受けている。

 ヴィータは特に怒ってるようだった。このような事態の中で、響とヴィヴィオが連れていかれて、流も震離も戻ってきていない中で、何処に行ったんだって。

 だけど……何で、このタイミングで……。

 そこまで考えて気づいた。


 私が……追い詰めた?


 思い返せば奏は……いや、奏()辛かったはずなのに。私を気遣った……それだけじゃなくて、ギンガの責任さえも受け止めて、解いてみせた。
 エリオやキャロだって、励まして……、だけどあの子自身から一言も聞いてない。

 だから、あれをきっかけに何処かへ消えた? 

 

 ――sideマリ――

 ハラオウン執務官から聞いた情報を頼りに、教会の書庫へ潜入、加えてデータベースを漁るも……まだゴタゴタしているからか、更新は加えられていない。
 
 少し妙だ。管理局地上本部が落ちたのはわかるが……コチラもゴタゴタするのはおかしい。
 しかも、更新されて……意図的に消されているようにも見える。
 
 ……だとすれば、まだ何かが――
 
 真剣の様な鋭い殺気を感じ、端末から退く。同時に、大きな何かがそれまで居た位置に落ち、先行して退く私に追いかけてくる。
 バックステップの私に対して、あちらはクラウチングに似た姿勢から加速し追いかけてくる以上、差はすぐに埋まる。
 幸い、書庫だということもあって、大きな……熊のような男は満足に動くことは出来ない。
 
 ならば、と。
 両手に魔力を纏わせ、
 
「切っ先を視線に」

 左右の手をパンと、合わせると共に巨大な魔力刃を生成。
 直線距離で、二メートル程度の刀身の剣を二振り作り出す。瞬時に私の両腕に合わせて動く、が。
 
 熊も同様に動いていた。
 
 左拳を顔の前で揃える。空いたボディには分厚い盾を展開、右拳を地面を抉るように構えたまま、尚も真直突っ込んでくる。
 砲弾とも言える速度で来るのは圧巻だ。
 
 即座に、貫く様に剣を突き出せば。
 アッパーカットで左の剣が砕かれ、その体の勢いで右の剣も砕かれる。
 
「へぇ、やるじゃない」

 視線がバチッとぶつかれば……あぁ、なるほど。優しい人だ。この期に及んで話を聞こうってしてるんだもの。
 
 でもね。
 
 殺気を持って、前へと踏み込み。相手も反射で構えられた左を打ち出して。
 世界が赤く染まった。
 
 正直な所、関心したなと。この短いやり取りで、ここまで出来る人がいるとは……管理局も捨てたもんじゃないなぁと。
 
 さて。私を打ち砕いた大きな熊さんの背後に、再生(・・)しまして。
 
「ま、再生してしまった以上。普通のシスターですよっていう言い訳は出来なくなったけど……何用ですか?」

「……驚いた。たいちょから聞いてたが、本当だったのか」

 血が着いたであろう拳をさすりながら、大きな男……うん!?
 
「え。男……? あ、ごめん。女性かな? 分からなくてごめんなさいね」

漢女(おとめ)だ」

「え、あ……そう。ごめんなさい」

 ……やだわぁ。見た目で男かなって……いやまって。
 
「メイド服っぽいけど。か、カイゼル髭つけておとめは嘘でしょう!?」

「否、漢女(おとめ)だ」

 ……バカな。いや違う。そんなことより。
 
「まぁいいわ。で? 私はただ知り合いの部隊がどうなったかって知りたくて情報漁ってただけなんだけど?」

「だろうな。てっきり内部情報を消して回っているものかと思ってたが、違うらしい。
 だが、それ以外に何かあるだろう。目的を言え、元シスター?」
 
 ……教会関係者、って割には見たことあるような無いような……。
 
「……さっき隊長と言ったな。お前さん、管理局と二足の草鞋を履いてる教会騎士の関係者か、昔そうだった奴の元に居た人……か?」

「……ほう?」

 当たらずとも遠からず。どんぴしゃって反応じゃない。ということは、騎士カリム嬢とは違う所か。
 だとすれば、他にも重役の騎士で、管理局員は……何人かいるが。どれもそこそこ若かったはず。
 
 それを省いて且つ、このクラスの人を下に置けるのは。
 
「……あぁ。ラー君達のおつかいかな? あの子ら元気かな?」

「……」

 あぁ、空気が変わった。大当たりだなこれは。
 
「まぁ、それ以上もそれ以下も無いよ。知り合いの子が被害を受けたって言うから調べただけだよ」

 パン、と胸の前で拍手を一つして。マリ・プマーフとしての見た目から、普段の私。キュオンの姿へと戻して。
 
「知り合いの子? 貴様と接点はほぼ無いはずだが?」

「あるんだなこれが。その縁があったから助けたよ。ほら、あの鏡の件」

「……どういう繋がりがある?」

「言ったところで信じないでしょ? あの子の親と一緒に戦ったって言ったってさ」

 更に視線が鋭くなる。間違いなく思い描いてる子は一緒だ。
 ……攫われたとなると、今後が怖いな。私もまた戻るし……よし。
 
「それに、知らないだろうから一ついいこと教えてあげる。
 あの子の父親について」
 
「……調べても出てこなかったものを、お前が知っていると? なんの冗談だ?」

「冗談じゃないよ。だけど、その人は苗字を捨てて一緒に戦う道をとった。大切な妹とも別れてね。
 あまり有名所じゃないけれど、アナタ程なら知ってるでしょうし。
 ■■■■。その一族とあの子の血を照合してご覧? ほぼ一致するだろうから」
 
「……冗談にしては笑えない、が。今ここで捉えれば、細かく聞けるだろう……おとなしく捕まれ」

「断る。それに、それが事実だとしたらどういう事になるか、わかるでしょう? これはお願いですよ?」

 再び拳を眼前に構えるメイドさんを見据えつつ、コチラも……いや、この人の風貌で思い出した。
 
 この人か。サト(・・)が世話になってた人と言うのは。
 
 ならば。両腕に魔力を纏わせて。
 
「サトに免じて、あまり騒ぎは起こさず去ろうかな。じゃあね、楽しかったよ」

「サト……? 待ちなさい。あの子のことを知って―――」

 自分の体を抱きしめるようにした直後、私を粉砕した。
  
 ――――

「……ふぅ、驚いた。まさかあんなところでバッティングするとは」

 パタパタと、適当な場所で再生して息を整える。
 
 ……整えるなんて、久しぶりだな。やっぱり落ちてる。
 
「フフ、この感覚を嬉しいと思える日が来るなんてね。さぁ、お届け物をしましょうか。
 まだ、最後の譲渡は終わってないみたいだしね」
 
 転移魔法を起動して、思い描く世界を目指していく。
 ちょっとした食料もゲットしたし、食べれると良いんだけどね。
   
 

 
後書き
 長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。
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