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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第7章:神界大戦
  第205話「道中」

 
前書き
RPGに例えるなら、まだラストダンジョンの門番を倒した所です。
推奨レベルが50な所を30~40で突っ込んでいるようなものです。
我ながら戦力差が絶望的過ぎる……
 

 





「全員、勝ってきたようですね」

 優輝達が全員戻ってきて、ソレラがそういう。

「何とかね……」

 唯一奇策を取らなければ勝てなかったグループの司が、疲れたように返答する。

「では、身を以って体験した事を踏まえて、改めて神界について説明しましょう」

「………」

 戦闘前、心のどこかにあった楽観視の気持ちは、既に誰も持っていない。
 あまりに異様な戦闘に、そんな気持ちなど跡形もなく吹き飛んだ。

「先に分断して戦った方に聞きますが……戦った感じ、どうでしたか?」

「一対一なら負けないけど、勝てないって感じが強かったかな?それに、致命傷を与えても倒せないのは厄介だったよ」

「加えて、“性質”……でしたか?それも厄介です。応用が利くのか、相当強力な効果を発揮してきました。……尤も、それでようやく互角といった実力でしたが」

 とこよとサーラが感想を述べる。
 同じ意見なのか、優輝や緋雪、紫陽や鈴、ユーリも頷いていた。

「まじか……俺達の所は、実力も高かったぞ……」

「でも、私達の所も、その“性質”があったから……」

 唯一真正面から押されていた司達の所は、話を聞いて戦慄していた。
 ただ、結局その強さも“性質”が原因なため、正確には判断できない。

「とにかく、通常の攻撃を与えても倒せないのは厄介だ。対し、僕らは致命傷や重傷を負えば、いくら意識していても無意識下でそれをダメージとして認識してしまう。……染み付いた本能がダメージを蓄積させている」

「その通りです。元々神界の神であれば、その点は意識すれば切り替えられますが……あなた達のように、他世界の住人はどうしても無意識にその世界の法則を自身に当てはめてしまいます」

 本来なら、魔力不足や疲労が感じないどころか、痛覚も無効にできる。
 さらに言えば、攻撃が当たった際の怯みすら無視できるはずなのだ。
 しかし、優輝達は敵の反撃を食らった事で、吹き飛びもしたし怯みもした。
 とこよ達は大群を相手にしたため、疲労も蓄積していた。

「戦闘が終わった今なら、意識すれば全快できるでしょうけど……」

「問題は、戦闘中か」

「はい」

 無意識にダメージや疲労を蓄積するのは、主に戦闘中だ。
 戦闘後なら、集中して意識すればそれらを回復する事は容易い。
 しかし、戦闘中は特に無意識が働くため、蓄積しやすいのだ。

「……私みたいな感じね」

「そういえば、鈴さんは……」

 キクリエとの戦いで、鈴は一度膝を付いていた。
 あれもまた、無意識下による疲労の蓄積だ。

「一人が戦い続ける、というのは難しいでしょうね」

「だろうな。……一つ気になったが、聞いてもいいか?」

 先の戦闘で気づいた事があったらしく、優輝が言葉を挟む。

「はい、なんでしょうか?」

「神界において他世界の法則が通用しない事は分かった。神の持つ“性質”の厄介さもな。……だが、他世界の法則が通用しないのなら、なぜ()()()()()()()()()()()?」

「えっ……?」

 優輝の言葉を、何名かは理解できなかった。
 どういう事なのかと、優輝とソレラを交互に見る。

「“意志”のぶつけ合い、領域の戦い。……どれも他世界の普通の戦闘とは全く違う。だとしたら、相応の戦闘方法があるはず。しかし、その実態は―――」

「他世界と同じ、という事だね。考えてみれば確かに。陰陽師には陰陽師の、魔導師には魔導師の戦い方がある。なら、この世界ならではの戦い方があってもおかしくはないはずだよね」

 理解していたとこよが優輝の言葉を続ける。
 “意志”を挫く戦いならば、普通に戦う必要はないはずなのだ。

「何のためにわざわざ殴り合うんだ?」

「……本来、神界には他世界のような戦いはありません。皆が皆、自身の“性質”に沿った暮らし方をしたり、他世界を眺めていたりしています。神界において、“戦い”らしい“戦い”の概念はありません。その“性質”を持つ神もいますが、飽くまでそれは他世界での“戦い”です」

「つまり、“戦闘”となると、どうあっても他世界の戦い方が基準となる訳か?」

「そうなります。元々争いごとがない世界でしたので……。強いて言うなら、神界での戦い方に“形”はない、とでも言いましょうか……」

 戦い方の“形”がない。
 故に、他世界の戦い方を知っていた場合、それが基準となる。

「今回の場合は、あなた達の戦い方が基準となります。その上で相手に競り勝つのは難しいでしょうけど……」

「苦戦どころか敗北してもおかしくないのは承知の上だ」

 先の戦いで、“勝てる”と即座に答えられないのは明白だった。
 故に、“それでも戦う”と、優輝は皆を代表して答えた。

「……そうでしたね」

 一縷の望みに賭けるように、優輝達は戦う事を決めた。
 圧倒的な戦力差、存在の違い。それを知ってなお、諦めきれないからこそ、今立ち上がり、戦力が不足しているのを承知で攻勢に打って出たのだ。

「私達の戦い方が通用するだけマシだよ」

「……確かに。以前は、戦いにもならなかったから、一方的にならないだけマシだよ。何せ、“勝てる可能性”はしっかりあるんだから」

 とこよの発言に、司が同意するように言う。
 以前の戦い……それは神界からの干渉で送られた優輝似の男の事だ。
 詳しく説明される事はなかったが、あれもイリスによる干渉。
 神界からの尖兵であるその男に、かつての優輝達は歯が立たなかった。

「同じ土俵に立つ、と言うのは重要だもんね。相手の土俵に立てなかったら、勝てる戦いも勝てないんだから」

 なのはも納得するように頷く。
 今は近接戦も出来るとはいえ、かつては近接戦が苦手だったなのはにはよくわかる事だ。
 肉薄され、近接戦に持ち込まれればいくら遠距離に優れていても勝てない。
 規模や原理が違うが、それと似た事なため、理解が早かった。
 同じような事を思ったのか、フェイトやはやて、他の皆も同意見の表情だった。

「……少し待って下さい。戦闘前、確か“領域”をぶつけ合う戦いだと言いましたよね?」

「え……はい。自分の方が上だと、相手の“領域”を浸食する……あの時は言っていませんでしたが、こう言い換えられる戦いです」

 サーラが何か引っかかったのか、ソレラに尋ねる。
 そして、返ってきた返答にクロノとユーノも気づいた。

「じゃあ、僕らの戦い方が通用するって事は……」

「少なからず、僕らの“領域”が相手の“領域”を浸食してるって事……?」

「……そうなりますね」

 相手の土俵を塗り潰す。……言い換えればそういう事をしているのだ。
 そして、ソレラの肯定が返ってきた事で、その推測は確定した。

「私達が他世界の上を行く、最もアドバンテージとなる存在の“格”は、今は祈梨さんによって潰されています。なので、後は純粋に実力と“意志”の戦いです」

「……既に、僕らから見れば相手の強みを潰していたという訳か」

 一方的に干渉が出来る存在の“格”。
 理力によって成り立っているそれは、現在は祈梨の力で差がなくなっている。
 本来なら、その“格”の差で優輝達に勝ち目はないはずだったのだ。
 それが祈梨によって潰され、勝ち目があるようになっている。
 クロノの言う通り、既に神界側の強みはだいぶ潰されていた。

「……それでも、敵の能力が厄介な事には変わらないわ」

「……そうね。今回の敵は先兵。でも、そんな先兵の能力でも苦戦する程だったわ」

 先の戦闘で一度膝を付いた鈴と、苦戦していたグループの奏が言う。

「本質は戦闘に向いていない“性質”でも、応用次第では戦闘に適用出来ますからね……。私の“性質”も、味方がいると戦闘でも使用できます」

「……だから、僕らが相手した“青の性質”で、相手に倦怠感などを与えられた訳か。……イメージカラーが青という、ただそれだけの関係性を以って」

「その通りです。ただ、応用できる効果範囲が広すぎると、デメリットも抱えるようです。私も、“性質”を戦闘で活用すると、戦力が著しく落ちますから」

 先の戦闘で、ソレラは“性質”の効果を最低限に留めていた。
 そのリソースをほとんど攻撃につぎ込む事で、敵を押していたのだ。
 もし、“性質”を活用していた場合、ソレラは敵を止める事も出来なかっただろう。

「私達が相手したのは、細胞分裂みたいに分裂する神だったから……」

「あたしらは通用するだろうと思っていたけど、まさに癌のようにあいつには弱点だったんだろうね。他の所も、同じ感じかい?」

「そのようですね。私の所は、相手が“光の性質”を持ち、ユーリのU-Dと相性が良かったようです。暗闇にした時も、相手の姿は見えていました」

「“光の性質”は、当然のように対極の属性である闇に弱いですからね……。洗脳されていた事もあって、弱体化していたと思われます」

 とこよの所は偶然とはいえ、どちらも弱点を突いていた。
 サーラの所に至っては、ソレラの言う通り弱体化していたまである。

「俺達のとこは……」

「裏を掻いたって所だね。ただ強いだけじゃダメだったから、敢えて弱くなる必要があった」

「正攻法じゃ、勝てなかったものね……」

 司の所は裏を掻いた戦法だが、これも弱点を突いたようなものだ。

「一度、情報交換と行こうか。少しでも今後の戦いの判断材料にした方がいい」

 優輝がそう言って、全員の戦いの様子を伝え合う。
 どんな相手だったか、苦戦したのか、どう倒したかなど。
 とにかく、参考になりそうな情報は全員に行き渡らせるようにした。





「―――よし、こんなものだろう」

 一通り、全員の経緯を語り合い、情報交換をした。
 初戦では戦っていなかったメンバーも、これである程度の心構えは出来た。

「では急ぎましょう。幸い、先程の先兵以外、近くにはいません」

「距離の概念があやふやな今では、気休めにしかならないけどな」

 イリスの勢力に抵抗している神がいる場所に、優輝達は足を進める。
 話しながら移動していたとはいえ、距離の概念があやふやなため、まだ着かなかった。

「……にしても、あれで戦闘向きじゃないんか。やとすると、戦闘向きの“性質”やったら一体……」

「そこだよね。優輝曰く、“性質”便りで戦闘技術が強さに対して低いと言っていたけど、強い神は戦闘技術も高そうだし……」

 優輝達が戦ったカエノス、とこよ達が戦ったキクリエ、サーラ達が戦ったルーフォス。
 その三人の誰もが、戦闘系の神ではなかった。
 キクリエやルーフォスは戦闘にも使える“性質”だったが、それでも戦闘系ではない。
 唯一戦闘系だったジャントも、能力に頼っている節が多かった。
 つまり、素の実力はどれも一対一で勝てる程だったのだ。
 なお、ソレラが戦った神は不意打ちからの完封だったので、さすがに論外だった。

「ピンキリって言ってた訳がようわかるわ」

「これでも、ほんの片鱗だろうしね……」

 はやてとアリシアは、溜息も出ない程気が重く感じた。
 しかし、諦める訳にも負ける訳にもいかないと気合を入れ直す。

「……でも、戦闘技術が低い敵もいるのは、少し楽かも」

「せやなぁ。何から何まで、優輝さんやとこよさんみたいやったら、どうしようもないわ」

「二人で何話してるの?」

 はやてとアリシアの会話に、なのはが割り込んでくる。
 なのはだけでなく、フェイトやアリサ、すずかも気になっていたようだ。

「神界の神について、ちょっとね」

「最初でこれやったら、次とか最後の方はどうなるんやろなって思ってな」

 いくら神界の神が多くいるとはいえ、イリスに近付けば相応の強さの神が相手になる。
 その事を予測して、不安そうに言うはやて。

「確か、とこよさんで平均よりやや上……って言ってたよね?」

「そうだよ。……で、優輝とかもそれぐらいと考えて……さっきの敵は中の下未満と見るのが妥当かもね。司達の所はもうちょっと上かもしれないけど」

「確か、“格上の性質”とか言ってたわね。……反則的な力じゃない」

 最も、判断を間違えれば司達がやったようにあっさりとやられてしまう。
 その時点で、神界においてはそこまで反則的ではないのだ。

「……でも、戦えない訳じゃないよ」

「なのは?」

「さっきの戦い……ほとんどが一斉攻撃だったけど、集中したら()()()()()()()()()()()()()。相手の神もだけど、皆の攻撃もだよ」

「え、それって……」

 相手と一対一で戦える。
 そう言い張るのはおかしくない。実現するのも、今のなのはならあり得る。
 しかし、なのはが言った事は、あの袋叩きにした攻撃を何とか出来ると言う事だ。

「なんていうのかな……?ここに来てから、ずっと頭が冴えた感じなの。お兄ちゃん達に御神流を教えてもらって動体視力も良くなったけど、今はもっと何か……何かが違うの」

「どういう事……?」

「さっきの戦いだと、最初の一撃さえ躱せば、後の攻撃を全部回避か凌ぐ事が出来る道筋が見えた……それぐらい、冴えてるような……」

 自分の今の感覚が信じられないように、なのはは呟く。

「その話、本当?」

「奏ちゃん?」

 そこへ、奏が会話に混じって来た。

「……うん。何か、感覚が冴えてる。そんな感じがするの」

「……そう。……私と同じね」

「えっ?」

 奏の言葉に、一瞬なのは含め聞いていた全員が耳を疑った。

「私も、今までと違った感覚を感じるわ。……さっきの戦いでは、それ抑えて今までと同じように戦ったけど……なのはと同じように、何か違うわ」

「奏ちゃんも……どういう、事なんだろう……?」

 ジャントとの戦い。
 奏はその時、なのはと同じように“自分一人でも何とか出来る”と感じていた。
 しかし、神界での初戦且つ、未知の相手と言う事もあってその思考は切り捨てていた。
 感覚を抑え込む。そう思い込む事で、神界の法則に則って抑え込んでいたのだ。

「………もしかして……」

「奏?」

 ふと、何か心当たりを思い出した奏。
 その様子に気付いたアリサが声を掛けて尋ねる。

「結界内で修行していた時、祈梨さんから伝えられたのだけど……私となのはの体に宿っている存在……それが関わっていると思うわ」

「宿ってるって……っ……!」

 奏の言葉に、なのはは大門の守護者との戦いの事を思い出す。
 自身には全く覚えがないのに、誰かが自分の体を使って喋っていた事を。
 アリシア達もその事を思い出し、奏に視線が集中する。

「“害意はありませんが、いつか向き合う必要があります”……そう、祈梨さんは言っていたわ。私となのはだけに起きている時点で、原因があるとすればこれだけよ」

「じゃあ……」

 思い起こすのは、宿っている存在が喋っていた時、自分が無意識だった事。
 完全に乗っ取られていた事に対する、恐怖感。

「(……だからこそ、向き合わないといけないんだ)」

 そして同時に、なのははそう決意を固めていた。

「………」

「……優輝君?」

 そんななのは達の会話を、司と優輝も聞いていた。

「奏ちゃん達が気になるの?」

「いや……心配はないだろう。二人の目を見る限り、向き合って乗り越えるぐらい容易にできるはずだ」

 そう言って、優輝は視線を戻す。

「(向き合う……か。……優奈)」

 その脳裏に浮かぶのは、自身に存在するもう一つの人格。
 最初はただ人格を創造魔法で増やしてしまったと考えていた。
 しかし、以前夢の中で優奈と対峙してからは、その考えは存在しない。

「(僕自身、向き合う必要があるな)」

 我ながら謎が多いと、優輝は思う。
 あれ以来、優奈と対話する事はなかった。
 神降しの副作用で女性になっても、優奈が表に出てくる事もなくなった。

「(……優奈は、何か知っている。だが、何を……?)」

 夢の中での会話は、明らかに“何か”を知っている口ぶりだった。
 その事が、未だに優輝の頭に残り続けている。

「(邪神の尖兵を、あいつは“人形”と呼んでいた。実際、あれは邪神が作り出した“人形”であると、祈梨さんは言っていた。つまり、あいつはその時から神界について知っていた……?)」

 推測が頭の中を駆け巡る。
 確定できる情報がないため、それらは確信には至らない。
 しかし、推測するには十分な情報だった。

「(もし、仮にその時点で神界について知っていたとしよう。あいつは僕から派生した人格のはずだ。だとすれば、記憶も僕を基準とするはず。で、あればおかしい)」

 当然だが、当時の優輝は神界に関して一切知らない。
 優輝の記憶を基準としているのなら、優奈が神界について知っているはずがなかった。

「(可能性としては、三つ。一つは、この推測自体が間違っている事。もう一つは、あいつが嘘をついているだけで、実は出まかせ……またはあいつが僕から派生した人格ではない事)」

 これは推測の域を出ない。
 それがわかっているため、優輝はただの考えすぎの可能性も捨てなかった。
 だが、同時に優奈に対しても疑いを持っていた。
 もう一つの人格を名乗っているだけの、“別の何者”かという疑いを。

「(……最後に、()()()()()()()()()()()か……)」

 最後の考えは、自分自身に向けた疑いだった。
 思い返せば、自身の経歴には都合が良かった事や、どうして成し遂げられたのか、疑問に思える事が所々に存在していた。

「(志導優輝になる前……もしくは、ムートになる前。その時点で、僕は神界について知った可能性がある。それを、優奈のみ思い出したのであれば……)」

 そこまで考えて、優輝は一度思考を中断する。

「(……我ながら、都合のいい解釈だ。推測そのものが間違っているかもしれない以上、誰かに伝えるのは得策ではないな)」

 確定した情報はないため、誰かに伝えるべきではないと判断する優輝。
 感情があれば、誰かに相談する形で伝えていたかもしれないが、感情がない今は自己完結してしまうためにそれもなかった。

「優輝君?」

「なんだ?」

「少し考え込む素振りしてたから……何かあるの?」

 思考を中断した所で、司が声を掛けてきた。

「……いや、曖昧な情報で、確かな事がない。言う程の事じゃない」

「そう?」

 すぐにはぐらかす優輝。
 その言い方に引っ掛かる司だが、それ以上聞く事はなかった。

「はいはい。お兄ちゃんも司さんも、ここは敵地なんだから気を張って」

 司がそれ以上尋ねようとせずにいると、緋雪が割り込んできた。

「(あ、また牽制……)」

「(気を抜くとすぐ司さんは近づくんだから……!)」

 なお、口にしていた内容と裏腹に、その行動の実態はやきもちでしかなかった。
 兄を取られているような気がして、どうも牽制せずにはいられなかったようだ。

「……まぁ、緋雪の言う通りだな。変に没頭しないようにしないとな」

「……そうだね」

 しかし、実際緋雪が言っていた通りなので、優輝は気を取り直す。
 司と緋雪もそんな優輝を見て、改めて周囲の警戒を再開した。













「…………」

「……優ちゃんが心配?」

 一方、その頃。
 祈梨の護衛のために残った椿の方では。

「えっ、そ、そんな事……あるけど……」

「(あるんだ……)」

 いつものように素直になれないようで、素直に答える椿。
 それを聞いていた那美は、普段の椿を知っているためにふとそんな事を思った。

「……相手は神界の神よ。百聞は一見に如かずだけど、聞いているだけでも規格外なのが分かるわ。そんな相手、例え優輝でも……」

「苦戦は必至……だね」

「簡単に負けるとも思えないのだけどね」

 待機している間、椿達は祈梨に神界での戦いについて詳しく聞いていた。
 内容としてはソレラの説明と似たものだが、それだけでも椿は危険を感じていた。

「今の所、優輝との契約は無事よ。だから、少なくとも優輝の身に何か起きている、ということはないと思うわ」

「となると、アリシアさんも無事でしょう。私は彼女と仮契約している身ですので」

「そうね」

 式姫としての繋がりから、少なくとも危機的状況ではないと椿と蓮は判断する。

「……貴女方の見立てでは、彼らはどこまでやれると思いですか?」

「……正直、彼我の差どころか、向こう側について口頭しか聞いていないのでは、推測するのも無意味に思えてくるのだけど……」

 そんな前置きをしながらも、椿は祈梨の言葉に少し考える。

「……()()()()()よ。“やれるか”じゃないわ。今の優輝は“やる”と決めたなら“やる”のよ」

「あたしも同意見かな。今の優ちゃんと、この神界の法則を合わせたら、間違いなく優ちゃんは“やり遂げる”。……どんな代償を支払ってもね」

 優輝を信じているようで、どこか苦虫を嚙み潰したような表情で、椿と葵は言う。

「その心は?」

「今の優輝は感情がない。でも、何かをする意志はある。結果的に、“意志”を重視される神界と相性がいい。……要は、優輝は感情のない絡繰りのようにやり遂げるのよ」

「感情なく、しかし意志は健在。……私から見ても、脅威ですね」

 絡繰りと例えに使ったからか、天探女が反応する。
 彼女もまた、絡繰りであり、その視点から優輝の今の脅威を理解していた。

「……随分と、信頼しているのですね」

「信頼……ね。確かに、信頼しているけど、今のは客観的に見た一つの意見よ。私個人としては……優輝に、そうなって欲しくはないわ」

「勝つまではやり遂げるだろうね。でも、“その先”の事は?一体、どれほどの代償が支払われるのかわからない。だから、優ちゃんには無理してほしくない」

 神界での戦いに勝てたとしよう。
 その時、果たして優輝は五体満足なのか。
 それを、椿と葵は恐れているのだ。
 無茶をするしないは、この際仕方がないと半ば諦めてはいる。
 しかし、だからと言って無茶をして体を壊すのは許容できない。

「……そっか、好きだからこそ……だもんね」

「っ……!そ、そうよ……」

「……素直に認めた……だと?」

「さすがに私だって周知なのはわかってるわよ!」

 椿の肯定に、鞍馬が慄くように驚いた。
 いつもなら素直に認めない椿だが、もう周知なために今回は認めた。

「懇意にしているからこそ、信頼し、同時に心配する……なるほど……」

「えっと……祈梨さんはそういうのないの?」

 ふと気になったのか、那美は尋ねる。

「いえ、私は……そういう相手は神界でもいませんでしたね」

「(……神界“でも”?)」

 祈梨の言葉に引っかかる椿。
 しかし、今は大した関係もない事柄なので、頭の片隅に思考を追いやる。

「……本当に、彼の事を大事にし、また貴女方も大切にされているんですね……」

「……あたしもちょっと照れ臭いね」

 気を取り直して言った祈梨の言葉に、葵も少し照れる。































「―――だからこそ、利用する価値があります」

 直後、それまでの空気が凍り付く。

「え………?」

 呆然と呟いたのは、誰だったのか。
 それを追求する者も暇もない。

「……ふふ………」

「なん、っで……!?」

 驚愕と不意打ちに、誰もが身動きが取れなかった。





























 
 

 
後書き
優輝達はかなり人数が多いので、グループ分けしてある程度距離を離して移動しています。じゃないと、絵面がわちゃわちゃし過ぎなので……。
まぁ、なんかの行軍みたいなのは間違ってないんですけどね 
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