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ある晴れた日に

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645部分:悪魔その六


悪魔その六

 二人も動けなかった。その邪悪とまで言っていい妖気に気圧されてた。
「糞っ、足が」
「全く」
「どうなってるの?」
 こう言ってであった。誰も動けなかった。それで皆困り果てていた。
 それで困っているとであった。眼下の吉見はさらに動き。やがて。
「おい、本当に」
「ああ、行くぞ飼育小屋に」
「あのままじゃ兎や鶏達でなく」
「二人も」
 皆それはわかっていた。しかしであった。
「足が、どうしても」
「何でなのよ」
 咲と奈々瀬もそれは同じだった。やはり足がすくんで動けないのだ。だが顔だけは動く。吉見をただ追うことだけしかできなかった。
「動けないなんて」
「どうしてなのよ」
 どうしても動けない彼等をよそにであった。吉見はさらに中に進んでいく。そうしてその飼育小屋のところにまでやって来たのであった。
 明日夢と桐生は丁度その中にいた。その割かし広く金属のネットと木製の屋根で覆われている小屋の中で兎や鶏達の世話をしていたのである。  
 どの動物達も彼等になついている。そのことに満足していた。
 それを見ながら二人は今は笑顔であった。
「可愛いよね」
「そうね」
 明日夢はしゃがんで兎に餌をやりながら桐生の言葉に応えていた。彼は小屋の中の掃除をせっせとしながら言ってきたのである。
「いつも通りね」
「それでさ」
「何?」
「今あげてる餌何なの?」
「おからよ」
 それだと答えるのだった。
「それをあげてるのよ」
「おからって?」
「豆腐の絞り粕だけれど」
「ああ、あのおから」
 それを聞いて納得して頷く桐生だった。
「それだったの」
「それを言ったらわかるよね」
「ええ、それだったらね」
 わかると明るく答える明日夢だった。
「そう言ってくれたらね」
「兎の餌には丁度いいんだ」
 そして今度は微笑んで彼女に話した。
「おからってね」
「そうなの?」
「兎って完全に草食じゃない」
 このことを話に出した。
「そうじゃない。草食でしょ」
「ええ、それはね」
「だからいいんだよ」
 それが理由だというのだ。
「身体にもいいしね」
「兎のなのね」
「しかも安いし」
 理由はどんどん続く。おからがどれだけいいかである。
「ただかただ同然で手に入るしね」
「そんなに安いの」
「本当に安いよ」
 これは確かだと言う。
「実際さ、北乃さんもお金がないとね」
「おからを食べるといいの」
「少しもさもさしてるけれどね」
「もさもさって?」
「食感がね」
 そうなっているというのである。
「けれど慣れたら美味しいし」
「だからいいの」
「まあとにかくお金がない時はそれでね」
 こう断りはする。
「食べればいいから」
「わかったわ。それじゃあ」
「普段は兎の餌でね」
 それははっきりと話した。
 
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