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お茶の精

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第五章

「本当にわしはな」
「後は、ですね」
「死ぬだけだと思っていたが」
「それでも充実しているならですよ」
「いいか」
「私はそう思いますよ」
「まあな、ぼけるのだけは嫌だからな」
 後は死ぬだけだと考えて日々を過ごしていてもというのだ。
「身体を使って頭もな」
「使っておられて」
「ぼけん様にしておる、それが充実しているなら」
 それならと言うのだった。
「面白いか」
「それもまた」
「そうしたものか」
「それでなんですが」
 お静は鷲塚にあらためて言った。
「お茶飲みます?」
「ああ、お茶はな」
 それはとだ、鷲塚はお静にすぐに応えた。
「幾らでも飲むぞ」
「本当に好きですよね」
「これはな、子供の頃からな」
 それこそとだ、鷲塚はお茶の精であるお静に対して笑って話した。
「ずっと飲んできていてな」
「それで、ですね」
「今もな」
「飲まれてますね」
「いつもどれだけ飲んでもな」
 それでもというのだ。
「いいな」
「そうですよね」
「だからな」
「今もですね」
「飲んでな」
 そしてというのだ。
「楽しむからな」
「わかりました、それじゃあ」
「今日はどのお茶を煎れてくれるのか」
 鷲塚は笑ってお静にこうも尋ねた。
「楽しみだな」
「はい、緑茶です」
「そのお茶か」
「はい、それを煎れます」
 こう言ってだ、そしてだった。
 鷲塚はお静が煎れてくれたお茶を飲んだ、それから将棋をする時にお静がいいと言ったので土方に彼女の話をすると。
 土方は将棋を指しつつ彼に笑って言った。
「それはいいな」
「いいか?」
「ああ、あんたも一人で暮らすよりな」
 それよりもというのだ。
「家族がいた方がな」
「いいか」
「そう思うからな」
 だからだというのだ。
「これはいいことだろ」
「そうなのか」
「わしはそう思うけれどな」
 実際にというのだ。
「幾ら後は死ぬだけでもな」
「一人よりはか」
「二人でいる方がいいだろ、わしだってな」
 土方もというのだ。
「息子夫婦と暮らしててな」
「あんたはそうだったな」
「これがな」
「いいか」
「婆さんはいないがな」
 妻に先立たれたことは鷲塚と同じだ、男やもめと言えばそれまでだ。
「それでもな」
「いいか」
「ああ、本当にな」
 息子夫婦と暮らしていてというのだ。 
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