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魔法が使える世界の刑務所で脱獄とか、防げる訳ないじゃん。

作者:エギナ
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第一部
  第35話 新年魔法大会 【衝突】

 
前書き
Noside 

 
「久し振りの再会なのに、“御前を殺す”なんて、酷いねぇ」
「御前に散々やられたんだ。———復讐してやる」
「っとなると、流石に私でも殺されちゃうかもしれないねぇ。———皆、任務だよ。おいで」

ヴゥンと低い音が響く。一瞬にして黒い影が現れて、段々と消えていく。
影から現れたのは、黒い外套を纏った青年二人と、メイド服を纏った青年二人。

「なっ……九〇四番、なんで……」

「おーっ‼︎ 良い眺めだねぇ。琴葉ちゃんが動揺してる」
「ハハッ! こりゃあ傑作だ」
「うぇ。痛そう」
「お呼びですか、首領」

囚人番号九〇四番、四舎副主任看守・白雪真冬、響、仁———ではなく、


“マフィア幹部”グレース・アートルム、白雪真冬、闇月響、闇月仁。


「……最悪だね。マフィア幹部四人なんて。おまけに首領付き。———ここで御前等全員をぶっ殺せば、マフィアは終わる」
「いいねぇ、最高だよ。———君を殺せば、第一魔法刑務所も終わるんだから」


響と仁が一気に琴葉との距離を詰める。
琴葉は、愛刀を正面に構えて“魔法の詠唱を始めた”。

魔法無効化に例外は無い。魔法無効化は、魔法を展開した本人の魔法にも影響してしまう為、魔法無効化を解く場合には無効化の範囲外に出てからで無いと不可能。それは魔法師ならば誰でも知っている。魔法無効化の範囲内で魔法の詠唱をしたところで、それはただの意味を持たない言葉になる。
だが、琴葉は魔法の詠唱を始めている。それは———“魔法が絶対に発動できる魔法”。基本的に使い道は無い。二つ同時に魔法が発動出来る魔法師なら、大抵の魔法は百パーセントの確率で発動出来るからだ。使うとしても、複雑な魔法とセットで使うくらい。

それを単体で使おうとする琴葉を、直ぐに発動させようとしている魔法を理解した青藍は、琴葉の行動を疑問に感じていた。普段なら「は、何やってんの」と叫んでいる位だ。だが、神白は違った。

この魔法は、魔法無効化の範囲内では効果が生まれるのだ。それも、かなり強力なモノ。

魔法無効化は、魔法を“絶対に発動できない様になる”魔法。
そこで、魔法が“絶対に発動できる”魔法を使う。

魔法師の実力が異なる場合は別として、同等ならば、二つの魔法が同じ対象に干渉した時、どうなるだろうか。

答えは———

「———響くん、仁くん。ストップ」
「……っと‼︎」
「危ない……」

空間が二つの魔法を消す。
そして、魔法があった空間が、他の空間と切り離される。

琴葉は、魔法無効化が消えたと同時に切り離された空間を引き延ばして、自分の周りを囲む。

そうすれば如何なる攻撃も、空間を超える事が出来ない限り、切り離された空間に居ると言ってもいい琴葉には届かない。

「……あれ、バレちゃった? 折角突っ込んできたところを細切れにしてやろうと思ったのにねぇ」
「流石、私の“人形”だ———ぁ」

湊が苦々しい笑みを浮かべつつ、そう言葉を溢した瞬間。へらへらとした笑みから一転、琴葉は感情を失った様な無を顔に浮かべて、刀を横に振る。衝撃波が空間を超え、湊の眼前に迫った。
空間をも超える刃。———それが防げる筈がなかった。

「———日本の魔法犯罪を取り仕切るマフィアの首領を、そう簡単に殺せる訳ないだろう?」

だが、湊は片手直剣を振り払った状態で、一つも傷を負わずに立っていた。彼は、あの刃を剣で後方へ受け流したのだ。その為、後ろにあった筈の司会席や、舞台が跡形も無く消え去っていた。

「私を“人形”って呼ばないで。私は貴方の人形じゃない! 私は人間だから」
「自分でも分かっているだろう? 君は人間では無い。“私と契約している”、“魔法で作られた人形”だ」
「違う……違う、違うッ‼︎ 御前なんかの人形になってたまるか‼︎」
「小さい頃は素直だったのにねぇ。洗脳でもされたのかい?」
「違う! あれは私が間違ってた……マフィアに入るなんて、あの頃の私は本当にどうかしていた」
「今の君の方がどうかしているよ。覚えているかい? 君が“組織を裏切った”日の事。君が“組織を逃げ出した”日の事。君一人には、何かを守る力すら無いのに、それを理解していないからこうなるんだ」
「は……どういう」

湊の前に真冬が現れる。瞬きよりも短い間に現れた彼の足元には———真っ赤な血を全身に浴びた六人の小さな子供と、一人の老人、彼に抵抗する様に暴れるレンがあった。

「え…………うそ、でしょ……?」
「首領。命令通り、被験体七人とその管理者を連れて来ました。被験体一人を残し、後は全員殺してあります。既に蘇生も再生も効かない状態かと」
「お疲れ様、真冬君。早かったね」
「いえ、“琴葉ちゃん”が攻撃している間は長かったですから」
「そうかい。下がっていいよ」
「失礼します」

琴葉は湊と真冬のやり取りを聴きながら、絶望していた。
大切なモノを守れなかった。そんな自分の無力さが、憎い。

「あ、ぁ……ああ……」
「如何だい? 此のプレゼントは。分かったかい? 前もそうだった。“君の所為で、君の友達は死んだ”。そして、また君の所為で、魔法を見に来ただけで、君には無関係な人達を含めた大勢が死んだ。全て、全て、幼い君の、愚かな行動が悪い」
「わたし、が……わる、い……の? レンたちが死んだの、は……ぜんぶ、わたしの……」
「嗚呼そうだ。……君は弱い。実際、さっきまであれ程強がっていたのに、大切なモノを壊してやったら、一瞬にして弱くなった。違うかい?」
「……ぁあ……そう、か。わたし、は……」
「でも、君は私の人形だからね。チャンスをあげよう。弱い君でも、他人を守るチャンスをね」
「チャン、ス……?」
「そう、チャンス。私と一緒に、もう一度マフィアに戻ってくるって言うのなら、今後一切此の第一魔法刑務所には手出ししないと誓おう。此の大会に関係している、マフィアの人間が殺した人間も蘇らせてあげよう。如何だい? 刑務所側に多く利益があ……」
「分かった……分かりました。わたしを、連れて行って……これ以上、だれも殺さないで……」

最後に、湊は薄く笑みを浮かべて、姿を消した。

地面に崩れ落ちた琴葉を、響が抱き上げ、そして姿を消す

仁と真冬は、小さく魔法を唱えてから姿を消した。


後には、壊れた会場と、何があったのか分からず、呆然とする大勢の観客と看守、囚人が取り残された。

 
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