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雲外鏡

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第二章

 裕貴はその立派なかつての日本の趣の見事な店構えを見て赤紙をショートヘアにした小柄で上下濃紺のセーラー服でスカーフはえんじ色の後輩兼彼女に言った。
「ここだけれど」
「立派なお店ですね」
「大阪に昔からある料亭らしくてね」
「格式のあるお店なんですね」
「うん、何でも幕末は志士の人達もよく来て」
 そうして会合に使ってというのだ。
「今も八条家の人達も来られる」
「由緒あるお店ですか」
「そう聞いてるよ」
「東京で言うと赤坂の料亭ですか」
「あんな風だろうね」
「そうしたお店が大阪にもあるんですね」
「あるにはあるよ、じゃあ今から」
「お店に入ってですね」
「三島から事情聞こうね」
 こう話してだった。
「詳しいことを」
「それでは」
 こう話してだ、二人で店に入ろうとすると奇麗な着物を着た亜弓が出て来た。そのうえで二人に言ってきた。
「いらっしゃいまで」
「何だよ、迎えに来たのかよ」
「ええ、ただ今回はお客さんでないから」
 それでとだ、亜弓は裕貴に返した。
「お店じゃなくお家のね」
「そこにか」
「来てね」
 こう言うのだった。
「いいわね」
「そうか、お店にはないんだな」
「そうよ、貴方達に見て欲しいものはね」
 美和子も見て述べた。
「違うから。あとお兄様はお父様と一緒に急なお仕事に行かれて」
「今日は、なんだ」
「おられないから」
 いる予定だったがというのだ。
「そこはわかっていてね」
「じゃあね」
「許嫁の優斗様がおられるけれど」
「様付けなんだ」
「だって許嫁で将来の旦那様よ」
 それならというのだ。
「それでよ」
「ううん、お嬢様だね」
「お嬢様というか」
 むしろと言うのだった、亜弓自身は。
「育てられているから」
「そうした風に」
「そう、だってこうしたお仕事は」
 料亭、家の仕事がそれならというのだ。
「礼儀作法が大事でしょ」
「客商売だしね」
「そう、それに格式もあるお店になると」
 このことは事実だからだというのだ。
「余計に大事だから」
「気をつけてるんだね」
「そう、お茶もお華もして」
 茶道、そして華道もというのだ。
「普段もね」
「礼儀作法に気をつけているのは確かだね」
「ええ、それでだけれど」
「お兄さんは来られなくて」
「優斗様がおられるから」
 それでというのだ。
「四人で蔵に入りましょう」
「蔵って」
 そう聞いてだ、美和子はこう言った。
「そういうのまだあるんですね」
「うちはそうなの」
 亜弓は美和子に自然な口調で答えた。 
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