| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

魔法少⼥リリカルなのは UnlimitedStrikers

作者:kyonsi
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第23話 機動六課のある休日、総力戦。



――side響――

 ちょうど今。人造魔導師計画なんてものの話が出ていて。地上で保護した女の子が実はそうなんじゃないかって話の途中だ。

 その言葉。人造魔導師計画って聞いた瞬間、全員が言葉を失った。まぁ、わからんでもないけどさ。最近同じことがあったからね。

「これは、あくまで推測ですが……あの子は人造魔導師の素材として作り出された子供ではないかと」

『優秀な遺伝子を使って、人工的に生み出した子供に投薬とか、機械部品を埋め込んで後天的に強力な魔力や能力を出せる……それが人造魔導師』

 ギンガの言葉を拾ってスバルが繋げる。少し違和感が有るが……さすがは主席って所と思えばいいかな? まぁ、それよりも。

「ギンガ、後数分以内でガジェットくるから警戒を怠るなよー」

「う、うん。わかった」

 歯切れが悪い、そして少し顔が青い。多分、例の女の子の事を気にしているかな? ま、それまで余計な事は考えないでいこうか。

[A movement reaction perception, at the Gadget Drone.(動体反応確認。ガジェットドローンです)]

「来ます! 小型ガジェット、8機!」

 うん、なんか動いてる気配はあったし、『音』も聞こえてた。予想通りだな全く。さて、

 ――数分後。

「はぁあぁああああ!」

 ギンガの一撃でガジェットが砕け散る。うん、やっぱりカートリッジがあって魔力が多いと強いね全く。さて、周囲にガジェットの気配なし。ていうかやっぱ室内戦楽だわ。
 無理に距離詰めなくてもある程度近いから楽だしね。
 誘爆も気をつければ平気だし、震離たちみたいに無駄に魔力は使わずにただ切り落としてるだけだから、あんまり爆発しないんだよ。それでも一応気を使ってるけど。
 
 そういや、震離や奏の事何一つ聞いてないな。

「空の上は、なんだか大変みたいね」

「あぁ。まぁ、平気だろ」

 さっきから流れている通信の状況を聞いていたギンガがため息を漏らす。それもそうか。遂に八神部隊長も前線に出て、リミッターの解除申請までして迎撃に当たってる。
 でも、まぁ。見せ札としてはもってこいだと思うけどな。一応存在感もアピールできるしね。さて。
 
 先に進もうとした瞬間。聞き覚えのある音が聞こえた。なんかこう、ローラーが走る音。早い話がスバルのデバイス、マッハキャリバーの音みたいなのがどんどん近づいていくる。
 はて、ギンガは俺の前を走ってるけど、それとは別に聞こえる。で、その音はこの壁の向こうから聞こえてくる。

「ギンガ」

「なあに?」

「さっきも言ったけど。こういう地下壊すんならさ」

 首を傾げるギンガを無視して。壁の前に立つ。うん、その間も絶えず向こう側からローラーの音は聞こえる。刀を二本とも一度鞘に戻す。無機物だし、壁相手だから、これやると絶対罅は居るからやりたくないんだけどね。さて。

「二刀流。砕星」

「ん? どうしたの響? 刀を直して、また抜いたりして?」

「あぁ、気にすんな。それよか離れてろ、危ないぞ?」

 ギンガの側に移動して、少し離れるように指示する。うん、何いってんのって思われてるけどいいんだよ。なんて考えた瞬間。さっきまで俺がいた位置の壁が爆発して、炎が噴出した。
 うん、予想通り!

 粉塵が晴れると、そこには見慣れた――

「ギン姉っ!」

「ギンガさんっ!」

 そう言って、スバルとティアナがギンガの元に駆け寄る。スバルがぶち抜いてきた壁は……いや、壁だったものは綺麗に砕かれてるけど、たった今まで戦闘があって、その余波で打ち抜いた。
 まぁ、それよりも、だ。

 こんなに近くまで接近していたのに、お互いに気づいてなかった。
 ジャマーがあったのか、そうでもないのか……。

 なんて考えてたら、皆俺置いて先に行ってました。正直に言おう俺このポジションなのかな?

 追いついた頃には既に全員レリックの反応地点に到着してました。え、置いてかれて怒ってるんじゃないかって? フフフ、それは無い。ただ、ちょっとガジェットの生き残りが居てただ切り刻んだだけですよ。本当に面倒なんて思ってないさ。うん、本当だよ?

「ありましたっ!」

「……俺何もしてねぇよ」

 うん、今さっき着いて、空気読んで探し始めた瞬間なんだけどなぁもう。まぁ、とりあえず。

「キャロ、ナイスー」

「ありがとう!」

 レリックの入った箱を持って笑顔のキャロの頭を軽く撫でる。
 うん、いい笑顔ですな全く。スバル達も集合したし今回はこれで……。
 いや、何かが地面を蹴る音が聞こえた瞬間。俺はキャロの前に移動する。そして、刀を抜いた瞬間、俺の視線の先の空間が水面を叩いた時みたいに歪んだ。だけど!

「魔力弾程度で!」

 歪んだ空間より、四つの魔力弾が飛んでくるけど、二本の刀でそれを叩っ斬る。だけど、その瞬間、右の刀から鈍くて嫌な音が聞こえた。
 持って後数撃。だけど左の刀はまだ持つ。だったら――

「まだいける!」

 左の刀を鞘に戻して、右の刀一本で微かに歪んでいる空間目がけて、斬撃を撃ち放つ。同時に砕けたけど、斬撃は放てた。魔力使ってない純粋の斬撃だ。当たればそれなりに痛い。だけど、斬撃が当たるよりも先に、地面に着弾して、粉塵が舞う。同時に歪んだ空間が移動した。けど!

「エリオ!」

「うん! でやああああっっ!!」

 気合の咆哮と共に、歪んだ空間目がけて斬りかかる。だけど、歪んだ空間の主もエリオ目がけて突っ込む。そして、エリオのストラーダの一閃。そのまま距離を取って俺とキャロの前に着地した。

「くっ……!」

 瞬間、エリオの頬から鮮血が飛ぶ。正直、安直すぎたと後悔しそうだけど、それは後で今は目の前のことに集中しよう。そして、辺りを舞っていた粉塵が晴れる。そして、俺達の目の前にいたのは。

「……人型甲殻虫……いや、この場合は召喚獣か?」

 目の前にいたのは、全身が黒い人の様な形の人型甲殻虫だった。
 そして、その人形甲殻虫の後ろには紫のロングヘアーの少女。年から見て、エリオとキャロと同じくらい。そして、両手に付けてるのはキャロと似たタイプのデバイス?
 だとすれば……この子がアグスタの時の敵方の召喚者か? 魔力光がわかれば尚の事断定出来るわけだが……。

 なんて、考えてるうちに、その少女がこちらに左手を向けた瞬間。

「邪魔」

 小さく呟いたと同時に紫の魔力弾を放出。うん、この子がアグスタで居た召喚士だと思っていいな!
 
 いつだったか震離が言ってたな。
 ――放出した魔力を、圧縮したシールドなり、バリアを張れば一瞬だけ反発するけど、その一瞬で方向を変更すれば受け流せる、もしくは反射できる。って。
 やってみるか。右の手の甲に圧縮したシールドをつけて。目の前に来た放出された魔力を!

「フッ!」

 打ち払う! 

 ぶつけた瞬間、反発作用で腕が弾き飛ばされそうになったけど、少し踏ん張って腕を振り抜く。すると目の前までに来ていた少女より、放出された魔力が向きを変え、腕を振り抜いた方へ飛んでいく。

「え!?」「わ!?」

 後ろで二人が驚いてるけども……正直に言おう。二度としねぇ。まぁ、とりあえずだな。

「その程度で、レリック奪おうなんざ、数年早いぜ?」

 左の刀を抜いて、その切っ先を黒い人型甲殻虫と、紫の少女に向ける。うん、ちょっと思う所しか無い。訓練時じゃない実戦で……エリオやキャロと同じくらいの子と戦う日が来るとは。
 
 いや、止そう。
 それよりも現状確認。右手が凄く痛い。普通に斜めにシールド張って受け流せば良かった。でも、まぁ。ハッタリには十分だろうな。

 さて、と。それじゃあ。

「やろうか」

 ただ一言、目の前に立つ二人へと声をかける。

 だけど、人が格好良く。滅多にやらないことやって、キメたその瞬間に。轟音とともに、天井が一部爆発、そのまま抜けて、

「会いたかったぞ、さぁぁぁぁああああむぅうううぅうううらぁぁぁぁああああいぃぃぃぃいいいい!!!!」

 うん、そうだよ、こいつホテルアグスタの時のマスクマンなんだけど……なんだけど。
 アイツの声が聞こえて、黒い人? と少女の前に着地した瞬間。条件反射で口が動いちゃったんだよね。はっきりと。

「めんどくせぇのが来た!」

「つれないな、侍よ! あの時はあまり交わせなかったが、今回は違う!」

「うるせェよ!」

 だって、お前の登場で俺の後ろにいるエリオとキャロは口が半開きだし、スバル達もどうリアクション取っていいか分かってねぇじゃんかよ。だけど……まぁ。

「興が乗らぬ戦いだと思っていたが、まさか貴公と出会えるとはな。矢張り貴公と某は、死合をやるべき相手のようだな!」

 目の前で俺に切っ先を向けて、べらべらとマスクマンが何か言ってるけど、正直に言おうか。

 ――かなりまずい。

 正面には、黒い人型と、その主であろう少女。そして、アグスタの時に現れたマスクマンの三人がそこにいる。
 こちらの戦力は刀が一本折れた俺と、頬を斬ったエリオ、そしてレリックを持ったキャロと、スバルにティアナ、そしてギンガの6名。普通に考えれば二人一組になってあいつらを迎撃すればいいんだけども……。
 それじゃあヤバい。だったらやることは一つ。

(ティアナ)

(何、響?)

(あのマスクマンは俺が抑えこむ。だから他の二人は任せてもいいか?)

(な! 危ないわよ! それに二人一組でなら……)

(アイツ、まだどの程度か分からないし。確実に奥の手も持ってるはずだ。それに俺らの作戦目標はあいつらと戦闘することじゃあないだろう?)

 あくまで、レリックの保護が最優先。捕まえるのも目的だが、最優先事項は違う。

(……そうね。なら任せるけど、いい?)

(了解、任された。後レリックさ。どうにかしてたらいいと思うぞ)

(えぇ、ちゃんと考えてあるわ。それじゃ)

(あぁ)

 ティアナとの念話を断ち切る。俺のやることはただ一つ。アイツを引きつけるただそれだけ。そして、俺の装備は折れた太刀が一つと、薄い罅の入った太刀が一つ。後は同期が不十分な花霞だけ。

 うん。正直に言おう。結構不味いが。負けない戦いは何時もしてるんだ。これくらい訳は無い。だけど手の内を晒したくないとか言ってる場合じゃない。一応、上司が全員出張ると言うカードを切ったんだ。
 あちらの手札を引き出せることが出来るなら……こちらもそれ相応の事をするか。

「侍! 某は純粋に貴公との戦いを望む! だが、今の貴公の状態では話にならぬ! 某は万全の貴公との戦いを望む!」

 ……万全じゃない、か。あっはっはっはっは。あぁ、あぁ、あぁ。傑作だ。

 笑えるほど、なめられたもんだ。

 手足と一刀。これすなわち万全なり。俺が万全じゃない時、それは俺の腕が無くなった時を、大切な奴らを人質に取られた時を、俺が死んだ時を差すんだよ。

「だが、これも仕事! 某は――」

「うるさい」

 足に魔力を送り、一気に踏み込む。衝撃で地面が割れたけどそんなの気にしない。今はただ。ただただ、黒い侍を抑えることに集中するだけだ。

「――ッ! よかろう!」

「チッ」

 銃口がコチラに向けられ、スフィアが放たれる。弾丸は2発。

 それを切り落とす。

 が――、その前に眼前で爆ぜた。

「響!」「兄さん!」

 遠くでギンガと、エリオの声が聞こえた。爆煙が包んでいるけれど、何故か全く熱くない。

 そして、煙が晴れると、俺を守るように赤いベルカの魔法陣がそこにあった。煌々と力強く。熱く。

 ふと、赤い魔法陣から、火の粉が溢れる。その粉は火。火は炎に。炎は火炎に。燃え上がるように、熱く、気高い炎。

「おいおい、楽しいことをしているな。南蛮侍?」

 中から出てきたのは人。管理局の支給したバリアジャケット。左右に火炎の塊を従え、杖を肩に掛ける。赤い髪に、俺より少し高い背丈。杖を黒い侍に向ける。

「ここからは俺が――楠舞煌が相手してやる。来いよ」

 突然の乱入者に、俺も含めて全員の行動が止まった。目の前の煌は左右の炎をつらめかせ、首だけをコチラに向ける。

「さて、響。表は面白いことになってんだ。いけ」

「な――お前!? なん――」

 瞬間、足元に紅いベルカ式の魔法陣が展開する。いや、待ってこれって……。

「いけ響。上で時雨が準備してる。速く行け。アイツは俺が確かめる」

 目の前の煌が静かに。力強く言いきった瞬間、明るい地上へ転送される。周囲を見渡すと、どこかの屋上だけど……。遠くの空にはここからでも飛行用のガジェットが見える。幻影って聞いてたけど、これは……って。

「お、来たね響。さ、射出するよー」

 そう聞こえるや否や、突然水で出来たバインドが体を縛る。その姿勢のまま振り向くと。普通車両程の巨大な水で出来たバリスタの様な弓を構える時雨がそこに居た。

 バインドを引っ張り上げられ、弓にセットされている矢に縛られる。これはつまり……

「待て待て待て待てバカバカバカバカあかんあかんあかんあかん」

「心配ご無用。射出先には優夜が先行してるから平気。こっちには紗雪も向かってるし。じゃ、GOOD LUCK」

 瞬間、空高く飛んだ。やめてとか、バカ野郎とかいいたかったけれど、風圧でそれも敵わない。というか、この数秒で色々起きすぎだろう……。

 そして、目の前に廃墟ビルが映る。バインドで縛られてるし、どうしようも出来ないなーとか思っていると。目の前より強風が吹き荒れた。俺を中心に渦巻き、気がつくと射出の勢いが殺されていた。

「あ、おーいこっちだー」

 視点を上に向けると、屋上に見知った白髪の奴がいた。

 今なら言える、くっそ疲れた顔をしているんだろうな、俺は……。



 ――side煌――


 とりあえず! 久しぶり! メタ発言するなって? 気にしないでね!
 まぁ、簡単に今のというより、現状を報告。色々あって響と交代した、以上。

 目の前には南蛮侍ことマスクマン。あと、周囲の視線が超痛い。まぁ、仕方ない。しがない事務員がここに居るんだ、そりゃ驚くよな。

「貴様……あの侍を何処へやった!?」

「騒ぐなうるせぇ。ちょっと色々やることができたんだよ。察しろバカ」

 ごちゃごちゃ騒ぐ侍を無視して、踏み込み、炎を纏った杖で振り抜くも躱される。
 少し遅かった。FWの面々から距離を取り、そのままアイツを追撃。左右の炎の塊から、火の弾を射出。同時にもう一歩踏み込む。

「これは……邪魔だな!」

 瞬時に侍が炎の塊へ銃口を向け、弾幕に対抗する。コチラも連射を上げて対抗するが……。

 ――出力が安定しねぇ。

 弾幕を撃ち抜いて、炎の塊にスフィアが刺さる。これくらいの射撃、昔だったら少なくとも拮抗まで持ち込めたのに。術式を停止し、塊を消す。

「飛び道具など、無粋! 火の者よ! 相手をしてやろう! 鳴けよ血粋(ちすい)!」

[了]

 アイツが構える刀より、短く機械音声が聞こえたと同時に、アイツの刀を中心に青黒い魔力が渦巻く。
 持ち手を変えたと同時に、下段の構えを取る。角度と、構えから、下方から斜め上に斬り抜ける袈裟斬りだ。俺の杖とアイツの刀がぶつかる瞬間。ただ、その瞬間に。刀を振りあげてきた、けど。

「遅い」

「なん――」

 小さなシールドを刀の軌道上へ配置、そして、受け止めたと同時に刀をバインドで縛る。動きが止まったアイツの前で、一気に魔力を杖に集め、そして。

 アイツの顔面――、仮面の前に杖の先端を向ける。

「爆・ぜ・ろ!」

 杖の先端より爆発が起きる。けれど、そのエネルギーを先端の向いてる方へ収束させ、南蛮侍を弾き飛ばす。その勢いのまま、近くの柱を削って壁へと激突、崩れる瓦礫と巻き起こった煙の中へと飲み込まれた。

 数年ぶりに撃ったけれど、我ながら良い収束に、いい火力。さすが、俺。

 惜しむべきは……。

「だめ、か」

 間違いなく当たった。だが、軽すぎる。防御されたわけでもないが、これは変な感じだ。以前響と話した、ショートジャンプかと思ったが、アレとはまた違う。これは……?

。さて、どうするかな。

「スターレンゲホイルッッ!!!」

 ……なんか、そんな声が聞こえたとほぼ同時に俺の背後が一気に明るくなりました。同時に爆音も聞こえて、耳が変になったけど、それは直ぐに治るから問題ないとして……。

 ヤベェ、後ろが……FWの所がスゲェ気になる。だってさ、あの紫の少女はそんなに声だ出さないだろうし、黒い人型は喋らないと思うしさ、正直のところ、俺が離れた瞬間、あそこ何があったし?
 凄い気になるけど、目の前の敵を放置して、振り向くとか怖すぎる……ってか。

「……何で出てこない?」

 本気でそう思う。さっき吹き飛ばしたときに起きた煙はもう晴れた。そして、アイツが居るであろう瓦礫の山の形は変わっていない。正直な所。漫画みたいにフラグを立てた覚えはない。やったか!? とか思ったどころか、考えなかったし。むしろまだ余裕だろうとか思ってたしね。

「……へい、無事かマスクマン!?」

 うん、何処に敵を心配する管理局員が居るんだろうなぁとか思いながら声をかける。いやだって、死んでたりしたら、嫌だしね。というか、ここまで掛かって反応がない、そして、さっきの手応えの無さから考えると……。

「……逃ーげーらーれー、た?」

 マジ? でも、ここまで反応がないのは、多分逃げられたんだろう。おそらく第三者の手で。
 だって、あのマスクマン。響との死合を望んでて、俺が水を差した。だから、アイツの意思で逃げることはない。戦略的撤退って言って逃げるようなタイプじゃないし……うん、こりゃ逃げられたわ。
 だったら、俺のこの仕事は終わった! 次に行こう!

 と思って振り返った瞬間。
 
「ゆくぞ、紅蓮の!」

「マジ……早い!」

 爆発と共に瓦礫が弾幕上に散布。咄嗟にそれを迎撃するも――
 
「――まだだ。まだ、足りぬ!」

「うるせぇ、よ!」

 真直こちらに突撃。刀と杖で戦ってる以上……こちらが不利。加えて、刃が食い込んでるし、瓦礫の弾幕で炎の塊は既に消失。 
 即座に、ジャケットの上着をパージすると共に一端距離を取って。
 
「リカバリー」

[Recovery.] 

 応急処置を施して、今一度頭上から斜め下に杖を構えて。
 
「行くぞ。お前の正体見極める」

「こい、久方ぶりの良き戦いだ!」

 上段に構えた刀を振り下ろすよりも先に、踏み込んで降ろされる前に杖の先端で抑える。
 刀を下ろせないと気づいたマスクマン、一歩下がって体制を立て直しつつ、片足蹴りを見舞おうと足を引く。
 杖の切っ先をずらすと共に、手元で回して持ち手を顔面にぶつけ、かち上げる。
 
 だが、マスクマンも負けじと、懐に有る銃を取り出して即座に射撃を開始。
 それをかち上げに使った杖を滑らせるように、下段に落として盾を描くように杖を回して防ぐ。
 その間も連射しながら下がるマスクマンに対し、こちらは防いでしまった以上動けないし、連射速度も早い。  
 
 それでも――
 
「いく、ぞ!」

 そのまま杖を回しながら前へと踏み込み、直撃する弾だけを落とすことに意識を向ける。 
 マスクマンもまた、銃口を外して、刀をこちらに向ける――が、
 
「マジか」 

 踏み込み、杖を振り下ろすが。一歩下がって回避され、宙を空振る。その隙を逃さないと言わんばかりに銃口を向ける。
 なるほど、阿呆だが馬鹿じゃねぇ。
 
 だがな。
 
 空振った杖先をそのまま地面にぶつけて抉る。加えて、その勢いのまま更に加速し、杖先を起点に地面を蹴って。
 
「……流石! やるではないか……ッ!」

 銃声が響くが、こちら速度に対応しきれず、銃口が追いついてない。
 そのままマスクマンの背後を取って。空いてた左手に魔力を込めて相手を目掛けて一直線に走らせる。
 
 もう一度躱そうとそのまま振り返りつつ前方へ跳ぶマスクマンを追走。踏み込んだ瞬間拳を突き出して――  

「「何だ?」」

 真上よりデカイ反応に気を取られて、一瞬間が出来て―――
 
 


――side震離――


 まぁ、簡単に今のというより、空の状況を教えようかな。

 とりあえず現在の状況は、ガジェットII型の実機と、幻影の編成部隊が周囲に展開してて、それを残滅するために、わざわざはやてさんが前に出てきた。
 それまではなのはさんと、フェイトさんがガジェットの相手をしてたけど、はやてさんが来たことで、二人をヘリの護衛に付けるっぽい。そして、私達はと言うとね。

「震離、集中してよ!」

「はいはい!」
  
 流がヘリの前に出て、ガジェットを迎撃する。奏もヘリの後方で迎撃してる最中だけどね。そして、私は遊撃を。
 まぁ、ついさっき、ヘリの前後にガジェットが飛んできたんだけど。遠隔召喚による実機と幻影の混合編隊らしく、攻撃の通らないものもある。うん。めんどうだね全く!

 まぁ、だけど。

 正直なところ、この程度だったら今の私と奏で対応できる。それに少ししたら、なのはさんとフェイトさんって言う強力な戦力がやってくる。しかも海上じゃはやてさんが、ガジェットを殲滅中。
 リミット解除を行おうとしたらしいけど、それは通らなかったらしい。理由はわからないけど、何かが介入したと思う。
 だけど、それでも。不安はぬぐいきれない。理由は単純で。
 
 紗雪からの連絡で、合流して情報を纏めるはずが、スクランブルに成ってしまってそれどころじゃなくなってしまったから。

 加えてヘリの中に座っている人物が居るから。

 アヤ・アースライト・クランベル。

 その人がそこにいる。今まで何もしなかった人が。急にこんなトコロまで出張ってきた。多分何か意図があるから出てきたんだと思う。多分なにかあるんだろうな。保護したあの子に、ううん、人造魔導師素体の少女に。
 いや、この場合は、持ってたレリック2つにかな?
 
 そして、最後は。流の動きが何時も以上に悪い。そう言えば、スバル達の場所に合流してからなんだよね……もしかして、アイツと面識がある?
 いや、会った時初対面だと言ってたし、余所余所しい所も見受けられた。

「まぁ、それでもッ!」

 カートリッジを数発使って、目の前のガジェットをなぎ払い、防御に徹する。今は、ヘリを守ることに集中、流もこちらでカバーすれば問題ない。うん、それがいい!

 ちなみに、地下水路チームは、少女と、融合機の子の拘束に成功し、ここでヴィータさんが一言がはっきり聞こえた。

『子供苛めてるみてーでいい気はしねぇが。市街地での危険魔法使用、及び公務執行妨害。その他諸々で逮捕する』

 空で戦う私と奏の手が止まったからきっと、向こうの現場もこう思ったと思う。心の中で「あれ、ヴィータ副隊長って」と思った筈。

 だけど、そんな緩い雰囲気を一瞬で変える事が起きた。



――sideナンバーズ――

 

 空を飛ぶヘリから離れた廃棄ビルの屋上に、人影が2つ。1人は白いマントを羽織り、もう1人は茶色いマントに、何か筒のようなものを包み込んだ、同じく茶色の布を持っていた。

「ディエチちゃ~ん。ちゃんと見えてる~?」

「あぁ。遮蔽物もないし、空気も澄んでる。よく見える。護衛の魔導師が1人いるみたいだけど、問題ないと思う」

 と話す二人、一人はNo.4、名をクアットロ。大きな丸い眼鏡が特徴で、白いマントを羽織る。
 一人はNo.10、名をディエチ。茶色の長髪、それを薄黄色のリボンで結われていた。

「でもいいのか?クアットロ。撃っちゃって? ケースは残せるだろうけど、マテリアルの方は、破壊しちゃうことになる」

「ウフフッ。ドクターとウーノ姉様曰く、あのマテリアルが当りなら……本当に『聖王の器』なら、砲撃くらいでは死んだりしないから大丈夫。だそうよ?」

「ふ~ん……ま、どうせ当たらないし……」

 そう言うと、ディエチは持っていた布をはぎ取る。中から出てきたのは、ロングバレルの砲撃機。

「まぁ、そうね……あら?」

 瞬間、クアットロの方には、彼らの姉であり、№Ⅰである。ウーノから連絡が来ていた。

『クアットロ。ルーテシアお嬢様とアギト様が捕まったわ』

「あ~ぁ。そう言えば例のチビ騎士に捕まってましたね~?」

『今はセインが様子をうかがっているけど』

「……フォローします?」

『お願い』

「はぁ~い」

 薄ら笑いを浮かべながら、ウーノからの通信をきり、即座にセインと呼ばれる人物へと念話を繋げる。

(セインちゃん?)

(あいよ~クア姉)

(こっちから指示を出すわ。お姉様の言うとおりに動いてね?)

(ふ~ん了解~)

 そう言うと、地面がまるで液状化でもしているように、地面から腕が出てくる。その一本の腕はヴィータ達のいる橋の下の地面から伸びていた。橋の上ではルーテシアに対する簡易尋問が為されている。すると、ルーテシアに向けて念話がはいる。

(は~いルーお嬢様)

(クアットロ?)

(なにやらピンチのようで?お邪魔でなければクアットロがお手伝い致します)

(……お願い)

(はい~。ではお嬢様? クアットロの言うとおりの言葉を……その紅い騎士に)

 楽しそうに、それでいて嬉しそうな、悪魔のように気味の悪い笑みを浮かべながら彼女は念話を続けた。


――side――


「見えた!」

「良かった。ヘリは無事」

 その安堵もつかの間、市街地での反応をなのはとフェイトは察知した。それはロングアーチも捕捉していた。それはビルの屋上、大型ライフルの狙撃砲を構えたディエチだった……

『市街地にエネルギー反応っ!お、大きいっ!』

『そんな、まさかっ!』

 その力は、遠方にいたはやてにも感じられるほど強く。ヘリのそばにいる3人もその力に警戒を強める。

『砲撃のチャージ確認。物理破壊型、推定Sランク!』

 その通信を聞くや否やなのはとフェイトは顔を見合せた。

「フェイトちゃん!」

「うん!」

 更に勢いをつけて、ヘリへと向かう二人。

 それと時を同じくして、廃棄ビルの屋上では、先ほど姿を現した砲撃機がチャージを行なっていた。

「インヒューレント・スキル。『ヘヴィ・バレル』、発動。」

 それに合わせて、橋の上に居るルーテシアを介して、クアットロはヴィータへと話しかける。

(逮捕はいいけど)
「逮捕は、いいけど……」

 その言葉に、反応するヴィータ、リィン、ギンガ。だが、ルーテシアの言葉は終わっていない。

(大事なヘリは、放っておいていいの?)
「大事なヘリは、放っておいていいの?」

「!?」

 その言葉で、ようやく気づき、血の気が引く。ヘリが、撃墜の危機に瀕していると言うことを。
 だが、クアットロは更に言葉を続ける。

(あなたは)
「あなたは」

(また)
「また」

(守れないかもね)
「守れないかもね」

 その言葉に、ヴィータが激しく反応する。瞳は激昂し、明らかな動揺の色が見える。そして―――

「―――発射」

 大気を焼き切るように貫き、瞬神のごとき速度で飛来する砲撃はヘリを捉える。その刹那、ヘリのあった場所を、轟音、そして爆風を上がった。


 砲撃が放たれる瞬間、海上にいたはやては、直ぐに限定解除許可を行った。解除したのはヘリのそばにいる奏と震離ではなく、ヘリに向かっているなのはの限定を直ぐ様解除した。
 確かに、スピードならフェイトの方が上で、AAAとAAの二人でも止めれる可能性は高い。しかしあの砲撃を確実に止めるとなるとなのはクラスの防御能力がないと辛いのだ。
 そして――

『砲撃……ヘリに直撃……?』

『……そ、そんなはず無いっ!状況確認っ!』

『ジャミングが酷いっ。確認できませんっ!』

 
 ロングアーチの面々から、悲痛な声が聞こえる。同時に寸前までヘリの側にいた二人の反応もかき消えている。直撃する瞬間、そこにいたのは、ヘリの中にいたヴァイスにシャマルにアヤ。そして、あの少女。
 更にヘリを護衛していた震離と奏の二人だ。

 だが、ヘリの護衛をしていた3人は、リミッター付でA。到底あの砲撃を防御できるとは思っていなかった。だからはやてはなのはの制限を取り外した。

 そして、爆煙が晴れていき、同時に映像が回復する。煙が完全に晴れたとき、そこにいたのは―――

「……ロ……ング……アーチへ……。スタ……05。ヘリの……防御、成……功」

 ボロボロになりながら、声を発するのは。大剣が砕かれ、ライフルも外部からの衝撃により折れ曲がり、血を流しながら、血を吐きながら、ヘリを守った流の姿がそこにはあった。そして、その後ろで奏と震離が2人合わせて何重にもシールドを重ね、その姿に唖然となっている2人の姿があった。そして、即座に震離が流を抱きかかえ、戦線を離脱していった。

「あらら……」

「わかっていたけど、ああやって、止められるとはね。悔しいね。クアットロ、予定通りお願い」

「うふふ……まっかせなさい!」

 と、これから逃げようとする二人に無数の黄色とピンクの光弾が雨のように降り注いだ。それに気付いたクアットロとディエチの二人は、屋上から瞬時に離れるとそれをかわす。
 一人は飛び跳ねながら、一人は飛行をしながら逃げようとするが、速さに置いてはフェイトの敵ではない。なのはも、フェイトとのコンビネーションで追い込み、魔力弾で完全に包囲する事に成功した。

「そこまでです! 大人しく縛につきなさい!」

「騒乱罪と質量兵器使用の罪で逮捕します!」

 デバイスを2人に向け、投降するように呼びかける。が、追い詰められているはずなのに未だ余裕の表情、それがわからない。

「あらあらぁ。ヘリから離れちゃっていいのかしらぁ?」

「……?」

「仲間がいるのは確かですけどぉ、誰も「外」からとは言っていませんよぉ?」

「「―――っっ!!!」」

 声にならない悲鳴と共に、一斉にヘリに視線を向けた瞬間、六課のヘリは轟音を上げて爆発、四散した。近くに居たはずの奏はバインドで縛られている。

「そ、そんな……!!」

「策は常に二重三重に用意するものですわよぉ?」

「くっ……なんて事を!」

 ころころと笑うクアットロの言葉に激昂するが、煙が消えたところに二組の人影があった。

「良かった、シャマル先生とヴァイス君も無事で、アヤさんがあの子を抱えてる!」

 人影はそれぞれ少女を抱き上げているアヤと、ヴァイスを背中から抱きしめて浮いているシャマルだった。それを見て、なのはは心より安堵の声を上げる、対称的にフェイトは信じられないと言った表情だ。


――side奏――


『良かった、シャマル先生とヴァイス君も無事で、アヤさんがあの子を抱えてる!』

 通信から聞こえる声に違うと叫びたい。両手両足だけならまだしも、コチラからの通信を妨害された挙句、口にまでバインドを掛けられて喋ることが出来ない。
 アレをやったのは、このバインドの主は……。

「ごめんなさい、機動六課の皆さん。たった今ヘリを中から壊しちゃいました♪」

 楽しそうに、嬉しそうに、狂ったような瞳で、狂ったような笑みで、たった一言それを発した。

 悔しい悔しい悔しい。銃を握る手から血が溢れる。口の中が血の匂いで溢れる。目の前で流が盾になった時も凄く悔しかった。3人で盾を張る。そのつもりだったけれど、当たる直前、流が前に出て、シールド以外にも、バリア、フィールド系を用いて相殺。
 当たる直前、たしかに聞こえた。

 ――私はこれくらいしか、盾になるくらいしか出来ないので。後お願いします。

 って。それを聞いて、震離が一番ショックを受けて、流を連れて全速力で戦域を離脱。そして、その直後に私はこの様だ。

『うっふふのふ~、ほんと、こんなにも上手くいくなんて、管理局はなんて馬鹿な連中なんでしょう』

 えぇ、そうだよ。悔しいほど、私は無力なんだと、実感してるよ
 でも、この状況を打破するには、これをひっくり返すにはどうしたらいい。あの人を捕まえるのは後回しでもいい。今はあの子を奪還することが大事だ。
 理由は単純。レリックを以て、ガジェットに追われて。今のように狙われた。何かがあるんだろう。だけど。だけど、どうしたら良い?

 だけど、それはすぐに訪れた。

 私とシャマル先生の足元の側を青い魔力矢が飛来。
 懐かしい、でもそれ以上に、何故? だけど、考えるよりも先に。視点が変わる。
 ヘリの合った位置から離れたどこかの屋上。ついたと同時に、バインドの有効操作判定を遠ざかったらしく、解除される。
 目の前に居たのは、横になり顔色が悪い流と、その流の手を泣きながら握る震離の姿。突然の転移に、私もシャマル先生も考えが追いつかない。
 そして――。

「シャマル先生、直ぐに流に治療を。奏、ここから私と貴方は空のガジェットの迎撃。紗雪はアイツの方へ真直追って!」

 様々なモニターを展開しながら、各方面に指揮を取る時雨の姿がそこには会った。



――side響――


「おいメガネ」

「あら? あら~、どうしてかしら、いつの間にそこに?」

 メガネの女の背後から花霞を向け、もう一人にも前の刀を向ける。

「あぁ? ネタを教えるバカが何処に居る? 大人しく投降しろ。さもなくば斬る」

「……それは遠慮します~、今日のところは! 貴方には、お姉様を当てましょう!」

 動くと判断し、即座に眼鏡の方に斬りかかる。が、それより先に。足元から虹色の光で出来た細糸が俺を縛る。的確に腕と刀を。
 そして、眼鏡が茶色の長髪の子を抱えて空を飛んで逃げる。

「クソ! フェイトさん、なのはさん!」

「で、でも!」

「目先の事を片してからやりましょう。それに大丈夫です。あの子の奪還は確実に! だから、今は!」

「ッ! 行こうなのは!」

 俺の意図を汲んでくれたのか、フェイトさんがなのはさんの腕を引っ張って、あいつらを追った。
 バインドで縛られた腕と刀を無理やり斬り落とす。そして。
 
「あら、愚妹も良い仕事をするわ――久しぶり、ヒビキ?」

「……わぁお」 

 同時に、風が吹いた。強い一陣の風が。自然と頬が緩む。まさか、こんな時が来るとは思わなかったから。


――side紗雪――

「この魔法陣、まさか!?」

 アイツの前に琥珀色の魔力の魔法陣が展開される。それが何か察して勝ち誇ったような笑みを浮かべている。
 確かに、貴方とあの人は協力関係だった。だが――

「アーチェさん!?」

「うるさい」

 現れたと同時に鉄球を振りかぶり、アイツを襲う。今のアイツは子供を抱いているし、腰にはレリックのケースを2つもマウントしている。それでは、満足に動けないだろう? 
 空いた左手に持つ杖をアーチェに向ける。それよりも速く。

「行くよ!」

 もう一段階、踏み込みを、ギアを上げて、速度を上げ、突撃。アイツの右手側に周り、そこから、女の子を奪い取って、札を張って転送。
 それを確認して、両椀の鎖と鉄球を本来の大きさまで戻して振り回すアーチェ。それを杖先……いや。魔力刃を展開し、迎撃する。

「そういう事! クライシス!」

[All right.]

「……固いっ! チィイイイ!」

 分厚い氷のシールドが展開され、アーチェ攻撃が通らない。カートリッジも何も使用しないとか。流石Sランク。重いアーチェの鉄球を防ぐとは。普通のシールドに自分の魔力変換を用いてシールド張るなんて、並大抵じゃ出来ないよ。

 勢い余って、皆が今いるビルと、この女の間に立ち、もう一度短刀の切っ先を向けた。

「舐めてたよ、流石Sランク。平気アーチェ?」

「大丈夫。流石と褒めるべきだよ。最悪だ死ね」

「……コチラこそ、あなた達を舐めてましたよ。それは素敵な褒め言葉ねシスター様?」

 さっき張ったシールドをコチラに向けて、少し言葉を交わす。時雨や皆と作戦会議してる時もそうだったけど、ずっと待ってたよ。この瞬間を。

「でも、ここまで」

 瞬時に私の背後に青色のスフィアが4つ。だが。展開とほぼ同時に破裂。

「ッ!?」

「……そんなもんか」

 一歩を踏み込む。そして行く。シールドを超えて、抜ける為に。その後を斬り抜くように。

 音が響く。短刀がシールドを削る音が。そして、破った。いや、正確には脆い方へ滑りぬいた。
 アーチェも、私の邪魔をしないように、周囲に鉄球を伸ばし、鎖の足場を辺りに展開、隙を見て
レリックを奪還するように、時折拳を走らせてくる。

「疾い……!」

「Sランクさんに言われても嬉しくないですよ」

 速度が上がる。短剣にセットしたカートリッジをそれぞれ一発つかってリカバリーして、シールドと打つかってボロボロになっていた切っ先を復活させる。踏み込む脚に、全身に魔力が渦巻く。

 何度も何度もシールドを削る。音が増えたように、何度も突撃、突破を繰り返す。高速移動と攻撃と、その合間にアーチェの重撃の連続。
 だけど、まだ足りない。火花が散る度に、もっと速度を上げる。間違いなく、アイツはギリギリで対応している。動作としてはデバイスに助けられている。硬いシールドに更に氷の魔力変換が付与されているから保っている。

 もう一つ段階を上げる。瞬間、左脚に生暖かいモノが流ているのに気づく。だが、それでも踏み込む。弾丸を弾く様な高速機動に骨が軋んだ。体が置いていかれるような感覚に襲われる。速度が上がった証拠。
 アーチェの鎖の足場が本当に助かる。どのポジションで行っても、それを起点に加速して激突し直せる。

 背後に右から回り込み斬撃を。だが、先程と違い、盾が置かれるのではなく、真っ直ぐ顔面を狙って杖の先端がコチラに向かって走る。

 反射的に顔に当たるのを躱し、その勢いのまま世界が反転。そのまま下半身、腰のレリックケース目掛けて斬撃を置く。
 
 が、これも通らず一端距離を取り、アーチェの作った鎖の上に降り立つ。

「……さすが、ですね。ただ、あなた達の中で唯一のSランクが相手だったら……厳しかった」

「思ってもないこと、口にするな」

 ……アーチェが私より一歩前に出てくれる。おそらく気づいてるか、時雨が教えたか。
 肩で息をしては居ないけれど、思ってる以上に消耗して、既に汗も出ない。
 
 最悪だ。地上本部で連絡を受けて、慌てて駆けてきたのが仇となった。思ってる以上に私も削れてるし、その分攻撃が通ってない。

「惜しむべきは、出力が安定してたのなら、正規のモノなら……捉えられてましたね、私♪」

 ニコニコと笑うアイツを見て、短刀を握る手に力が入る――いや、持ち直す事しか出来ない。この僅かな攻防で、既に体は限界を迎えていた。視界が白んで来る。酸素が足りない。でも、ここまで保ってくれただけでもありがたい。

 分かっている。

 約2年ぶりに枯渇していた魔力を廻して、身体強化、更には限界を超えた速度に、突撃。同時に、内臓にも恐らく何かしらの損傷があるだろう。痛みに慣れているとはいえ、躰がバラバラになりそうな痛みに目眩がする。
 ちゃんとした出力に、日常から魔力を廻しておけば、こうはならなかったかもしれない。だが、今回は緊急だった。アイツを縛り付けたものを、奪ったやつを捉えられるかもしれないと。
 だけど、実際はこの様だ。

 やつの足元に紫の光を放つ魔法陣が広がる。

「……今の貴方達の情報、全く役に立たなかったわ。でも、かつての貴方たちの情報は大いに役に立った。ありがとう」

「……」

 ここまで言うって事は、間違いなくこいつはもう管理局を見限っている。そして、恐らくスカリエッティともつながっている。

 ――ならば。

「それじゃ、これは頂きましょう」

 懐から札を取り出すと同時に転送させる。
 
 対象は――
 
「……貴様!」

 アイツが――アヤがこちらを睨みつけるが、何を今更。だが、まだ続けるならば。 

『ストップ』

 突如、目の前に時雨が映し出される。それはアイツの前にも表示されている。

『紗雪、アーチェ。これ以上の戦闘は禁じます。下がりなさい』

「……分かった」

 ありがたい。そう告げるってことは。時雨はこちらを補足し、狙いを定めてるという事だ。

「まだ私は!」

 アーチェは悔しそうに、まだ戦えると叫ぶ。
 でも通信越しの時雨に鋭く睨まれ、言葉が続かない。

『そして、アヤ三佐。アナタのそれは明確な反逆行為と見なします。宜しいですね?』

「……ッ、構いません。次会う時は敵ですよ。お互いに。……それにしても」

 ニヤリと、下衆の笑みを浮かべて。
 
「滑稽ですね。老衰した敬愛する先代が選んだ後継者に付いた結果がこれ。
 だから言ったのに、あの時こちらへ来なさいと。だから言ったのに、先を見据えなさいと。
 貴女達の選んだ人は、所詮は人殺し(・・・)。それも子供を――」
 
 そこまで言った瞬間。

 私とアーチェの間の大気が割れたのがわかった。
 いや、気づいた時点で遅い。
 
 気づいた時には。
 
「っ……!」

 アイツの氷盾に雷を纏った魔力刃を展開した杖が突き刺さっていた。

『安い挑発に乗りますよ。何も知らないくせに提督(アドミラル)を、響を語るなよ……!』

 ……久しぶりに本気で怒っているのを見た。加えて、側に居たであろう震離の杖を撃ったって事は……皆怒り狂ってる。
 
『あぁ、そうだ。あと……響ならいいそうなことで返しましょう。
 旦那さんが(・・・・・)草葉の陰で泣いてますよ?』
 
 緊張が走る。だが、構わない。続行するというのなら付き合ってやる。
 
「……次は殺すわ」  

『それはコチラもだ。次は捕まえる。大切な船を破壊し、人を殺した貴様を許さない。肝に銘じろ』

 鋭く、深い底からの様な声に、少し目を見開いただけのリアクションを返す。同時に、魔法陣が消えると同時にやつの姿も消え、緊張していた空気がほぐれていくのが分かる。
 簡単に深呼吸をしてから。

「……ありがと」

『……紗雪。すぐコチラに。あんな無茶な加速と突撃しといて、何もないなんて言わせない。
 アーチェ、私達もこのまま戦っても良かったけど。あくまでそれは私情。今回は人質の奪還、レリックを1つでも取り返すこと。
 分かってるよね?』
 
「……分かってる。だけど、だけど……!」

『……戻ってきて。直ぐに紗雪が奪還したレリックを封印しましょう』 

 周囲に敵影がないことを確認して、皆が居るビルへと向かう。

 もう少しだったと自惚れる事はしない。だけど届かなかった事に腹が立つ。身を挺してヘリを守ってくれたあの子を見て、それに報いようとしたのに、レリック1つしか取り返せなかった。
 
 直ぐに皆でレリックの番号を確認すれば……言われていた(・・・・・・)通り、19番と書かれていた。
 
 だとすれば、今回持っていかれたのは……本当に。

 この選択が間違って無ければいいんだけど……最悪だ。


――side響――


 ビルの側面を跳ねながらトップスピードを維持する。そして―――

「優夜ぁ!」

「おう!」

 空から真直に、杖を槍と見立てて突撃するのにあわせて、刃を突き立て様とするが。

「いいわ、いいわ! 最高よ。でも、槍術の貴方は無粋よぉ!」

 俺の刀の切先を容易く砕き、優夜の切先は――

「マジか! 破棄!」

[Selbstmordattentäter.]

 切っ先を握られたと同時に、杖を破棄。自爆させた。
 奪われて獲物とされてしまえば、こちらが不利になると考えてだが。
 
「ふふふ、ブラッシュアップのお蔭で、全然……効かないわぁ」

 フードを被って表情が見えず、ノイズ混じりの女言葉だというのに、狂気で笑っているというのがよく分かる。 

 ホテル・アグスタで現れたアンノウンをけしかけられたと同時に、こちらも優夜が転移魔法で現れ、2対1をしているというのに……全然歯が立たない。
 それどころか、今、眼前で殺傷の有るデバイスの自爆を受けているにも関わらず無傷。しかも爆風で飛ばされることなく悠然とこちらを眺めて笑っている。
 
「お前……トンデモナイのに目をつけられてんじゃねーか」

「……いいだろ。モテて困ってるんだ。引き取ってくれてもいいのよ?」

「いらねぇよ。好きな子居るんだよ」

 お互いに軽口を叩くが、その実情は芳しくない。
 手加減抜きの斬撃に、優夜の槍の穿ち、刺突、薙ぎ払いを悠然と受け止めあざ笑うアンノウン。
 俺の攻撃が通らないなんてわかってた。だが、不安定とは言え俺より魔力があって、威力を出せる優夜の一撃でさえも受け止めるこいつは……一体何だ?
 
「……防御系にしちゃ、強すぎるが……出力元はなんだ?」

「出力もだが、爆風受けても耐えれる……いや、何もなかったようにそこに立っていられる事のほうがわからん」

 ミッドチルダ語ではなく、日本語で話す。上手く聞き取れないのか、あのアンノウンは首を傾げている。
 
「まるで無敵モードみたいだな。星を取って無敵、あの曲が流てきそうだよ」

「アレは時間経過で終わるけど、こちらは何時までかわからん分、不利だぜ」

 ……本当最悪。
 
 だが。
 
「それでも、響の徹し……拳を握ったら警戒してるよな」

「あぁ。場合によっては内臓破壊してでも徹すのも選択肢に入れるか」

 柄を握りながら、拳を見せればアンノウンが構える。
 やはり、以前食らったのが未だに頭に有るらしい。加えて、何度か打ち込もうと拳を構えた瞬間、俺から離れるように、もしくは打撃を放って距離を取っていた。  

 それでも不安要素は多い。と言うより、意味わからないことが1つ。
 こちらの手を読んでるかのように、見えないタイミングで、避けられない筈の打ち込み、徹しをこいつは察して、それを受けないように立ち回っているということ。
 それは俺ではなく、優夜にも言える。
 槍術から、拳を握って徹しの打撃をやろうとすれば、それだけをピンポイントで回避しようとする。
 まだ見たことも受けたこともない、初見の優夜だと言うのに。

 まぁ、徹したからって何かが変わるとは思えない。
 現に二人ががりだというのに、こちらは圧倒されているんだから。それどころか、優夜の一撃を見切って切っ先を掴むという事もしている。
 
 つまり、二人がかりで遊ばれているという現実。
 
 それが――。
 
「舐められっぱなしも面白くねぇ。もっと早く往くけど……響よ。ついてこれるか?」

「抜かせ。2年のブランクあるお前に言われたかねぇよ。優夜こそぬかるなよ」

 日本語からミッドチルダ語に戻せば、
 
「あら、秘密の作戦会議は終わり?」

 ご丁寧に待っててくれて有り難い。ありがたすぎて涙が出てくる。
   
 さぁ、今一度。と考えた瞬間。

『位置確認、詠唱完了っ!発動まで、後4秒っ!』

「了解っ! 響、優夜!」

「え?」「ん?」

 フェイトさんからの連絡、何事と思った瞬間。市街地の上空に別の魔力反応を感じる。あぁ、なるほどはやてさんの魔法か。
 なんて考えてたら。
 
「ここまで、か。ヒビキとユウヤ……でも、あぁヒビキ……今度は私と――」

 そう言って転移していくのを見送って、こちらも即座に離れる。
 
「とりあえず……」  

「……戦術的勝利ってとこだな」

 パシンと、軽いハイタッチして、深くため息。
 遠くのフェイトさん達の様子を見ると、上空に出来た丸い黒い玉が一気に辺りを飲み込んでいく。
そして、幻術張りながら、逃げるのがキツイのか、幻術を解除して全力であの魔法から離脱した、あの二人の姿があった。だけど――

[(投降の意志なし…逃走の危険ありと認定)]

[(砲撃で昏倒させて捕らえます)]

 うわぁ、通信で聞こえたから素直な感想を言おう。バルディッシュさんはともかくとして、レイジングハートさん。砲撃で昏倒させるって……あぁ、だから、今のなのはさんになったのかぁ。納得納得。

 なんて思ってると。あの二人の前方にフェイトさんが、そして後方にはなのはさんが。そして、2人の砲撃準備が整う。うん、あんなのに挟まれたら死ぬほど怖いな。だけど、さすがにもう切れる手は無いのか、二人とも砲撃に身構えてる。

かに見えた。

「トライデントッ!」

「エクセリオンッ!」

「スマッシャーッ!」「バスターッ!」

 両隊長の二つの砲撃が互いにぶつかり合う。だけど、ぶつかるよりも前に確かに見えた。あの二人が急に空を見上げたのを。そして、ぶつかる前に何かが回収したのを!

『やったっ!ビンゴッ!』

「……じゃない、逃げられたっ!」

『『えっ!?』』

「直前で、救援が入ったっ!」

「アルトッ! 直ぐ追ってっ!」

『は、はいっ!』

 そう言って追跡を始めるけど、うん。はっきり言おう。ありゃ駄目だ。既に離脱された。
 うん、追おうと思えば追えるし、逃げた位置も確認できるんだけどはっきり言おう。多分無理。おそらくこっちも第三者の手で逃げられるだろう。召喚使いが居るんだ、逃げることくらい訳もないだろうし。

 ふと、ヘリの合った方を振り向くと、既に何もなくなっていた。だけど、同時に。

『ライトニング06より、各員へ。保護した女の子に奪還を成功。スターズ05は現在シャマル先生の治療を受けております。そして、アヤ三佐の管理局離脱を確認致しました』

 モニターの向こうで安堵の表情を浮かべる奏を見て、ほっとする。だけど、その後ろで動かない流を見てなんとも言えない気持ちになる。

 ふと、はやてさんから通信が入り、応答する。

『……響。全部聞かせてもらうで。今優夜達が戦場にいること。戦えること。アヤさんの事を』

「……えぇ、勿論。全てお話しましょう」

 音声だけの通信。だけど、声が震えている。
 
 無理も無いよな……俺らからすれば、鬱陶しい相手でも……はやてさんからしたら、色々手をかけてくれた人なんだから。

 さぁ、今日はまだまだ、掛かりそうだなぁ……。
 

 
 

 
後書き
 長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。
 これで書き溜めていた分に追いつきましたが、なるべく回転を上げて投稿したいと思います。

 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧