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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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黒魔術-Dark Majic- /Part4 復活のシジルさん

まずは、シュウがアンリエッタから不吉な知らせを受け取る前にさかのぼる。



そしてティファニアも、この日はシュウではなく、クリスにアンリエッタと、憐と尾白という珍しいメンバーで帰路に立っていた。
「そうですか、先輩、今日は会長のお仕事の関係で…」
アンリエッタから、シュウはこの日一緒に帰れないことを告げられたテファはどこか残念そうにしていた。それを察したアンリエッタが彼女に謝る。
「ごめんなさいティファニア。本当なら一番信頼できる殿方とご一緒がよかったのでしょうけど」
「いえ、私自身、黒崎先輩に無理を言ったところもありますから」
「それにしても、大変だったなティファニア。黒崎先輩から聞いたぞ。同級生の男たちからミスコンへの参加をしつこく迫られてしまったのだろ?」
気遣うように言葉をかけてきたクリスに、ティファニアは頷く。実のところあの男子たちの勢いに押されるところだった。
「はい…」
「凄かったもんな。あいつらの勢い」
憐が、テファにミスコン参加を願い出て屋上まで追って来た男子生徒たちを思い出して若干の戦慄を感じた。あの連中はもはや執念で動いていたと言っていいだろう。
「けど、参加しないのかぁ…残念だな」
「尾白、もうその話はよせって。ティファニアが困ってるじゃん」
未だにテファのミスコン不参加の姿勢を残念がっていた尾白に、憐が止めるように言う。
「い、いえ…いいんです。お気になさらないで…」
人が好い性格だからか、ティファニアは尾白に慰みの言葉をかける。
「ミスコンへの参加には当然本人の意思を尊重しなければなりません。それを無視した参加の強要は許せるものではありません。明日、先生方に相談しましょう」
「ありがとうございます。会長」
「会長だなんて、畏まることはないわ。あなたと私は従姉妹同士じゃない。気軽に名前だけで呼んでほしいわ」
「私のこともクリスと呼んでほしい。アンリエッタの親族なら、私にとっても大切にしていきたいからな」
少し笑みを浮かべたテファに、アンリエッタもまたクスリと笑みを見せ、クリスも朗らかに笑みをこぼした。二人を見て、テファも自然と笑みを見せる。
「なぁ、あそこに誰かいないか?」
尾白が指を指した方角、そこに二人の女子生徒が、なぜか道の看板の影に隠れ、その向こう側を必死に食い入るように見ている姿が目に入った。
「ハルナさんとシエスタさんだわ。どうしたのかしら、あんなところに隠れて」
「なんだ、平賀ラヴァーズか…知らない子だったらお茶でも、何て言えたのに」
「尾白…」
尾白の邪な呟きに憐はまた僻みかと呆れる。男の嫉妬は醜い、などと言ってもこの男は何度でも僻み続けることだろう。
興味を抱いたのか、アンリエッタは二人に声をかける。
「二人とも、覗き見は感心しないぞ」
「ひゃ!?」「か、会長!クリスさんにティファニアさんまで!」
突然クリスに背後から声を掛けられ、シエスタとハルナは驚いて声を上げる。
「二人とも、なんで隠れてたの?何か見られたらまずいものでも…」
「い、いえいえいえいえ!!そんなことないですよ!」
誤魔化そうとするシエスタとハルナ。
「あら、あそこにいるのはルイズと、平賀君かしら」
二人が隠れていた看板の向こう側、そこの店は水着やサーフボードなどの海水浴グッズを売ってるサーフショップだった。アンリエッタたちはその店に並べられている水着を見ているルイズとサイトの二人を発見する。
「なるほど、意中の殿方がルイズと一緒なのが気になったのね」
観念して二人は頷いた。
「…はい。最近、サイトさんがあまり私とも接してこなくなって、もしかしたら意中の女性でも作ってしまったのかと思って…」
「帰り際に平賀君がルイズさんに半ば強引に連れていかれたのを見て、私たちどうしても気になって後を追ってたんです」
「その気持ちはとてもよくわかりますわ。私も恋人がいる身、他の女性の影がその方にちらつくと、どうしても不安に駆られてしまうもの」
「でもだからといってのぞき見と尾行は感心しないわ。まだ二人とも、彼と正式な交際をしているわけではないのでしょう?これではストーカーと思われてしまうわ」
「は、はい…すみません」
注意を受け二人は反省と同時に元気を無くしたように俯く。
「見たところ、ミスコン用の水着でも買いに来たのではないか?」
「水着…!」
「尾白、抑えろって」
サイトたちの様子を観察し、クリスが口にした水着という単語を聞いて尾白が反応を示し、憐がそれを指摘して抑えるように言う。
「あら、サイトさんが一人で出てきましたよ」
シエスタがいち早く反応し、ハルナが、そして他の面々も隠れたまま注目する。
「うぅ、サイトさん、酷いです…私に黙って他の女性とデートだなんて…やっぱり小さい子の方が好みだったりするんでしょうか…最近私にあまりかまってくれていないし…」
物陰からサイトを覗き込みながら、シエスタは嘆く。今すぐにでもサイトに問いただそうとうずうずしているが、まだ機会をうかがおうとじっとこらえていた。
一方、シエスタの話を聞いて、ハルナは自らの胸元に目を落とす。
(…平賀君、てっきり大きい方が好きだって思ってたけど、もしかして案外…)
ふいに自分の胸を、見られないように揉みだした。
…こっそり説明するが実は彼女、服の上から見るとシエスタにも引けを取らないグラマラスな体系のように見えて、実はルイズほどのサイズではないものの『小さい』方だった。なぜ大きく見えるかというと、女の子の秘密道具を仕込んでいるからである。
(案外、必要なかったのかも…)
「あの、ハルナさん。どうして自分の胸を…?」
「!?こ、これは…その…!!」
ハルナの奇行に気づいて、不思議そうに自分を覗き込んできたティファニアにハルナは思わず声を上げそうになったが、すぐに口を塞いだ。
「おい。ルイズも出てきたぞ」
クリスがそう言ったとき、ちょうどルイズが購入した水着を入れた袋を手に、サイトの元へ歩み寄っていた。




サイトはルイズの会計を待っていた。
ミスコンの水着審査のために購入した水着を、サイトの意見を聞いたうえで選びたい…とのことだ。放課後になった途端、「あんたは…どどど…どんな…どんな水着が…、す、好きなの?」と真っ赤にした顔で聞いてきて、そのままなし崩しに引っ張られてここまで来た。店に来てから、並べられている水着を見て、どれがルイズに合っていて、その上でミスコンでキュルケに勝てそうなものがないか、少し時間こそかかったものの、ルイズはなんとかめぼしいものを何着か購入してレジに向かった。並ぶ前にどんなものか気になって尋ねてみたが…
「ダメ!ぜ、絶対見せないんだから!」
と言って真っ赤になったルイズは絶対に見せようとせず、先に店の前で待ってるように言われてこうして待たされることになった。
年頃の男が女の子と一緒に、女子の水着を見て回るという気まずさを覚えながら色々意見こそ言ったものの、
(ルイズの奴、確かにアドバイサーとして俺は役不足かもだけど、これじゃ俺、何のためについてきたんだろ…)
ルイズから散々ダメ押しをもらうこともあり、結局ルイズ一人だけで買いたい水着を決めてしまった。買った水着を見られるのを恐れてか、ルイズから荷物持ちさえさせてもらえない。これではここにルイズが自分を引っ張ってきた理由がわからない。
こういうところも含めてルイズらしいのかもしれないが。あのように強引で我儘で、それなのに時折優しさと愛らしさを見せてくるものだから嫌いになれない。
(って、俺ルイズと会って間もないのにな…)
ルイズは転校してきて日が浅い。それなのに時折、ずっと前から会ったことがあるような感覚を覚えることがある。
外にも妙なことと言えば、自分がウルトラマンであり、秘密裏にアンリエッタたちと共に怪獣等の脅威を処理していたことを最近になって思い出したり、シュウもまた自分と同じウルトラマンだと言うことも忘れていたことのように思い出したり…。
まるで、ずっと前に忘れていた記憶が呼び起こされるような…最近妙な事が多いものだ。
(うーん…)
やっぱりおかしい。自分でもわかっているが、見たこともないはずのものに対して見覚えが、長い付き合いのはずの人間に対して最近会ったばかりのはずだという違和感を覚えたり…どうも違和感を幾度感じても足りない日々を過ごしている。
…いや、考えても無駄か。どうせ自分の無い頭では答えなんて出せっこない。それよりも今は、ナイトレイダー兼ウルトラマンとして、ルイズの安全を守ること。
「お、お待たせ…」
思考に耽っていると、ルイズがようやく店から出てきた。
「なんか…その、悪かったわね。今日強引に突き合わせて」
「なんだよ、今日は妙に素直だな」
「う、うるさいわね!どうしてもキュルケに負けたくないからつい気合が入っちゃっただけで…べ、別にあんたに水着を選んでほしかったとか、そ、そそ…そんなんじゃなんだからね!!」
また赤くなった顔を逸らしながらルイズが怒鳴った。あぁ、やっぱりいつものこいつだと思う。
「でもルイズ、やっぱ見せられないのか?」
「だ、ダメなんだから!土下座されたって絶対に見せてあげないんだからね!」
買い物袋を覆い隠すように背中に回して絶対に見せないぞ、とルイズはアピールする。サイトも男、むしろ異性に対する欲求はある方だから、ルイズが頑なに購入した水着を見せてくれないのが残念に思えた。
すると、買い物袋に目を落としたルイズは、ため息を漏らした。
「はぁ…一応ミスコン様に水着手に入れたけど、これであのキュルケに勝てるかしら」
「なんだよ、急に弱腰だな」
「だって……」
ルイズ自身、自分の体付きや性格面については、正直自信が持てずにいる。怒りっぽくて、素直に気持ちを口にできず、それでいて暴力的。体は幼さを残したままだ。それに引き換えキュルケは、女子から嫌われる傾向ではあれど、彼女は容姿も肢体も、そして性格面においても男子たちから好かれるタイプだ。悔しいが、自分に持っていないもの、自分よりも優れているものをあいつは持ってるのだ。そう思うと、キュルケが相手だから負けられないと意地を張っていたのに、勝負する前にモチベーションが下がってしまう。
「自己アピールの時に備えて、新しい特技とか…何かアピールできることを増やした方がいいかしら?」
「アピールポイントか。そういやお前、何か特技とかあんの?」
「…ないわ」
「ないのかよ!?」
「うるさいわね。なによ…特技があるのがそんなに偉い?」
ついサイトからの突っ込みを食らってルイズはムキになる。
「じ、じゃあ…趣味は?」
「…編み物なら。得意じゃないけど」
趣味はあるようだが、自信があるわけではないようだ。これではパンチに欠けてしまう。
「やっぱり何か、ミスコンに備えて新しい特技とか身に着けた方がいいかしら」
「それは…うーん…難しいと思うぞ」
サイトはルイズが考えた案に対して否定的な見解を示した。
「俺の師匠が言ってたぜ。『小手先の力は本当の強さじゃない』って。ミスコンのためだけに特技をこさえたってうまくいかない。むしろありのままのお前のまま勝負に出たほうがいい」
「そうかしら?」
「考えてもみろって。なれないことを無理やりやっても、自分の魅力をアピールできるか?」
「それは…」
無理だ。あのキュルケはそんな即席の作戦で勝てる相手ではない。でも、だからこそ何かしら手立てを考えてしまいたくなる。でもサイトの言う通りだ。寧ろ慣れないことでアピールしなければならないという余計なプレッシャーも感じてしまう。
「ルイズ、いつもみたいに強気でいろよ。それでいてありのままのお前のままで挑んだ方がいい。その方がお前のことを見てくれるって。身の丈に合うやり方で勝負に出る。それ以外に勝つ手はないさ。
ま、俺に言えるのはこれくらいだ」
「言っていることは間違いじゃないけど、いまいち頼りないのも否めないわね。でも、あんたがそこまで言うなら…そうね、あんたの言う通りにしてみるわ」
人がアドバイスくれてやったのに…と思いそうになったところでルイズがサイトの言葉に従う姿勢を見せた。
「あぁそうだ。自然体が一番だよ」
納得してもらえてよかった。後は特に用もないし、せめて最寄り駅までルイズを送ってやろう。
「ルイズ、そろそろ帰ろうぜ。もう時間が遅くなりかけてるし、せめて駅まで送るよ」
「気が利くじゃない。それでこそ私の使い魔ね」
「へーへー、喜んでもらえてなりよりです。ご主人様」
…使い魔。たった今ルイズが口にした言葉に、サイトは耳を疑う。
「なぁ、なんで使い魔?」
「へ?」
尋ねられたルイズは逆に目を丸くする。
「私、そんなこと言った?」
「うん、間違いなく言ったぞ。で、どういう意味?」
「い、意味?……えっと…」
ルイズも言い出しっぺだというのに、なぜ自分でもサイトを「使い魔」と呼んだのか理解できていなかった。さも当たり前のように口にしていたが、自分でもよくわかっていなかった。思わずわけのわからないことを口にしたことに対し、ルイズはどう説明すべきか迷った。
「…えっと…そ、そう!使いッパシリって言ったのよ!」
「どっちみちおかしいよな!?」
誤魔化しにも苦しい説明にもならない返答に、サイトは鋭い突っ込みをかます以外になかった。
「平賀君!!」
「サイトさん!」
すると、ついに隠れたままなのが我慢ならなかったのか、サイトのもとにシエスタとハルナが現れた。
「ハルナ!?それにシエスタまで!」
「アンリエッタ会長、テファ!?クリスまで…」
二人だけじゃない。いつの間にかアンリエッタとティファニア、クリス、そして三年の先輩である憐や尾白までくっついてきていることに、ルイズもまた驚かされる。
なんでこのメンツで?と訪ねようとする前に、シエスタがサイトに、嫉妬に満ちた言葉をぶつけた。
「放課後帰りにお二人が一緒に出てからずっとつけてました…お二人ともひどいです!私に黙ってデートだなんて!」
「ちょ、誤解だって!!デートなんてそんな…俺は買い物に付き合っただけで!!」
「で、デデデデデート!?そそそそそそんなわけないじゃない!」
「嘘です!どこからどう見てもデートでした!」
指摘を食らったサイトとルイズは否定するが、たった一言の、それも全く誤魔化しようのないところを目の当たりにされているのでシエスタは全然納得しない。しかし腹を立てているのはなにもシエスタだけじゃない。
当然ながら、ハルナも不満を募らせていた。
「デートなら…私だって…」
「え?ハルナ、何か言った?」
「なんでもない!!それより、私たちに黙ってルイズさんと出かけるなんて!!罰として、平賀君に奢ってもらうから!!」
「えぇぇ、なんで!?」
理不尽ともとれるハルナの突然の要求にサイトは声を上げた。
「あら、それなら私も一つ乗っかろうかしら?巷にーの美味しいケーキ屋ができたからそちらのものを食べたいって思ってたところなの」
「ケーキか、悪くない。なら、私もサイトに新しい刀でも…」
「あ、じゃあ俺も頼むわ。なんかお前最近モテモテでムカつくし」
「勘弁してくださいよ会長!俺の財布の中身カツカツになりますけど!!クリスはなんで刀をリクエストしてるの!?一体何をするつもり!?そして尾白先輩、個人的なひがみで俺の財布の中身を空っぽにしてこないでくれません!?これ俺の貴重な財産なんっすヨ!?」
便乗して悪乗りしてきたアンリエッタ、クリスに尾白に対して突っ込みスキルを発揮するサイトだった。
「ふーん、そんなに余裕なんだ。だったら私もクックベリーパイでも奢ってもらおうかしら」
「もう止めて!俺のライフ(小遣い)は0よ!?」
ルイズまで便乗してサイトの財布にオーバーキルをかまそうとして来た。

結局、サイトは全員から奢らされた。

「しくしく…俺の金が…」
散々奢らされたことで、サイトの財布の中身は、胸の宝玉をサル顔のエイリアンに抜き取られたせいで萎んでしまったとある帰ってきたヒーローのごとくすっからかんとなった。
人の有り金で贅沢した女性陣は満足のご様子。
「お詫びのプレゼントもお願いしますからね!最近構ってくれる時間が少ないんですから」
シエスタからダメ押しの追加注文をされて、今の彼は、徹底的に吸血生物から血をすすりつくされたかのようにしぼんだ財布への切ない虚無感に苛まれた。美少女から囲まれた状況に内心喜んでいただろうが、今はとてもそんな余裕さえなかった。
(この前パソコンの修理してもらったばっかであまり金なかったってのに…俺が何をしたって言うんだ…)
「ご、ごめんなさいサイト…私まで…」
「…ああ、うん…いいよいいよ。気にしなくて」
テファが申し訳なさそうに謝ってきてるが、そんな彼女もつい場の流れに乗ってサイトからの奢りを受けたからあまり心に響かなかった。
「サイト、今日はありがとう。財布を空っぽにするほど無理をさせてしまったからな。今度お礼をしよう」
「あぁ…そうしてくれ」
お礼をしてくれるというクリスに少しばかり安らぎを感じた。
「だからまた奢ってほしい」
「もう抉らないで!俺の財布はもう0よ!?」
素直にお礼を言ってくれて癒しを覚えつつも、そうしてくれないと割に合わないと思ったサイトは頷くが、財布の中身のない彼にとって刀のように鋭い言葉で追い討ちをかけられた。満面の笑みだからなおタチの悪さを覚えた。




一方、タバサは身の丈ほどの杖を片手に一人夜の学校にいた。これまで発生した悪魔の影による連続失踪事件の原因が、自分達の校内の関係者によるものと考えた。今夜もここで誰かが悪魔を呼び出す儀式を行うはず。そこを直接叩くことで、新たな犠牲者を防ぐことができる。
急いで、かつ焦りすぎず覚られないように犯人を突き止めなければ。
「…聞こえる」
耳を澄ませ、闇に包まれた校舎内の音を聞き分ける。いつになく学校の夜の闇が、深く不気味さを増しているようだ。でも、この静けさは音を聞き分けやすくしてくれる。タバサは聞こえてきた音と、この不気味な空気の流れの出所をたどっていく。
(…ガラスが割れている)
これも儀式の一環だろうか。道行く廊下の窓ガラスも無残にひび割れている。薄暗い廊下を歩き、彼女はある場所を突き止めた。
そこは音楽室。作曲家の絵が壁に立てかけられ、夜な夜なそれらの絵の人物の表情が変わるなどの怪談話で持ち上がる。その教室の扉の隙間から、わずかに明かりが差し込んでいた。
タバサは音を立てないように扉の隙間を覗きこんだ。

「あと一回、あの場所に誰かが来さえすれば、あのお方が…シジルさんがこの世に降臨できる!そうすればあの忌々しいキュルケを消せる!それなのにあいつら…」
床に描かれた五芒星を囲って、三人の女子生徒たち、そして男子生徒一人が揉めていた。今の声の女は見覚えがある。トネー、キュルケに恨みを持っている女子生徒だ。
「なんで邪魔されないといけないの!あたしたちは害悪を消すためにこの力を使っているのに…なんで邪魔されなくちゃいけないわけ!?」
「やっぱやめようよ!あの子が消したいって言ってた子、キュルケみたいなことする子でもなければなにも悪いことしてないじゃない!」
「うるさいわね!そんなのキュルケを消すことさえできればどうでもいいわ!キュルケさえ、キュルケさえ消えれば…私たちは…!そのためなら、どんな手を使ってもいい!邪魔をする奴らも全部あいつの同類として消してやるわ!!」
女子生徒の一人が、さすがにこれ以上は不味いのではと思ったのかトネーを引き留めようとするも、キュルケに対する怒りが相当なためか全く収まろうとしなかった。
「トネー…」
「僕もここにきてやめるなんてできない。僕にだって排除したい奴がいるんだ!
タバサは、この僕になめた真似をしてくれた報いを受けてもらわないと…!」
トネーの怒りに、男子生徒……ヴィリエが同調した。彼女の憎悪を鎮めるどころか、自分のそれと共々に煽りだした。
「ヴィリエ、あなたは私の一番の同志ね。あなたはタバサ、私はキュルケ…そう、私たちは選ばれた人間。この世の汚い奴らも、ムカつく奴らも…何もかもを私たちの思いのままにしていい権利を、『シジルさん』から手に入れたの!それを放棄するなんてありえないわ!」
ヴィリエが自分と同じ姿勢を保っていることに喜びを覚えてトネーは笑い声をあげた。
「それを邪魔するというなら、あんたたちも容赦しないわよ…!?」
「ちょ…冗談でしょ!?私たちは…」
「トネー、ヴィリエ…」
「だったら邪魔なんかしないで協力しなさい。あんたたちの気に入らない奴らも消してあげるんだから」
「「……」」
残され、立ち尽くす女子高生二人。
もはやキュルケとタバサに対する殺意のみではなく、あまつさえ自分の邪魔をした者ならたとえ彼女ら本人でなくとも消すと断言している。
完全に、暴走していると言えた。

(ここだ…!)
間違いないと見たタバサは、杖を構えて、魔法の詠唱を行う。
トネーはキュルケを排除するためになりふり構わなくなっている。キュルケは確かに同性から反感を買いやすい。恋をするなら一直線すぎるところが、彼氏のとっかえひっかえに繋がっていたから。
ヴィリエはというと、静かに読書していたところで、自分より優れているのが気に食わないという、正直どうでもいい理由で自分に因縁を吹っかけてきたことがある。ただ一つ許せなかったことがある。愛する『母』をネタにヴィリエが侮辱をしてきたことが、タバサには許せず、彼が突っかかった時に魔法で灸を添えた。それが逆に彼の小さなプライドに傷を負わせたのだろうが、今もなおあの男はトネーたちと共に見逃せない行為に走ろうとしている。今度はキュルケを、そしてこの町を争うとしているのだ。許していいわけがない。
いつでも魔法が放てる状態にしたことろで、扉のドアノブに手を触れた。
「あら、タバサさんじゃない」
「!」
タバサは後ろから聞こえた声に対してとっさに振り返る。
「こんな夜遅くに音楽室に何の用かしら?」
姿を現したのは、学校の女性教師だった。
「…コーラス部の同級生が、忘れ物をしていたって言っていたから、それを取りに来た」
その同級生というのは、ハルナのことだ。彼女を勝手にダシにしたのは無関係の本人に悪いだろうが、今はそんなことを言っている場合ではない。この先生も関係者ではないので、自分たちが裏でビーストなどの人外と戦っているなどと説明するわけにいかないのだ。
「忘れ物ですって?こんな時間に?」
訝しむように目を細めてタバサを見る。少し苦しい言い訳だったか。でもなんとしてもここを切り抜けないと。
眠りの魔法〈スリープクラウド〉がある。それで眠らせてしまえば…
「…なーんて、見え透いた嘘に私が引っ掛かるとでも?」
「!」
瞬間、タバサを目に見えない衝撃が襲う。彼女は扉を突き破り、その身を音楽室内の壁に打ち付け磔にされた。
「きゃあ!?」
突然の訪問者に、音楽室にいたトネーたちの悲鳴が上がる。
「タバサ!?ち、既にここを嗅ぎつけていたのか」
タバサの姿を見てヴィリエが小さく舌打ちする。
そのタバサは、壁に張り付いた自分の体を動かそうとするが、体が動かない。まるで自分が壁に貼り付けられたシールのようだ。
この女は…まさか!
「人間じゃない…!」
「は?なにを言ってるんだタバサ」
「そもそもあなたどうしてここにいるのよ?もう下校時間過ぎてるでしょ?」
ヴィリエとトネーが嘲笑うような口調でタバサに言った。彼女はキュルケと一緒にいるということもあってか、トネーはタバサのこともあまり快くとらえていなかった。
「貴様らが偉そうに言う立場ではあるまい。ネズミの接近を許すとは…下校時間だからといって油断したか」
トネーたちを見る女性教師の高い声が、野太い男のような低い声に変貌していた。
「嘘…じゃあ、この先生は…」
「シジルさん…なの…!?」
野太い声で自分たち見下すような言動を聞いてトネーの取り巻きの女子生徒たちが、女性教師の姿をしたそいつか後ずさりする。
「大方、本来なら我は儀式の末に現れるはずの存在故に、まだこの世に存在していないとでも思いこんでいたのだろう?違うんだな…それが」
「あなたは、まさか…ずっと?」
「そう、我はずっと存在していたのだよ。この世に、人の身を借りた状態でな」
今頃気づいたのか、と言いたげに少女たちを見下ろしながら、女性教師の姿をした悪魔はふん、と鼻息を飛ばし、自身のいきさつを話しだした。
「遥か昔、我はかつてこの星に恐怖と絶望を誘い、それを食らうことで我が身を定着させ強大なものとした。力を持ってすべてを統べる存在となるために。
だが、忌々しいことに我が力は、我が野望を阻む者どもによって霧散し、我は一度は虫にも劣る畜生に落ちた。屈辱だったよ…この宇宙すべてを支配するはずの我が、たかが人間という羽虫と、そんな虫けらごときに加担する正義の味方気取りなどに…我の野望が食い止められるなど…」
女性の顔とは思えないほどに、タバサに見せた彼女の顔は醜く歪み始めていた。その顔から、人間では及びもつかないほどの長い年月の間に蓄積した怒りと憎悪が垣間見えた。
「我は再び世に復活するべく、我に力を与える秘術を人間に残した。貴様ら人間は欲望に忠実だからな…利用のし甲斐はいくらでもあった」
「それが、黒魔術…!」
自分がいつか復活を遂げるために、周到に自分を復活させる術を残していた。この怪物の狡猾さと執念、もはや自分たちが密かに討伐し続けてきたビーストたちとそん色ない…いや、高度な知性を持っている分非常に厄介極まりない。
ここで倒さなければならない。当然、二度と復活させられないように。だが今はこうして、目に見えない力…恐らく超能力の類だ。それで拘束されてしまって指一本動かすこともできない。
「どうだ?貴様もこの小娘共と同じように黒魔術を習得し、我に力を与えてみるか?そうすれば貴様の望みもかなえてやってもよい」
「私の望み…?」
「貴様にもあるだろう?あの愚かな娘どもと同様に」
今度は自分をも利用するための取引を持ち掛けてきた。何とも醜悪な悪魔なのだろうか。当然タバサはその要求にこたえるつもりは毛頭なかった。この手の取引に、持ち掛けられた側が得をすることは絶対にない。一時的においしい思いをしたその果てに地獄を見るパターンが目に見えている。
「…呑まない。あなたにどうされようとも…」
「そうか…ふん、まぁよい。貴様がいなくとも、時期に我は完全となる。お前は我が力の糧となるのだな」
女性教師の姿をしたその悪魔は、タバサを向いたまま息を吸い込み始める。真っ黒な黒い雲がタバサの周りを多いはじめ、その中へ彼女を取り込んでいく。悪魔はタバサを包み込んだその煙を吸い込み、タバサの姿は影も形もなくなっていた。
「た、タバサ…!」
タバサが跡形もなく消されてしまったのを目の当たりにして、トネーたちの表情が青くなった。
「所定の位置に今の贄がいなかったから、大した量のエネルギーは吸い尽くせないか…」
げぷっと、下品なゲップを吐きながら、悪魔はトネーたちの方へ顔を向ける。
「いつまでそこで突っ立っているつもりだ。早く儀式を行え。使う写真は、あのキュルケとか言う小娘とは別の者…こいつらで構わん」
「え…」
呆然としている中声を掛けられ、トネーは声を小さく漏らすだけだったが、写真の人物たちを確認してトネーの取り巻きの二人は息を呑んだ。
「で、でもこれ…キュルケじゃないし、タバサでもないわ。全然違う人…」
写真の人物たちは、彼女たちが消したいと思っている人間ではなかったため、強い躊躇を覚えていた。
「今更何を迷っている。貴様らは気に食わぬ者共をあれだけ消していたではないか?」
「そ、それは…でもこの人たちは私たちが消したがっていた人たちでもない!むしろ消したりなんかしたら…」
ようやく完全体となる目前でもたもたされたことで、悪魔は苛立ちを募らせた。
「ええい!さっさとしろ小娘共!!今、この場で殺されたいのか!!」
「ひ…!!」
より一層青ざめながら、トネーたちは一斉に床の五芒星を取り囲み、悪魔か受け取った写真を中央の台座の上において儀式に移った。
この黒魔術の儀式は、五芒星の中央の台座に、呪いたい相手を写した写真を載せて「シジルさん」へ祈りをささげることで、悪魔の影を実体化させる。そして悪魔の影は、写真に映った人間を消し去ってくれるというのが大まかな流れだ。
しかし、その写真に写されていたのは、悪魔が先ほど告げた通りキュルケではなかった。
ルイズにハルナ、シエスタ、アンリエッタ、クリス、ティファニア。いずれもキュルケとは関係性の薄い者たちだった。
ようやく言うことを聞いた彼女らを見て、悪魔は落ち着きを取り戻し、そして不気味な笑みを浮かべた。
「あと一人…我が影が一人を取り込みさえすれば…!!我は再びこの地球を恐怖と絶望で塗りこめられる!!」



トネーたちの儀式によって、悪魔の影はこの日も夜の街に現れた。
悪魔の影がその目に映したのは、サイト一行の姿。目から邪悪な気を発し、悪魔は彼らを、キュルケをさらおうとした、残り一つの五芒星の頂点の地点へと誘導する。
そしてサイトたちがその地へ踏み込んだところで、彼らのすぐ目の前で姿を現した。
「か、怪獣!?」
突然現れた怪物に、ルイズは悪魔を見て声を上げ、悪魔のおぞましさに青ざめた。
「どういうことだ!?奴はキュルケを狙っていたのではなかったのか!?」
クリスは反射的に、刀を入れている竹刀袋の紐を説いていたが、予想外の事態が起きたことで動揺を露にしていた。
「まさか…私たちの行動が悟られていた…!?」
「おい、それってもしかしてタバサに何かあったってことか!?」
アンリエッタのその予想は的を射抜いていた。タバサが、女性教師の姿をした悪魔に気づかれて捕縛されてしまったことで、裏で人々を守るべく行動していたアンリエッタたちの動きを読み取られてしまったのだ。自分を邪魔するものと、その関係者として、マークされてしまったのである。
「何かって、ちょっとサイト、あんた何を」

悪魔が真っ先にターゲットに選んだのは、ティファニアだった。悪魔の力が、見えない手で掴むように睨みを効かせたところで、サイトが叫んだ。
「逃げろ!」
サイトたちは悪魔の反対方向へ逃亡を図るも、それはできなかった。悪魔の視界にテファが映ると、彼女の体が宙へ吸い寄せられた。
「きゃ!?」
「テファ!」
手を伸ばすが既に届かない場所まで吸い寄せられた。一番早く動いたのはクリス。
「フライ!」
彼女は竹刀袋から刀を出し、ティファニアの飛ばされた方へと高く飛んだ。空を飛ぶ魔法によって、辛うじてテファを受け止め、彼女をそのまま〈レビテーション〉の魔法でゆっくり地上へ下ろした。
「ティファニア、怪我はありませんか!?」
「は、はい…!」
地上で、降ろしたテファが無事仲間たちと合流を果たしたのを見てほっとするが、サイトが再度叫んだ。
「クリス、後ろ!」
「!」
クリスが振り返った瞬間、悪魔の幻影がクリスに向けて手招きし、今度はクリスが吸い寄せられ始めた。
しまった…!テファに気を取られた隙を突かれた。
クリスはなす術なく、悪魔の影へと吸い込まれてしまった。
「クリスーーーーーーー!」
サイトの叫びが、暗い夜空に響き渡る。
だが、悪夢はここで終わらなかった。
悪魔の影が、クリスを吸い込んだ瞬間…次第にその姿が色濃く染まっていき、実体となった。


古の時代より、人間が悪魔という概念で認識していた邪悪な魔物、『大魔獣ビシュメル』が復活した。





「くはははははは!やったぞ、ついに我は無敵の肉体と力を取り戻したぞ!」
完全復活を遂げたビシュメルは歓喜に震えた。ずっとこの姿と力が戻るのを待っていた。これから人間共に恐怖と絶望を与え、未来永劫蹂躙し尽くしてやる。
ビシュメルは体から雷をほとばしらせ、街のあらゆる場所に向けて放った。街の建物は粉々に吹き飛ばされていった。
ビシュメルの登場と破壊活動に、街の人たちは雪崩れるようにビシュメルとは反対側に逃げ惑っていく。
「な、なんなんですかあれ!?」
「怪獣…!?」
「町が…壊されていく…!」
ビシュメルのあまりの暴れっぷりと凶悪な姿に恐れ慄く。初めて見る光景に、恐怖を感じるしかなかった。



復活を遂げたビシュメルを見て、ビシュメルの近くのビルの屋上から見ていた少女がいた。
シュウとよく行動を共にし、彼の恋人を自称する少女、愛梨である。
「……」
普通なら、ビシュメルのおぞましい姿を見て逃げ惑うことだろう。だが彼女は、ビシュメルの出現を待ち望んでいたかのように喜びの笑みを浮かべていた。
「さあ、しっかり働いて頂戴ね。
『彼』を…あたしだけのものにするために」
彼女はあたかも自分の下僕に命じるように、ビシュメルを見つめながら呟いていた。
 
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