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緋弾のアリア ──落花流水の二重奏《ビキニウム》──

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神崎・H・アリア

「──とりあえず、キンジのとこか」
 

そう呟いた俺は、どこらへんに吹っ飛んでいったっけ──と辺りを見渡す。
派手な自転車の爆発は見たんだけど、その後、何処に飛ばされていったかまでは正直見えてなかった。

……まぁ、開けた場所なのだから、すぐに分かるハズだ。

そう思いつつキョロキョロと辺りを見渡すと、体育倉庫付近の木に女の子が使ったと思しきパラシュートが引っかかっていた。
その軌道から類推するに、どうやら爆風で体育倉庫内へと吹っ飛んでいったらしい。例の格好で。

数十メートルの距離があるそこまで俺は駆けつつ、倉庫内の様子を窺う。見たところ、かなり物が散乱しているようだ。

やはり変わった高校だとは俺含めほぼ全員が自負しているが、普段は流石にここまでの惨状にはならない。やはり、2人はここに吹っ飛んでいったらしいな。

途中にあった、ひしゃげたトタンとバラバラになったセグウェイ、そして散乱している空薬莢を横目に、俺は倉庫内へと歩を進めていく。

陽が差し込んだ倉庫内には、小さな人影が見えるが……どうやら、1人だけらしい。キンジの姿はなく、代わりにあの女の子がいるだけだった。
 
弾痕だらけのコンクリの床を、静かに進んでいく。その足音で俺に気が付いたらしい女の子は、ツリ目がかった赤紫色(カメリア)の瞳で俺を睨み付けた。

──そして、開口一番。耳に届くはアニメ声。

 
「……アンタ、あの強猥男の知り合い?」

 
それが初対面の人にかける言葉ですか。
 

「そうだが……。キンジに何かされたのか?」
「強制猥褻された。あとで起訴してやるわよ」

 
その女の子──名札を見る限り、神崎・H・アリアっていうのか──は、何やら不機嫌そうに呟き、手にしていたガバメントの弾倉を再装填する。

……それにしても、キンジが強猥? 有り得ないな。少なくとも──


「こんな小学生相手に……?」


そう俺が呟くやいやな、アリアはピクン、と口の端をひくつかせながら、明らかに作り笑いともとれる笑みで、問う。
「……もう1度、言ってご覧なさい?」と。

……え、何。なにか俺ヤバいこと言った? もしかして地雷を踏んでしまったのか?

自分の発言を思い返してみるが、アリアの逆鱗に触れたのだとしたら──さっきの小学生発言しかないだろう。
きっと、見た目より小さく見られたのが気に触ったのか。そうか、そういう年頃だもんな。


「……悪いな、アリア。インターンで入ってきた小学生と誤解して。なんだ、中等部の子なら、そう言ってくれれば──」


──良かったのに。
そう言う暇さえ与えず、アリアは2丁拳銃のガバメントを抜き、バギュギュン!! と俺の足元目がけて発砲してきた。
そして、俺が予知していなかった一言を、放つ。


「アタシは……高2だっ!!」


怒号とも呼べる叫び声が、倉庫内に響き渡った。
にわかにも信じ難いその言葉を理解するのに数秒を要した俺は、それを脳で処理すると同時、呆れ声で告げる。


「……アリア。いくら大人っぽく見られたいからってな。流石にそれは無理があると思うぞ」
Do you want to be killed?(殺されたい?)


即座にガバメントの照準を俺の頭に定めたアリアは、意図せずか意図してか、英語で『殺されたいの?』と裏の人格さえ感じさせる笑みで威嚇してきた。

……どこか肉食動物のような威圧感を感じるな。この子には。

ここで銃を抜き返してもいいんだが、何より無駄な騒動は起こしたくはない。ただでさえ、さっきのチャリジャックで教務科には連絡がいっているハズなんだ。これ以上は面倒事を増やしたくない。


「……悪かった。だから、その物騒な銃を仕舞ってくれ」
「……やだ。絶対に許さないから」


俺を許す気は毛頭無いらしいアリアは、手にしていた白銀と漆黒のガバメントの照準を──迷いなく、俺の頭に向けやがった。
そして、トリガーガードに掛けていた指を、引き金へと移すモーションへ、移行させる。

……どうやらコイツは武偵法9条を知らないらしい。いや、知ってはいるが、怒りでそこまで頭が回っていないのだろうか。
『武偵は如何なる状況に於いても、その武偵活動中に人を殺害してはならない』と記された、この法を。


「……自分の感情に身を委ねるのは、武偵としてあるまじきことなんじゃないのか?」


諭すような俺の問い掛けに、アリアは小さく口の端を歪ませてから──引き金を引く直前に、銃弾の軌道が俺の顔側面スレスレを通過するよう、銃口の向きを逸らした。


──倉庫内に、銃撃音が響く。


それでもなお、俺は防御の構えをとらなかった。……いや、とる必要がなかった、という方が正しいか。

アリアの狙いは、銃弾の回避運動をする俺目掛けて追撃をすることだろう。だから敢えて、銃弾の軌道を逸らしたのだ。
その証拠として──銃をレッグホルスターに収め、背中から小太刀の日本刀を抜いたアリアを視ることができた。

避けないのならばアリアとしては好都合、ということだろうか。すぐさま追撃を入れる為、およそ女児の体型とは思えない脚力でこちらに肉薄してくる。

逆手に握られ、振りかぶられた刀の刀身は、数秒もすれば防刃制服に達するだろう。
しかし、そうはさせないと対抗する俺の意によって──鞘から抜かれた《緋想》より、澄んだ金属音と火花が散った。

僅かに鍔迫り合いになるが、アリアは持久戦を嫌ったのか……即座にバックステップをしつつ勢いを付けてから、大きく1歩踏み出して、刀身を突き出すようにしつつ、俺の腹部を狙ってきた。


「──やぁっ!!」


その体型でそのアニメ声は反則だろ──と思いつつ、俺はバックステップで刀の切っ先を避け、先程のアリアのように1歩踏み出してから、月面宙返り(サマーソルト)を放つ。

お互いに意表を突いたカウンター攻撃だったが、アリアはバック転で躱してしまう。
……しかし、次の瞬間。俺が──恐らくはアリアも──予期していなかった事態が起きた。


「うみゃっ!?」


素っ頓狂な声を上げつつ、頭からモロに地に着いたアリア。それを見て、俺は思わず吹き出してしまう。
その原因ともなる地面には、大量の空薬莢が転がっていた。

刀を杖がわりにしてよろめいているアリアを視界に入れつつ、俺は溢れ出る含み笑いを敢えて隠さず──口を開いた。

……コイツのような性格を持っている人間は、頭に血が上ると攻撃的になるタイプだ。厄介事になる前にも、俺はさっさとここからお暇したいのである。


「まさか薬莢で足を滑らせて転ぶとはなー、予想外だったぞ。……んじゃあな、アリア。今度はいつ会うか分からんが」
「ちょっ、待ちなさいっ──わぉきゃっ!?」


アニメの如く足を滑らせて転ぶアリアと、背後に降り掛かるアニメ声に内心可愛いと思いつつ──俺は既に始業式を終えたであろう面々が揃う新クラスへと、歩を進める。

……それにしても、神崎・H・アリアか。何処かで聞いたような名前なんだが──如何せん、思い出せない。
まぁ、無理に思い出さなくてもいいだろう。ただの思い過ごしかもしれない。

そう胸中で結論付けながら、俺は教室へと向かっていった。 
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