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セリーグでは

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第四章

「変なこともするさ」
「あそこのフロントは酷いからね」
「ああ、加藤が可哀想だよ」
「本当にそうね」
 二人でこんなことも話しながら加藤を見守ったが加藤はこの年で二〇〇〇本安打を達成出来ず巨人を自由契約となった。
 するとすぐに南海が彼を獲得したが友奈は祈る様な声で言った。
「もうここでよ」
「南海でだよな」
「何とか二〇〇〇本安打達成して欲しいわね」
「出来るだろ」
 健作は今度は白と緑の南海のユニフォーム姿になった加藤の写真を観つつ友奈に話した。
「流石に」
「あと少しだから」
「流石にな」
「そうだといいけれど」
 友奈は正直不安だった、だが加藤は難解においてだった。
 遂に二〇〇〇本安打を達成した、友奈はこのことを心から喜び夫に言った。
「ほっとしたわ」
「俺もだよ」
 健作もこう返した。
「本当にな」
「やってくれたわね」
「ああ、何とかな」
「これでね」
 心からだ、友奈は夫にあらためて言った。
「加藤さんも喜んでいるわよね」
「そりゃご本人が一番だろ」
 記録を達成した加藤自身がというのだ。
「喜んでいるだろ」
「そうよね、本当によかったわ」
 こう言って加藤を二人で祝福した、そしてこのシーズン限りでだった。
 加藤はユニフォームを脱いだ、パリーグとセリーグを行き来した野球人生だった。その野球人生を振り返ってだった。
 健作はしみじみとした顔になって友奈に言った。
「セリーグじゃ殆ど活躍しなくてな」
「パリーグで、だったわね」
「阪急、近鉄、南海でな」
「関西の私鉄球団ばかりね」
「そうだな、関西には私鉄球団が四つあるけれどな」
 この時はそうであった、これはこれでよき時代であったであろうか。
「そのうちの三つを巡ったな」
「パリーグばかりね」
「そうした野球人生もあるんだな」
「そうね、パリーグの関西の球団で活躍出来る」
「そんな人もいたんだな」
「そう思うと面白いわよね」
「そうだな」
 健作は加藤について温かい顔で話した、もうそこには彼のことを全く知らない健作はいなかった。加藤秀治という野球選手を深く愛している野球ファンの彼がいた。
 そしてここでだ、こうも言ったのだった。
「阪神にいて欲しかったけれど阪神はセリーグだからな」
「同じ関西の私鉄球団でもね」
「そう思うと阪神に来なくてよかったかもな」
 こう妻に言うのだった、その顔は実にすっきりとした笑顔だった。


セリーグでは   完


                  2019・4・7 
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