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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第7章:神界大戦
  第209話「真の脅威」

 
前書き
―――本当に、神が本気を出していたとでも?


……そんな訳で、さらに追い詰められる回です。
ぶっちゃけ、優輝達の行動は敵の勢力に対して考えが明らかに甘すぎたと思いますが……まぁ、何か理由付けします(おい
 

 






「邪魔!どいて!」

 緋雪が爪を振るい、目の前の“天使”を薙ぎ払う。
 この“天使”達が陽動の可能性があると分かってからは、行動方針を変えていた。
 本来なら足止めな所を、キリのいい所で切り上げ、優輝達と合流するつもりだ。
 しかし、当然ながらそれを為す余裕はない。

「ッ……!」

「ふっ……!」

 司の祈りによって魔力弾の雨が降り、その合間を奏が駆け、“天使”を切り裂く。
 スピードとパワー自体は戦闘開始時よりも磨きが掛かっている。
 しかし、余裕はどんどん減ってきている。

「甘いです」

「足りんな」

「ッ、くっ……!」

 それは精神的なものだけでなく、実力そのものもだった。
 “天使”達は、実力を隠していたのか、緋雪達の動きに普通について来る。
 単純な力や、瞬間的な速さは緋雪や奏が上回るが、それ以外で対処してくる。
 司の魔法も、同等とは言えないが、規模の大きい術を二発以上行使して相殺される。
 三人のあらゆる攻撃が、徐々に通らなくなっていく。

「愚か。あまりに愚か。神はもちろん、我らにすら人の実力は届かぬものと思え」

「っ……甘く見ていた、って事……」

 連携を取りつつ、戦場を駆け回っているからこそ、緋雪達はまだ戦えている。
 現状、今いる何もない場所で正面からぶつかり合えば、三人に勝ち目はない。

「これほどの強さなら、なんで……」

「……懐に、誘い込むため……」

「え……?」

 これほどの戦力があるならば、単純に正面から来てもおかしくなかったはず。
 それらのにどうして、態々途中まで味方のフリをしたのか。
 そんな疑問を呟いた司に、緋雪が苦々しい表情で答える。

「多分、本当に確実にお兄ちゃんを仕留めたいんだと思う。だから、こうやって態々懐まで誘い込んで……包囲網を組んだ。ある程度の想定外があってもいいように、周到に……ね。それほどまでに、お兄ちゃんに警戒する“何か”があるんだろうね……」

「……なるほど……」

 否定する要素も、その余裕もない。
 “天使”達をどうにかしない限り、緋雪達も身動きが取れない。
 既に一人を倒す事も難しくなってきている。
 この状況から、何とか逆転する術を思いつかなければならないのだ。

「(考えてる暇はない……!)」

 即座にその場から飛び退き、攻撃を躱す。
 悠長にその場に留まって何かを考える時間すらなかった。

「っ、防いで……!」

 四方八方から、理力によるレーザーが飛ぶ。
 咄嗟に、司が避け切れない攻撃を防ごうと、障壁を張るが……

「な、ぁ……!?」

「防げると思うてか」

 その障壁は、まるで障子のようにあっさりと突き破られた。

「くっ……!」

「この……!

 すぐさま奏が割込み、司を抱えて離脱。
 その二人のカバーを緋雪が行い、何とか危機を脱する。

「司さんの障壁があっさり破られるなんて……!」

「……今の、一部以外の攻撃は防げてた……となると……」

 奏が高速移動で攪乱しつつ、緋雪が司を守るようにシャルでレーザーを弾く。
 司も障壁で二人を援護するが、先程と同じようにあっさりと突破されていた。

「……“性質”。多分、貫通や破壊に関係する“性質”を持っているんだと思う」

「そっか……!“天使”も神の眷属だから、同じ“性質”を持っててもおかしくない……!だから、さっきも今も障壁があっさり……!」

 ただでさえ、実力に差がついてきているというのに、加えて“性質”の厄介さ。
 それが加わり、ますます三人は劣勢に陥っていく。
 ……最初は倒せていたはずの戦力も、今では一人を倒す事すら出来なくなっていた。

「っ、撃ち抜け……!」

「はぁああっ!!」

「ッ……!」

 仕切り直そうと、状況を打開するために攻撃に転じる。
 司がいくつもの砲撃魔法を放ち、緋雪が大剣に炎を纏わせ、一気に薙ぎ払う。
 奏はそれらに当たらないようにしつつ、隙間を埋めるように魔力弾をばらまいた。

「これで……!」

 次の行動を起こすために、どうするべきか思考する。
 ……だが、その前にさらに三人を絶望に落とす事態が起きた。

「ッ……!?」

「えっ!?」

「な……!?」

 “それ”を真っ先に察知したのは、司だった。
 咄嗟に障壁を張り、他二人を含めて防御する。
 その瞬間、黒い触手が障壁に叩きつけられた。

「な、なに……!?」

「この感覚……嘘、間違いない……なんで、ここにあるの……!?」

 砲撃魔法を放ち、触手を打ち消す。
 障壁を解除した司の瞳には、その“敵”が映っていた。

「……アンラ・マンユ……!」

「ッ……!?」

 ……天巫女の宿敵とも言える、アンラ・マンユの姿が。
 あの時、優輝達全員と協力して倒した時と同じように、そこにいた。
 瘴気を圧縮したような、実態の持たないまさに“悪”そのものの存在が。

「それって……?」

「話は後!あれの相手は私がするよ!」

「あっ……!?」

 すぐさま、司は緋雪と奏を転移させる。
 そして、襲い掛かる触手群をジュエルシードの光で吹き飛ばす。

「……行けるよね?」

 冷や汗を流しつつ、司は不安そうに言う。
 かつては、皆と協力してようやく倒せたのだ。
 あの時よりも強くなっているとはいえ、今は一人。
 相棒のシュラインとジュエルシードがあるとはいえ、単独で対峙するのだ。
 不安は、当然のようにあった。

「撃ち祓え!」

 閃光が煌めく。
 幾筋もの砲撃が、アンラ・マンユを穿とうとし……触手で相殺された。

「ッ!!」

 それだけでなく、瘴気に満ちた砲撃も放ってきた。
 咄嗟に祈りの力をぶちまけるように放つ事で、それを防御する。
 だが、威力が思いの外強かったのか、咄嗟の行動では力が足りなかったのか後退する。

「なんなの、あれ……?」

「……そっか。緋雪ちゃんは知らなかったね」

 後退した先に、転移で避難させておいた緋雪と奏が駆けつける。
 そして、唯一緋雪だけアンラ・マンユを知らないため、司に尋ねた。

「……概念型ロストロギア、アンラ・マンユ……」

「厳密には、ロストロギアじゃないんだけどね。……簡単に言えば、この世全ての“負”のエネルギーを集めた存在、だよ」

「ッ……」

 簡潔で、詳細は分からない説明。
 しかし、それだけでも何となく脅威は分かる。
 緋雪は説明を聞いて、改めてアンラ・マンユを警戒する。

「生命の“悪”の肥溜め……そんな存在。部屋の隅に埃が溜まるように、あれもまた、世界のどこかに集まるもの……なんだけど……」

「どうしてここに、って事だね……」

「本来なら数百年掛けて蓄積するんだけどね……」

 司が浄化してから、十年も経っていない。
 その程度なら、とこよや紫陽でも再現が出来る程の力しか持たないはずなのだ。
 しかし、今司の目の前にいるアンラ・マンユは、以前戦った時と同等以上だと思えた。

「あれは私が倒すから、他の……」

「え―――?」

 二の句が、告げなかった。
 不思議な重圧が、三人を襲う。

「ッ……!?」

 威圧感のような、冬の洞窟のような薄ら寒さ。
 それでいて、“まだマシ”と不思議と思えてしまうような、そんな重圧だ。
 その正体はすぐに分かった。

「―――あれは、私が用意したものです。気に入ってくれましたか?」

 司達と、アンラ・マンユの間に、“彼女”は降り立った。
 黒い装束に、銀の長髪と血よりも赤く輝く瞳。
 何よりも目立つのは、その身に纏う“闇”。
 人形のように可愛らしさと美しさを兼ね備え、さらに計り知れない恐ろしさもあった。

「ッッ……!」

 三人共息を呑む。
 雰囲気に呑まれる事は、何とか耐えた。
 しかし、気を抜けば恐怖にどうにかなってしまいそうだった。

「な、何者……?」

 辛うじて、そう尋ねられた。
 だが、何となく想像はついている。
 名前が意味を持つように、神界の神はそこに“在る”だけで影響を齎す。
 その事から、彼女の雰囲気で正体が想像出来た。

「彼と親しくしてる方でしたね。では、せっかくですので名乗りましょう。……私こそ、神界を混乱に陥れた神、イリスです。……以後、よろしく」

 ゾッとするような恐ろしさと、美しさを兼ねた笑みを、彼女……イリスは浮かべる。
 心臓を鷲掴みにされたような、そんな感覚が三人を襲う。

「ッ……」

 呑まれない。呑まれてはいけない。
 そんな、本能的な抵抗が、三人に膝を付かせまいとしていた。

「……アンラ・マンユは、お前が作りだした存在なの……?」

 司が絞り出すように尋ねる。
 二人称がキレた時と同じになっているのは、呑まれまいという意志からだった。
 こうでもしなければ、雰囲気に呑まれてしまう。

「そうですよ?貴女達の世界のソレは世界そのものに根付く自浄作用の反動ですが、これは私がそれとそっくりに作り上げたものです。……この程度の“闇”。簡単に複製できますよ」

「な……!?」

 世界の自浄作用の反動。それがアンラ・マンユの正体だ。
 他を綺麗に保つために、肥溜めのように“闇”が集まり、アンラ・マンユとなっている。
 その事自体は、司もシュラインから聞いていた。他にも優輝や一部の者は知っている。
 しかし、それをイリスは簡単に複製できると言ったのだ。

「(“闇”を担う神だとは聞いていたけど、ここまでなの……!?)」

「『司さん、どうするの……?』」

「『まともにやり合えば、勝ち目はないわ……』」

 否が応でも、理解させられた。
 一人一人の実力が同等に迫る“天使”達。
 天巫女の宿敵でもあるアンラ・マンユ。
 そして、それをあっさり複製できると言ったイリス。
 そんな存在に囲まれれば、勝ち目はないとどうしても思ってしまう。
 ……その時点で、三人が勝つ事は不可能となっていた。

「『……逃げたい所だけど……とにかく、やられないようにするよ』」

「……ふふ、足掻こうというのね。……でも残念。貴女達はここで終わるし、私が貴女達如きの相手をするとでも?」

 その言葉と共に、イリスの出現から動きがなかったアンラ・マンユが動き出す。
 さらに、“天使”達も戦闘態勢を改めて取った。

「ッ……!」

「緋雪ちゃん!」

「えっ……!?」

 それを見て、同じように戦闘態勢に入る緋雪。
 その後ろにいたからか、司は緋雪より一足先に気付く事が出来た。
 ……緋雪の背後に出現した、大きな鏡の存在に。

「な……!?」

「離れ……ッ!」

 何か仕掛けられる前に飛び退こうとする緋雪。
 同じように、引き離そうと司と奏が動く。
 しかし、司にはアンラ・マンユの触手が、奏には“天使”達の攻撃が迫る。
 その対処に追われ、緋雪のカバーに間に合わない。

「(されたっ!今、絶対に何かされた!)」

 具体的に何かされたまでは分からない。
 それでも、緋雪は何か覗かれたような、そんな感覚があった。

「では私は目的の人を追いましょうか」

「ッッ……」

 さも当然のように、イリスは奏と司の横を通り過ぎる。

「行かせ……ッ!」

 “天使”とアンラ・マンユの対処に追われ、止められない二人に代わって緋雪がイリスの進行を止めようと、割り込もうとする。
 だが、それよりも先に横合いから緋雪に攻撃する存在がいた。

「ッ、私……!?」

 振るわれた赤い大剣を、緋雪はシャルで防ぐ。
 その時に相手を見て、緋雪は動揺する。

「……ふふ……」

 それを横目で見つつ、イリスはその場を後にした。
 残ったのは、相変わらず劣勢のままの司達とそれを包囲する者達。

「(多分、さっきの鏡……私をコピーしたんだ。しかも、これ……)」

「ははは、あっはははははははははははははは!!」

「(寄りにもよって、私の狂気の部分をコピーした……!)」

 笑いながら振るわれる大剣を、緋雪は何とか捌く。
 力は緋雪と全く同等。そのために防げない訳ではない。
 ……()()()()()

「あははははは!」

「ふふ、ははは……!」

「え、ちょっ、嘘でしょ……!?」

 次々と、幻が実体化するように緋雪のコピー体が現れる。
 一体や二体どころではない。合わせ鏡のように増えていく。

「(一瞬、さっきとは違う鏡が見えた。……って事は、やっぱり……!)」

 自分のコピーが、先程の鏡とは別の鏡から出てきたのを確認し、推測が確信へと変わる。
 そして、その下手人を見つけた。

「ッ……!」

 一人だけ、緋雪のコピーとは違う、緋雪そっくりな存在を見つける。
 違うとわかった要因は、狂気の有無。
 それが下手人だと思った緋雪は、コピーの攻撃を捌きつつ斬撃を飛ばした。

「嘘っ!?」

 だが、その斬撃は割り込むように出現した鏡で反射された。
 咄嗟に避けたが、これで仕切り直しになってしまう。

「(鏡……コピーだけじゃなくて、反射もするんだ。……きついなぁ……)」

 構え直し、眼前に広がる自分のコピーと下手人の神を見据える。
 一対一でも苦戦する所を、多対一で乗り切らなければならないのだ。

「(……他も手助けする余裕はなさそうだし、ね)」

 横目で見れば、そこにはアンラ・マンユと一進一退の攻防を繰り広げる司と、先程からいた“天使”達に一人で足掻き続ける奏がいる。

「ッッ……はぁっ!!」

「ふっ……!くっ……!」

「(ただでさえ、苦戦してたのに……)」

 既に劣勢だった所を、さらに追い詰められる。
 そうなれば、当然ながら勝ちの目は見えなくなる。
 その中で足掻いた所で、何が変わると言うのだろうか。
 ……そんな、“諦め”の考えが浮かび……

「(……いや、いいや!!)」

 その直後、その考えを吹き飛ばすように心で否定する。

「(“この程度”で、諦めてどうするの!?お兄ちゃんは、ムートは決して諦めなかった!だったら、私達だって諦めない!諦めてたまるもんか!)」

 奮い立てる。自らを鼓舞するように、言い聞かせるように自身に叱責を飛ばす。

「『司さん!』」

「っ!」

「『奏ちゃん!』」

「……!」

 この想いを、覚悟を、二人にも抱いておいてほしい。
 そう考え、念話を飛ばす。

「『……この局面、絶対に乗り越えるよ!……絶対に、諦めないんだから!』」

「『………』」

「『緋雪ちゃん……』」

 念話越しに、緋雪の想いと覚悟が伝わってくる。
 言葉自体は激励でしかないが、何が言いたいのか、何を伝えたいのかはすぐに分かった。

「『……ええ……!』」

「『うん……行くよ……!』」

 “負ける”。そんな考えは、もう抱かないようにした。
 乗り越えてみせると、そう覚悟を改め、三人はそれぞれの敵へと挑みかかった。

























「なのは!フェイト!決して懐に入るな!アルフもフェイトのサポートに専念!ユーノも防御とバインドに専念!飽くまで連携を崩すな!適宜僕やプレシア達も援護射撃を飛ばす!」

「了解!」

「シュテル、レヴィ!貴様らはオリジナルどもと連携を取れ。ユーリ、貴様は貴様の騎士と共に居れ。その方が動きやすいであろう。アミタ、キリエ!貴様らはとにかく乱戦に持ち込まれないように立ち回れ!懐に入られれば、我や子狸のような者はたちまち墜とされるぞ!」

「了解です」

「任せて!」

 指示と砲撃や弾丸が飛び交い、剣戟の音が響く。
 神々に追いつかれた優輝達は、司令塔を何人かに分け、連携をとっていた。

「シグナム!出来るだけ攻撃を捌いてや!ヴィータはシグナムの討ち漏らしを撃破!シャマルは周囲の警戒をしつつ、不意打ちで援護や!ザフィーラは抜けてきた敵を阻んで!アインス!」

「心得ています」

「ようし、行くで!」

 はやては八神一家として、ヴォルケンリッターに指示を出す。
 そして、安全圏をある程度確保してアインスと共に殲滅魔法で援護する。
 出し惜しみは一切していない。それでも勝てるかわからないために。

「神夜、行けるな?」

「……ああ」

「よし。なら、誰かが怯ませた所を間髪入れずに叩き潰せ!」

「ッ……!」

 なのはが受け止め、フェイトが速度で怯ませる。
 直後、クロノの魔力弾で一人の神が打ち上げられ、ユーノのバインドが縛り上げた。
 そこへ、神夜の怪力からの九連撃が繰り出される。

「つぉっ!!」

 それだけではない。直後に叩きつけるように砲撃魔法を浴びせた。

「ッ、ぐっ……!」

 直後、上から攻撃が迫る。
 それを神夜は身体強化魔法を使い、片手を盾にして踏ん張る。

「ッ!?」

 だが、先程砲撃魔法を食らった神がまだ倒せておらず、神夜の足を掴む。
 体勢を崩されるにしても、攻撃を食らうにしても、このままではまずいと思い―――

「ガッ!?」

 ―――その神の体が、いくつもの剣によって貫かれた。

「……っ!ぜぇええい!!」

 それを認識した瞬間、上から襲ってきていた神の腕を掴み、地面に叩きつけた。
 足を掴んでいた神は下敷きになり、剣の攻撃もあって手は離れていた。

「はぁあああっ!!」

 そのまま怒涛の連撃を放ち、飛び退く。

「ッッ!」

 間髪入れずにアリシアが割り込み、霊術をぶつける。
 その霊術は“意志”に干渉し、心を挫く。
 神界の神を倒すためにとこよと紫陽が編み出した霊術だ。
 それによって、二人の神を沈める。

「深追いはするなよ。基本はとこよとあたしが相手をする。あんた達は実戦においてはまだ未熟だ。トドメを確実に叩き込むことを意識しな!」

「了解……!」

 霊術組の指揮は紫陽が行っていた。
 霊術は魔法よりも神を倒すのに向いているため、アリシア達は専らトドメ役だ。
 魔法で怯ませ、霊術でトドメを刺す。それを大規模な連携として行っていた。

「……あの中で援護もするのか……」

 紫陽は自身の指示するメンバーの戦いを援護しつつ、横目にそれを映す。
 そこには、何人もの神を同時に相手する優輝の姿があった。

「ふっ!……せぁっ!」

 射撃系の攻撃を躱し、避けきれないものはリヒトで逸らす。
 直接攻撃は導王流によって受け流し、それでも防ぎきれない攻撃は最低限のダメージにまで減らし、そのまま反撃に出る。
 針の穴に糸を通すように、そのまま神の懐まで肉薄。
 顎をかち上げ、即座に脳天から叩き割る。直後、チェーンバインドで捕縛。
 そのまま肉壁のようにその神を扱い、最後は吹き飛ばして他の神に当てた。
 その一連の流れを、まるで当然のように何度も行っていた。

「(本来ならそんな敵を肉壁にする(えげつない)戦法は管理局員としてあまり見過ごせないが……四の五の言っていられないな。最適な戦法でもあるし……)」

 敵を引きつけつつ、攻撃の穴に突貫して一人を怯ませ、そのまま利用する。
 囮に、盾に、武器に、そして弾丸として利用するその様は、まるで悪役のようだった。
 しかし、今の状況ではこうでもしなければならないのも間違いなかった。
 ……そのため、そんな禁じ手のような戦法を、優輝以外も使う事にする。

「『……ユーノ、いけるな?』」

「『……気が引けるけどね。でも、君の無理難題に比べれば、お安い御用さ!』」

 網のように張り巡らせていたバインドを、ユーノが手繰る。
 頑丈なバインドはただそこにあるだけでも足場や動きの妨害になっていたが、ここでユーノが操る事によってさらに手足に巻き付いて拘束するようになる。
 さらに、そこから振り回し、他の神々に当てるように操った。

「ふっ、やっ!」

 同じように、敵に敵をぶつけるという戦法はとこよもやっていた。
 元々単騎としての強さも頭一つ抜け、優輝と同等以上の強さを持つとこよ。
 優輝と同じように、敵陣を駆け抜けつつ、牽制の蹴りで神に神をぶつけていた。

「(牽制、連携、小細工。……どうにか持ち堪えているようだが……)」

 突出した戦力が敵陣を駆け回り、連携によって陣形を保ち、小細工で牽制する。
 それによって、何とか戦況は拮抗させる事が出来ていた。















   ―――……そう思えていたのは、そこまでだった。









「―――ぇ?」

 連携を以って目の前の神を足止めしていた優香が、間の抜けた声を上げる。
 なぜなら、そのすぐ横を人影が通り過ぎて行ったからだ。
 同じく光輝も、驚愕に一瞬体を硬直させていた。

「ぁ、ぐ……!」

「優輝!?」

 吹き飛んできたのは、優輝だった。
 否、厳密には優輝だけではない。

「ぐ、く……!」

「っ……冗談じゃないさね……!」

「サーラ、大丈夫ですか……!?」

「……何とか、まだいけます……!」

 とこよも、サーラも、同じように切り込んでいた者は須らく吹き飛ばされていた。
 優輝と違い、二人は咄嗟に紫陽とユーリが受け止めていたため、ダメージは比較的少なく済んでいた。……尤も、受け止めた二人も咄嗟に張った障壁を破られていたが。

「避けようのない、全方位への衝撃波……容易く障壁を破った所を見るに、理力の開放か……。ああ、分かっていたさ。まだ、お前らが全力を出していなかった事ぐらい……!」

 リヒトを支えに、優輝は先程吹き飛ばされた訳を分析する。

「ダメージは浅い。まだ戦える。……だが、肝心な事を失念していたな……」

「きゃぁあああっ!?」

「ぐ、ぁああっ!?」

 優輝の呟きと同時に、優輝達を閃光の雨が襲い掛かった。
 障壁で防ぎきる事も、躱しきる事も不可能だ。
 出来る事と言えば、ダメージを可能な限り減らす事。
 それすら出来ない者は、容赦なく吹き飛ばされていた。

「……あのとこよさんですら、中堅程度の強さにしか食い込めない。その情報すら信用ならないが、それが本当なら……総じて、個々の実力は向こうが上、か」

 閃光の雨を出来る限り逸らし、躱し、ダメージに耐えつつ優輝はそう結論付ける。
 分かっていた事、理解していたはずの事だ。
 だが、今までの戦いが上手く行っていたために、僅かにでも失念していた。
 ……本来なら、多少の小細工程度では押し潰される戦力差なのだ。

「(一度でも拮抗が崩れれば、そこからは敗北一直線だ。……その流れを、変える!)」

   ―――“霊魔相乗”

「二倍だっ!」

 霊力と魔力が螺旋状に混じり合い、身体能力を飛躍的に向上させる。
 ……ただし、その密度は緋雪達と違い、二倍のものとなっていた。

「シッ!」

 優輝は、既に一度霊魔相乗を完全に制御できるようになった。
 そして、ならばと次はその効果を底上げする行為に出たのだ。
 結果、相乗の密度を上げる事によって、限界以上の力が引き出せるようになった。

「ッづ!?」

「ふっ!」

 その効果は凄まじかった。
 神界において、負担を度外視できるために優輝は常に全力全開だ。
 全力の身体強化であれば、それはとこよやサーラですら動きが見切れなくなっていた。
 奏の瞬間的な速さをも上回る身体能力で、一気に神々を打ちのめす。

「くっ……ぉおっ!!」

 制御が甘いため、導王流の扱いが甘くなる欠点がある。
 しかし、それを考慮しても崩れかけた戦線を盛り返した。
 掌底やリヒトを用いて神を次々と吹き飛ばし、仕切り直しのように間合いを空ける。

「薙ぎ払え、焔閃!!」

 そして、そのまま一掃する勢いでリヒトを振る―――





「ッッ―――!!?」



 ―――おうとした所で、咄嗟に飛び退いた。
 刹那、寸前までいた箇所を“闇”が塗り潰した。

「躱しますか。さすがの速さです」

「ッ、ぁ……!」

 ……果たして、ソレを直視して震えずにいられたのは何人だけだったのか。
 濃密な“闇”の気配が、目で見て分かる程にまとわりついていた。

「……ああ、そうか」

 その存在を目にして、自ずと理解が出来た。
 目の前にいる存在は、今まで会って来た神界の神でも、規格外の存在だと。

「お前が、イリスか」

「……ふふ……」

 ただ何となく、その存在が“イリス”であると、本能的に理解する。

「……聞かせろ。なぜ、僕を狙う。僕に何があると言うんだ?」

 唯一、感情が無くなっている故に恐怖していない優輝が尋ねる。
 その問いは、ソレラに聞いたものと同じだった。

「……本当、人間は不便ですね。一度肉体が死ねば、魂が浄化されて記憶も消される。……せっかく、私は貴方の可能性(輝き)を見たいというのに」

「……答えろ」

「お断りします。答えたせいで、貴方に逃げられる……なんて事にはしたくないですし」

 飽くまで答えるつもりはないとばかりに、ふと腕を一振りする。
 まるで、上げていた腕を下ろすかのような自然な動き。
 攻撃の意志が感じられなかったため、優輝も咄嗟の反応を起こさなかった。

「っ、ぁあああ……!?」

「ぅ、ぁ……!?」

「ぐっ……!?」

 だが、すぐにその考えは改めさせられる。
 優輝の後方で、何人かが苦しむ声が聞こえた。

「彼女達は“闇”に関する者。……となれば、私の支配下です」

「まさか……洗脳か!」

 声を上げていたのは、ユーリ、すずか、紫陽、とこよ、リイン以外の八神家、マテリアルの三人。……そして、神夜だ。

「(全く予備動作がなかった……!ここまであっさりと……!)」

 ユーリは砕け得ぬ闇、すずかは夜の一族なため。
 紫陽ととこよは幽世の存在なため。
 八神一家は、夜天の書の関係者なため。リインはそれを基にしただけで、存在自体は無関係なため、影響を受けなかった。
 同じく、マテリアルの三人も紫天の書の関係者なため影響を受けた。
 神夜の場合は、以前に魅了の力を与えられたため、それが影響したのだろう。

「まずは仲間割れ……尤も、こちらからの攻撃も続けますが。……さて、追い詰めていきましょうか。さぁ、早く絶望を見せてください……!」















   ―――一手。……たった一手で、複数の味方が一瞬で洗脳されてしまった。

















 
 

 
後書き
以前は書いていませんでしたが、アンラ・マンユの姿はスマブラSPのダーズを瘴気っぽくした感じです。 
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