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魔法少⼥リリカルなのは UnlimitedStrikers

作者:kyonsi
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第24話 彼らの正体



――side響――

「それじゃあ響。知ってること。あなた達の正体を話してほしい」

「はい、構いませんよ」

 今現在、部隊長室にて査問を受けてまっす☆
 あ、すいません。☆いりませんでしたね。本当にすいません。ちょっと変な方向にテンションが上がってまして、はい。

 現在ここに居る面子は、はやてさんを含めた隊長陣が勢揃い。震離と流を除いたFW全員、そして、ロングアーチの全員がそこに揃っていた。
 補足として、流は怪我の具合から聖王教会の病院に運ばれていった。早い処置のお陰で思ってる以上に大事には至っていないそうだ。だけど、目の前で落ちる流を見た震離の落ち込み方が凄かった。
 まぁ、あの子からすれば二度目だ。ショックを受けることもあるだろう。追加で一つ頼まれているのが、保護した女の子も、同じ病院にいる。だから何かあれば、すぐに連絡を入れるように伝えておいた。
 ちなみに煌もここに居るが、戦闘が全部終わった後で、自力で地下から這い上がってきたらしい。加えて敵を逃したって、悔しがっていた。
 改めて、皆の表情を見ると、警戒はされてない……だけど、何処か皆不安そうな表情だ。でも、無理も無い今日は色んなことが同時に起きすぎた。

 改めて皆さんを、特に俺の対面に座っているはやてさんを見据えて、

「さて、何処から話しましょうか」

「……アヤさんについて」

 真剣な表情だけど、わずかに声が震えている。

「もう分かると思いますが、俺が……いえ、俺たちが情報を流した相手は「アヤ・アースライト・クランベル」その人です」

「……何でや?」

「それは何に対してですか?」

「何で、アヤさんが……ッ!」

 目の前で更に険しい顔つきになるはやてさん。まぁ、分からなくもない。この隊舎を提供して、いろいろ六課の設立に関わったらしいし。でも、それがあの人のやり方だ。

 ――有能な駒になりそう。

 ただ、それだけのためにあの人は協力するふりをする。そして、信頼しきった相手を一気にどん底までたたき落として、自分の手駒にする。要するに上げて落とす事を得意とする。

 だから、あの人は人に取り入る術を、いい人っぽく振舞う事が出来るんだ。その内にどす黒い感情を持って。だから、裏切られていたということに気づいた時点で遅い。その時点で既に取り返しの付かないことになっていることが多い。

 俺達の場合は少し異なる事情だけど、ね。

「隊長陣があの人の事をどれほど慕っているのかは知りません。ただ、俺らはあの人の事は死ぬほど大嫌いです。だから、情報を流せって言われても適当に誤魔化してきたんです」

「……じゃあ何で響達はアヤさんに従っていたの?」

「……そうですね。それについても説明しましょうか」

 後ろで静かに話を聞いていたフェイトさんが一歩前に出て質問してきた。まぁ、もう全て話すつもりだし、隠すつもりもないんだけどね。まぁ、とりあえず。

「じゃあ、説明しますけど。絶対に驚かないでくださいね?」

「うん、物によるけどね」

 静かに微笑むフェイトさんをみて、悟る。この人ある程度情報を得ていたんだなぁと。流が落ち着いた時、あの子にも話さないとな。多分流も俺らとは違うけど、似た状況かもしれないし、違っていたらあの子の……更に奥の事情を話してくれるかもしれないしね。

 さて、軽く一呼吸を入れて。俺の後ろにいる皆に視線を投げて確認。

 ―――いいか?

 ―――勿論。

 ただ、それだけを確認する。まぁ、念話を使えって言われたら終わりなんだけど、どうもこっちの方が、俺らっぽくて好きだと皆言ってくれた。
 とりあえず、言おうか。そう思いながらちゃんと立って、敬礼をする。

「じゃあ、言います。俺は、元時空管理局本局特殊部隊第13艦隊所属。そこで艦長補佐をやっていました。緋凰響。元三等空佐です」

「同じく元時空管理局本局特殊部隊第13艦隊所属。同じく艦長補佐をやっていました、天雅奏。元一等空尉です」

「同じく、楠舞煌。元ニ等空尉で、ランクは一応空戦AAAです。前衛は一通り出来ます」

「私も所属は同じで、高麗紗雪。元一等空尉です。ランクは総合AAです。ガードウィングとか、一歩下がった場所が得意です」

「俺も同じで、有栖優夜。一等空尉です。ランクは空戦Sです」

「そして、私が狭霧時雨。元三等空佐で、空戦AAです! 中後衛メインにしてました」

 と、とりあえず所属と、全員当時の階級と得意ポジションをそれぞれ紹介する。うんやっぱり今言っても違和感バリバリだな全く。そして、シグナムさんとなのはさんを除いた、八神部隊長達は固まってる。さて、と。

「わ、私、そんなん知らない」

「あっはっはっは、そりゃ知られてたら困ります。一応特殊部隊と称されて、存在の隠蔽を図られたんですから、多分俺らのこと知ってる人ってかなり上の人達だと思いますよ」

「い、いつからなん!? 何時から艦長してたん!?」

「え……っと、俺らが12で入局したから……その年に提督(アドミラル)にスカウトされて、1年で仕込まれたから……15歳までだから、実質1年だけですね」

「え、15までって、なんかあったん?」

「……ええ、まぁ」

 うん、そんなもんだな。まぁ、実際奏達も一緒にスカウトしてもらって、8人で同じ船に乗ったんだっけ……うん、懐かしい。でも、それは後だ。懐かしいと思うよりも先に、説明しないと。
 ただ、嫌なんだよなぁ。その時期のこと説明するのは……。

「俺らが15になったとき、とある事件が起きたんです。「反聖王教会団体幹部殺害事件」、多分まだ記憶に新しいと思うんですけども」

「う、うん。それうちも少し関わったことやし。それと何か関係があるん?」

「えぇ、俺と奏、その事件の容疑者ですから」

「え!? う、嘘やろ!?」

「いえ、本当です。その事件がきっかけで、あとは色々ふっかけられて、今の階級まで降格……いや、無かったことにされて、それにあわせた階級まで」

 まぁ、一気に降格させられたのは、仕方ない。今思い出しても嫌な事件だったよ、アレ。

「まぁ、それをやった犯人はコッチで既に上がってたんですけど」

「けど……?」

「逆にその人が、俺らが犯行に及んだっていう偽造証拠を握ってたんですよ」

「……もしかして、それが……?」

「えぇ、そうですよ」

 そう、はやてさんの思い描く人ですよ。アイツです。

 ただ、別に俺にだけその罪が掛かるのなら、喜んで俺だといってその罪を受けた。だけど、アイツは違う。自分に不利になりそうなことだったからと、俺だけじゃ無く、奏達6人を。あまつさえ、当時預かっていた船の皆を差して言った。

 ――言う事を聞かなければ、あなた達の元部下の人達が……ねぇ?

 って。船にいたのは、年上の人達ばかりだったけど、その人達の職を、命を守るために黙って従うしか無かった。
 しかもそれだけでは終わらなかった。俺らが自分よりも更に上の階級に返り咲くんじゃないかって、そんな理由で俺と奏のリンカーコアを封じようとした。
 だけど、それは代わりに煌達四人が受けた。煌達曰く、いつかなんとかなるまで、お前は前にいてくれ、と。そんなことを言ってくれた。

 そのせいで、あいつらの行きたい道を潰してしまった。だけど、それ以上に。何よりも痛かった事は……。

「響? どないしたん?」

「え、あ、え?」

 ふと、視線をはやてさんに向けると、不思議そうに首を傾げていた。あれ、なんかしたか?

「いや、私がそうなんや~って言っても、何も反応しなくなったから……どうしたん?」

「え、あぁ、いえ。一応そんなこんなで俺らはあの人に付き従う様になったんです。最もスパイらしいことなんて全くしてませんけどね」

「……でも、何でそんな人達が六課に集結したん? 明らかになんかあるような」

「……あぁ、それ本気で嘘だと思うでしょうが、マジで偶然です。そうだろ、優夜、煌……って」

 後ろを振りかえると、優夜はちゃんと話を聞いてたけど……けど、煌よ。立ったまま寝るのはどうかとおもうんだけど? まぁ、いいか。

「あ~、俺と時雨は、新しく募集してる部隊があるから、階級とか上げに行きなさいって言われましたね」

 頬を掻きながら、何処か恥ずかしそうに言う優夜と、ニコニコと見守る時雨。

「私と煌も似た感じかな。私達のところの隊長さんが、うちにいたら絶対に錆びるからって……煌、起きないと」

「……んぁ?」

 ……なんか、お前ら本当に何処言っても優秀なんだね……もう、俺今まで禄に働いてる気がしなかったんだけど。いろんな意味で。というか側に超が付くほどの天才いたし。
 なんて、考えていると、はやてさんが、俺に視線をやる。あぁ、俺も言えってことか。

「うちの場合、絶対六課がなんかに備えてるんだろうから行って来いって言われましたね」

「えー……、何やその理由?」

「ん~、まぁいろいろあったんじゃないですか? 命令でしたし既に異動の用意されてたし」

 ていうか、理由なんて言えねぇよ……だって、優夜が六課の事中から調べて、それをうちの元隊長のティレットさんに教えてからの異動だもん。軽いスパイって言われても仕方ないことしてるし。
 でも、まぁ。細かい点は伏せたまんまだけど……。

「……一応これが俺らの経歴みたいなものですね」

 さぁ、これでどう出るかな。ただ、根本的な問題は解決出来てない気がするけども……。

「じゃあ、纏めるとや。響達は別に六課の情報を流してたわけじゃなくて、ただ従ってたふりをしてただけやってことやね」

「まぁ、大体そんなもんですね」

「そっっっっかぁ~~~~、よかったぁ」

 なんか、目の前でスゲェ溜めてから安心したよこの人、マジでどうしたんだろうか?

「……はやてさん、どうかされました?」

「え、ううん、時雨の指揮や、優夜の動き、紗雪の転移に煌は……まぁ。それを見て、実はもっと危ないところから来たんじゃないかって危惧してたんよ。
 でも、なんでアヤさんから響達の情報を……って、何であの人わざわざ私達に教えたん?」

 後ろで、えっ? って声が聞こえたけど、無視だ無視。

「あぁ、なるほど」

 なるほど、それではやてさん達が俺らのことに気づいたんだ。つーかやり方酷いな本当に。まぁ、だいたい分かるからいいか。

「多分、一旦信用させてからはやてさん達を落とそうとしたんですよ。アイツのやりそうなことだ。胸糞悪いったらありゃしねぇ」

「あ~、ほな、響達の今回の事は不問にします。まぁ、元々何もしてないからどうすることも出来ないんやけどね。で、次の問題なんやけど」

 チラリと、俺の後ろに視線を向ける。それにつられて視線を追って、納得。視線を向けられている事に気づき小さく咳払い。

「次は私が代表して説明します」

 
 ――side時雨――

 あ、どうも。親友ズと、はやてさん、そして皆さんから見られてテンションが上がってる時雨です☆
 え、☆いらない。そうですね……。

「まず、私たちは確かに事務員だと自覚していました。今日までは」

「今日……って、今日皆非番だったよね? 何かあったの?」

 隣で首をかしげる奏を見て、苦笑を浮かべる。確かに響にだけ連絡入れてたんだったね。

「えぇ、今日私たちは非番でした。家に帰って昼から出かける用意をしていたら匿名のメールが優夜の元へ。
 その内容が、二年前のあの事件に関わる人達の詳細情報。つまり響達の無実を証明できるもの。
 確かにこれだけでは何の効果も得られませんが、私たちはこれを以て今まで利用されていたことを告発できる事が可能となりました。
 ですがニ年も経っての突然のタレコミ。突然の連絡故、準備はしていても、それだけで打開出来るかと言われれば難しく、それならばと自由待機中の奏と震離の2人と合流しようと急いで六課へ向かいました。
 そして、その途中、名前は出すなと言われておりますので伏せますが、とある人の依頼を受けました」

 そこまで言って、一拍置く。そして、深く深呼吸。

「本局に所属する方から正式に私達四人にアヤ・アースライト・クランベルの企てを阻止してほしいと」

 そこまで言うと皆の表情に緊張が走る。でも、響の表情は何処か落ち着いてる。そこから察するにきっと優夜から話を聞いたんだろうね。少し時間もあったし。

「そこで私たちは知りました。私達四人の本来の所属はとある部隊に置かれていることに。
 事実、非正規のリミッターを掛けられて居ましたが、その方の承認により私たちはまた空を飛び、助けに行きました。
 ですが、流君の撃墜。ヘリの破壊の阻止失敗。そして、保護した女の子を連れて行かれる訳にはいかないと判断。全力で奪還を図りました。結果的にレリック1つと共に取り逃がす結果になりました」

 響たちの表情が曇る。特に優夜と響は悔しかったと思う。紗雪はアイツに届かなくて。響は砲撃前からどこから幻影を使って指揮をとっているのか探り当てて向かったにも関わらず、間に合わなくて砲撃されて、流が落とされた。
 
「その方に報告をすませた後はご覧の通りです。私たちは明日本局へ行き改めてリミッターをつける予定です。その後はまた六課に戻りますけど……」

 チラリと、紗雪を見る。知らないふりしてるけど。ま、今度言おうっかな。六課に居た紗雪は偽物で、本体は潜入してたって。

「……なぁ、時雨?」

 ポツリと、はやてさんが呟くように名前を呼ぶ。

「はい。何でしょう」

「……その方も何か裏があるんかな?」

 遠くを見るように私を見る。やはりこういうことには慣れてないんですよね。でも普通そうだ。同じ管理局員。それなのに裏切る算段をつけていた、あまつさえ自分たちを利用しようとしていたら悲しいにきまっている。

 だけどね、はやてさん。

「無い、と思いたいです。ですが、その方が嘘を付くようには私には見えませんでした。そして、響達の前の隊長と、私や煌の前の所属していた所の方達と知り合いみたいですし。何より」

 車の中で名乗ったあの人を思い出す。同時にその時の言葉を聞いた時。この人ならば、と。そう感じた。

「以前の御礼もまだ済ませていません。そう言われて、不思議と笑ってしまいました」

 テレたように笑うあの人を思い出す。まさか、あの場でそんなことを言うとは思わなかったから。

「それに、何より色んな部隊長さんと知り合いって、嘘でもいえないことをサラッと言う辺り怖いなって」

 皆それを察したのか苦笑いを浮かべる。さて。

「今は表立っての協力はできないですが、色々手は回すとおっしゃってたのでいつか分かるかと」

 そこまで言って頭を下げる。だけど、やはり隊長陣は納得して居ない様子。まぁ、こんな説明で撒けるとは思ってないけどさ。本当のことだもん仕方ない。と言うかやっぱ、無理あるよね……。
 と、はやてさんが周囲を見渡して、空気を察して、小さく手を上げる。
 
「はい、はやてさん」

「震離も皆と同じ階級なん?」

 そう言われた時、一瞬だけ間が出来た。そして、私達六人そろって。

「「「「「「言うの忘れてた」」」」」」

 皆さん、一瞬転けそうになったり、苦笑を浮かべたりするけど、実際の所言われるまですっかり頭から抜け落ちてた。

「あー、そうですね。あの子は元准空尉。捜査官になってましたねー」

 あはは、と笑いながらあの子のことを思い出す。そう言えば、私や優夜、煌達と違ってなんか道を見つけたとかなんとかで、一足先に資格取ったり、色んなパイプ作ったりしてたなー。人見知りのあの子がそれした時、響泣いてたっけ。成長したなぁって。

 さて。

「まぁ、私達四人の技能とかは明日が済んだら伝えます。なんやかんやで、紗雪とか私は説明するのに手間がかかりそうですし。それに本局経由でヘリの損失消してきますんで」

 そういってはやてさんに向かってサムズアップする。任せなさい。色んな所に貸しとかあるから、なんとかしてみせる。と言うかなんとかしないとアルトが凄く凹んでたからね。ヴァイスさんも落ち込んでたし。

「そう……なら、お願いしようかな。皆も大丈夫?」

 はやてさんが振り返って皆の同意を求める。静かに頷いたのを確認して。

「なら、私達から言うことはありません。改めて、機動六課は貴方達を歓迎します」

 そう言ってはやてさんは響に手を伸ばす。響もそれを見て改めて頭を下げて、その手を取る。

「コチラこそ。今はもう力も何もありません。ですが、誠心誠意協力する事を誓います」

 そして、この日は解散となった。私達4人は明日の朝一で本局で色々な手続きをするから家へ帰る事に。帰る僅かな間でもロングアーチの面々からは凄く質問攻めされて大変だった。
 響と奏もFWから色々言われてた。
 ただ、帰る時にシャマル先生が深刻そうな顔で響と話してたのが気になったけど。
 
 あと残っているのは、私達とアーチェの関係だけど……まぁ、それは来てから話しましょうか。
 
 大体今頃……教会の人からものすごいお叱り受けてそうだし。
 あくまでアーチェはお手伝い、訓練とかは見れるけど、スクランブルとかは管轄外だもの。

 ただ、これ以上に一番驚いたのが……潜入してた紗雪から聞いた事情。
 無限書庫の司書長さんが暗殺されかかった事もそうだが、それ以上に。

 魔力ではなく、気を用いて潜入して、その独自の転移術と札を見切られて、居場所に人が来たという事実。
 私達以外に、何かをしようとしているのが居るという事実。加えて響が言っていた、第三者によるトラックを襲撃したガジェットの迎撃。
 偶然にしては出来すぎている。何か関係している筈だけれど……。
 
 まぁ、今は色々開放されたという事実に喜びましょう。
 
 幸い、上から何か言われてもそれを迎撃できるだけの情報はこちらも持ってるし……どうもいろんな人が絡んでるから、直ぐにどうこうって事は無いでしょうきっと。
 
 ただ、あくまでそれは……響をのぞいた私達6人に対してだ。
 
 響にはどうしてもひっくり返せない物がある。
 ホテル・アグスタの大量の血痕。あそこで何かがあったと示す事実。それを起点に、響に疑いを掛けられれば……参ったな。こればっかりは響を完全な白に出来ないんだ。
 
 ま、これについても……これからは表立って調べることが出来るし、時間かかりそうだけどなんとか頑張りましょうか。
 
 
 
――side響――

「俺が地下に潜ってる間に、そんな事があったなんてな。驚いたわ」

「……ほんっとだよ。まぁ、響居なくても時雨いたし、なんとか成ってたとは思うよ」

 屋上に上がって奏と2人で、自販機のお茶とココアで一服。
 
「震離は?」

「……二度目だからねぇ。すごくショック受けてたよ」

「……そっか」

「凄いねぇあの子。シールド抜かれた瞬間、自分に防御掛けて、後ろにもシールドおいて……文字通りの肉壁として守り抜いたよ。
 恐かっただろうに」
 
 缶の縁をなぞりながら、ポツリと呟く様に話す。
 
「……一番のアンノウンだと思ってた。だけど蓋をあけりゃ二度も護った。
 一度目は自分に意識を向けさせて、気を失った震離を。
 二度目は今回だ。なのはさんもギリ間に合わなかった、三人がかりでギリギリだったものを防いだ。
 心強いなんてもんじゃないよ、全く」
 
 ……借りが2度も出来ちまった。しかも返しても返しきれない程の。
 
「まだ疑ってる?」

「いやまさか。何処から来たんだって言う疑問はあれども、あんなになるまで護った人を疑うのはどうなのさって」

 茶化すように言ってくる辺り、奏も疑っては……いや、震離を助けたあの日から信じてたんだろうな。
 
「さて、明日も早いし。私は寝るよ。響は?」

「もう少しここに居る。色々あったのを纏めておきたいし」

「了解、それじゃあね」

 ササッと、足早に去っていくのを見送って。もう一服していれば。
 人が近づいてくるのが分かる。それは、
 
「……まだ眠らないの?」

「そちらこそ。こんな夜更けにどうしたんですか」

 ……兆候はあった。あの事件の後の撤収作業中。ギンガやエリオ達から質問されまくったし、なのはさんからはやっぱりねと言わんばかりに、色々言われた。
 六課に戻ったと思えば、シグナムさんは不敵に笑って、ヴィータさんもこれで含み無しで色々出来んなって言って下さった。
 
 そんな中。1人だけ全く会話をしなかったのが……。 

「はいこれ、お茶で良かったかな?」

「わ、ありがとうございます」

 フェイトさんだけだった。
 そして、その理由は。
 
「……ねぇ響。人を殺したって……本当?」 
 

――sideフェイト――

 響達の正体が割れた。同時に、完全にこちら側に付いてくれるという約束もしてくれて。
 本当は、いろんな事を聞きたい。
 
 だけど、それ以上にね。
 
「……ねぇ響。人を殺したって……本当?」 

 分かってる。何か事情があったのだろうと。
 分かってる。敵対した人をやむを得ずと言うことかもしれないと。
 
 でも、子供を。そうアヤ三佐は言って途切れた。
 おそらく続く言葉は、子供を殺した、という言葉だろう。
 
 特殊部隊に居たと言っていた。事情は分かるよ……だけど。
 
「……後にも先にも1人だけ、この手で殺めました。7・8歳くらいの女の子を」

 瞬間、頬を叩いてしまった。
 自然と手が動いた。理由があると分かっているのに、だ。
 
「……ぃってぇ。あぁ……痛ぇ」

 叩かれたというのに、何処か嬉しそうにしている。
 
「……この実情知ってる奴らは。皆口揃えていいやがる。お前のせいじゃない、と。
 それでも、どんな事情があれど……俺は人を、子供を殺したという事実は揺るがないのに」
 
 今度は一転して、辛く苦しそうに。

「……ねぇ響」

 だから聞こう。どうして、そんな事になってしまったのかを。
 
「分かってます。……少し長くなりますよ? まだ状況が状況なので……色々伏せますし」

「構わないよ。でも1つだけ……殺したくて殺した、そういうわけじゃないよね?」

 ゆっくりと瞳を閉じて。吐息を1つ。

「震離、優夜、煌、時雨に紗雪、奏、そしてリュウキとアーチェ。そして我が師に誓って」

 悲しそうに、そう告げて笑った。


――side響――

 3年と半年前のあの日、まだ雪の降る季節だった。
 とある次元世界の山奥に施設を作っていたとある組織を叩くために、独立部隊だった俺達は行きました。
 タレコミ……というより、長い年月掛けて調べられていたため、皆の襲撃を悟られる事もなく、その組織を壊滅させることが出来ました。
 
 だけど。
 
 俺たち……いや、皆が行く前に、その組織はとある実験と称し、近くの小さな遊牧民の居る一帯をクラスター爆弾、それも対魔導師用に、魔力に反応して爆発するモデルをバラ撒きました。
 過剰とも言える火力で、ただの実験だと。あざ笑いながら。
 
 その実験が行われたのは、ほんの少し前。皆が襲撃を掛ける前だった事もあって、直ぐに動ける人。艦で指示を出してた俺が先行して現場に行きました。
 
 ……生まれて始めて地獄絵図というものを見ました。
 人型の死体なんて1つもない。有るのはバラバラになった人だったものだらけ。
 生体スキャンをしても、うまく反応はしませんでした。それでも、誰か生きていないかと。その中を探して……ようやく見つけました。
 
 重度の火傷を負った女の子が。
 直ぐに確認を取りました……が、傷が深すぎる。何よりもう助けられないと。
 いろんな可能性を模索したんですけどね。直ぐに艦につれていけば、今襲撃掛けてる時雨をここにつれてこればまだ可能性が、転移魔法を使える誰かが入れば、直接医療施設に行けるんじゃないかって。
 
 だけど、どれも不可能で。何より持たないと。
 
 だから確認を取りました。
 
 どうしたら、苦しいのを取ってあげれるか、と。
 
 そしてそれを聞いて、実践しました。
 自分に掛けるように、その子を抱き起こして、身体強化……特に痛覚を切るようにして。
 ゆっくりと、痛みを取ってあげて。すると消耗していたのもあって眠そうに瞼を何度も閉じ始めました。
 
 だけど、それは俺が離れれば直ぐに痛みが戻ってくる、所詮その場しのぎの事。
 そうしている間に、ゆっくりとその子がゆっくりと話したんです。怪我が治ったら何か遊びたい。とか、何処か行こうとしてた場所とか、将来の夢とかを。
 それらをゆっくりと聞いて、終わる頃には静かに眠りました。
 
 そこで、苦しまないように。
 

――sideフェイト――
 
「……いくら敵対したアイツラが悪いと言っても、それでも……引導を渡したのは俺なんです。
 もっと早くに作戦を実行できていたら、もっと早くそれを察知できていれば。
 ……もっと上手く事を運ぶことができていれば……死ぬことは無かったのに」
 
 ……息を呑む。3年半前のその事件は知っている。
 
 だけど、それは……。
 
「……まぁ、そういう事があって、俺は人を殺しました」

 ……分かっていたのに、理由もなく人を……それも子供を手に掛ける人ではないと知っていたのに。
 
 ……私は。
 
「さて、話してばかりでしたが。明日は朝一番で教会直轄の病院へ行くので、これで失礼を」
 
「……うん。ありがと、ね?」

 ……声が震える。
 どことなく寂しそうに一礼してその場を去る響を見送る。
 
 響は知っているのかな? いや、まだ同一事件だとは限らない。まだ……。
 
 ……失敗したな。何かフォローしないといけなかったのに。叩いたことを謝ってすら居ないのに。
 
 ……駄目だなぁ。   
 
  
 

 
後書き
 長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。 
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