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実の両親

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第二章

「結構あるからね」
「そうなんですね」
「お寺とか宗教関係だとね」
「よくあるんですね」
「そう、お寺とかを継いでもらう為にね」
「そのお寺とかにですね」
「養子の人が入ってね」
 そうしてというのだ。
「跡を継ぐんだ」
「今もそうしたことがあるんですね」
「そうだよ、それで古い家もね」
「今もですか」
「養子があるよ」
「そうですか」
「世の中色々あるからね」
 彦太郎は学生には自分のことは話さなかった、だが夏目漱石のことは覚えていてそれでその日のうちに漱石についての本を本屋で集めた、そのうえで読むと。
 漱石は学生の話通り幼い頃に養子に出されていて後にそのことを知ってショックを受けていた、そしてだった。
 自分のことについても思った、自分が養子であることについて。そうして次第にこれまでうっすらとであったが思っていたものが徐々に大きくなり。
 ある連休の時に東京の実家に戻って両親にそのことを尋ねた。
「あの、僕の本当のご両親は」
「そのことか」
 父の彦一郎は難しい顔になり応えた、厳めしい顔であるがその目の光は穏やかだ。髪の毛はもう真っ白である。
「遂に聞くか」
「今まで聞かなかったけれど」
「聞かずにいられなくなったか」
「色々あってね」
 それでとだ、彦太郎は父に答えた。
「それでなんだ」
「そうか、では話すか」
「あの、いいわね」
 母の望も彼に言ってきた、化粧は濃いが還暦になってもまだ整った顔立ちとスタイルである。髪の毛は染めていない黒で腰まである。
「何をね」
「知ってもっていうんだ」
「ショックを受けないでね」
「うん、それはね」
「聞けば答えるつもりだった」
 父は我が子に述べた。
「その時にな」
「そうだったんだね」
「だがお前はこれまで聞かなかったな」
「知りたいとは思っていたけれど」
「わし等に聞くまでは強くなかったな」
「うん、父さんも母さんも子供が出来ない身体なのは知ってるし」
 このことは既に両親から言われていて知っているのだ。
「僕が養子なのはね」
「知っていてか」
「父さんと母さんには親として育ててもらってきたから」
 成人し就職した今までというのだ。
「だからね」
「聞くことはなかったか」
「知りたいとは思っていたよ」
 この気持ちに偽りはないというのだ。
「けれどね」
「それでもか」
「うん、自分としては」
 どうしてもというのだ。
「そこまでの気持ちにはならなかったんだ」
「そうだったのか」
「けれどちょっとしたことがあってね」
 夏目漱石の話は長くなるのでここでは言わないことにした、後で言おうと思ってそれで隠しておいた。
「それでなんだ」
「聞きに来たか」
「そうなんだ」
 仙台から東京まで戻った、新幹線でそうした。
「それで教えてくれるかな」
「わかった」
 父は一言で答えた。
「ではな」
「これからだね」
「話す」
 こうしてだった、両親は彦太郎に彼の本当の両親のことを話した。その話は彼にとっては想像を絶するものだった。 
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