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ある晴れた日に

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595部分:誰も寝てはならぬその十三


誰も寝てはならぬその十三

「その思った先にな」
「わかりましたよ」
 明るい顔になった佐々だった。そこにはもう迷いはなかった。その思った道を歩くだけだった。
 野本は一心不乱に踊っていた。ストリートダンサーとして知られるようにもなっていた彼だが今日はとりわけ激しく踊っているのであった。
「おいおい、今日のあいつは」
「そうだよな」
「違うな」
 仲間達はその彼を見て言うのだった。
「何かな、凄くな」
「嫌なこと忘れようとするみたいなな」
「そんな感じだな」
 それを何となくだが感じ取っていたのであった。
「何があったのかわからないけれどな」
「それでも。あれだな」
「凄い必死だな」
 彼等の視線の向こうで踊り続ける彼だった。そのダンスは冴え渡っていたが表情は冴えてはいなかった。そうして全身汗だらけになって服もびしょ濡れになっていった。
 もういる場所に汗で水溜りができそうになった時にだった。ようやく動きを止めたのだった。
 そこでだった。彼の前にペットボトルが差し出された。五〇〇ミリリットルの日本茶だった。
「はい、これ」
「来たのかよ」
「そろそろかな、って思ったけれどね」
 その手は竹山のものだった。彼が来てそれで差し出してきたのであった。
「丁度よかったみたいだね」
「ああ。悪いな」
 タオルで顔の汗を拭いてからだった。そのお茶を受け取った。
 一気に飲み干してからだった。生き返ったその顔で竹山に問うたのであった。
「何で来たんだ、それで」
「行くよね」
 こう従兄弟に問い返した彼だった。
「今から」
「行かないって言ったらどうするんだよ」
「嘘だと思うよ」
 にこりと笑っての言葉だった。
「それも下手なね」
「へっ、お見通しってわけかよ」
「いつもそうだったじゃない。迷ったら汗をかいて」
「ああ」
「それで決めてたよね」
「そうだったな。ずっとな」
「だから今だってそうだよね」
 あらためて野本に告げたのだった。
「行くよね」
「行くさ」
 やはりこう答えた彼だった。悩みが消え去った爽やかな顔で。
「これですっきりとしたぜ。行くさ」
「じゃあ行こうか」
「何だよ、御前も行くのかよ」
「一人の方がいいのかな」
「いや、御前がいるんならな」
 彼もまた従兄弟の言葉に応えて述べるのだった。
「行こうぜ、二人でな」
「お土産もこっちで用意してあるから」
「おい、それも用意してたのかよ」
「そう言うと思って」
 だからだというのだった。
「用意しておいたんだよ」
「何でもかんでもお見通しってわけかよ」
「従兄弟じゃない」
 そこにその理由を言ってみせた彼だった。
「従兄弟だろ?赤ん坊の時から一緒にいた」
「そうだったな。俺も御前の考えてることはわかるしな」
「お互い様だよ。それじゃあね」
「行くか」
 今度は自分から行った竹山だった。
「それじゃあな」
「うん、行こう」
「ああ」
 こうして彼もまた決めたのだった。その行く先は明るいものだった。
 
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