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北から南へ

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第三章

「その南町奉行になって欲しいっていうんだよ」
「というと」
「ああ、南町奉行所を立て直してな」
 鳥居が腐らせたそこをというのだ。
「そしてな」
「元の様に動ける様にして欲しいというのか」
「それが阿部様のお考えなんだよ」
「そうか、それで」
「受けるぜ」
 自分からだ、遠山は言った。
「そうするな」
「やはりそう言うか」
「おうよ、これ以上はない恋文だぜ」
 遠山は笑ってこうも言った。
「本当にな、これは受けねえとな」
「北から南か」
「そうなるな、こんな話他にねえだろうな」
 江戸北町奉行が南町奉行になる、しかも大目付という要職から下ってだ。
「これまでは」
「拙者も聞いたことがない」
 呼ばれた者もそれはと答えた。
「どうもな」
「そうだろ、けれどな」
「是非受けさせてもらいたいか」
「そして南町立て直すぜ」
「わかった、ではな」
「これからまた頑張るぜ」
 遠山は飲みつつ破顔していた、そうして正式に南町奉行になることを受諾してだった。彼は南町奉行になった。
 そうして南町奉行所を立て直しにかかった、それでだった。
 南町奉行所は忽ちのうちに鳥居の色がなくなり明るく清潔な場所となった。
 それを見て江戸の者達は遠山に拍手喝采を送ったが遠山はこのことについて笑って言うのだった。
「俺を褒めてくれるのは嬉しいがな」
「それでもですか」
「おう、ここは阿部様を褒めて欲しいな」
 遠山を南町奉行にと考えた彼にというのだ。
「俺もこれはって思ったからな」
「だからですか」
「ああ、ここは阿部様に拍手を送って欲しいな」
「そうお考えですか」
「ああ、お陰で俺も思う存分働けた」
 南町奉行所の立て直し、それにというのだ。
「有り難いぜ、だからな」
「このことはですか」
「ああ、阿部様にそうして欲しいな」
 笑って言ってだ、そのうえでだった。
 遠山は南町奉行所で思う存分働き見事に立て直した姿を天下に見せた。江戸時代が幕末に入ろうとするその中での一時の話である。


北から南へ   完


               2018・11・11 
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