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北から南へ

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第二章

 だが問題は残っていた、鳥居が犯した悪事の後始末とそこからの立て直しをどうするかだ。特に鳥居が仕切っていた南町奉行所のことが問題だった。
 それで老中の阿部正弘は若いながらもこう言っていた。
「南町奉行所のことを誤るとだ」
「それが大きくなる」
「江戸そして幕府の政のしこりとなりますか」
「そうなる、だからだ」
 それ故にというのだ。
「次の南町奉行にはそれなり以上の者をあてたいが」
「鳥居めの後始末をしてですね」
「そして立て直しを果たす」
「そうした者を次の奉行にしないとならない」
「左様ですね」
「そうだ、そしてそれが出来る者は」 
 誰なのかもだ、阿部は話した。
 そしてその者に文を送った、遠山は阿部が文を送った翌日親しい者を屋敷に呼んで酒を飲みつつ言った。
「俺は生き返ったぜ」
「一体どうされたのだ」
 呼ばれた者は共に飲む彼のきりっとした目とその先が二又になった形の眉が印象的な顔を見つつ問い返した。
「この度は」
「おう、昨日恋文を貰ったんだよ」
「吉原の太夫の誰かからか」
「ははは、最近そっちの方の遊びはしてねえよ」
 よく遊び人と言われるがとだ、遠山は彼に笑って言葉を返した。
「色々忙しくなってな」
「そうだろうな、奉行に大目付とな」
「おう、人間立場が出来ると何かと忙しくて遊べねえな」
「それでも貴殿は遊んでいる方だがな」
「そうかい?とにかくな」
「恋文を貰ったのか」
「老中の阿部様からな」
「阿部様から」
 そう聞いてだ、呼ばれた者は目を鋭くさせた。そのうえで遠山に問い返した。
「というと」
「おう、また町奉行をしてくれって頼まれたんだよ」
「大目付からか」
 大目付の方が江戸の町奉行より上の役職だ、諸大名を監視する幕府にとって非常に重要な役職である。
 遠山は鳥居によってその役職に祀り上げられ体よく排除されたのだ、だがその彼がというのだ。
「下ってか」
「そうさ、もっとも俺はな」
「そうしたことにはこだらないな」
「地位とかそんなのはどうでもいいさ」
 ざっくばらんにだ、遠山は笑って答えた。
「俺はな、だからな」
「町奉行になることはか」
「いいさ、しかもな」
「しかも?」
「ここで北町だって思うだろ」
 遠山が元いた奉行所にというのだ。
「そう思うだろ」
「それはな」
 前にいた場所だけにとだ、呼ばれた者も答えた。
「やはり思う」
「そうだよな、けれどな」
「それがか」
「おう、南町だよ」
「南町か」
「そうさ、鳥居が好き放題やってたな」
 矢部を追い落としたうえでというのだ。 
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