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老ソーサラーの恋

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第三章

「一体何か」
「ちょっとしたことじゃ」
「っていうと」
「わし個人の話じゃ」
「それで何なのか」
「その時にわかる、別に悪事ではない」
 ソーサラーはこのことは保証した。
「そこは安心してくれ」
「悪事でないならな」
 それならとだ、ビークも異論はなかった。それでだった。
 ママニと共にソーサラーを護衛しつつ村に向かっていった、モンスターや獣が多めのアフリカだけあって彼等との戦闘は多く激しいものだった。
 だが二人はソーサラーを完璧に護衛し彼に傷一つ負わせることなく村に着いた、ソーサラーは村に着いてすぐに二人に言った。
「いや、ここまでな」
「来れたことにですか」
「傷一つ負わずにな」
 老人は自分からこのことに言及した。
「凄いな、お前さん達強いな」
「腕には自信があります」
 ママニは自分達の素性を隠したうえで答えた。
「そちらは」
「それでは」
「はい、帰りもです」
「わしにはか」
「指一本触れさせません」
 行きの時の様にとだ、ママニは約束した。ビークもここで無言で頷いてみせた。それも微笑んだうえで。
 ソーサラーは村に入るとすぐにある家に向かった、そうして。
 その手に出したものを見てだった、ママニは彼に問うた。
「あの」
「何じゃ?」
「それは指輪ですよね」
「うむ」
 その通りという返事だった。
「プレゼントのな」
「プレゼントで指輪となると」
「わかるのう」
「確かご老人お子さんやお孫さんに」
「曾孫までな、あと言わんかったが玄孫もおる」
 高齢だけあってというのだ。
「その皆に遺産の話はした」
「結婚しておられる、いや」
「最初の奥さんとはわしが八十の時に死に別れた」
「最初の、ですか」
「ダイアモンド婚までいったがのう」
「二十で結婚されて」
「そうであったが」
 それでもというのだ。
「残念なことにな、丁度六十年でな」
「奥さんに先立たれましたか」
「うむ、しかしな」
「まさかと思いますが」
「だからまさかじゃ、この歳になったが」
「今ご老人九十ですね」
「九十三歳じゃ」
 自分から言ってきた。
「今はな」
「では」
「所謂老いらくの恋じゃ」
 こう自分から言うのだった。
「相手は若いがのう」
「お相手の方はお幾つで」
「七十じゃ」
「七十ともなりますと」
「いや、九十三歳から見たら」
 自分達から見た基準から言おうとしたママニにだった、ビークが横から言ってきた。 
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